ロイス ジャズ タンノイ

タンノイによるホイジンガ的ジャズの考察でございます。

S氏のストレートホーン

2006年03月11日 | 訪問記
或る日、U氏と連れだって、久しぶりにS氏の桃源郷を訪ねてみましょうということになった。ひょっとして新作の300Bアンプにお目にかかれるかもしれない。
山里に車を走らせること小一時間。人通りのない街道を、自転車に乗った田舎の人とすれ違っただけのおだやかな午後である。U氏は言葉たくみに坂上田村麻呂に攻められた悪路王の砦とか、源義経がガールハントに馬を走らせた街道など、よもやま話も快調に後ろに飛んで行く。
「まてよ、さっきの人Sさんに似ていませんでしたか?」
というわけで車を至急Uターンさせて追いかけると、白い一本の道を、背筋を伸ばして自転車をどこまでも悠々と漕いでいく人は、やはりS氏であった。
「どちらに? ほほう、わざわざわたしのところに」S氏はあくまでおだやかだ。
オーデオルームの庭先に、籾殻を燃やす煙突のようなものが一本立っていた。
S氏のオーデオルームは、前回はまだ、けもの道が一本通っていたが、いまは、それすら無くなって部品がいよいよ散乱しているように見える。しかし、秩序ある散乱であるのかもしれない。厚さ十五ミリはありそうな分厚いアルミシャーシボードが二枚立てかけてあるが、いずれおそらくこれにアンプの部品が林立するのだろう。
「ちょっとこの感じを写真に撮らせてもらっていいでしょうか」と今では珍しい貴重な部品の混沌世界に、返事も待たずにカメラを構えると、鷹揚なS氏は「そおですか、まあどうぞ」といいながら、ほんの少し頭を出している古めかしい英国風テーブルの解説をされた。この隙に部屋中のジャンクの山をパチリ、パチリと撮った。
庭先でU氏とS氏がストレートホーンの話をされている。S氏の触っているさきほどの煙突をよく見ると、それは下が朝顔の花のように広がって長さ二メートルはあるかと思えるストレートホーンだった。雨ざらしであるし灰色のデッドニング材が塗られてうかつにも気がつかなかったが、そうとわかれば、これは圧倒的威容に、しばらく言葉も出ない。
左右二本吊るして300Bプッシュプルで鳴らす音を想像してみた。シェップやグリフィンが純金楽器を吹き鳴らし、ブレイキーがドラムスを轟かせて脳天をカノン砲のように串刺しにする、硝煙漂う極限の音楽が聴こえるのであろうか。いよいよこれは、タンノイに傍惚れてこだわっている場合ではないのか、とすら期待が湧く。
建物の反対側にもう一本あるそうで、配線こそされていないが、仙人ならその空間に居ずまいしてステレオイメージで充分空想し、楽しんでおられるのかもしれない。
「ぜひ、早くこれを完成させましょう」
古来、名人というものは頭の中で完成させてそれでおしまい、という事態が多いと危惧する。凡人としてはこの耳で聴かせてほしい。失礼をも顧みず、思いつく言葉をならべてお勧めしておいて、仙人の館を後にした。
帰りの道々、あのバイタボックスマルチの極上の音を再現されたS氏のセンスが脳裏によぎった。いつか孤高の楽境に踏み出されていたのか。前人未到2メートルのストレートホーンの音とは、その深淵、どのような音像が飛び出すのであろうか。
帰り際S氏が庭先の植物をひょいと掘り起こして我々に持たせてくれたビニールの袋が、座席の横で揺れている。山奥の砂防ダムの傍で見つけたという、不思議な花をつけた葉の大きな植物で、初めて見るものだった。

☆めずらしいBLさんから電話があった。サンダルに半ズボンでベンツから降り立った姿をつい思い出してしまうが、LPを大量にご紹介くださって感謝している。李朝の壺や骨董も非常に造詣の深い人だ。


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