やくもあやかし物語・132
今度は犬だ!
凛とマナジリを上げるメイド王・アレクサンドラ!
「は、はい……」
アカアオメイドから聞いてますって言おうと思ったけど、そういうのは許さない雰囲気がみなぎっている。
「これを見てくれ!」
メイド王が右手を上げると、秋葉原クロスフィールドのディスプレーが、ズビーーーーンて感じで大きくなって、ついに壁面一杯になる。
大昔の映画みたく、カウントダウンの数字が表れて、5、4、3、2、1……ジャーーーン!!
ディスプレーいっぱいに3Dのワンコが現れる。
ワンコは、白いモヤモヤの上に、サーフボードに跨ったみたいに突っ張って、目はらんらんと広場のみんなを睨み据えている。
オオオオオオオオオオオ(꒪ȏ꒪)
広場のみんなが、恐れて一歩引きさがる。
無理もないよ、壁面いっぱいの3D映像で、ワンコはゴジラとでも格闘できそうな大きさだからね。
「こんなにおっきいのと戦うんですか!?」
「これはディスプレーに映しているからだ、じっさいは見ての通りの中型犬。ただし、動きは素早い。心してかかってくれ」
「わ、分かりました…………」
「なにかな?」
「え、いえ、実物はどのあたりにいるのかと……」
広場の大きな空をキョロキョロするけど、ワンコの姿は見えない。
「今は土星軌道のあたりを周回している」
「ど、土星!?」
「ワープすれば、あっという間に目の前だ。地球の周回軌道に入るまでにやっつけて欲しい。よろしく頼んだぞ」
「ハ、ハヒ……でも、どうやって土星軌道までいけばいいんですか?」
「それは、あの者たちに……」
メイド王が目配せすると、アカアオメイドを従えて滝夜叉姫のトラッドメイドが進み出る。
三人は、それぞれ大きさの違う段ボール箱を抱えている。
「その箱は?」
「アキバ子が用意してくれましたものです」
そろって段ボール箱を回すと、お馴染みのネット通販のニヤついたマークが付いている。
トラッドメイドのが一番大きく、次にアカメイド、そしてアオメイド。
ポン ポン ポン
手際よく積み重ねると、グングン大きくなって、あっと言う間に三段ロケットになった。
「ひょっとして、あれに乗っていくの?」
「ちょっと、用事を思い出し……」「わたしも……」
パフ!
ポケットから逃げようとしたチカコと御息所をポケットごと押さえ込む。
ムギュ!
「えと、どこから乗ればいいのかしら?」
「エスカレーターを上ります」
トラッドメイドが示すと、アカアオメイドがササッと動いて、エスカレーターの登り口で上を指し示す。
「わ、わかったわ!」
もう、こうなったら、矢でも鉄砲でも持ってこい!
今までも、数々のアヤカシをやっつけてきたんだ、なんとかなるさ!
トラッドメイドに先導されてエスカレーターに足を載せると、アキバマーチングバンドが聴いたことのあるアニソンマーチを演奏。
「わたしたちもお付き合いします」
「ほんと!?」
「「わたしたちもです」」
アカアオメイドも後ろに付いてくれていて、頼もしいことを言ってくれる。
う、うれしい!
ロケットの方を見上げると、ロケットの二段目のところが開いて、ラッタルがスルスルと下りてくる。
あっと思って見上げると、ハッチの所からアキバ子が身を乗り出して手を振ってくれている。
「やくもさま、わたしもお供いたします!」
嬉しいことを言ってくれる。
やっぱり、青龍と共に戦っただけのことはある!
ガシャン
ハッチが締められて、みんなでシートに着いてベルトを締める。
「発射します!」
操縦席のコンソールに秒読みの数字が現れ、モニターには秋葉原クロスフィールドの屋上に据えられたと思えるカメラの映像が映っている。ボディーにはニヤリマークとAKIBA-01のしるし!
白い煙がもうもうとあがる。
ロケットのボディーに描かれたニヤリマークが縦になって……ニヤリが真っ直ぐに伸びて……矢印に……いや、これってロケットが飛んでいく姿だ!
ドドドドドドーーーーーーーーーーーン
AKIBA-01は、はるか土星軌道を目指して飛び立った!
☆ 主な登場人物
- やくも 一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
- お母さん やくもとは血の繋がりは無い 陽子
- お爺ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
- お婆ちゃん やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
- 教頭先生
- 小出先生 図書部の先生
- 杉野君 図書委員仲間 やくものことが好き
- 小桜さん 図書委員仲間
- あやかしたち 交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六畳の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王