大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

乃木坂学院高校演劇部物語・97『発覚!』

2020-01-15 06:14:55 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・97   



『発覚!』

 
「……じつはね、僕は幽霊なんだ」

 乃木坂さんが、もったいつけて言っても二人はキョトンとしている。
「いや……だからね」
 乃木坂さんが、壁をすり抜けても。
「オオ~!」
 乃木坂さんの、奥の手で、周りを一瞬で春にしちゃっても。
「ウワア~!」
 いちおう驚くんだけども、幽霊さんに対する礼を欠いているというか、完全にミーハー。なんだか、マジックショーのノリになってしまった。
「喜んでくれるのは嬉しいけども、なんかね……」
 乃木坂さんは、頭をかいた。
「カッワイ~!」
 と、夏鈴。
「これで稽古中の、まどかの不信な言動のわけが分かった」
 と、大納得の里沙。
「そうだ、トラックから材木降ろさなきゃ。乃木坂さん手伝って!」
 わたしまで、あたりまえのように言っちゃった。

 材木運びじゃ、乃木坂さんの取り合いになった。だって乃木坂さんが見えるのは、わたしたち三人だけ。材木屋のオニイチャンも手伝ってくれるかなあと期待したんだけど、次の配達があるんで荷下ろしだけ。
 三人で運ぶと何往復もしなくちゃならない。かといって、乃木坂さんが一人で運んじゃ、材木の空中浮遊になって大騒ぎになっちゃう。 で、乃木坂さんは介添え役。で、乃木坂さんに介添えしてもらうとチョーラクチン。で、取り合いになるわけ。

 運び終わると、制服のあちこちに木くず。
「やだあ、冬休みにクリ-ニングしたとこなのに」
「じゃ、これはサービス」
 乃木坂さんが指を鳴らすと、ハラハラと木くずが落ちていく。
「わあー、きれいになった。コーヒーの染みまで落ちてる!」
 わたしは素直に喜んだんだけど、夏鈴がセコイことを言う。
「ねえ、こんなことができるんだったら、平台とかもチョイチョイと……」
「ばか、それじゃ訓練にならないでしょうが、訓練に」
「自衛隊でも習ったでしょうが、敢闘精神よ、敢闘!」
 三バカのやりとりをにこやかに聞いていた乃木坂さんは、暖かく言った。
「普通には手伝うよ。木を切ったり、釘を打ったり」
 
 それから、タヨリナ三人組と幽霊さんとの共同作業が始まった。
 
 ジャージに着替えるときに、夏鈴が聞いた。
「ひょっとして、着替えるとこなんか見てなかったでしょうね?」
「ないない、最初のは事故だったけど」
「最初のって、なによ?」
 やっぱ、花柄は見られていたんだ……もういいけどね。

 男手が入ると、作業効率が違う。ためしに三六(さぶろく)の平台一枚だけ作るつもりだったけど、一時間で三枚もできた。
 その作業の間、わたし達はしゃべりっぱなし。女を三つくっつけたら姦しい(かしましい)だもんね。って、これは乃木坂さんの感想。さすが旧制中学。
 でも、こうやってしゃべっていると、里沙や夏鈴に乃木坂さんが見えるようになったのが、理屈抜きで分かってくる。わたし達も、乃木坂さんも同世代だし、同じ演劇部。それに自衛隊の体験入隊も新学期に入ってからの稽古もずっといっしょだった。同じ空気を吸い……これひゆ比喩だからね。乃木坂さんは空気は吸いません。解説がつまらない? スイマセン。で、同じ感動を感じて、互いに近しくなってきたからなのよね。
 
 でも、これが思いもかけない結果になるとは……だれも想像できませんでした。

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