大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・志忠屋繁盛記・2『志忠屋亭主の正体』

2012-10-24 08:21:18 | 志忠屋繁盛記
志忠屋繁盛記・2
『志忠屋亭主の正体』




 地下鉄の階段出口をぬけると、そこは雪国であった。

 突然の夕立であったことも、大雨であったことも、常夏の日差しであったことも、頬なでる風に秋を感じたこともあった。
 それくらい、わたしは通っている。通い詰めるという程ではない。月に一度ぐらいのものである。
 大阪の人でないと分からないが、わたしは上六の日赤病院の帰りに、志忠屋に寄る。ランチタイムのピークを避けるため、上六の近鉄百貨店の書籍売り場で小一時間あまり時間をつぶしてからいく。
 地下鉄は谷町線で、近鉄百貨店の地下二階から、そのまま地下通路を三百メートルほど歩き、谷町線のホ-ムにいたる。そこから、四つ目の駅が南森町である。その間地上に出ることがない。時間にして二時間ほど、わたしは、地上の世界とは無縁で志忠屋にたどり着くのである。

 で、地下鉄の階段出口をぬけると、そこは雪国であった……ということになる。

 地下鉄の階段出口はMS銀行の一階の一部に食い込み、向かいの歩道から見ると、銀行のドテッパラに開いた口から、人が吸い込まれたり、吐き出されたりするように見える。一度、このことに気づいてしまうと、上六の光景の落差もあり、なんだか自分がお伽の国の人間であるような錯覚におちいる。
 出口を出て右に折れると、直ぐ横が交番である。たいして大きな交番ではないが、いつもお巡りさんが二人ほどのどかに、収まっていらっしゃる。東京のように、交番の前に後ろで組んで、帽子を目深に被り、四方に目を配りながら立っている威圧感はない。どうかするとお茶をすすりながら日報のようなものを書いていたり、道に迷った人に丁寧にハンナリと地図示しながら教えていたりする。
 そののどかな交番の角を曲がるとMS銀行の裏口になっていて、その北側にある四階建てビル。
「ビルというほどのもんじゃありませんよ」
 と、ビル自身が頭を掻いているように見えるほどささやかなビルの一階に、その愛すべき志忠屋がある。
 施行途中までは、駐車場のスペースになるはずであったが、たった二台ほどの車しか入らないような、それにするよりも、堂々とビルの一階部分としてテナントとして入れたほうがニギヤカシになるとオーナーが判断し、建設途中に店舗スペースとなり、四半世紀前に志忠屋が開店した。

 その、かわいい客席十五席ほどの店の亭主が、我が悪友・滝川浩一である。
 
 高校生の頃は、アメフトのマッチョでありながら、高校生集会のウルサガタであるという、当時流行の心情左翼的な面もあり、大阪の高校演劇では、わたしとは異なり、反主流派で、コンクールにはめったに参加しないが、コンクールには顔を出し、ハンパな審査などには遠慮無く噛みついていたりした。で、同時に地元八尾のアンチャンたちの兄貴分的な存在でもあり、家の宗旨であるカトリックの……信者には、いまだになってはいないが、なにくれとなく教会行事の手伝いもやるという可愛げもあった。
 
 高校二年の時に恋をした。一人前に……いや、十人前ほどの。
 駆け落ちを覚悟し、学校を長欠して、万博の工事現場で目一杯働き、百万あまり稼いだ。
 しかし、その恋がゴワサン(この男の場合、破局とか、恋に破れてなどという生っちょろい言葉は似合わない)になると、大阪の北新地で三日で使い切ってしまうという豪快さであった。

 この滝川浩一(以下タキさん)について書き出すときりがない。
 あと一点、人並み外れた読書家であり、映画ファンであるとだけ記しておく。志忠屋の亭主のかたわら、映画評論でも、名を成している。
 下手な描写より、彼の映画評論をサンプルに挙げた方が早い。

タキさんの押しつけ映画評
『アウトレイジ・ビヨンド』


 これは、悪友の映画評論家滝川浩一が、身内仲間に個人的に送っている映画評ですが、もったいないので本人の了承を得てアップロードしたものです。


 なんだ 馬鹿やろう! 今時のヤクザが こんな単純な訳ゃねえだろが。
 
 それに いきなり出てくる外国人フィクサーってな何なんだよぉ。大友(たけし)がなんぼか自由に動ける言い訳じゃねぇか。片岡(小日向)が知らねえってのはおかしいじゃねぇか。大体が中途半端なんだ。
 何さらしとんじゃ ボケィ!
 脚本も演出も たけしが一人でやっとるんじゃ、こんなもんで上等やろがい! それより、関西の会が「花菱会」っちゅう名前なんはどないやねん! アチャコかっちゅうんじゃ ボケィ!……。
 
 と言う、まぁ、お話でござりました。役者さんは気持ち良さそうに、実にノビノビと演ってはります。特に西田敏行なんてなアドリブ連発、一番気持ちよさそうに演ってはります。
 ある意味、どうしようもない閉塞状況にある日本のガス抜きを狙ったギャグ映画とも言えそうですが、残念ながら半歩足らずです。
 ギャグとリアルのギリギリラインを狙ったんでしょうが、結局 前作と同じように役者の力で助けられてはいるものの設定が甘すぎて、ストーリーテリングもご都合主義。
 バンバン殺される割には陰惨なイメージにならないのだが、もう少し説得力が欲しい。ここまで見え見えで警察が動かないはずが無い。アイデアとしては面白い(但、使い古しやけどね)、後は発展のさせかたでもっと面白くなるはず…少々残念、原案たけしで脚本は切り離した方が絶対良かった。 ただ、今回 大友の悲しみが表現されており、前作に比べてこの点は評価出来る。
 結局、何をどう足掻こうともヤクザの泥沼から抜けられない大友の姿を描けなければ本作の意味は無い訳で、さて それをリアルバイオレンスに仕立てたとのたまうが…それこそ悲しいかな コメディアンたけしの魂はどこかで笑いに繋げてしまう。
 問題はたけし自身にその自覚が無い事なんだと思う。それにしても、石原(加瀬亮)の処刑シーンには大笑いしそうになった。最高のブラックギャグでした。

 
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