大橋むつおのブログ

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真凡プレジデント・30《帰りの地下鉄 なつきのヨダレ》

2021-03-23 06:11:15 | 小説3

レジデント・30

《帰りの地下鉄 なつきのヨダレ》  

 

 ちょっと考えている。

 だって、部長会議が行われた社会科教室を出て校舎の一階まで下りると、伊達さん、あ、二の丸の生徒会長は伊達さんと言う。

 最初に挨拶した時に言ってくれていたんだけど、わたしもなつきも飛んでしまっていた。「あ、どうも、わたし生徒会長の田中真凡です。こちらは会計の橘なつきです……」と、挨拶はしたんだけど、初めての学校訪問、すっかり抜けていた。

 一階まで下りた時に、集まっていた部活の代表さんたちが――伊達さん――と呼んでいたので再認識。

 で、考えたというのは、みなさんの反応。

 

 みなさん、カックンにならなかった。

 

 前にも言ったけど、わたしの印象の薄さというのは、ちょっと筆舌に尽くしがたい。

 暗闇を下校中、後ろから変質者が付いて来て、これは襲われる!

 そう感じた瞬間振り返ったら、変質者は、とっても落胆した顔になって、そのまま通り過ぎて行ってしまった。

 部活に入りたいんで入部願いに担任のハンコをもらいに行ったら「それは担任に貰いに行きなさい」と言われ、「えと、先生が担任なんですけど……」。そうしたら、たいてい「あ、そうだった、ごめんごめん」なるじゃない。それが――こんなやついたかなあ?――という顔になる。

 それぐらい、印象が薄くて残念な人なんだ、わたしは。

 それが、二の丸の人たちは明るい笑顔で出迎えてくれて、そのまま中庭の藤棚の下で交流会になった。

「とっても、楽しかったねえ(^▽^)/」

 帰り道、地下鉄に乗ってもなつきは「楽しかったね!」を繰り返している。

 なつきも、いろいろ質問をされたりしたり、好意的な雰囲気にニコニコしている。中学のころのなつきはワルグループに入っていたので、肯定的な雰囲気の中で話ができたことが嬉しいんだ。

 わたしは思った。

 これは、伊達さんが、事前に友好的な情報をみんなに流して、あえて顔の見えない写真でみんなの興味をマックスまで高めてくれていたことにあると思う。プレジデントとしての有りようが違うんだとしみじみ思った。

 なつきは次の駅に着くころには、わたしの肩にもたれて居ねむりし始めた。

 その油断しきって口から涎を垂らしながらの寝息が嬉しい。友だちなんだなあ、生徒会に引き込んだことも間違ってなかったんだ……しみじみ嬉しくなる。

 でも、制服に涎を垂らされてはかなわないので次の駅では腋の下をくすぐって起こしてやる。

「ウキャ! ウキャキャキャ!」

 猿みたいな声を上げて目をパチクリ。

 最初の学校訪問は楽しく有意義に、かつ無事に終わった。

 

 だけど、そのあくる日、なつきに関するとんでもない問題が持ち上がってしまうことには思い至らなかった。

 

☆ 主な登場人物

  •  田中 真凡(生徒会長)  ブスでも美人でもなく、人の印象に残らないことを密かに気にしている高校二年生
  •  福島 みずき(副会長)  真凡たちの一組とは反対の位置にある六組
  •  橘 なつき(会計)     入学以来の友だち、勉強は苦手だが真凡のことは大好き 
  •  北白川 綾乃(書記)   モテカワ美少女の同級生 
  •  田中 美樹         真凡の姉、東大卒で美人の誉れも高き女子アナだったが三月で退職、家でゴロゴロしている。
  •  柳沢 琢磨         対立候補だった ちょっとサイコパス 
  •  橘 健二           なつきの弟
  •  藤田先生          定年間近の生徒会顧問
  •  中谷先生          若い生徒会顧問

 

 

 


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