大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・306『通天閣の滑り台』

2022-05-12 13:56:37 | ノベル

・306

『通天閣の滑り台』さくら   

 

 

 ギョエーーーーーーーーーーー!

 

 十秒間叫びっぱなし!

 先に着いてたみなさんがニヤニヤしたり同情の眼差しを向けてくれたり……。

 

 シューーーーーーーーーーーー!

 

 あたしの後に、極超音速ミサイルみたいな音をさせて悲鳴もあげずに滑り降りてきたのは、さすがのソフィー!

「ソフィーは可愛くない」

 最初に下りて、まだ涙目のままの頼子さんは不貞腐れてる。

 留美ちゃんとメグリンは、パチパチパチと無邪気に拍手。

 

 今日は、学校近くの公園の横までヤマセンブルグ領事館の車が来てくれて、みんなで開業間もないタワースライダーに来てる。

 タワースライダーっちゅうのんは、通天閣にできた全長60メートルのチューブ型滑り台。

 9日から営業してるから、当然――やってみたい!――という気持ちになるんやけど、料金が高い!

 一回10秒で滑り降りるんやけど、料金が、なんと1000円!!

 1000円あったら、食堂で三回は食べられる。三回食べる時間は、一時間ぐらい。

 同じ千円で10秒と1時間。

 日本中のテーマパークやら遊園地にいろんなアトラクションがあるけど、10秒で1000円はそうそうあれへん。

 それに、通天閣に行くまでの交通費あるしねぇ。合わせたら、10秒の快楽に2000円はかかる勘定。

 それが、なんで、こんな易々とこれたかと言うと、タダやから!!

 

 頼子さんのお婆ちゃん、言わずと知れたヤマセンブルグの女王陛下がネットニュースでご覧になって「あれをやってみたい!」とおっしゃったから。

 せやけど、はるか日本の大阪やし、65歳以上不可という年齢制限もあって、女王陛下の願望は実現不可能。

 それで、孫の頼子さんと、その御友達に白羽の矢が立ったわけですわ!

 条件は動画を撮ってくること、そんで、SNSには流さんと女王陛下に一番に見せること!

「それやったら、これ持っていき!」

 ITオタクのテイ兄ちゃんがVR映像が撮れるカメラを貸してくれた。

「え、もう送っちゃったの!?」

 頼子さんが目を剥いた。

「はい、陛下がすごく楽しみにしておられて、撮ったらすぐに送れと言明されております」

 涼しい顔でソフィーが言う。

「それで、ソフィーは無言のポーカーフェイスだったのね!?」

「いえ、空挺部隊の降下訓練も受けてますから、あの程度の滑り台、屁みたいなもんです」

「屁みたいな……(^_^;)」

「展望台に上がってもいいのですが、100メートルそこそこですし、次の予定もありますから」

「次の予定?」

「はい、女王陛下は『串カツも体験してみたい!』とおっしゃっておいでです」

「ソフィー、近場の『串富』という店を確保できた」

 お馴染みのジョン・スミスがピンマイクにイヤホンいうロイヤルガードの姿で指示を飛ばす。

「殿下、二時間食べ放題コース。ちなみに貸し切りです」

「よし、じゃあ、みんな繰り出すわよ!」

「あのう、着替えとかは?」

 留美ちゃんが恥ずかしそうに聞く。

「時間がないから、そのままで行くわよ」

 ソフィーがシレっと返事。

 うちは、ぜんぜんかめへんねんけど、留美ちゃんは目立つことが大の苦手なんで、ちょっと恥ずかしい。

 うちらは、タワースライダーやるために、領事館が用意してくれたジャージを着てる。

 学校のジャージを着る手ぇもあったんやけど、ちょっとね(^_^;)。

 

 でね、これはソフィーから内緒のお願いやったんやけど、三人揃って散策部に入ることになってる。

 学校探検で部活の事は完ぺきに抜けてた。

 むろん二つ返事でOKです。

 それから、今日はジョン・スミスが居てるんで、メグリンが嬉しそう。

 なんせ、ジョン・スミスは、メグリンよりも10センチちかく背ぇ高いしね。

 串富では、揚げる前の串カツ50本をチルドにしてもろてる頼子さん。

 特製ソースといっしょに、ヤマセンブルグに送るらしいです。

 女王陛下の気配りと好奇心には、いつもながら助けられてるうちらでした。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      頼子のガード
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン

 

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やくもあやかし物語・138『残され犬がウロウロ』

2022-05-12 10:21:37 | ライトノベルセレクト

やく物語・138

『残され犬がウロウロ

 

 

 ちょっと、あれを見てください……

 

 白虎をやっつけて、空き箱の中でグッタリしていると、アキバ子が声を上げた。

「……なに?」「……なによ?」「……なんじゃ?」

 ノロノロと三人、空き箱の縁から首を出してアキバ子の指の先を見る。

 指先の『あれ』は、高速移動しているようで、アキバ子の指がせわしなく動く。動きに従って、三人の首も動くので、動物園のペンギンが餌につられて集団で首を動かすのに似ていると思ったよ。

「「「あ」」」

 同時に気付いた。

 犬が、ウロウロオロオロと相棒の白虎を探しているのだ。

「気が付いていないんですね……」

「ククク……バカな犬よのう、土星の輪に溶けてしまったことが理解できないのじゃなあ」

「意地が悪いわよ、御息所」

「何を言う、わらわたちを、あそこまで苦しめた片割れじゃぞ。あれくらいの報いは受けてよいのじゃ」

「載せられていたんじゃないかな……」

「やくもまでが何を言う、乗っていたのは犬の方であろうが」

「だって、あんなに耳も尻尾も垂れて、かわいそうじゃない」

 クーーーン クーーーン

「ほら、悲しそうに鳴いている……」

「ゲ、やくも、そなた犬を連れて帰るつもりではあるまいな?」

「それは止めた方がいい。ただでも、アノマロカリスとかフィギュアとか黒電話とか……居るのよ」

「チカコ、なぜわらわを見る?」

「たまたまよ、たまたま」

 クーーーン クーーーン

 悲しそうに、ウロウロと歩き回る犬。

「あの、スピードじゃ土星の輪とも同化しませんね……」

「そのうち、衛星の一つになるであろう、捨て置けばよい」

「「「薄情~~~」」」

「ふん!」

 ソッポを向いてしまう御息所。

 そういうわたしたちも、空き箱の縁に掴まって見ているしかないんだけどね……あ……思いついた!

 ガサゴソ ガサゴソ

「ちょ、狭いんだから、ゴソゴソしないでよね」

「ごめん……あった!」

 それは、お祖父ちゃんからもらったVic〇orの犬だ。

「二人で、仲良く聴くのよお!」

 そう言って、犬の傍に放ってやる。

「あ、犬が寄ってきましたよ(^▽^)」

 最初はためらいがちにまわりを周って、遠慮というか警戒している犬だったけど、先客の犬が耳を動かして『そっちならいいよ』って感じで促すと、蓄音機を挟んで狛犬のように並んだよ。

「おお、おお、仲良く耳を傾けておるわ」

「一件落着ね」

「チームワークの勝利ね(^_^;)」

「ちょっと大変でしたけど、そのお蔭で、犬までやっつけなくて済みましたね」

「そうだよね、無駄な殺生しなくて済んだ」

「じゃ、アキバにもどりましょうか、みなさんお待ちかねです」

「そうじゃそうじゃ、今度も勲章をもらわなくてはな」

「えと、そういうの、ちょっと苦手だし……ちょっと、疲れたしね(^_^;)」

「そうですか……よし、ではお家までお送りします」

「え、アキバのエスカレーターでなくてもいいの?」

「アハハ、裏アキバのアキバ子ですから、裏技でいきます。プチワープしますから、箱の中に収まって、シートベルトをしてください」

「心得た」「うん」「はい」

 三人三様に声を上げて、空き箱は土星軌道からワープしたよ。

 ピューーーン

 でも、ワープしながら思った。

 あの蓄音機から聞こえてくるのは、いったいなんだったんだろうね?

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王

 

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乙女先生とゆかいな人たち女神たち・45『春の大遠足』

2022-05-12 06:20:43 | 青春高校

乙女先生とたち女神たち

45『春の大遠足』  

       


 水野校長の数少ない功績がある。遠足を連休が終わってからにしたのだ。

 一年生だけは学年でまとまって遠足にいく。学年としての一体感を持たせたいという、これも校長の発案であった。職員は嫌がったが、校長が、とうに絶滅した宿泊学習を持ち出す気配だったので、この線に落ち着いた。

 もっとも、一体感をもって学校を改革しようという意思のかけらもない教職員にはなんの効果もなかったが。

 ただ、先月の栞の『進行妨害事件』で、府教委やマスコミから叩かれた時には、ささやかではあるが、学校が前向きな姿勢を持っている証左であると評価された。しかし、このことは教職員には伝えていない。「恩着せがましい」と思われるのが分かっていたからである。

 二三年生は、クラスごとに行き先を決める。現実には幾つかのクラスが、示し合わせて同じところに行くので、学年としては三つぐらいのコースになる。

 栞のクラスは、あっさりと嵐山に決まった。

 なぜかというと、阪急の嵐山に着いたあとは自由行動であるからだ。

 別に単独行動で悪さをしようなどという不埒な考えはないが、学校や先生が決めたコースを羊のように引っ張り回されるのがイヤなだけである。担任の湯浅も、若い頃に奈良国立博物館を遠足の目玉にしたところ、たった一分でスルーされてしまい、それ以来、遠足はルーチンワークと心得て、生徒が行きたい場所に行かせている。

 そして、なにより一年生が全学年そろって嵐山なので、男子は一年生のカワイイ子を探し、お近づきになるチャンスである。女子は、あちこちにある甘い物屋さんや、桂川のほとりでのんびりしたい。と意見が一致した。

 一言で言えば、師弟共々の息抜きに徹するのである。

 教師たちは、昼には共済の保養施設で、そろって嵐山御膳というご馳走を食べることに話がきまっていた。本来監督責任があるので、あまり誉められたことではないのだが、同行の教頭も、見て見ぬふりをする。
 乙女先生は、この際、教頭とゆっくり話がしてみたかった。大阪城公園でのことがあって以来、教頭を見る目が変わってきた。娘さんの話などうららかな五月の風の中でしてみたいと思ったのである。

―― 先輩、どこに行くんですか? ――

 さくやからメールが来た。

 栞は、気のあったクラスの女の子たちと大覚寺から大沢の池方面を目指している。一応メールで答えておいたが、大覚寺は嵐山の駅からかなりあり、地理に詳しくないと、ちょっとむつかしい。まあ、遠足。適当にやるだろうと、放っておいた。

「え、どうしてさくやが!?」

 大覚寺の門前まで来ると、さくやが一人でニコニコと立っていた。

「わたしも、こっちの方に来てましてん」

 まあ、いいや。邪魔になる子でもないし。そう思う……前に、さくやは連れてきた友だちみんなに仲良くアメチャンを配っている。

「このサクちゃんも荷物の多い子やねんな」

 クラスメートの美鈴が、さくやの背中を見て言った。

「同じクラブですから」
「ええ!? 遠足の日に学校帰って部活すんのん!?」
「これでも演劇部は厳しいんです。ねえ、先輩?」
「そ、そうよ(^_^;)」

 MNBに入っていることは、内緒にしてある。記者会見などやっているのだが、おもしろいもので、あの画面に映っていたのが、クラスの栞であるとは、まだ誰も気づいてはいない。いや、気づいている者も、あえて騒がない。よく言えば大人の感覚のあるクラスではあった。

 お寺そのものには興味がないので、五百円払って入ろうとは思わず大沢の池のほとりでお弁当にした。

「えい!」

 残ったご飯粒を丸めて、池に投げると、まるで待ってましたという感じで錦鯉が跳ねて食べてしまった。

「うわ、今のんきれいに撮れたわ!」

 美鈴が、絶好のシャッターチャンスで鯉を撮っていた。

「うわ、ほんま(^▽^)」
「きれいなあ(n*´ω`*n)」

 などと浮かれていると、後ろから声がかかった。

「よかったら、君たちの写真撮ってあげようか」

 振り返ると、いかにもプロのカメラマンという感じのオジサンが声をかけてきた。

「お願いできますか」

 栞は、物怖じせずに頼んだ。

「じゃ、まず君たちの携帯で。おい、レフ板」

 すると、助手のようなニイチャンたちがレフ板を持ってきた。

「うわー、本格的!」

 瞬くうちにみんなのスマホに写真が撮られた。

「じゃ、最後にオジサンのカメラで……」

 さすがはプロで「はい、チーズ」などとはやらない。世間話をしているうちに連写で何枚も撮ってくれた。

「はい、こんな感じ」

 オジサンは、モニターを見せてくれた。すると、なんと後ろに、スターの仲居雅治と中戸彩が映っていた。

「きゃー」
「うわー」
「本物や!」

 女子高生たちは大喜びした。仲居と中戸は気さくに握手やサインをしてくれた。

「お願いがあるんだけどな……ここは仲居君頼むよ」

 オジサンが振った、それも仲居君と親しげに……!

 

 というわけで、栞たちはテレビドラマのエキストラになった。

 最初は、仲居と中戸たちとすれ違ったり、追い越したり、背景のガヤになったり。そのうちにカメラマンのオジサンが言った。

「ねえ、栞ちゃんだったっけ」
「はい」
「ちょっと、中戸君と絡んでくれないかな」
「……え!?」

 中戸が水色のワンピで、駆けてきて栞とぶつかる。

「あ、すみません」
「ごめんなさい」

 これだけだったのが、監督とカメラマンのインスピレーションで膨らんでしまった。

「ねえ、大里さん待って!」

 女子高生ぶつかる。はずみで恭子のバッグが落ちて、中のものがぶちまけられる。

「すいません、うち、ボンヤリやから」
「ううん、あたしの方こそ。あ、ごめん、手伝わせちゃって」
「いいえ、おねえちゃん、イラストレーターやってはるんですか」
「うん、あいつ……大里のバカ野郎!」

 恭子の目から涙。女子高生の目、キラリと光る。

「あの、オッチャンですね」
「うん。でも、もういいの」
「ええことありません、ちょっと待って、大里さん! 大里のオッサン!」
「ちょ、ちょっと、あなた」
「大丈夫、掴まえてきます!」

 女子高生は、一筋近道をして、大里を発見。

「見つけた! もう逃がさへんよって……」

 女子高生の顔アップ、迫力におののく大里。

 ここまで、ほとんどアドリブで、カットが増えた。

 そして、これが、しばらくして問題になるとは思いもせずに栞たちは集合場所へと急いだ……。

 

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