A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

未読日記1186 『恩地孝四郎展』

2016-06-03 22:02:44 | 書物
タイトル:恩地孝四郎展
別署名:Onchi Koshiro
編集;東京国立近代美術館、和歌山県立近代美術館
執筆:松本透、熊田司、桑原規子、三木哲夫、井上芳子、藤本真名美、奥村一郎、青木加苗
翻訳:小川紀久子、クリストファー・スティヴンズ、味岡千晶、フェリシティ・メラー
デザイン:馬面俊之
制作:コギト
発行:[東京] : 東京国立近代美術館、[和歌山] : 和歌山県立近代美術館
発行日:c2016
形態:364p : 挿図, 肖像 ; 25cm
注記:展覧会カタログ
   会期・会場: 東京: 2016年1月13日-2月28日:東京国立近代美術館, 和歌山: 2016年4月29日-6月12日:和歌山県立近代美術館
   主催: 東京国立近代美術館, 和歌山県立近代美術館, 東京新聞, 産経新聞社
   展覧会の企画構成: 松本透, 熊田司, 井上芳子
   一部和英併記
   恩地孝四郎年譜: p[225]-259, 308-318
   恩地孝四郎文献目録: p260-272
   出品目録: p[319]-364
   恩地孝四郎の肖像あり
内容:
ごあいさつ
「抽象への方途 ーー恩地孝四郎の版画」松本透
「恩地孝四郎 : 戦後抽象版画の展開」桑原規子
カタログ
I. 『月映』に始まる 1909-1924年 / 松本,透[著]
II. 版画・都市・メディア 1924-1945年 / 松本透[著]
III. 抽象への方途 1945-1955年 / 松本透[著]

「「版」と「本」のあいだーー恩地孝四郎の造形遍歴」熊田司[著]
恩地孝四郎年譜 / 三木哲夫[編]
恩地孝四郎文献目録 / 藤本真奈美・奥村一郎[編]
The Routes toward Abstraction: Onchi Koshiro's prints / [Text by]Matsumoto,Tohru / [Translated by]Ajioka,Chiaki / Moeller,Felicity
Onchi Koshiro: The Development of His Postwar Abstraction / [Text by]Kuwahara,Noriko / [Translated by]Stephens,Christopher
Abridged Translation of the Biography of Onchi Koshiro / [Edited by]Miki,Tetsuo / [Translated by]Ogawa,Kikuko
出品目録 / 井上芳子[編]

購入日:2016年6月3日
購入店:和歌山県立近代美術館
購入理由:
 展覧会情報を知った時から楽しみにしていた「恩地孝四郎展」を巡回先の和歌山県立近代美術館でようやく見ることができた。恩地孝四郎の作品が気になったのは桑原規子著『恩地孝四郎研究 版画のモダニズム』(せりか書房、2012年)に掲載された図版であった。恩地の作品はこれまでも美術館で何度も見たことはあったが、本のなかでは見たことのない作品が多数あり、すばらしい作品だったのだ。いつか恩地孝四郎のまとまった展覧会があれば見たいものだと思った。

 その後、田中秀介展レビューテキストの参考に見た「月映展」はすばらしい内容で感嘆した。遡って以前に開催された「田中恭吉展」の図録を手に入れるなど、本展の予習をこれまでしていた感がある。
 結論から言うと、前半がすばらしかった。《抒情 「あかるい時」》は、ほんとうに「あかるい」絵で、足が止まってしまった。いつまでもいつまでも見ていたくなる、吸い込まれるような「あかるさ」であった。絵が光っているわけでもないのに、発色よく、こちらを照らすあかるさである。おそらく私はこの「あかるさ」が気になるのだ。形而上的ともいえる絵画の「光」とはなんだろうか。現在の絵画に、恩地の抽象画に流れる「抒情」があるかというと、おそらくないだろう。抒情なき時代だからこそ、恩地の作品が召喚されたのだろう。
 後半はもう少し点数が見たかった。ものを直接画面に置く実物版などはとても実験的でおもしろい。だが、前衛臭がしないのがいい。全体的には、展示室に作品をかなり詰め込んでいるので、会場規模としては東京展の方が見やすかったかもしれない。
 見終わって思うのは、版画という性質もあるが、恩地の作品はカタログで見ても、あるいはカタログで見た方がいい作品もあるという発見であった。もともと挿絵や出版のためだったり、版型の小ささもあり、カタログでの見栄えがいい。印刷向きなのだろう。今展図録もボリュームがあり、お手頃な値段である。