A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

Recording Words 041 農の知恵

2009-10-31 21:41:32 | ことば
農の知恵は、時間が経つことのほんとうの意味を知っている。植物の成長、稲穂の成熟になくてはならない時間を自然と共に待つこと、ここに農の知恵がある。時間が経つのを待つことは、生きることそのものであり、神さまに依頼されて植物を愛し、育てることである。こういう時間は早めることも、遅らせることもできない。
(前田英樹『独学の精神』ちくま新書、2009年、p.186)

早くもなく、遅くもなく、植物的に生きていきます。

未読日記326 「六代目笑福亭松鶴」

2009-10-30 22:21:54 | 書物
タイトル:隔週刊CDつきマガジン 落語 昭和の名人 決定版⑲ 六代目笑福亭松鶴
監修:保田武宏
寄席文字:橘左近
CDリマスタリング:草柳俊一
アート・ディレクション:渡辺行雄
デザイン:片岡良子、姥谷英子
編集:三浦一夫(小学館)、内田清子
制作企画:速水健司
資材:星一枝
制作:田中敏隆、南幸代
宣伝:山田卓司
販売:竹中敏雄
広告:林祐一
発行:株式会社小学館
発行日:2009年9月29日
金額:1,190円
内容:
上方落語復興の立役者
六代目笑福亭松鶴【しょうふくてい・しょかく】1918~1986

CD(75分)【全席初出し音源】
猫の災難・・・みな吞んでしもた
三十石・・・淀川下り、一夜の旅情
天王寺詣り・・・彼岸の賑わい

○落語も遊びも目ェいっぱい 酒と借金、伝説の真相
○CD鑑賞ガイド 酔っぱらいの芸に酔う
落語をもっと面白くする連載3本立て
田中優子○上方から〝下る〟もの
五街道雲助○続・手ぬぐいを拵える
山本進○ラジオで落語ブーム

購入日:2009年10月8日
購入店:明正堂書店 浅草橋駅前店
購入理由:
19巻目にして上方落語の噺家登場である。上方落語好きとしてはうれしいものだ。さて、松鶴の噺だが、笑いが朗らかでのんびりしている。与太郎物系の噺も上方落語だと、心なしかほのぼのだ。それは関西弁がやわらかさを付与しているようにも思うが、松鶴自身の言葉のリズム、体温がそのような造形へと結実しているのかもしれない。こういう「言葉」が音源として残っていることに感謝するしかない。

Recording Words 040 生命とは

2009-10-29 21:25:41 | ことば
生命とは努力するものであり、努力は生命の本質である。
(前田英樹『独学の精神』ちくま新書、2009年、p.146)

そんな言葉を引用すると、面白くもないことを我慢してするのが努力だと思っている輩がいる。
以下の前田氏が挙げる例を読めば、そんな意味ではないことがわかるだろう。

「たとえば、草一本を見てみるといい。それが青い色をして、伸びていくのは、草自身の絶え間ない努力の結果だと言える。葉緑素が太陽光線を取りこんで光合成を起こし、体内に澱粉を生成する。そのためには、そこにある光も、土の湿り気や空気の流れも生命にとっての<問題>として絶えず捉え直され、総合されなくてはならない。問題の全体は、もちろんいつも激しく変化している。それへの<回答>は、変化に応じて作られ続けなくては、草は生きていけない。だから、一本の草が生きていくことは、問題に回答する草の努力そのものに一致する。」(p.147)

今日も努力します。



未読日記325 「ギャラリーαM ANNUAL 2000」

2009-10-27 19:41:12 | 書物
タイトル:ギャラリーαM ANNUAL 2000
編集:武蔵野美術大学/企画広報課+出版編集室
写真撮影:小松信夫、川崎栄治
デザイン:田中功起
印刷:山浦印刷株式会社
発行:ギャラリーαM武蔵野美術大学
発行日:2001年8月31日
内容:
「企画にあたって」高島直之+林貞行+松本透
山本昌展
鈴木隆展
前沢知子展
フェリックス・シュラム展
二木直己展
関口国雄展
川島亮子展
寺内曜子展
ギャラリーαM○トークショウ「1980-90年代美術再考」川俣正+南雄介+高島直之+松本透/林貞行
企画展100回開催記念シンポジウム「20世紀美術と現在」東浩紀+林道郎+松浦寿夫/高島直之
略歴
(本書目次より)

入手日:2009年10月8日
入手場所:gallery αM
「ご自由にお持ちください」と書かれていたので、好意に甘えて頂いた1冊。いったい人はなぜかくも本を持ち帰ってしまうのか。増えていく蔵書に途方にくれる今日この頃である。
さて、本書はギャラリーαMの2000年の活動をまとめた記録集。9年後の今、本書を見て感じるのは現在まで制作を継続している作家たちが多くいることだろうか。すでに村上隆や奈良美智らのポップなペインティングが流行り出していた頃だと思うが、本書収録の作家たちからはそういった時代の傾向とは無縁に制作をしている姿勢が見える。もちろん世代が違うのだから当たり前だろう。しかし、キュレーションにおいても時代の空気に囚われず、美術を真摯に追求しているところはさすが武蔵美だ。
果たして9年後の2018年にはどのような美術が現れているのだろうか。
余談だが、本書のデザインを担当している田中功起氏とは、現在、映像やインスタレーションで活躍しているあの田中功起氏なのだろうか。

Recording Words 039 手技が物を作り出すのは

2009-10-26 21:57:47 | ことば
手技が物を作り出すのは、生きた自然に入り込むことによってだが、それを可能にさせる力は、個性ではない。ひたすらに為される習練であり、身ひとつに沁み込んだその記憶である。その記憶は、おそろしく遠いところ、歴史のはるか彼方にまで通じているだろう。こうやって生み出される物が、無個性であろうはずはない。だが、それは個性的であろうなどという顔は少しもしていない。ただ<物>であるだけで充分だ、という顔をしている。どんな領域であろうと、「独創」された作品などは、実に閉口な、またありふれた代物なのである。
(前田英樹『独学の精神』ちくま新書、2009年、p.146)

「個性」や「独創」など気にしてはいけません。身ひとつに沁み込んだ習練や記憶によって作られる<物>をこそ信じたいものです。

未読日記324 「内村鑑三所感集」

2009-10-25 23:16:49 | 書物
タイトル:内村鑑三所感集
編者:鈴木俊郎
発行:岩波書店/岩波文庫
発行日:1978年12月10日第6刷(1973年12月17日第1刷)
内容:
内村が「所感」と称んで『聖書之研究』誌上に掲載した短文、祈りと思索の結晶、研究の熟した果実のうちから約千篇を精選して収録。
(本書帯より)

購入日:2009年10月4日
購入店:古本屋さんかく
購入理由:
最近読み終わった前田英樹著『独学の精神』(ちくま新書)において内村鑑三について書かれた章があった。この人の倫理的思考に興味を感じ、読んでみたいと思っていたところ、フラッと入った古本屋でいい本を見つけた。それが本書である。内容にもある通り、「所感」という短文を集めたアンソロジーである。しかし、これがまたいいのである。パラパラと適当な個所を読んでみるだけで、言葉が悪血を洗い流してくれるかのような清涼感を与えてくれるのである。たしかに内村は熱心なキリスト教信者ではある。神という言葉が頻繁に使われることに宗教と距離を置きたい現代日本人からすると違和感を覚えるかもしれない。だが、そんなことはどうでもいいことだ。祈りと思索においては、神を語るも人世を語るも結局は同じことを語っているのだから。

Recording Words 038 考えるとは

2009-10-21 20:11:00 | ことば
考えるとは、鉋をかけることである。相手の文章が木だとすると、鉋は自分の言葉になるほかない。生きた文章という木に、生きた言葉である鉋が入り込んでいかなくてはならない。目の前の文章が、見る見る削られて一本の柱になり、別に削られた柱と組み合うところまで行かなくてはならない。
(前田英樹『独学の精神』ちくま新書、2009年、p.130)

まだまだ修行中です・・。
なかなかうまく削れません。

未読日記323 「YUKARI ART CONTEMPORARY」

2009-10-20 22:36:40 | 書物
タイトル:YUKARI ART CONTEMPORARY
デザイン:田端鉄平
印刷:有限会社アドバイス・プリンティング
発行:YUKARI ART CONTEMPORARY
発行日:2007年10月25日
内容:
YUKARI ART CONTEMPORARYアーティストカタログ

「ごあいさつ」みつまゆかり(YUKARI ART CONTEMPORARY代表)
大畑伸太郎
五十嵐公
南条嘉毅
施井泰平
吉田朗
川本史織
いしかわかずはる
田代裕基
淀川テクニック

各作家の作品画像、略歴付

頂いた日:2009年10月1日
頂いた場所:YUKARI ART CONTEMPORARY
自宅からほど近い場所にあるギャラリーに、仕事を兼ねて行ったところ、ギャラリーの方からアーティストカタログを頂いた。どうもありがとうございます。
最近、繁華街から離れた場所にギャラリーができることは珍しくないが、まさか私が住む(育った)街にギャラリーができるとは思わなかった。正直、最初は好みに合わないギャラリーだと思いガッカリした。だが、何度か足を運ぶうちにいい作品を見る機会もあり、以前の先入観をやめることにした。もしかすると、これが地元の人間がギャラリーを育てる(美意識を育てられる?)ということなのかもしれない。

Recording Words 037 私たちの自由である

2009-10-19 19:18:43 | ことば
生きている者にとって、死んだ人がいてくれることは、実にありがたい。そのうちの誰を尊敬し、愛するかは、私たちの自由である。また、そのことをどこまで深め、明確な信としていくかも、私たちの自由である。学ぶことの最も大きな自由と喜びは、まさにこの点にある。
(前田英樹『独学の精神』ちくま新書、2009年、p.105)

この少し前に前田氏はこのように書く。
「死んだ人々への尊敬を育てることと、学問をすることとは、切り離すことができない。切り離せば学問は死ぬ。少なくとも、生きるのに必要なものではなくなる。」(p.98)

死者を敬うこと。たった1冊の書物、芸術作品からでも私たちは死んだ人から何かを学ぶことができる。そう、それは、たった一人でできる。

未読日記322 「挨拶」

2009-10-18 21:40:12 | 書物
タイトル:挨拶
著者:佐伯慎亮
デザイン:町口景(マッチアンドカンパニー
プリンティングディレクション:谷口倍夫
発行:株式会社赤々舎
印刷・製本:株式会社サンエムカラー
発行日:2009年9月15日
定価:3000円
内容:
佐伯慎亮
1979年 広島県生まれ
2001年 第23回キヤノン写真新世紀優秀賞受賞
2003年 大阪芸術大学写真学科卒
現在、大阪府在住
(本書奥付より)

著者サインつき。

購入日:2009年9月30日
購入店:AKAAKA
購入理由:
 東京・清澄白河にあるAKAAKAにて開催された《佐伯慎亮写真展「挨拶」》(2009年9月19日―10月10日)に行った際に購入。
佐伯慎亮は実家が真言宗であり、関西アンダーグラウンドシーンを代表するバンド・アウトドアホームレス(通称アホ)でホラ貝担当を務めるなど鬼才・奇才な人物である。
 そして、今回待望の東京初個展+初写真集の刊行である。写真集と写真展では、その構成も内容もやや印象が異なるのだが、佐伯写真の第一印象をあえて述べるなら、礼節があるということだろうか。タイトルの「挨拶」という言葉にも表れているように、他者や物事に対して、この人は誠実、真摯に対峙している。それが僧侶としての修行から見についた世界との接し方なのかはわからない。そう、佐伯の写真からは生や死というものへの敬意、畏敬の感情がまなざしに含有している。だから、写真にはきれいなものも、汚いものも、日常も非日常も写っている。清濁併せ吞んだ世界が佐伯写真にはあるのである。しかし、その見せ方は写真の持つ熱気や情動を意外なほどに冷静に、しかし強く丁寧にこちらに差し出すのである。
 残念ながら、出版、展覧会開催が急だったせいなのか、贔屓にしているアートウェブマガジン・カロンズネットでも情報掲載されておらず、AKAAKAからのメールマガジンも来ず、DMは都内のギャラリーでほとんど見かけず、広報が足りなかったのが残念である。しかし続いて、地元大阪のFUKUGAN GALLERYで10月17日―11月21日まで大阪展が行われるので見逃した人は行くべし・・って自分も近々行く予定ですが。