大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・『夏のおわり・2』

2018-05-19 06:54:27 | 小説4

ライトノベルセレクト№103
のおわり・2』
      


 朝起きたら、リビングのエアコンが入っていなかった。いよいよ夏の終わりか!?

「今日二三日だけよ。週末は、また夏が戻ってくるわ」
 朝ご飯を用意しながら、お母さんが言う。
「そ、そうだよね。夏はまだまだだよね」
「そうさね、昔は、盆過ぎにはトンボが飛び始めて、朝晩は秋って感じがしたもんだけどね。今の夏はしぶといよ」
 婆ちゃんが、なんの気なしに、「しぶとい」とこは、あたしを見て言った。

 婆ちゃんは、十年前まで高校で先生をやっていた。だけど、あたしの成績に文句を言ったことがない。

「成績が多少よくてもね、大人になっちまえば……アハハ、あたしもグチっぽくなってきたね。夏、五分遅れてるよ」
「うん、大丈夫。かっとびで行くから……」
 あたしは、急いで朝ご飯をかっ込み、カバンをもった。
「夏、朝のウンコは?」
 婆ちゃん、言葉にはデリカシーがない。
「タイムスケジュールを変えたの。そういうのは帰ってから!」
「肌荒れのもとだよ……」
 婆ちゃんの最後の言葉をドアで閉めきって、駅に急いだ。今なら当駅仕立ての準急に……間に合わなかった。

 電車の中は、東電の影響による節電、そして駅まで努力した結果による体温上昇で、蒸し風呂のよう。おまけに各駅停車。英語ではローカルって言うんだよな……なんて満員電車の中で押しくらまんじゅう。カーブのところで、みんなカーブの外側に押しつけられる。そのとき、後ろから思いっきり体を押しつけられた。一瞬「チカン!」と思った。でも、背中のあたりに膨らみを感じて、女の人なんだ、と安心。
 さらに急カーブになって、圧力が増す。後ろの女の人は、思わず前の窓枠に手を着いた。着いたその手は小ぶりだけども、直感的に(女じゃない!?)と思わせるものがあった。
「ごめん。後ろの圧力がすごいもんだから……!」
 その声には、聞き覚えがあった。あたしの勘に間違いがなければ、テレビで時々見るニューハーフのコイトだ。思わず振り返ると、紛れもないコイトちゃんの笑顔が間近にあった。
「ども……」

 あたしは、引きつった笑顔になった。

 あたしは、特段この手の人に偏見はない。と言って、こんなに密着するのも初めてだったけど……あたしは急にモヨオシテきた。きたって言ったら、アレよアレ、婆ちゃんが言ってた三文字!
 次の駅で降りたら、次の電車は15分後、完全に遅刻。おまけに一時間目は担任の渋谷の英語だ。学校最寄りの駅まで3駅。ダッシュでトイレに駆け込めば……間・に・合・う~!
 あと二駅というところで、手足に粟粒がたち、脂汗が流れてきた。なんとか気を紛らわさなきゃ。
 あたしは、追い越していく列車を見た。急行はエクスプレスという……特急は、リミテッドエクスプレス……回送はノット オン サービス。その時反対方向から準急。相対速度230キロですれ違ったが、ジュニアエクスプレスの字は、はっきり見えた。なかなかの動体視力だ。で、忍耐力だと自分でも感心した。

 やっと駅に着いた。あたしは人を押しのけて、リミテッドエクスプレスの勢いで、駅のトイレに向かった。
「失礼な子ね!」
 よく通るイトコちゃんの声が、後ろでしたが、かまってはいられない。

 運良く、トイレは一カ所空いていた……。

「吉田……吉田夏、吉田ア……!」
「は、はい!」
 後ろのドアからこそっと入ったあたしは、気を付けをして、返事をした。遅れたのは、あたし一人で、恥をかいた。
「いっそ、遅刻した方がすがすがしいな」
 加藤が、そう、あの加藤が、そう言って冷やかした。
「人には事情ってものがあるの!」

「今から、宿題テストをやる。ちゃんと宿題をやって来た者は楽勝。やらなかったものは……それなり」
 そう言って渋谷先生は、何人かの顔を見た。その中に、あたしが入っていたのは言うまでもない。

 ぜんぜん分からん……と、思ったら、いくつかの単語は分かった。

「夏もおわりだ……って、シャレじゃねえけど、夏、こんなんじゃ入れる大学ねえぞ」
「はい……」
「お婆ちゃんは、立派な先生、お母さんは学校でも指折りの優等生、で、娘がこれか? ちっとは、しっかりしろ」
 放課後、職員室で絞られた。
「でも、夏。宿題も提出してない、つまり、やってないお前に、なんでこの単語だけ書けたんだ?」

 その単語は、特急、急行、準急、回送、そして普通の三つだった。

 つづく


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