せやさかい・306
ギョエーーーーーーーーーーー!
十秒間叫びっぱなし!
先に着いてたみなさんがニヤニヤしたり同情の眼差しを向けてくれたり……。
シューーーーーーーーーーーー!
あたしの後に、極超音速ミサイルみたいな音をさせて悲鳴もあげずに滑り降りてきたのは、さすがのソフィー!
「ソフィーは可愛くない」
最初に下りて、まだ涙目のままの頼子さんは不貞腐れてる。
留美ちゃんとメグリンは、パチパチパチと無邪気に拍手。
今日は、学校近くの公園の横までヤマセンブルグ領事館の車が来てくれて、みんなで開業間もないタワースライダーに来てる。
タワースライダーっちゅうのんは、通天閣にできた全長60メートルのチューブ型滑り台。
9日から営業してるから、当然――やってみたい!――という気持ちになるんやけど、料金が高い!
一回10秒で滑り降りるんやけど、料金が、なんと1000円!!
1000円あったら、食堂で三回は食べられる。三回食べる時間は、一時間ぐらい。
同じ千円で10秒と1時間。
日本中のテーマパークやら遊園地にいろんなアトラクションがあるけど、10秒で1000円はそうそうあれへん。
それに、通天閣に行くまでの交通費あるしねぇ。合わせたら、10秒の快楽に2000円はかかる勘定。
それが、なんで、こんな易々とこれたかと言うと、タダやから!!
頼子さんのお婆ちゃん、言わずと知れたヤマセンブルグの女王陛下がネットニュースでご覧になって「あれをやってみたい!」とおっしゃったから。
せやけど、はるか日本の大阪やし、65歳以上不可という年齢制限もあって、女王陛下の願望は実現不可能。
それで、孫の頼子さんと、その御友達に白羽の矢が立ったわけですわ!
条件は動画を撮ってくること、そんで、SNSには流さんと女王陛下に一番に見せること!
「それやったら、これ持っていき!」
ITオタクのテイ兄ちゃんがVR映像が撮れるカメラを貸してくれた。
「え、もう送っちゃったの!?」
頼子さんが目を剥いた。
「はい、陛下がすごく楽しみにしておられて、撮ったらすぐに送れと言明されております」
涼しい顔でソフィーが言う。
「それで、ソフィーは無言のポーカーフェイスだったのね!?」
「いえ、空挺部隊の降下訓練も受けてますから、あの程度の滑り台、屁みたいなもんです」
「屁みたいな……(^_^;)」
「展望台に上がってもいいのですが、100メートルそこそこですし、次の予定もありますから」
「次の予定?」
「はい、女王陛下は『串カツも体験してみたい!』とおっしゃっておいでです」
「ソフィー、近場の『串富』という店を確保できた」
お馴染みのジョン・スミスがピンマイクにイヤホンいうロイヤルガードの姿で指示を飛ばす。
「殿下、二時間食べ放題コース。ちなみに貸し切りです」
「よし、じゃあ、みんな繰り出すわよ!」
「あのう、着替えとかは?」
留美ちゃんが恥ずかしそうに聞く。
「時間がないから、そのままで行くわよ」
ソフィーがシレっと返事。
うちは、ぜんぜんかめへんねんけど、留美ちゃんは目立つことが大の苦手なんで、ちょっと恥ずかしい。
うちらは、タワースライダーやるために、領事館が用意してくれたジャージを着てる。
学校のジャージを着る手ぇもあったんやけど、ちょっとね(^_^;)。
でね、これはソフィーから内緒のお願いやったんやけど、三人揃って散策部に入ることになってる。
学校探検で部活の事は完ぺきに抜けてた。
むろん二つ返事でOKです。
それから、今日はジョン・スミスが居てるんで、メグリンが嬉しそう。
なんせ、ジョン・スミスは、メグリンよりも10センチちかく背ぇ高いしね。
串富では、揚げる前の串カツ50本をチルドにしてもろてる頼子さん。
特製ソースといっしょに、ヤマセンブルグに送るらしいです。
女王陛下の気配りと好奇心には、いつもながら助けられてるうちらでした。
☆・・主な登場人物・・☆
- 酒井 さくら この物語の主人公 聖真理愛女学院高校一年生
- 酒井 歌 さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
- 酒井 諦観 さくらの祖父 如来寺の隠居
- 酒井 諦念 さくらの伯父 諦一と詩の父
- 酒井 諦一 さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
- 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
- 酒井 美保 さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
- 榊原 留美 さくらと同居 中一からの同級生
- 夕陽丘頼子 さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王位継承者 聖真理愛女学院高校三年生
- ソフィー 頼子のガード
- 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン