A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

memorandum 306 平常美

2016-06-05 23:17:11 | ことば
 美にはさまざまなものがあろう。ある意味では、どんな性質のものも真実に迫れば、何かの美しさを示すに至ろう。強いもの、鋭いもの、柔らかいもの、烈しいもの、その他色々の美があろう。しかし仏教美学の理念として無上の美と見做されるものは、烈しいものではなくして穏やかなもの、騒がしいものではなくして静かなもの、異常なものではなくして尋常なもの、特殊なものではなくして正当なもの、争うものではなくして素直なもの、これを一言で尽くせば「平常美」であって、異常美ではない。平常美をまた「無事美」と呼んでもよい。無事は有事に対する言葉であるが、真実はあらゆる相対性を超えたものである。無事の美などというと、近代人にはいかにも平凡な消極的な内容ではないかと思われようが、実は無事以上の理念がないことを解くのが仏法である。これは臨済禅などの深く教えるところである。南泉禅師の有名な言葉に「平常心是道」とあるが、仏教的にいえば「平常美是美」なのである。
柳宗悦『新編美の法門 (岩波文庫)』岩波書店、1995年、30-31頁。

いま、「平常美」はあるだろうか。烈しいもの、騒がしいもの、異常なもの、特殊なもの、争うものなど刺激、新奇なものが耳目、評価を集めてはいないだろうか。