A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

Recording Words 031

2009-09-29 23:05:47 | ことば
絵や彫刻はふつう空間表現と呼び、構図や色や空間を占有するさまなどが問題にされているように思われているが、ここでも力となっているのは時間の方で、絵や彫刻の実物をじかに見ると、それらの制作に没入された時間の厚みがはっきりと痕跡としてあらわれていて、その時間の厚みが―見る者が気がつく気がつかないにかかわらず―見る者の目を惹きつけ、心を動かす。
(保坂和志『小説の誕生』新潮社、2006年、p.397)

もしかすると、私は芸術に時間の厚みを見ているのかもしれない。時間の厚みのない薄っぺらな作品は凡庸だし、いたずらに「痕跡」を残した作品も汚しているとしか思えない。私たちを没入させる芸術とは、そのような作品ではない。

未読日記316 「ギャラリーαM ANNUAL 1999」

2009-09-28 23:42:07 | 書物
タイトル:ギャラリーαM ANNUAL 1999
編集:武蔵野美術大学/広報室+出版編集室
写真撮影:小松信夫
デザイン:安達史人+ゴトウ豪
印刷:山浦印刷株式会社
発行:ギャラリーαM、武蔵野美術大学
発行日:2000年3月31日
内容:
はじめに
「序言:企画(展)を終えて」藤枝晃雄
田中信太郎展
酒井香奈展
平井正義展
小池隆英展
東島毅展
クリストファー・ライオン展
須賀昭初展
名畑光子展
ギャラリーαM トークショウ
現代日本美術の真実
田中信太郎+福住治夫+松本透/藤枝晃雄
略歴
(目次より)

入手日:2009年9月5日
入手場所:gallery αM
「ご自由にお持ちください」と書かれていたので、好意に甘えて頂いた1冊。
ギャラリーαMの1999年度の企画展記録をまとめたもので、キュレーターは藤枝晃雄氏。たかが10年前の展覧会だが、あまり知らない作家もいる。当時、私は浪人生だった。要するに勉強不足なので、こういった記録集でその時代の空気感や傾向、問題を考察する資料としたい。ちなみに、ギャラリーは当時、吉祥寺にあった。

Recording Words 030

2009-09-23 15:49:55 | ことば
人間というのは、「あれもできるこれもできる」という可能性に開かれた存在ではなくて、「これしかできない」というなけなしの選択肢を受け入れる存在なのだ。
(保坂和志『小説の誕生』新潮社、2006年、p.427-428)

「これしかできない」どころか、私は何もできないのではないかと思わなくもないが、そんな選択肢のなさから始めるしかない。

未読日記315 「十代目金原亭馬生 弐」

2009-09-22 22:24:00 | 書物
タイトル:隔週刊CDつきマガジン 落語 昭和の名人 決定版⑰ 十代目金原亭馬生 弐
編集人:宮本晃
監修:保田武宏
寄席文字:橘左近
CDリマスタリング:草柳俊一
アート・ディレクション:渡辺行雄
デザイン:片岡良子、姥谷英子
編集:小坂眞吾(小学館)、内田清子
制作企画:速水健司
資材:高橋浩子
制作:田中敏隆、南幸代
宣伝:長谷川一、山田卓司
販売:豊栖雅文、竹中敏雄
広告:林祐一
発行:株式会社小学館
発行日:2009年9月1日
金額:1,190円
内容:
再評価著しい早世の噺家
十代目金原亭馬生【きんげんてい・ばしょう】1928~1982 弐

CD(67分)【全席初出し音源】
首ったけ・・・花魁のピンチ
佐野山・・・大横綱・谷風、情けの八百長
初天神・・・父、童心に帰る

○父・志ん生を超えたかもしれない・・・ 〝酒仙〟の早すぎた54年
○CD鑑賞ガイド ゆったり心地よいリズム
落語をもっと面白くする連載3本立て
田中優子○相撲に夢中
五街道雲助○席亭の仕事
山本進○禁じられた噺

購入日:2009年9月3日
購入店:三省堂書店 有楽町店
購入理由:
馬生という人は、地味だが語りが奥深い。秋の季節に聞くには、馬生の声は心に染みる。今回の噺の中では、「初天神」がおもしろい。生意気な子どもの造形は、今でいえば「クレヨンしんちゃん」か。また、最近、天神様にお願いをしによく出かけている身としては、天神つながりで興味深い。江戸の人もまた、よく天神様に行ったのだろう。

Recording Words 029

2009-09-21 23:54:45 | ことば
言葉は生成しつつあるものを表現することができず、言葉はいつも遅れてやってくるのだ。
(保坂和志『小説の誕生』新潮社、2006年、p.329)

ギャラリーなどへ行った際、その場で感想や意見を求められることがたびたびある。そのたびに、すぐに言葉が出てこず、申し訳なく思う。

文章を書こうとするとき、言葉がすぐに出てこない。まして美術の場合、言葉で語りたくない感情が一方にある。言葉で表現しえないから、美術作品を作っているのであって、それを言葉ではない感覚で理解しようとする時間が私には必要なのだ。しかし、言葉にしようとすると時間ばかりかかり消耗する。

最近はそうでもないが、私はよく遅刻ばかりした。どうやら言葉も遅延するようだ。なにからなにまで鈍くて遅くて、怠惰なものである。
また、言いたいことを表現しえていない。

未読日記314 「寡婦と香草」

2009-09-20 23:14:22 | 書物
タイトル:寡婦と香草
著者:福田尚代
印刷:緑陽社
発行日:2009年8月26日
初版 限定 100部 全72頁 文庫サイズ
内容:
美術家・福田尚代による新作の回文をまとめた文庫サイズの回文作品集。

頂いた日:2009年9月3日
著者の方より頂きました。ありがとうございます。
突然届けられた美しい書物に、見とれてしまった。

 回文とは、上から読んでも、下から読んでも同じ文章になること。福田尚代は、書物をモチーフとした作品で知られるが、回文による作品も発表しており、これまでも数冊、回文集を発行している。だが、書物の内容としては、回文という形式にとらわれずに読むことが可能である。むしろ、回文における遊戯性や技術的なクオリティにばかり気をひくと、書物を読むという行為自体が浅薄な経験となってしまうので、回文ということは一先ず忘れ、一冊の書物として、一つの文章、言葉と向き合いたい。

 福田氏の作品集を読むと、これは美術家にしか書けない文章だと感じてしまう。誰でも文章は書けるし、システム的な回文ならば誰でもできると思われるかもしれない。だが、システムを踏襲することと、回文にポエジーを表すことは別の話である。加えて、これまで回文の大家という人がいるのか、私の少ない知識ではわからないが、これほど回文という形式で美しい文章を紡ぎだす作家を私は知らない。
 
 最後に本書の造本もこれまでの書物と同じようにすばらしい。表紙のグレー(やや水色っぽくもある)の上に白の帯がつけられ、さらに全体にトレーシングペーパーによるカバーがかけられる。すると、それらが層となり、柔らかい佇まいを見せるのだ。さらに、文字のフォント、紙質にいたるまで、細部まで美しい紙上空間が広がり、読者を回文の世界へと引き込む。


Recording Words 028

2009-09-18 21:55:04 | ことば
 ある作品がどうして、どのように「いい作品である」と言えるのか? ということは、観客や読者の能動性を前提にして語る必要がある。観客や読者は「作品に考えてもらう人」ではなく、「作品と一緒に考える人」なのだ。
 「作品と一緒に考える」のであって、「作品について考える」のではない。

(保坂和志『小説の誕生』新潮社、2006年、p.326)

作品と一緒に考えてますか?

未見日記 「思想を生きる」

2009-09-17 21:12:54 | 書物
タイトル:吉本隆明語る 思想を生きる
聞き手:笠原芳光
デザイン:川名潤(pri graphics inc.
技術協力:104 coltd
制作・著作:京都精華大学
印刷・製本:グラフ株式会社
発行:2009年
内容:
京都精華大学創立40周年事業として、戦後を代表する思想家・詩人である吉本隆明氏のインタビュー映像を収録したDVD。吉本隆明氏が、笠原芳光(京都精華大学元学長/宗教思想史家)を聞き手に、自らの個人史を軸としながら、人生論や若者へのメッセージを語る。
収緑日時:2008年12月2日
収録場所:吉本隆明氏宅

テキスト「吉本隆明さんと京都精華大学」笠原芳光
吉本隆明、笠原芳光略歴
京都精華大学創立40周年事業
京都精華大学概要

入手日:2009年8月28日
たまたま京都精華大学のホームページを見たところ、創立40周年事業として制作した吉本隆明氏のインタビューDVDを一般向けに5000部無料で進呈する記事があった。これはぜひ見たいと思い、応募して届いたのが本DVDである。京都精華とは縁もゆかりもないが、欲しいものは欲しい。
例によってまだ未見だが、見るのを楽しみにしている。それにしても、このような企画を実現してしまう京都精華はユニークな大学である。それは、芸術系学部だけでなく人文学部も擁する大学だからこそできることなのだろう。
ちなみに、パッケージも凝っていて、段ボール製のDVDケースにソフトが収められている。

未読日記313 「TUNE/LABORATORIUM」

2009-09-15 23:53:03 | 美術
タイトル:少年少女科学クラブ 理科室の音楽、音楽室の理科
著作:少年少女科学クラブ、清澤暁子
まんが:谷本研
デザイン:見増貴生(page 10)、ATS(page 11-21)
印刷:株式会社Switch. tiff
発行:京都芸術センター
発行日:2009年
内容:
京都芸術センターにて開催された<少年少女科学クラブ 理科室の音楽、音楽室の理科>(2009年8月4日―8月30日)の展覧会カタログ。

テキスト「記憶の中の科学者たち」清澤暁子(京都芸術センター)
まんが「少年少女科学クラブのひみつ」谷本研
Works
まんが「少年少女科学クラブのひみつ2」谷本研
Biography
*ルーペ付き

入手日:2009年8月23日
入手場所:京都芸術センター
実に小さい豆本サイズのカタログ。そのためにルーペまで付いているのだから、芸が細かい。また、このような遊び(ノリ?)が関西圏らしくてうれしい。
 さて、肝心の作品だが、理科室や音楽室になんの郷愁も持たない身としては、そこに展示されている作品が理科的な装置であるということはわかるものの、その雰囲気だけでは楽しめきれず、手持無沙汰な内容であった。もう少し説明や作品に近づく取っ掛かりがあると理解しやすいと思うのだが、かといって説明的すぎると美術作品としてのおもしろさが半減してしまう。もっとも「少年少女科学クラブ」という名前なのだから、そのような少年少女が楽しめればいいのかもしれない。所詮、私は文系で、もう大人である、などと僻んでもしょうがないか・・。