大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・上からアリコ(^&^)!その18『千尋には手を出さないで!』

2018-07-20 06:26:59 | 小説3

上からアリコ(^&^)!その18
『千尋には手を出さないで!』


「千尋には手を出さないで!」

「やっぱり図星ね、この子を新しい寄代(よりしろ)にしようとしていたのね」
「ちがう、わたしは千尋に思いを伝えたかっただけ」
「有子、あなたが食べた人魚の肉が不十分だったことは分かっているのよ。あれから千年……ようやく、あなたも、その効き目がなくなってきたのよね」
「もう疲れたの、この世の移ろいを見続けることに」
「なにを殊勝げに……有子、あなたは永遠の命と若さが欲しいために、人魚の肉を食べたんでしょうが。わたしが食べた人魚の肉は、ほんのひとかけら。百歳の齢に息絶え絶えのわたしに、安倍晴明がわたしにくれた気まぐれのほんのひとかけら」
「ウソをおっしゃい。あなたは清明さまに取りすがり、残りの干し肉も平らげた……で、わたしと同じ永遠の命をさずかった。ただし百歳の卒塔婆小町の姿で、そのために、ときおり若い精気を吸い取っては、小野小町と呼ばれたころの若さを取り戻し続けている。餓鬼道に墜ちた外道よ!」
「確かに、わたしは、人間の精気を吸い取っている。ただ堕落した者だけをね。そして、その人間のDNAを修正し、ほんの髪の毛一本から新しく正しい人間として再生させ、この日の本の国を護ってきた。久しくそれも控えてきたわ……この国の人間たちの力を信じてやろうとした。でも……このテイタラク。わたしは再びそれを始めたのよ。久しぶりだから犬から試してみたけどね、力は衰えてはいなかったわ」
「あなたのやっていることは、間違っている。DNAを修正して再生した人間は、姿形だけがもとのままで、中身はまったく別な者になっている。体のいい殺人よ」
「お黙り!」
 これらの会話は、平安時代の言葉でやりとりされたが、千尋には音声多重放送のように、現代語でも聞こえた。意識を集中している今(なんといっても、チマちゃんの姿をした小町に殺されかけているのだ)は、ほとんど副音声の現代語として聞こえていた。

 起伏に富んだ野原が、巨大な人の胸のように脈打ち始めた。

 この風景はアリコ先生とチマちゃんの姿をしたコイツの心理が相互作用してできてしまった心象風景なのかも……小町に踏みつけられながら、千尋は、そう感じた。上空や、透けて見える地面には、歴史の断片と、小町によって置き換えられた人たちの姿が明滅しながら、渦巻いていた。
「屁理屈は、そこまで。関根さんや、こんなに多くの人の精気を吸い取っておいて、なにが日の本の国を護るよ!」
 アリコ先生は背後に迫った卓真に気を飛ばした。卓真は悲鳴をあげて吹き飛んでいった、手にした刀といっしょに。刀はくるくると旋回し、卓真の胸をさし貫いた。断末魔の声は、またたくうちに遠のいていってしまった。
「なんとでも言うがいい。これから、この千尋の精気をいただく。もう、おまえに寄代は無くなる……」
「おやめなさい!」
 小町の口が、千尋の喉にくらいつこうとした、その時、ゴツンという音がして、チマちゃんの姿をした小町は横倒しになってしまった。
「千尋、早くそいつから離れるんだ!」
 そう叫んだのは、もう一つ向こうの高みに現れたオジイチャンだった。
「阿倍野君!?」
「恭子さん……わたしの投石の腕は落ちてはおらんようです。この火炎瓶でトドメを……」
「そんなことをしても!」
 アリコ先生が叫んだときには、火炎瓶は投げられ、見事に小町の足許で炸裂した。しかしその直前に小町は気を飛ばし、オジイチャンは、渦巻く旋風の中に吹き飛ばされ、姿が見えなくなった……小町は火だるまになってのたうち回った。そして……周りの風景が一変した。

 そこは、川の中州のようなところだった。
 
 両岸の河原には、ポツンポツンと火が見える……たき火だろうか、周りにはボロをまとった人たちが寄り添っているように見える。月明かりの下には見覚えのある山並み、お寺とおぼしき塔がいくつかシルエットになって見える。まるで大河ドラマの舞台のよう……?
「そう、京の都よ。千年ちょっと前の」
 そう答えたアリコ先生は、平安時代の女房装束をしていた。
「アリコ先生!?」
「とんだ時代まで引き戻されたものね……これが、わたしの元の姿。糺之宮親王(ただすのみやしんのう)さまにお仕えしていた女房よ。心配しないで、小町とのケリがついたら元の時代に戻るから。それと周りの人たちは気にしなくていい。わたしたちの姿は見えていないから」
 その時、川で大きな魚がはねた。それを目ざとく見つけたたき火の中の男が一人たき火を松明に、もう一人が尖った棒を持って、川の中に入ってきた。千尋は自分のところに来るような気がして、思わず身をひいた。男たちは千尋が十回ほどまばたきする間、魚と格闘し、見事にしとめると「イオ(魚)が捕れた!」と、歓声をあげて岸に戻っていった。
 その間、直ぐ目の前にいる千尋たちにはまるで気づいてはいなかった。アリコ先生、いや有子は、なにやら紙に書き付けていたが、男たちに気を取られていた千尋は気がつかなかった。

 やがて、中州の川上の方角から、一人の老婆がヨボヨボと近づいてきた。
「あのお婆さんもわたしたちのことは見えていないんでしょ?」
「いいえ……あいつには見えているわ」
 有子の答えを聞いて振り返ると、プールの端ぐらいの距離に近づいたところで、千尋は、まともに婆さんと目が合ってしまった……。

    つづく


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