大橋むつおのブログ

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大阪放送劇団・月の上の夜

2012-06-09 19:54:09 | 評論
大阪放送劇団・月の上の夜

作:渡辺えり 演出:端田宏三

☆一風変わったレクイエム
 明治後半の生まれであろう……ということは、主人公は百歳を超えてしまうが、この作品は1980年代の後半に書かれた芝居なので仕方がない。
 この年代の女性は、竹久夢二に代表される大正ロマンの中で思春期、青年期を過ごし、我が子を多く戦争で失い、戦後は帰らぬ夫を待ち、戦後復興の礎となってきた人たち。作者の祖母の世代にあたるであろう。
 そういう女性達への、一風変わった、そして、見事なレクイエムであると思うのだが、的はずれであろうか。
 山形に生まれた主人公時子は、臨終にさいして、現実と夢の間を行き来する。乙女が乙女に恋する『花物語』(吉屋信子・作)を下敷に、現実と夢とを交錯させながら、このレクイエムは展開していく。
 軽井沢に女学生姿のバラ子とユリ子との三人でピクニックをするところから、この芝居は始まる。そして、病室、バラ子の別荘。現実に父が管理人をしている別荘などと、何度も、夢と現実の間を行ったり来たり。
 現実の時子は、幼くして家を出され、学校も満足に行けず、別荘のお嬢さんからもらった『花物語』の中のお姫さまに恋してしまう。このお姫さまは、時子が湖底で眠りにつくことによって、目覚めることができる。
 何度かの暗示のあとに、ラストで、時子の死によって、お姫さまが蘇り、一際大きなお月様に収まるところなど圧巻に……したかったんだろうな。と思った。
 思ったというのは、ラストが明確なカタルシスになりきらず、観客は「え……ラストシーン?」とシーンとし、一瞬の間があって拍手が来た。
 これは、観客にシグナルとしての芝居は通じたが、共感しながら、のめり込むところまで芝居が完成していないせいであろうと思った。

☆笑い三年、泣き八年
 などと、役者の世界では言うが、この芝居は、軽井沢の花畑から始まる。緞帳は開きっぱなしで始まる。
 なにやら、チューリップがカミシモ二列に並んで、祭壇のようにしか見えなかったが、芝居が始まって二三分で、お花畑であることが分かる。

 で、この芝居は、無人のまま始まるが、始まってすぐにバラ子とユリ子の陰の笑い声がする。この笑い声で、役者は、観客を夢の世界に連れて行かなければならない。
 で、この笑い声が冷めている。プロの方を相手に口幅ったいが、きちんと笑えていない。登場したバラ子とユリ子の目が輝いていない。役としてエンジンが暖まらないうちに出てきてしまった……と、思った。
 しかし、お芝居全編で役者が、おおかた冷めている。
 台詞も、相手に届いていないので、注意しないと、舞台で行われていることが分からなくなってしまう。芝居とは分からせるものでは無く、感じさせるものである。僭越ではあるが、役者として、今少しのご精進をと思った。
 劇中に出てくる山形弁は、作者のソウルでもあり、演技的にもいいアクセントになるが、惜しくも、この山形弁が、もう一つ。
 主役の時子は好演ではあったが、歌とダンスになると、少し苦しい。
立ち回りが何度かあったが、もう少しきちんと殺陣をやってもらいたかった。茂男が「刀反対だけど」と、刀を収める役者に言うが、トチリのカバーなのかギャグなのかよく分からない。トチリのカバーなら秀逸な出来。
 劇団新感線などと比べると、夢としての芝居が弱い。もっと強引に観客を夢の世界にたたき込んでもらいたかった。夢の入り口までは連れて行ってもらえた。

☆一文字のアール・ヌーヴォー
 席に着いたときから気になっていたのだが、ホリ前の一文字幕が唐破風のように湾曲していた。ホリに月が照らされて分かった。文字幕に月がかかってしまうので、中央を引き上げてある。それがアール・ヌーヴォー風の味わいになり、舞台をキレイに縁取って、ラストシーンなどでは、非常に効果的であった。

☆この芝居に取り組んだすばらしさ
 こういう戦争体験者の世代の人生や死をとりあつかうと、なんとも陰惨、場合によっては思想的な背景を感じてイヤミなものであるが、渡辺えりという人は、それをファンタジーと笑いと、早変わり、殺陣、歌などを入れることで、エンタメにした。その点は、演出も役者も十分に理解している。好感の持てる取り組みで、観劇後、爽やかな感じで、劇場を後にできた。いっそう精進され、再演されることを期待!

☆個人的希望
 希望なので、言葉をあらためます。インジの『ピクニック』を演っていただけないでしょうか。昔、五期会が、旗揚げで好演されました。あの、人生、人間を大きく、肯定的に表現した「生きててよかった!」と感じられる芝居を、放送劇団の中堅、ベテランの方を交えて見てみたいと思いました。
 泉希衣子さんと、平口泰司さんのコンビで『にんじん』……ちょっと古いでしょうか?
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