A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

TOUCHING WORD 044

2008-05-30 22:32:29 | ことば
しかしここで思い浮かべていただきたいのは、過ぎたことが思い出し様式で立ち現われているのも現在なんです。未来が立ち現われているのもいつでも現在なんですね。要するにわれわれの体験は、現在という場所をはずすことはできないわけですね。ですから結局、へんな言葉ですが、過去と未来を含んだ四次元の世界の立ち現われが常時現われている。(大森荘蔵)
(p.194 『音を視る、時を聴く[哲学講義]』大森荘蔵・坂本龍一、筑摩書房/ちくま学芸文庫、2007.4)

TOUCHING WORD 043

2008-05-29 22:35:35 | ことば
というのも、最大の心配事も最大の希望と同じに、私たちの力を超えたものではなく、私たちはいつかそうした心配事に打ち克ち、希望を実現することができるからだ。
(p.253 『失われた時を求めて13 第七篇 見出された時 Ⅱ』マルセル・プルースト 鈴木道彦訳 集英社/集英社文庫ヘリテージシリーズ2007.3)

未読日記194 「100 QUOTES」

2008-05-27 23:57:30 | 書物
Title:100 Quotes by Charles Eames
Edited by Carla Hartman & Eames Demetrios
Designed by Design Guys
Published by Eames Office, LLC ,2007
内容:
東京・六本木のAXIS GALLERYにおいて開催された「チャールズ・イームズ写真展 100 images × 100 words─偉大なるデザイナーのメッセージ」(2008年5月20日-6月8日)において先着2500名に配布された限定本(邦題『チャールズ・イームズの100の名言』)。
イームズ・ペーパー使用、200p、6ヶ国語(英語・簡体中国語・繁体中国語・日本語・ヒンディ語・ポルトガル語・スペイン語)対訳

テキスト:カーラ・ハートマン(イームズ・オフィス、教育ディレクター)

入手日:2008年5月24日
入手場所:AXIS GALLERY
アメリカのデザイナー・チャールズ・イームズの生誕100周年を記念して、イームズ・ギャラリー(米国・サンタモニカ)をはじめとして、オーストラリア、インド、北京で開催された展覧会の巡回展。いままで公に紹介されてこなかった彼の写真から100点を、彼の遺した100の言葉とともに展示し、デザイナーの発想、まなざしを垣間見れるユニークな展覧会。
さらにユニークなのは、先着2500名に配布されるというこの本であろう。やや大きめの文庫本サイズ、200pの本をなんと無料でもらうことができる。しかし本は無料だが、展覧会の入場料が1000円なのを考えると、それほど安いわけでもないのかもしれないが、この本はすばらしい。イームズのデザイン観、人生観が垣間見えて、簡潔な中にもウィットとユーモアがたくさん詰め込まれていて自然とこちらの肩の力をほどけさせてくれる。一日の終り、寝る前に読むといいかもしれない。

印象に残った言葉をひきます。

13「虹は知りすぎてしまうと、美しさが損なわれるとキーツは言った。しかし私は違う。物は知れば知るほど、それに対する感覚が豊かになると感じる。」(p.41)

80「今から火曜日までの間にできる最良のことが、自分ができるベストの一つだ。」(p.159)


チャールズ&レイ・イームズ 16mmフィルム上映会
2008年6月7日[土] 7:00p.m.-8:30p.m.(6:30p.m.開場/7:00p.m.開演)
入場料:1,000円 (要予約)
会場:目黒区民センターホール(目黒区中小企業センターホール)
   目黒区民センター内(目黒区美術館と同じ敷地内)
主催:目黒区美術館、ハーマン ミラー ジャパン株式会社


さらにチャールズ没後30周年&レイ没後20周年記念企画としてイームズ夫妻の映像作品集DVD-BOXが発売決定!
「チャールズ&レイ・イームズ 映像作品集 DVD-BOX」
2008.8.8 DVD ON SALE 
DVD4枚組 税込価格¥15,225
発売元:(株)IMAGICA TV
販売元:ジェネオン・エンタテインメント(株)



未読日記193 「PREVIEWS」

2008-05-26 23:54:13 | 書物
タイトル:PREVIES 今月の美術館・ギャラリーガイド 2008 Jun
編集:『美術手帖』編集部
アートディレクション:野口孝仁
デザイン:宮外麻周+吉澤俊樹(Dynamite Brothers Syndicate)
表紙:横尾忠則「香港」1997
発行:株式会社美術出版社
発行日:2008年6月1日
内容:
2008.5.17-6.16までの美術館・ギャラリースケジュールをまとめた美術手帖6月号のブックインブック。

「MEETING THE ARTIST/期待のアーティストに聞く! 森田浩彰」
「BT RECOMMENDS!/今月のイチ押し展覧会!」
「ENDING SOON!/見逃せない!話題の展覧会」
「AREA MAP & GUIDE/[白金&目黒]」
「EVENT INFORMATION/イベント情報」

入手日:2008年5月17日
入手場所:東京都江東区1-3-2
清澄白河にあるSHUGOARTS、Taka Ishii Galleryに出かけた際に、出入り口のチラシ置き場に置かれていたもの。美術手帖がリニューアルし、このような美術館・ギャラリースケジュールをまとめた小冊子を無料で配布するとは気の利いたものだ。

実際のところ、近年の東京の美術館・ギャラリー地図は大きく様変わりしてしまった。上野に美術館、銀座にギャラリーが集中していた時代とは違って(いまもあるが)、いまや展覧会が開かれるスペースは東京中へと拡散し、そのスケジュール、場所を把握し、見て回るのはほぼ不可能に近い。そこで、情報誌の存在が大きくなるのだが、この冊子を見てがっかりしてしまった。京橋・銀座地区はたったの7件である。ここに掲載されていないけれど、すばらしい美術館、ギャラリーはたくさんある。どうかそのことを踏まえた上で、楽しい美術館・ギャラリーめぐりをしてみてほしい。あなたがこの作られた「スケジュール」とやらの行間を埋めていってほしいのです。

余談だが、さらに私を失望させたのが「AREA MAP & GUIDE」のコーナーに掲載された地図である。白金&目黒地区を取り上げているのだが、とても地図とは言えない代物である。散歩至上主義の私としてはこのような地図は、自分で歩いたことのない者が作った地図であると思いたい。

[実際のところ行かれるかどうかわからないが見たい展覧会リスト]

建築がうまれるとき ペーター・メルクリと青木淳
2008.6.3-8.3
東京国立近代美術館 ギャラリー4

ファブリス・イベール たねを育てる
2008.4.26-8.31
ワタリウム美術館

大岩オスカール
屋上庭園
2008.4.29-7.6
東京都現代美術館

戸谷成雄 ミニマルバロックⅢ
2008.5.24-6.21
SHUGOARTS

荒木経惟 花緊縛
2008.5.25-6.21
Taka Ishii Gallery

Landschaft Ⅳ
2008.6.6-6.28
ラディウム

オールドノリタケと懐かしの洋食器 世界に誇る和製テーブルウェア
2008.4.17-6.15
東京都庭園美術館

森山大道 Ⅰ.レトロスペクティヴ 1965-2005 Ⅱ.ハワイ
2008.5.13-6.29
東京都写真美術館

だんだん疲れてきたので今日はここらへんでやめておきます・・。

5月はウォルフガング・ティルマンス、リー・フリードランダー、ジョエル・マイロウィッツ、ホンマタカシなど青山を中心として写真展が充実していました。まさかフリードランダーとマイロウィッツの展覧会を同時期に見れるとはもう驚きです。

未読日記192 「歌舞伎座掌本」

2008-05-23 22:35:20 | 書物
タイトル:歌舞伎座掌本-春季号
編集・発行:東明社
発行日:2008年5月
金額:無料
内容:
「狂言手習鑑 青砥稿花紅彩画(あおとぞうしはなのにしきえ)」水落 潔
「旗本奴と町奴」五杏
歌舞伎俳優屋号一覧(08・05)
「歌舞伎散歩道 第十五回 歌舞伎と動物(十)羊・猿」
六月大歌舞伎のご案内
読者ページ 聲飛客芝居往来

入手日:2008年5月6日
入手場所:歌舞伎座
歌舞伎座に行ったことがある人は、知っている人は知っている歌舞伎座掌本。歌舞伎座内のとある所に無料配布で置かれている。内容は上演される演目の解説、コラム、歌舞伎にまつわる演目紹介などが掲載されている。歌舞伎素人の私などは毎回読むたびにちょっとした知識を得ることができて重宝する。五月の歌舞伎座は團菊祭五月大歌舞伎で、昼の部、夜の部ともに鑑賞。白浪五人男も幡随長兵衛もかっこええなあかっこええなあと思いながら見る。團十郎の声は最初はなじめなかったが、慣れてくると渋い声だと思うから不思議。役者の声は奥が深い。

未読日記191 「MY CASTLE」

2008-05-20 23:57:04 | 書物
タイトル:賃貸情報 MY CASTLE 2008年5月号
発行:株式会社ネクシヴ
発行日:2008年4月5日
内容:
マンション・アパート・テナント探しの情報誌
さまざまなシーンでひとつ上行くエリッツのお部屋探し

○結婚して家族が増えた!広々ファミリー物件特集
○あなたのこだわりにぴったりなお部屋を探す
 エリッツこだわりPICK UP物件特集
○家具・家電付きの短期利用型マンション マンスリーマンション特集
○はじめてお部屋を探される方へ HOW TOお部屋探し

入手日:2008年5月5日
入手場所:エリッツ 北白川店
想像してみる。例えば、京都に住んだとしたら。わたしはどこに住むだろうか。家賃の相場はいくらだろうか。パラパラ見ていると私がいま払っている家賃と同額で、かなりいい物件がある。現実的に想像をしてしまう。どうせ生気のない日々を送っているのなら、どこにいたって同じなのかもしれない。満足のいく仕事もできず、所詮使い捨てられる身であるのなら、仕事などなんだっていいのかもしれない。なげやりな考え方だが、「京都に住むとしたら」という想像が今の私にはいちばん楽しい。
余談だが、京都にはパン屋がすごく多い。しかも、店の雰囲気、味も絶品なのだ。京都にはパン食の人が多いのだろうか?今回も見つけては何店も入ってしまった。いつか極私的京都ベーカリーリストマップを作ろう。

未読日記190 「絵画の冒険者」

2008-05-19 23:50:50 | 書物
タイトル:特別展覧会 没後120年記念
     絵画の冒険者 暁斎 Kyosai 近代へ架ける橋
編集・制作:京都国立博物館
図書設計:大石一義(大石デザイン事務所)
図書制作:大石デザイン事務所
発行:京都国立博物館
発行日:2008年4月25日(第2刷)
金額:2500円
内容:
平成20年4月8日から5月11日までを会期として、京都国立博物館、河鍋暁斎記念美術館が主催する特別展覧会「没後120年記念 絵画の冒険者 暁斎 Kyosai-近代へ架ける橋」の解説付総目録。A4判・328頁・ソフトカバー

ごあいさつ
「曽祖父暁斎」河鍋楠美(河鍋暁斎記念美術館館長)
「暁斎は十八世紀京都文化の正しき継承者」狩野博幸(同志社大学教授)
「暁斎と外国人-出会いから交流へ」ティモシー・クラーク(大英博物館アジア部日本セクション長) 助川晃自訳
「暁斎が狩野派から得たもの」山下善也(京都国立博物館主任研究員)
図版
1 「狂斎」の時代
2 冥界・異界、鬼神・幽霊
特集「本画と下絵」
3 少女たつへの鎮魂歌
4 巨大画面への挑戦
5 森羅万象
特集「写生と粉本」
6 笑いの絵画
7 物語、年中行事
8 暁斎の真骨頂
作品解説
暁斎年表
暁斎をめぐる人々
出品目録
List of Works
Description of Sections
Preface

購入日:2008年5月4日
購入店:京都国立博物館
購入理由:
今回の京都行きのメインイベント。京博では過去に若冲、蕭白の近世絵画の画家を取り上げた展覧会を開催してきたが、暁斎はサブタイトルが示すように近世から近代へと移りいく時代の画家であり、その意味で近世絵画の集大成といえる展覧会かもしれない。

冒頭から冥界、異界、鬼神、幽霊らを描いた凄まじい世界が展開する。しかし、ここで見られる残酷・怪奇描写のリアルさは、その世界に行ってしまった者が描いたとは思えない。何か意図しているというか、サービス精神過剰なアクの強さと言おうか、そんな突き放したフィクショナルな視点が混入されており、それが暁斎を「近代」の作家だと私には思わせる。そんなサービス精神過剰ぶりに呆れるのが、放屁合戦絵巻に見られる毒のある笑い、言葉を変えれば下品な作品である。ここには暁斎の暴走ぶりというか、悪乗りぶりが垣間見られる。今の時代では、このようなギャグマンガ風な表現が受けるのだろうが、過去の作品ながら「今」の作品過ぎて私にはあまり訴えてこない。

これら前半のセクションでは、暁斎のイメージ通りの作品が並び、一般的には満足して帰られる内容なのだろう。だが、ここまでだったら暁斎の評価はここまで上がりはしなかったろう。本番はここからだ。
狩野派で鍛えた技術と浮世絵風なエキセントリックな構成を駆使し、その奇想に技術を沿わせていく。例えば、「地獄太夫と一休」など、まとまりのある構成で単体に描けばいいものをこの人はそうはしない。地獄太夫の衣装の絵柄など細部まで描きこまれ高い完成度を持ちながら、されこうべを踏みつけて踊る一休がそばに描かれるのだ。この諧謔精神を見ると暁斎はよほどクールな人間だったに違いない。そう思うとどこまで本気かわからないが、「観世音菩薩像」という精緻きわまりない美しい作品もあり、暁斎という画家のキャパシティにエンタテインメントとアート性の両立を見てしまう。
このアクの強さ(わかりやすさ)が外国人受けする理由でもあるが、あらためて通覧すると意外に繊細な細部や後半の狩野派的モチーフ選びに暁斎のイメージを裏切るものもあり発見だった。よくコメディを演じる俳優が、意外とシリアスな演技がうまかったりするが、そんな器用さ、冷静さをこの人を持ち合わせているのかもしれない。しかし、そう思わせているふしもなくそこがまた自我に没入しきっていない「近代」人暁斎らしく、つかみ所のないトリックスター画家なのである。

追記:東京に戻り、図録をパラパラ見ていると、やはり暁斎は江戸(東京)の人だな、と思う。笑いの質もモチーフの切り口も江戸らしい。なにかテクニック主義というか観念的で、それはそれで楽しいし、痛快ではあるが、開催地・京都という地を考えるともう少し「品」のあるものが見てみたかった気もするのである。しかし、それは暁斎のせいではなく、企画者側の話だが。

TOUCHING WORD 042

2008-05-16 23:21:19 | ことば
さあきみ、ありのままに考えてごらん、かつてご自分で私にある理論を述べられたじゃないですか。事物は絶えず繰り返される創造によってのみ存在する、とね。世界の創造も、一度かぎりのものではない、それは必然的に毎日行なわれているのだ、とあなたは言われた。
(p.220 『失われた時を求めて12 第七篇 見出された時Ⅰ』マルセル・プルースト 鈴木道彦訳 集英社/集英社文庫ヘリテージシリーズ2007.3)

未読日記189 「南画って何だ?!」

2008-05-15 23:52:38 | 書物
タイトル:南画って何だ?! 近代の南画-日本のこころと美
編集:兵庫県立美術館、飯尾由貴子
発行:兵庫県立美術館
発行日:2008年4月22日
金額:1800円
内容:
2008年4月22日-6月8日にかけて兵庫県立美術館において開催された<村上華岳・水越松南生誕120年記念 南画って何だ?! 近代の南画-日本のこころと美>の展覧会図録。
A4版・288ページ

「日本における南画の展開」木村重圭(甲南女子大学教授)
図版
 第1章
  Ⅰ 先駆者たち 大雅と蕪村
  Ⅱ 南画の展開
 第2章
  Ⅰ 幕末から明治にかけての南画
  Ⅱ 巨星 富岡鉄斎
 第3章
  Ⅰ 新南画 南画の新たな展開
  Ⅱ 異色の南画 水越松南
  Ⅲ 心象の絵画 村上華岳
 第4章 洋画家たちと南画
「「南画って何だ?!」近代の南画をめぐる一考察」飯尾由貴子(兵庫県立美術館学芸員)
「南画と洋画のディアレクティーク?!」速水豊(兵庫県立美術館学芸員)
関連年表
作家別掲載ページ
出品リスト

購入日:2008年5月3日
購入店:兵庫県立美術館 ミュージアムショップ
意外とまとめて見る機会のなかった「南画」をテーマとした展覧会。しかし、私のお目当てはまとまって見る機会のほとんどない村上華岳である。しかし、華岳が「南画」なのかというと、タイトル通り「?!」ではある。ちなみに、この不思議なタイトルは以前、兵庫県立美術館で行なわれた<「具体」ってなんだ?>展(2004)からの流用か。なお、タイトルに冠せられている水越松南は今回初めて知ったのだが、私の好みではないため割愛させていただく。
やはり、華岳の作品は圧倒的である。いまだ筆舌に尽くしがたい印象をどのように言語化すればいいのかわからない。その作品の前に立つと、作品から途方もないエナジーが発せられ、吸い込まれてしまうのだ。例えば、「紅葉の山」(1939)だ。その紅く染まった木々には恐怖さえ憶える。見ることにこれほど緊張と崇高さを併せ持つ絵画体験はそうはない。しかし、この緊張感を味わいたくて、私はまた華岳の作品の前に立つだろう。

この展覧会は蕪村から始まる。偶然なのか、滋賀のMIHO MUSEUMで行なわれている<与謝蕪村 翔けめぐる創意>展も開催中であり、蕪村から始まる南画・文人画の流れを一望できる。しかし、蕪村以降の「南画」を見ていくうち、私にはこの展覧会のテーマが「近代」なのではないかという気がしてきた。それは、出品作品が江戸から明治、大正、昭和へと続いていくことからもわかる。極めつけは「南画」の近代として最終章に設けられた洋画家による「南画」である。萬鉄五郎、梅原龍三郎、須田国太郎らの作品は日本画・油絵の越境という括りだろうが、これは東京国立近代美術館で行なわれた<揺らぐ近代 日本画と洋画のはざまに>展(2006)を思い起こさせる。洋画家の日本画への転身あるいは影響を言い出すと「南画」でなくとも「文人画」「水墨画」「日本画」であれなんでもいいのではないか。南画展ではラストに山口長男の抽象作品までも出品されていたが、余計に「南画って何だ?!」という気にさせられてしまった。やや飛躍しすぎな気もする。いくら山口が「墨を主とする骨格描写」をやっていたからといって、それを「南画」という視点から見ていいものだろうか。
だが、GWにもかかわらずほとんど人が入っていないこのような展覧会を行なう美術館には評価したいものだ。次回は蕪村、池大雅らの南画から過去に辿る展覧会を見てみたいものだ。その方が、「南画って何だ?!」という疑問が解ける気がする。

未読日記188 「大山崎山荘通信」

2008-05-13 23:32:41 | 書物
タイトル:大山崎山荘通信・第5号
編集長:杉山友二
編集:山城淳一、杉浦美紀、上野由美子、村上奈央、小林由貴子、仲幸子(アサヒビール大山崎山荘美術館)、小山田徹(T-room)
デザイン:小山田徹、安井悦子(T-room)
発行:アサヒビール大山崎山荘美術館
発行日:2008年2月20日
内容:
【企画展】大山崎山荘、柚木沙弥郎 染の仕事
学芸員の一言<柚木先生との出会い-杉浦 美紀>
特集1 すゞしろ日記 OH!ヤマザキ版<アーチスト 山口晃さん>
特集2 人をたずねて<妙喜庵 武田士延さん・道子さん>
・扉のむこう側<その5 橡の木茶屋>
・監視員のつぶやき

入手日:2008年5月3日
入手場所:アサヒビール大山崎山荘美術館
京都の山崎にあるアサヒビール大山崎山荘美術館において発行されているA3四つ折りの無料情報誌。
以前から気になっていた大山崎山荘美術館は、実業家・加賀正太郎が山荘として建てた建物を美術館としてリニューアルしたもの。中身のコレクションはアサヒビールの初代社長を務めた事業家の山本為三郎のコレクションが中心となっている。山本は昭和初期に興った「民藝運動」に対し、強く支援を行ったことから大山崎山荘美術館は民芸の作家や西洋美術のコレクションが充実している。このエピソードを聞くと、東京駒場にある日本民藝館の京都版かと思ってしまうがそんなことはない。
まず、この美術館が圧倒的にすばらしいのは「建築」である。大山崎山荘美術館は文字通り「山荘」である。つまり、別荘だ。セカンドハウスである。池には睡蓮が咲き、新緑の緑が目一杯にこもれびとともに射しこんでくる。テラスからは木津川・宇治川・桂川が眺められ、吹く風が気持ちいい。東京では望めない風景だ。
そして、安藤忠雄による新館である。モネの『睡蓮』を展示するために建てられたこの建物は地中美術館のように建物のほとんどが地下に作られている。地下に咲き誇る睡蓮池へと観客を誘導していく階段がすばらしい。ただの「階段」をこんなにもシンプルに美しくあらしめることができるのか。大正時代に建てられた本館と現代建築の新館が不思議な調和を見せ存在できるのも、すべてはまわりを取り囲む自然と展示される美術作品のおかげだろう。日本民藝館にはこの眺望も庭園も望めない。これからこの美術館に行こうと考えている人は、もともとが山荘なのだから山荘に休みに行くつもりで出かけてみてほしい。

余談だが、この山荘を建てた加賀正太郎という人物は蘭の温室栽培も行なっていたという。そのため、蘭の栽培展示も行なわれていた。この美術館はこういった植物、自然と縁が深いが、それを踏まえるとこの美術館が持っている展覧会のキャパシティはもっと広いはずだ。意欲的な企画展を今後もっと期待したい。