サ カ タ の ブ ロ グ 

やぁ、みんな。サカタだよ。

あの手

2016年10月05日 | サカタだよ
ぬいぐるみをたくさん身につけたメガネの女性が、すし屋さんのカウンターに座っていた。

Lの字になったカウンターで自分と角をはさんでいるので、どれだけの数ぬいぐるみが存在するか詳細な数はわからないが、肩まわりだけで6体はくだらない。

全体に、薄汚れたピンク色してる。本体もぬいぐるみ風で、年の頃なら40代から50代に見えるが意外と30代……もしかして20代だったら気の毒だが、きっとそれはないだろう。




打ち合わせを終えて編集部に戻る途中、遅い昼ごはんを食べようと思って、すしなら時間をとらないからランチにぎり1人前いや1.5人前? とか考えつつ店員さんを目で追ったとき、ぬいぐるみ女と目が合った。

すぐに目をそらした。何となく見てはいけないような気がしたのだけど、どうしても気になるので肩まわりの6体のぬいぐるみの素性を、クマなのかブタなのか、カバなのかサイなのか、まさかネコとかリスとかウサギといった愛玩動物かどうか確かめようとした。

そのうちランチにぎり1.5人前とサービスの味噌汁が出されたので、薄汚れたぬいぐるみのことなど考えるのをやめた。




ゴジラのように、と表現するのが適切だと思う。ぬいぐるみ女が立ち上がり、周囲を破壊しながらレジのある方向へ進撃を開始した。

やはりというべきか、透明なビニールの手提げ袋に大小のぬいぐるみが押し込んである。キャリーバッグにも同類がたくさん。お店が広くないせいか、ぬいぐるみ女の本体とビニールの手提げ袋とキャリーバッグがそれぞれ、生き物のように通路上の人や物に襲いかかる。

アオリイカのにぎりを箸でつまんで醤油につけようとした自分の背中にも、ぬいぐるみ女の手提げ袋の角か何か当った。




やがて咆哮が、店じゅうに響き渡る。

「カード使えると聞いたから入ったのに! 現金は持ってません!」

何ごとかと思ってレジを見るとゴジラが、じゃなかった。ぬいぐるみ女が、世界の中心でアイを叫んでた。

ぬいぐるみはトータルで、ゆうに20は越えている。そんなことより、この店はカード使えるのだが、単にゴジラのカードに問題があるのだ。じゃなくて、ぬいぐるみ女のカードに問題があるらしい。


「どうすればいいですか!? どうすればいいんですか!!」

肩で息をしている。というか息が上がってる。かなりの興奮状態でピンクの薄汚れたサイフを開いたり閉じたりしてるが、何が入ってるのかパンパンにふくらんでる。あの中に現金がないとは。

「そこのコンビニで飲み物が買えたから、このカード使えるはずです!」

そこまで言い張るなら、コンビニでキャッシングしてきて払えばいいじゃないか。店員さんもそう提案したのに従わない。

「後日、支払いにきます。身分証明書もお見せします」



パンパンにふくらんだサイフをまさぐって、3分ぐらい手間取って取り出した身分証明書は遠目に見覚えのないもので、運転免許証じゃないしタスポでもないし、ありゃ何だ?

「あっ、ごめんなさい! 連絡先が入ってませんか? 電話番号いいます。えーっと……」

口頭でつっかえながら伝える、固定電話の番号インチキっぽい。身分証明書も電話番号もニセモノで、使用不能なカードを悪用した無銭飲食の現行犯なのでは。それにしても、あのぬいぐるみは何だ。

「今月中に払いにきますから、ごめんなさい」

出入口にぶつかりながら、ぬいぐるみ女は店を出た。なるほど、あの手を使えばお金がなくても飲み食いできる。そう思ったとき、店員さんが一言。

「よくあることですから……」

よくあるのか! もしかすると無銭飲食ギョーカイ(そんなギョーカイない)では「カード使えますか?」と聞いて店に入り、問題あるカードで支払不能になって見せてウヤムヤにするのが常套手段だったりして。

こんどやってみっか
じゃなくて、よい子は
まねしないでください
・・・・・・
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