大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

坂の上のアリスー54ー『綾香ちゃんを預かる』

2020-04-18 16:43:19 | 不思議の国のアリス

アリスー54ー
『綾香ちゃんを預かる』(一子)    

 

 

 

 わたしの家に連れてきた。

 

 吉牛の前で話せることじゃないしね。

 まして、あんなに動揺している綾香ちゃんを置いていくこともできない。

 亮ちゃんに電話して迎えに来てもらうわけにもいかなさそうだし。

 

「じゃ、お祖母ちゃんがそう言ったのね?」

「う、うん。いっしょになって新垣の家を守れとかなんとか。家なんか、大人になったらどーでもいいし、そんなクソババアの遺言なんて関係ないっつーの!」

「そうなんだ、だったら、それでいいじゃん。だったら、無視して普通に生活してりゃいいじゃない」

「で、でもさ、気持ち悪いじゃん。法律上は結婚できる従兄が一つ屋根の下にいるなんて、あいつ、すけべで変態だからさ、どうなるか分かんないじゃん。あいつ、変な気起こして襲ってくるかもよ」

「亮ちゃんは、そんなことはしないと思うよ」

「そんなこと、言いきれないじゃん。たとえ、無くったって、もう無理! さっきまでは洗濯物別にするくらいでいけると思ってたけど。あたしのハートのキャパは、そんなに大きくない。吉牛の特盛だって無理だったんだから」

「牛丼はハートには入らないと思うよ」

「物の例えよ、胃袋に特盛は無理だし、ハートにあいつは無理なの!」

「そっか、じゃあ、仕方ないね……」

「ね、しばらくさ……お願い!」

「え、え、なに? 土下座なんかして?」

「しばらく、ここに、一子ちゃんの家に居させてくれないかなあ!?」

「え、あたしの家に?」

「ちょうど、洗濯グッズも買ったとこだし、ここに居るってなったら、あいつも安心だろうし。ね、一子ちゃん!?」

「あ……あ、うん。じゃ、しばらくはうちで預かるって、電話しとくね」

 

 亮ちゃんに電話するまでは、ちょっとだけ半信半疑だった。なにか誤解して思い詰めてるんじゃないかって……でも、電話に出た亮ちゃんは明るく応えていたけど、明るい分、深刻さが伝わって来る。

 

『あ、そうか。一子のとこだったら安心だな。要るものあったら、綾香に、いや、一子でもいいから取りに来てくれ。オレ、これから、もう一度婆さんとこ行ってくるから、来るときは綾香のカギ使ってくれ』

「亮ちゃんは大丈夫? お父さんお母さんには連絡とかした?」

『親は……親の事は、婆さんのとこから帰ってきたら話しするわ。わりいな、一子まで巻き込んじまって。ソレイユ……婆さんが入ってる施設のとこらへんは干し芋が名物だから、土産に買って来るな』

「お土産なんていいから、亮ちゃんも気を付けてね」

『ああ、吉牛の特盛食っていくわ。オレは完食すっから。じゃ、綾香のことよろしくな』

 

 詳しいことは言わない。きっと、目途が付かないことはうかつには言わないって決心なんだ。

 ちょっと可哀そうだけど、気丈に立ち向かっていこうとしている幼なじみが……ううん、なんでもないよ。

 時計を見たら、え? もう夕食の時間だ。

 わたしも、ちょっとアタフタしている。

 

♡主な登場人物♡

 新垣綾香      坂の上高校一年生 この春から兄の亮介と二人暮らし

 新垣亮介      坂の上高校二年生 この春から妹の綾香と二人暮らし

 夢里すぴか     坂の上高校一年生 綾香の友だち トマトジュースまみれで呼吸停止

 桜井 薫      坂の上高校の生活指導部長 ムクツケキおっさん

 唐沢悦子      エッチャン先生 亮介の担任 なにかと的外れで口やかましいセンセ 

 高階真治      亮介の親友

 北村一子      亮介の幼なじみ 

 

 

 


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