大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・141『神保城』

2022-05-27 12:54:37 | ライトノベルセレクト

やく物語・141

『神保城』   

 

 

 意外にかわいい顔をしている……メイド王さんだよ。

 

 仮にも王様だし、遅れたのはわたしの方だし、起こしちゃ悪いって思った。

 取次のメイドさんだって立ったまま居眠りしてたしね。

 ここは、お目覚めになるまで待っているしかないと思うわけですよ。

 衣装がね、王様らしいローブなんか着て、首には貂かなにかの襟巻みたいなの巻いて、頭には略式の王冠。

 略式と言っても、王様だから、そこらへんの王女様のティアラなんかよりもゴッツいよ。

 

 カクン

 

 なにか夢でもみたのか、体かカクンとして襟巻がズレて喉元から鎖骨にかけて露わになる。

 その露わになったところが白くて華奢でね。ちょっと感動。

 なんというか、宝塚音楽学校の娘役の生徒さんが、文化祭で無理して王さま役をやっているような感じ。

 ちょっと倒錯したような可愛さに、思わず見とれてしまう。

 

 コンコン

 

 謁見室のドアがノックされて「はい」って応えたら、メイドさんが六人も入ってきた。

 二人がテーブル、もう二人が一脚ずつ椅子、もう一人がトレーにティーセット載せたのを捧げ持ってる。

 あ、一人はメイド長って感じで、ツカツカと王さまの横に行くと、なにか囁いた。

「あ、これはすまん。あまりの心地よさに、ちょっと居ねむってしまったようだな。よく来たな、やくも。そちらの椅子に掛けられよ。あとは、わたしがやる。下がってよいぞ」

「では、失礼いたします」

 メイド長が言うと、五人のメイドさんたちも頭を下げて謁見の間を出て行った。

「すみません、わたしの方こそ遅れてしまって、お待たせしてしまいました」

「この城は険しい峰の上にあるからなあ、初めての者は、たいてい時間がかかる。わたしの方も、それを見越していたところがあるんだよ。やくもを待つという口実で、少し寛ぐことができた。メイドたちも心得ていて、みな適当に休んでいたよ。取次はいわば貧乏くじで起きていなければならなかったのだが、あまりの心地よさに立ったまま舟をこいでおったとか。まあ、このわたしが居ねむっていたのだから許してやっておくれ」

「いえいえ、そんなことを言われると身の置き所がありません(^_^;)」

「だから、この城がそなたの身の置き所……ちょっとひっかけてしまったかな(^_^;)」

「はあ」

「この城は『ジンボウ城』という名前なんだ」

「ジンボウ?」

「漢字で書けば『神保城』だ」

 神保……聞いたことがある。

「うん、神田の神保町だ」

「あ、ああ、古本屋さんがいっぱいあるんですよね」

「ほう、神田の古書店街を知っているのか?」

「あ、お母さんが、ときどき仕事で本とか探しに」

「じゃあ、やくももいっしょに行くのか?」

「いえ、あそこだけは一人で行ってました『やくもはチョロチョロして目が離せないから』って」

「ハハハ、気持ちは分かるぞ」

「わたし、そんなにチョロチョロしません」

「あそこは、一人で行って、じっくりと本を探す街だ。どんな大人しい者でも連れて行くと集中できないんだよ」

「はあ、そうなんですか」

「なんで『神保町』と云うか分かるかな?」

「え?」

「一般には、江戸の昔に神保という旗本の屋敷があったからということになっているがな。実は、神の力を保つで『神保町』なのだよ」

「神の力?」

「これをご覧」

 王さまが指を振ると千代田区とその周辺の地図が現れた。

「この丸で囲んだところが、時計回りに上野寛永寺、アキバ、神田明神だ。結ぶと縦に長い三角形になる」

「あ、ほんとだ」

「で、いずれも皇居の丑寅、つまり鬼門にあたるわけさ。もともと、神田明神は、その目的で祀られたし、上野の寛永寺は家康が江戸の鬼門封じにその外側に補強の意味で作った。そして、さらに発展して大きくなった東京の守護として、アキバが発展した」

「アキバが鬼門封じなんですか!?」

「ああ、そうだ。邪気から大切なものを護るには『気』が必要なんだ。大勢の人の『大切なものを求める気』『大切なものを護る気』が必要なのだ。しかし、上野と神田だけでは追いつかず、昭和の後半からアキバに力が注がれるようになった」

「なるほど……」

「しかし、二十一世紀になると、それでも追いつかず。ついには、神田川に蛇の妖が住み着くようにさえなってしまった」

「あ、それが!?」

「そうそう、やくもが退治してくれた蛇やら龍だ。明治からこっち、将門さんは、その責任感の強さから、ほとんどお一人でやってこられたが、今の状況は、やくもが経験したとおりなんだ」

 言葉を濁しているけど、将門さんとアキバの連携はうまく行ってないところがあるんだ。

「上野・神田・アキバを結ぶ三角形は、いわば鬼門を護るための刀なのだよ。そして、その刀の柄にあたるところが、この神保町なのだ」

 ちょっと怖くなってきたよ……御息所がもらった寝殿造りみたいに、気楽に天蕎麦楽しむってわけにはいかないかも(;'∀')。

「あ、これは怖がらせてしまったな、すまんすまん。要は、ここでやくもが楽しく過ごしてくれたらいいんだ。やくもが、のんびりしたり楽しんでくれれば、それだけで、この神保城の気が上がって、守れることになっているから。まあ、とりあえず、新しい城主を迎える宴会をやろう!」

 チリンチリン

 メイド王が指を振ると、どこかで連動しているんだろう、気持ちのいい鈴の音がして、城内のあちこちで宴会の準備をする音やら声々が湧き上がった。

「ああ、やっと着いたあ!」

「ああ!?」

 声に振り向くと、チカコと御息所が、いつもの1/12ではなくて、等身大になって現れた。

「どうも、洋風というのは落ち着かぬのう」

「フフ、自分のよりも立派だからやっかんでるのね」

「そ、そんなんじゃないわ!」

「アハハハ」

 チカコと御息所が追いかけ合いを始めると、入り口には、紺の制服……あ、交換手の制服着た黒電話さん! 他にも半人化したアノマロカリスやら、フィギュアたち、普段は本棚に収まってるラノベやマンガたちも、手足が生えてメイドさんたちに案内されてる。

 謁見室は、壁が取り払われて大広間になって、あっという間に大宴会になってしまった!

 みんな、わたしの部屋のグッズたち。

 できたら、他のあやかしたちや、お爺ちゃんお婆ちゃん、お母さんたちも呼べたらいいなあと思ったよ。

 まあ、これからの課題だね。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・007『武笠ひるで・2』

2022-05-27 06:18:52 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

007『武笠ひるで・2』  

 

 

 
 学校から家に帰るには三通りの道があるようだ。

 
 その三通りの道で、一番時間のかかる道を歩いている。

 この道は広大な豪徳寺の外周に沿っている。夜間には人通りが無いところもあって、祖父母は避けるように言っている。

 でも、武笠ひるでは、このルートが好きなんだ。わたしの性格か? それとも主神オーディンの狙いがあってか?

 まあいい、わたしも好きだ。

 この異世界のことは、とりあえず必要なものから情報がほぐれていくらしい。子どものころ冬至祭にもらったプレゼントのようだ。幾重にもラッピングしてあって、ラッピングごとに手紙や小さなプレゼントが挟み込んであって、最後に本命のプレゼントが顔を出す。あれに似ている。

 楽しみながら馴染んでいこう。

 武笠ひるで。

 ブリュンヒルデのもじりかと思ったら、ちょっと違う。

 武笠というのはタケガサと読むのが一般的で、この東京と呼ぶ異世界が武蔵の国といったころからの名族だ。その支流のいくつかがブリュウと音読みにしているようだ。

 ヒルデはHilde、父がドイツ人。両親ともに亡くなっていて、豪徳寺に住む祖父母が引き取って育てている。

 なるほど、ここで生まれ育ったわけではないから、割り込みで設定するにはリスクが少ないか。

 
 見えてきた、武笠ひるで……わたしの家だ。

 淡い緑色の木造二階建て、洋風づくりなのだが鎧張りの下見板にギロチン窓、寄棟屋根の天辺には風見鶏が設えてあって、昔の学校のイメージに近い。質実なくせにオシャレな感じが好ましい。

 
 門を潜る前に郵便受けを見るのが習慣だ。

 
 また取り込んでない。

 郵便受けには、朝刊と夕刊が入ったままだ。それも二紙、四部。一日分溜まるとボケてきたんじゃないかと心配になる。

 A新聞とA旗、流行りのカテゴリーでは世田谷自然左翼といったところか。でも、堅物と言うのではなく、これまでの人生のしがらみから、そういうポーズをとっているに過ぎないのかもしれない。

 門柱の脇には、近所の神社の古ぼけた氏子札が貼ってある。
 まあ、新聞もこの氏子札と同じだろう。

 表札が傾いてる。

 門がガタついているんで、開け閉めの振動でズレるんだ。

 よいしょっと。

 表札を直して敷地に。

 古い枕木が七つ埋め込んであって、それを踏んで玄関ドア。

 カランカラン♪

 ドアに付けられたカウベルが鳴る。祖父母が新婚旅行で買ってきた年代物、来客や家族の出入りを知らせてくれる幸せのカウベル。この鳴り方でわたしのことが分かる。

 おかえり、ひるでぇ。

 祖母の声がクラフト部屋からする。

「お祖母ちゃん、また新聞取り込んでなっかたぞ」

 あ、思い出した!

「なに?」

 返事の前に本人がクラフト部屋から飛び出してきた。

「なにか作ってんの?」

「おトイレおトイレ……!」

 ああ……。

 わたしが帰って来たので、堪えていたオシッコを思い出してしまったみたいだ。わたしの前を小走りに駆け去っていった。

 新聞のとり忘れはボケではないようなので、ちょっと安心。

 バタン

 トイレのドアを閉める音。その振動が伝わってクラフト部屋のドアが開いてしまう。

「もう、ボロ家なんだから……」

 閉めようとして、中が見えてしまった。

 祖母は、革細工のリュックを作っている。

 そのリュックは、わたしが欲しいと言っていたデザイン。

―― お誕生日には間に合わせるわよ ――

 祖母の言葉を思い出した……そうだ、三日後に迫っていたんだ、わたしの誕生日。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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