大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・新 時かける少女・5〈那覇中央高校〉

2019-05-11 05:55:27 | 時かける少女
新 かける少女・5 
〈那覇中央高校〉


 
 沖縄に越してからの一カ月は、あっという間に過ぎた。

 官舎は、今度の南西方面遊撃特化連隊の創設に合わせて作られた新築で、新しいというだけで嬉しくなった。ただ、長崎に居るときとは違って、官舎なので他の隊員の人と同じく3LDK。まあ、お父さんは連隊長で、ほとんど石垣島に貼り付きなので、うちの家族は、お母さんと弟の三人家族のようなものだったので、そう手狭には感じない。

 フェリーでの出来事は、今では夢か現実か分からなくなっていた。運転手さんや助手の宇土さんが代わったのは会社の都合で、いっしょにフェリーに乗っていた他の隊員さんのところでも似たようなものだった。唯一の物理的な証拠であるお守り袋の穴も、官舎に入ったころには塞がっていた。で、忙しさもあって、あたしはほとんど忘れかけていた。

 いや、忘れようとしていた。あたしが総理大臣の隠し子……ぶっとんだ話だけど、心に刺さっている。

 学校は、那覇中央高校への転入になった。

 隊員の家族には、二十人ほどの高校生がいたけど、学力に応じて中央高校と東高校に振り分けられた。それ以外の高校に行った者はいない。中学と小学校、幼稚園は、みんな同じところにいれられた。みんな同じ官舎にいるんだから、当たり前のように思えたけど、セキュリティーの問題があると、高校生ぐらいになると分かっていた。南西方面遊撃特化連隊というのは、それほど日本の安全保障には重要な部隊なんだ。

「ゲ、体重計に目隠しがない!」

 発育測定で、ぶったまげた。
 
 今まで行った学校では、発育測定の時は測定する先生の側だけ見えるようになっていて、本人にも周りのクラスメートにも見えないようになっていた。ところが、中央高校では平気で一般公開だ。
 
「みーかー、また増えてるよ!」
「あーねー変わらんねえ!」
 
 などとやっている。ちなみに「みーかー」は美加のこと「アーネー」は茜のこと。名前の呼び方が独特。
 
「へえ、あーいーは50キロ。やっぱウチナンチューの子はスマートやね!」
 
 測定の先生までが、平気で言う。でも、小林じゃなく、みんなと同じように「あーいー」と呼ばれるのは嬉しい。
 
「エリーは、食うとるんか?」
 
 あたしの次の、比嘉恵里が言われている。恵里は漢字で書くと「恵里」だけど、読みは「エリー」だ。
 他の子が、方言で「みーかー」や「あーねー」になっているようなんじゃなくて、元々の読みがエリーなのだ。いわゆるハーフで、お父さんがアメリカ人。ビックリするほど可愛いんだけど、本人も周りも全然意識していない。で、出席番号が隣りなんで、すぐに仲良しになってしまった。
 
 ちなみに、エリーは大食いだ。何度も学校の帰りにファストフードの店になんかいくけど、あたしがMのところなら、LとかLLとかを食べている。
 
「いいねえ、エリーは太らなくて」
「ハハ、お父さんなんか『エリーはフィシーズメーカー』だって言うよ」
「フィ……なにそれ?」
「ウンコ製造機!」
 
 さすがに、店の人まで笑ったが、あくまでも明るい。本人もハンバーガーを持ったまま大口で笑っている。

 あたしは、この明るさが大好きになった。

 笑いながらお店を出ると、曲がり角からバイクがやってきて、危うく跳ねられそうになった。エリーは一瞬早く気づいて、あたしを抱えて地面を転がった。

「しなさりんど!」

 エリーは、バイクのアンチャンに悪態をついた。アンチャンは一瞬ムッとしたが、直ぐに照れた顔で、こう言った。
 
「ガチマヤーのエリーには、かなわんね!」
 
 で、二人は大笑いしておしまい。
 
「あの、今の翻訳してくれる?」
「あ、『しなりさりんど!』は『シバキ倒すぞ!』で『ガチマヤー』ってのは『大飯食い』てな意味」
 
 そう説明をうけたころ、周囲はごく当たり前の日常に戻っていた。

 那覇中央高校での生活は、驚きと発見のうちに楽しく始まった。




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