A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

memorandum 070 つらく苦しいこと

2012-05-28 23:15:03 | ことば
 つらく苦しいことを受け入れること。受け入れたことがつらさにはね返って、つらさを減らすというのではいけない。そうでないと、受け入れるということの力と純粋さが、それに応じて減ってしまう。というのも、受け入れの目的は、つらく苦しいことをつらく苦しいこととして受けとるのであって、それ以外のことではない。――イワン・カラマーゾフにならって、言うこと。ただひとりの子どものただ一滴の涙をもつぐなうにたるものは何ひとつないと。それにもかかわらず、あらゆる涙を、そして涙よりもはるかにまさった無数のおそろしい事柄を受け入れること。これらの事柄には、なにかしらつぐないになるものが含まれているからというので受け入れるのでなく、その事柄自体を受け入れること。それらは存在するからというだけで、それらが存在することを認めること。
シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵―シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄 (ちくま学芸文庫)』田辺保訳、筑摩書房、1995年、pp135-136。

つらく苦しいのはいやだが、ただただ受け入れるしかない・・・。

memorandum 069 よろしくないこと

2012-05-26 23:32:12 | ことば
 いつまでもよろしくないことばかりに想像を走らせているのは、一種の卑怯さというものである。人は、ありもせぬものをもって楽しみとし、知識を得、成長して行くのである。
 ある種の事柄が可能であるかもしれないとみなして、しばらく想像をはせてみることも(それだけなら、その事柄の可能性を明確に把握することとは全然別である。実は、徳のためにはこのことはぜひなされるべきことであるが)、はや引きこまれているのである。好奇心がその原因である。ある種の考えをしりぞけること(そういう考えをいだくのをやめるのではなく、いつまでもそういう考えにとらわれているのをやめるのである)。考えこんではいけないのである。考えるだけで引きこまれることもあるまいと人は信じているが、実は考えることだけが引きこむのだ。思考の気ままさの中には、あらゆる気ままさが含まれている。考えこまないことが、最高の能力である。純粋さ、消極的な徳。よくないことに想像力をいつまでも走らせていたあとで、このことを言葉と行動によって具体的に実践している人々に出会い、その人々が身をもって社会的な障壁をものり越えているさまに接するならば、まずはもう望みはない。そしてこれほど容易に起こりうることはないのだ。どこにも、ちがう点はないではないか。溝が見えたと思ったら、もうとび越えてしまっていたというわけだ。善の場合は、まったく逆である。溝は、とび越えねばならぬとき、根こぎにされ、引き裂かれているときには、ありありと見えているのだ。人は、善の中へは落ちない。「低さ」という語が、この悪の特性をよく表現している。

シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵―シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄 (ちくま学芸文庫)』田辺保訳、筑摩書房、1995年、pp129-130。

考えることではなく、考えこむことをやめたい。

未読日記611 『井田照一の版画』

2012-05-24 23:58:32 | 書物
タイトル:井田照一の版画
並列書名:Shoichi Ida, Prints : in the collection of the National Museum of Modern Art, Kyoto
シリーズ名:京都国立近代美術館所蔵品目録/ 京都国立近代美術館編 ; 10
編集:池澤茉莉、川井遊木、河本信治、永田絵里、牧口千夏
英文統括:永田絵里
ブックデザイン:西岡勉
発行:京都国立近代美術館
発行日:2012年5月12日
形態:203p : 挿図 ; 30.5cm
注記:展覧会カタログ
   会期・会場: 2012年5月22日(火)-6月24日(日):京都国立近代美術館
   展覧会名: 井田照一の版画
目次:
はじめに
「『京都国立近代美術館所蔵品目録Ⅹ井田照一の版画』への若干の脚註」河本信治
「私と版画制作との出会い」井田照一
「試論 井田照一の実践」木村秀樹
図版
[再録1]
「版画の新世代 井田照一」乾由明
「井田照一――イメージのしりとり遊び」中原佑介
「新世代の版画家・井田照一」高橋亨
[再録2]
「戦後版画30年目の危機」川合昭三
「「版画」の歩み」舞原克典
「白けた衝撃 ルネ・マグリット」井田照一
「MAXI GRAPHICA 版画という謎」木村秀樹
[資料編]
主要展覧会歴・受賞歴
略年譜(英)
主要参考文献
国内外所蔵先一覧
国外パブリック・コレクション所蔵作品詳細
索引

頂いた日:2012年5月21日
 職場にて頂いた1冊。図版と資料の量が半端ない・・。すごい。
 ちなみに、表紙・裏表紙は実物を見ないとわかりにくいが、中央に小さな穴があいている。

memorandum 068 友情

2012-05-23 23:28:50 | ことば
 自分自身の目に自分を明瞭にうつし出してみるよりも前に、人から理解されたいと望むのはあやまりである。それは、友情の中に、楽しみを、それも受けるねうちのない楽しみを求めることである。それは、愛よりも何かしらもっと腐敗堕落させるものとなる。あなたは、友情のためにたましいを売り渡そうとするのか。
 友情を、というよりも、友情についての夢想を、きっぱりとはねのけるすべを学ぼう。友情を望むのは、非常なあやまりである。友情は、芸術や人生がもたらしてくれるよろこびと同じ、価なしに与えられるよろこびでなくてはならない。そういう友情を受けるねうちのある者となるために、友情を拒否しなくてはならない。友情は、恩寵の次元に属するものなのだ(「神よ、わたしから遠く離れてください……」)。友情は、余分として与えられるもののひとつなのだ。友情についてのすべての夢想は、うち砕かれるにあたいする。あなたがいまだかつて愛されることがなかったのは、偶然ではないのだ……孤独をのがれたいと望むのは、卑劣である。友情は求められるものではなく、夢見られるものではなく、望まれるものではない。友情は、行われるものだ(それは、徳のひとつだ)。不純で錯乱した、こういう余計な感情はすべて捨て去ろう。もう、これが切りだ。
 それとも、むしろ、(あまり厳格に自分の内部にあるものを削り落としてしまってもいけないから)友情において、実際に互いによい影響を及ぼしあうといったことができないものがあれば、それをそっくり全部とりあげて反省し熟慮してみなければならない。友情というわたしたちに力づけを与えてくれる徳を、なしにすませるのは、もったいないことである。絶対にゆるされないのは、感情面での享楽にふけることである。これこそ、腐敗である。そればかりか、音楽や絵画をめぐってたわいのない空想にふけるのと同じ愚かなことである。友情は、美と同じく、実在から切り離されてはならないものなのだ。友情は、美と同じく、奇跡といっていいものだ。そして、その奇跡とはただ友情が存在するという事実が、そうなのだ。二十五歳にもなれば、もう青春時代とはきっぱり別れを告げてもいい時期だ……

シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵―シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄 (ちくま学芸文庫)』田辺保訳、筑摩書房、1995年、pp113-114。

未読日記610 『10+1 No.12』

2012-05-22 23:08:32 | 書物
タイトル:10+1 No.12 特集=東京新論
編集協力 若林幹夫
編集制作:メディア・デザイン研究所
造本/デザイン:松田行正、河原田智
10+1タイトルロゴ:鈴木一誌
本文タイトル英訳:宮エリース水田リピット
発行:INAX出版
形態:B5判変型(227mm×182mm) 並製 224頁
内容
連載
「知の空間=空間の知……8 スペクタクルとしての動物 動物園というイデオロギー装置」松浦寿輝
「非都市の存在論……8 暗号的民主主義 ジェファソンの遺産」田中純
「建築の言説、都市の言説 8 隠喩としてのテクスト 多木浩二の病理的ゲーム」大島哲蔵
「建築とイマージュ 8 舞台について 2 夢の異質性」松岡新一郎
「ビルディング・タイプの解剖学 8 教育と学校 2 クエーカー教と近代施設」五十嵐太郎+大川信行
「情報空間の地理学 8 「接続」でなく「切断」を グローバライゼーションと知識の生産の一元化に抗して」毛利嘉孝
「住居の視点、住居の死角 7 <郊外>は都市の縁側空間ではない 「団地化」「コンビニ化」が引き出した位相」米沢慧
「コンビニ」宮本隆司

特集 東京新論
[対談]「東京あるいは都市の地層を測量する  ポスト「東京スピード」の都市をめぐって」内田隆三+若林幹夫
[批評]
「他者が欲望する黒船都市、トーキョー ねじれたトポロジーの表出」五十嵐太郎
「ラブコメ都市東京 マンガが描く現代の<華の都>」森川嘉一郎
「東京コメディー、あるいは「写真都市」の亡霊 荒木経惟の私東京」八角聡仁
「東京/都市/運動」ヨルグ・ライナー・ネニッグ  松畑強 訳
「電化時空 フラット・スペース」クリストファー・クナーベ  松畑強 訳
「腐敗する湿原都市 <昭和>の死と東京」田中純
「東京はいまいかに記述されるべきなのか? 「ポリス」の概念を中心とした都市論の試み」毛利嘉孝
「近代都市空間と公衆衛生 序論 後藤新平の衛生思想の臨界点へ」加藤茂生
「東京論の断層 「見えない都市」の十有余年」中筋直哉

[論考]
「新しい地理学の誕生 フランスにおける」ジャック・レヴィ  大内和子 訳
「ユニヴァーサル・スペースの起源 ミース・ファン・デル・ローエvsハンナ・アーレント」八束はじめ
「東京ディズニーランドの神話学……4 ディズニーランドという「日本文化」」桂英史
「時間の都市 空間の都市 時空の「現在」のエコノミー」若林幹夫

購入日:2012年5月20日
購入店:駒鳥文庫
購入理由:
 先のイベント「約50人の本棚展」にて購入した1冊。