A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

未読日記35 「ゲルマントの方」

2007-05-30 23:25:44 | 書物
タイトル:失われた時を求めて5 完訳版
     第三篇 ゲルマントの方Ⅰ
著者:マルセル・プルースト 鈴木道彦訳
装丁:木村裕治
カバー画:キース・ヴァン・ドンゲン
出版社:集英社(集英社文庫ヘリテージシリーズ)
発行日:2006年8月23日
内容:
語り手の家族は、パリのゲルマント家の館の一角に引越し、「ゲルマントの方」の扉が徐々に開かれる。ラ・ベルマの演ずる『フェードル』観劇のさいに、ゲルマント公爵夫人を見かけた語り手は、プラトニックな愛情を抱くようになり、夫人に近づくために、同じ一族のサン=ルーを訪ねる。やがてヴィルパリジ夫人のサロンでゲルマント公爵夫人を見かけるが、現実の夫人には、彼女の名前を通して思い描いていた神秘的なものを見出すことができない。(文庫カバー裏面解説より)

購入日:2007年5月27日
購入店:ブックファースト渋谷店
購入理由:
「自分のために生きることができる人間は、またそうする義務もあるものだ―なるほど、それができるのは芸術家であり、私はもうずっと以前から、自分が絶対に芸術家にはなれまいと思いこんでいたのであるが―。」(p.448 M・プルースト著 鈴木道彦訳『失われた時を求めて4 第二篇 花咲く乙女たちのかげにⅡ』)

前作『花咲く乙女たちのかげに』のスピーディーなコメディ(あるいはフランス風にコントと呼んでもよい)のおもしろさを語るのは難しい。言葉が流れ流れてその思考に歩調をあわせることで、こんなにも小説空間を「生きる」ことに清新な喜びを感じるとは。かつてこのような喜びを与える書物があっただろうかと思いもし、私が生きる現実の空間など、たかがしれたものだと思わせもするこの書物を手に持つ重さが心地よい。私にはこの書物を開いているあいだ、光を浴びていたようだった。まるで光合成をするように。この書物は、得体のしれない「光」だ。

未読日記34 「旅行記」

2007-05-28 23:42:19 | 書物
タイトル:旅行記 -書物による旅の記憶-
著者:有坂ゆかり
造本:Atelier空中線 間奈美子
発行日:2007年4月29日
内容:
京都にある恵文社一乗寺店の書斎ギャラリーコーナー、ガラスショウケースにて展示された有坂ゆかりの絵画展にあわせて発行された小冊子。書店の空間にあわせて、油彩画作品が展示された。この小冊子は展示作品とテキストが掲載され無料で持ち帰ることができる。

購入日:2007年5月26日
購入店:恵文社一乗寺店
購入理由:
無料配布されている冊子なので、持ち帰ったまでで購入理由もないのだが、タダだからといってなんでも持ち帰るわけではない。無料だからとタウンページやホットペッパーを旅先で持ち帰りはしないだろう。
 コンセプトは書物を通した旅、風景。彼女のテキストにあるように「現実の記憶だけではなく、本能の一部として埋め込まれた記憶、そして想像力の産物の記憶などが渾然一体となったものによって、個人が形作られていく」としたら、人が書物を読み、そこに風景を思い浮かべるとき、そこに立ち現われるのはどんな風景なのだろうか。作家・小説家は、読者が想像するであろう「風景」「視覚的イメージ」までは指定することができない。多くの人が知っているだろう「東京タワー」を想像することはできるだろうが、「その家の前には、ツツジが咲き誇っていた」とあれば、人はどんな想像をするというのか。花壇かもしれないし、柵ごしに見えるツツジかもしれない。例えば、中上健次の小説に登場する架空の花「夏芙蓉」を人はどのように「見る」のだろうか。小説空間あるいは書物を通して私の中に立ち現われてくる風景に、ことばとして気がつくことができた。

未読日記33 「若冲展」

2007-05-28 23:12:20 | 書物
タイトル:開基足利義満600年忌記念 
     若冲展-釈迦三尊像と動植綵絵120年ぶりの再会-
監修:辻惟雄、小林忠
出版社:日本経済新聞社
発行日:2007年5月13日
内容:
同名展覧会の図録。
「伊藤若冲は相国寺の大典禅師と親交のあった江戸時代の画家で、近年奇想の画家として注目を集めるようになりました。
 伊藤若冲は、父母永代の供養を願って釈迦、文殊、普賢の仏画三幅対と、三十幅の動植綵絵を描き、明和七年(1770)十月、相国寺に寄進しています。これら33幅は相国寺方丈に於いて行われる伝統的な儀式である観音懺法において方丈の周りにかけられたと伝えられています。まさに最高の仏画として描かれ、儀式に使用されてきたものでした。
 しかし明治時代、財政の危機に瀕した相国寺を立て直すために、当時の初代管長荻野獨園禅師は伊藤若沖の描いた動植綵絵三十幅を宮内省に献じて金壱万円の下賜金を得、それを資金に境内地一万八千坪を買い戻し現在の相国寺の面目を取り戻しました。以来動植綵絵三十幅は相国寺の手を離れ宮内庁の御物となっていました。
 今回120年の時を経て相国寺所蔵の釈迦三尊図3幅と現在宮内庁三の丸尚蔵館所蔵の動植綵絵30幅は再会を果たし、相国寺承天閣美術館に於いて一同に展観することが出来ました。多くの皆様に是非ともご覧いただきたいと思います。」(「若冲展」ホームページより)

購入日:2007年5月26日
購入店:相国寺承天閣美術館
購入理由:
若冲の傑作「釈迦三尊像図」(3幅)と「動植綵絵」(30幅)が120年ぶりに一同に展示される奇跡の展覧会。昨年、宮内庁三の丸尚蔵館にて修復を経た「動植綵絵」30幅が展示換えをしながら公開されたが、旧所蔵元である相国寺の美術館において釈迦三尊像を加えて完全版として展示される。図録も昨年の宮内庁三の丸尚蔵館「動植綵絵」展図録より、図版も大きく、カラリスト若冲の魅力が感じられる図録となっている。私としては、「釈迦三尊図」がすばらしかった。チベットのマンダラのような充溢する色彩に息が止まった。
 忘れられがちだが、若冲による水墨画「鹿苑寺大書院障壁画」(襖50面)も出品されている。こちらもキレがあり、爆ぜるような傑作である。
 近年の若冲ブーム、あるいは日本美術ブームの決定版であり、総決算ともいえる展覧会。
 

未読日記32 「独立の8人」

2007-05-24 21:02:20 | 書物
タイトル:独立の8人
デザイン:金井訓志
出版社:ギャラリーユニコン
発行日:2007年5月20日
内容:
美術団体・独立美術協会所属作家による同名グループ展のパンフレット。作品はすべて絵画・平面。出品作家は安達時彦、金井訓志、金森良泰、齋藤研、福岡奉彦、本田希枝、山田修市、吉武研司の8人。

贈呈日:2007年5月24日
まだ展覧会は未見だが、カタログは頂いた。表紙はロシアアヴァンギャルドっぽいデザインで団体展作家によるグループ展という雰囲気はない。

未読日記31 「奇想の図譜」

2007-05-23 23:18:20 | 書物
タイトル:奇想の図譜
著者:辻惟雄
カバーデザイン:神田昇和
出版社:筑摩書房(ちくま学芸文庫)
発行日:2005年4月10日(オリジナル1989年6月10日)
内容:
日本の美を貫くモチーフはなにか。『奇想の系譜』でセンセーションを巻き起こした当代一の美術史家が、縄文土器以来の歴史を渉猟しつつ、日本美術の独創的なおもしろさを掬いとり、その源泉を探る。をこ絵、絵巻、屏風絵から若冲、白隠、写楽、北斎の作品まで、そこに伏流する日本人の好奇心、奔放で闊達な「あそび」の精神、現世を金色の浄土に変化させる「かざり」への情熱を縦横に論じる。奇想から花開く鮮烈で不思議な美の世界へ読者をいざなう、刺激的な日本美術案内。図版多数。(文庫裏カバー解説より)

購入日:2007年5月20日
購入店:改造社書店千葉パルコ店
購入理由:
最近、辻惟雄氏の「奇想の系譜」を読み終わり、めっぽうおもしろかったので、姉妹編である本書に興味が湧いた。現在京都で開催中の「若冲展」の予習としてもふさわしいと思い購入。「奇想の系譜」は1968年刊行である。当時は無名だったが今では日本美術のメインストリームの作家である若冲、蕭白、芦雪らを取り上げ、実にいきおいのある文体ですらすら読ませてくれる美術本であった。このような通読しておもしろい美術本というのは少ないもので、名著である。この「奇想の図譜」も楽しみな1冊である。

未読日記30 「平田五郎展」

2007-05-21 23:23:09 | 書物
タイトル:平田五郎展 月を盗んだワタリガラス
出版社:GALLERY A4(ギャラリーエークワッド)
発行日:2007年5月11日
内容:
インスタレーション、彫刻作品を制作する平田五郎の五島記念文化賞 美術新人賞研修帰国記念展として開催された同名展のパンフレット。なお、平田が研修として赴いた地はアラスカ。
アラスカに伝わる神話にワタリガラスの神話がある。ワタリガラスが、水中に泥を落として最初の陸地を作り、ワタリガラスはそれを見ようと飛び立つ。旅の途上に最初の人間を呼び出し、すべての川と湖をもたらし、暗かった世界に光を取り戻す。その光は幾重にも内側へと連らなる入れ子状の箱に入れられ、もっとも奥の10番目の箱の中から白く輝く光の球が現れる。高い山の上から、彼が投げ上げた光は、空にとどまり、月となった、、、という神話だ。
平田はこの神話から自身で制作したカヤックを使って、ワタリガラスが光を投げ上げたという想定のもとフェアウェザー山を目指す。ひとつのフィールドワークであり、光を求めて旅するワタリガラスの神話になぞらえた平田自身の旅の物語。旅の途上で制作した彫刻作品、光の箱を思わせるインスタレーションによる展示で構成された展覧会である。

購入日:2007年5月19日
購入店:GALLERY A4(ギャラリーエークワッド)
購入理由:
アラスカとワタリガラスの神話に日本人と言えば写真家・星野道夫を思い浮かべてしまうのだが、同じような着想から美術というフィールドで平田五郎がリチャード・ロング風味の静謐な作品を残したことは心地よい裏切りであった。とはいえ、この神話をもっと展示に生かさないと作品が生きてこない気がする。パンフレットは¥100円と安かったのでつい購入。ちなみに、私と同姓だが、とくに関係はない。

未読日記29 「歴代家元譜-華・歌・仏」

2007-05-13 22:33:34 | 書物
タイトル:歴代家元譜-華・歌・仏 -図録・いけばなの流れ-」
編集:華道家元池坊総務所・池坊中央研究所
出版社:株式会社日本華道社
発行日:2006年11月10日
内容:
*平成18年11月10日~12月22日に行われた同名展覧会の図録。

購入日:2007年5月12日
購入店:銀座松坂屋7階「いけばなの根源池坊展」会場
購入理由:
一部は以前、紹介した『図録・いけばなの流れ』を再編・加筆したものが収録されている。こちらの方が新しく、頁数も増えているので買うならこちらがおすすめ。図版の絵画作品には(伝)土佐光信の「聖徳太子画像」が収録されている。
展覧会は未見なので、なんとも言えないが、池坊のいけばな資料館30周年記念特別展と図録にあることから、池坊のメモリアル展&図録ということだろう。いけばなの歴史に関する資料が少ないことから、このような展覧会・資料は貴重なのだが、あいかわらず中身は池坊の歴史に特化している・・・。

未読日記28 「いけばなを知る花の時間」

2007-05-13 22:17:56 | 書物
タイトル:学校華道用 いけばなを知る花の時間(とき)
監修:華道家元池坊総務所
出版社:財団法人池坊華道会
発行日:2005年4月
内容:
いけばなを体験する生徒と、先生のための必携の冊子。実習へのアドバイスと作例付。中高校生用。(池坊いけばなショップ 花楽ホームページより)

購入日:2007年5月12日
購入店:銀座松坂屋7階「いけばなの根源池坊展」会場
購入理由:
中高校生用の教科書だけあって、大人が読んでも楽しめる。大学生にもいいかもしれない。もちろん仕事用に購入。コラム&雑学コーナーには、<異常気象><現代美術といけばな><季節のいけばな>など、いけばなから派生するジャンル、文化、自然などに触れられていて、興味を深められるようになっている。実際、教養としていけばなの知識を得るには、このような教科書は最適かもしれない。