サ カ タ の ブ ロ グ 

やぁ、みんな。サカタだよ。

秘密基地

2020年07月29日 | サカタだよ

転校するまで毎日のように仲よく遊んだ友達の中でも、とくに気が合う2人のうち団地の3階に住んでる子が家出をするから手伝ってほしいというのでパン屋の息子と3人で隠れ場所を作ったことがある。

 

団地の1階の郵便受けの奥の物置き場のようなところに深緑色した鉄の扉がある。それが開くのだ。中に入ると縁の下のような低い空間が広がっている。団地の土台らしい。小学生が腰を曲げ、膝と手をついて通れるぐらいの高さなので、大人は入ってこない。中学生もこないだろう。団地の子が座布団を家から持ってきて敷いた。懐中電灯もある。パン屋の子が持ってきた菓子パンと薄いジュースのようなものを飲み食いしながら、ぼくが持ってきたマンガを読んで寝転がった。3人だけの秘密基地だ。

 

悲しげな音楽が夕方5時に放送されて団地の下の秘密基地にも届いた。そろそろ家に帰る時間だ。パン屋の子は「また明日ね」といって帰った。団地の子はどうするのだろう。家出するというのは本当だろうか。この場所は物珍しくて遊ぶには適してるけど、もしも一晩ここで寝たらどうなるか考えると、あまりいい気持ちはしない。

 

すぐに帰るのも薄情な気がして、もうしばらくいることにした。「どうして家出しようと思ったの?」「……………………」「まあいいよ」「………………」団地の子が無言になってしまったので、もう何度も読み返して頭にだいたい入ってるマンガをまた途中からめくって読んだ。団地の子も読んだ。薄暗いところで黙って2人寝転がってマンガを読むのが、だんだん気味悪くなったので帰ろうと思った。

 

座布団とマンガはそこに置いておくとして、懐中電灯を持って物置き場の深緑色した鉄の扉のところまで這って行った。団地の子もついて来たので家出するのは断念したのかもしれない。いざとなったら淋しくなったというより、あの場所に一晩ひとりでいるのが気味悪くなったんだろう。それはそうだと思う。ここへはまた明日、パン屋の子と3人で学校帰りに来ればいい。「また来ようね」と言って鉄の扉を押したら、開かない。ガチャガチャ音がするから、鍵がかかってるかも。

 

パン屋の子が鍵をかけるとは思えないから、大人が夕方やったのか。しまった。団地の子は「いいよ戻ろう」という。家出続行。ぼくは帰りたいけど、大きな声で助けを呼んだり物音を立てて大人を呼ぶのは気が引けた。団地の子につきあって座布団のところまで戻り、ごろりと横になった。少し眠ったことを覚えている。

 

それから後のことがよく思い出せない。結局、扉が開いて親に呼ばれたから出て行ったんじゃないだろうか。いまにして思えばパン屋の子が場所を教えたんだろう。いつも3人で遊んでることはバレてるわけだし、帰りが遅いから団地の子の親かうちの親がパン屋の親に電話でもしたんじゃないか。パン屋の子も親たちと一緒に扉の外にいた。どのくらい遅くなったか知らないが、あまり叱られなかった気がする。

 

それが最初の家出だった。自分の意志ではなく巻き込まれ型の出来事だったが、大ごとにならず救出されたし面白かった。「もう団地の下に入っちゃダメ」といわれたが、秘密基地にはその後も遊びに行った。やがて転校になったので、もう40年ぐらい行ってないけど今どうなってるんだろう? 先日、電車を乗り継いで訪ねてみたらパン屋はヨガスタジオに変わっていて、団地は更地になっていた。秘密基地は団地ごと跡形もなく消えてしまい、実際あったのかどうか定かでなくなってしまった。

 

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