ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

下野竜也&読響 メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」(改訂版)ほか

2009-01-12 | コンサートの感想
今年最初の読響マチネーを聴いてきました。

<日時>2009年1月10日(土) 14:00開演
<会場> 東京芸術劇場
<曲目>
《メンデルスゾーン生誕200年記念》
■メンデルスゾーン:トランペット序曲
■メンデルスゾーン:バイオリン協奏曲
■メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」(1833/1834稿)
(アンコール)
■バッハ:無伴奏バイオリンソナタ第2番から アンダンテ
■メンデルスゾーン:交響曲第5番「宗教改革」から第3楽章
<演奏>
■指 揮:下野竜也
■管弦楽:読売日本交響楽団
■バイオリン:小野明子

今年は、メンデルスゾーンの生誕200年のメモリアルイヤー。
この日のプログラムもその一環でしょう。
前半のメインはバイオリン協奏曲。
ソロは小野明子さん。
初めて聴かせてもらいましたが、温かな音楽を奏でる人ですね。
肉声に近い響きが、気持ちを和ませてくれます。
ときに、ぎりぎりと締め付けられるような気持ちにさせられることもあるメンコンですが、小野さんの演奏は私の琴線に触れました。
きっと、室内楽でも味のある演奏を聴かせてくれることでしょう。
アンコールでは、バッハのアンダンテを弾いてくれました。
この曲は、奇しくも先日のコンサートで、ヒラリー・ハーンの超名演を聴いたばかりでしたから、さすがに同じというわけにはいきませんが、小野さんの誠実な演奏は心に染みました。
また、聴いてみたいバイオリニストです。


後半は、交響曲第4番「イタリア」。
珍しく改訂版を用いての演奏でした。
改訂版というと、ガーディナーがウィーンフィルと組んで録音したCDを持っていますが、実演で聴けるとは思わなかった。
改訂版では、2楽章以降が、ひとひねりしてあります。
メロディラインの最後が変わっていたり、オブリガードが違っていたりしますが、最も異なっているのは終楽章サルタレロでしょう。
一気呵成に進む緊張感は、改訂版のほうがより鮮烈に感じられます。

この日、下野さんは、とにかく内声部をはっきり表現すること、そしてリズムの弾力性に細心の注意をはらっていました。
その結果、普段は塊としてしかきこえてこない箇所も、生き生きと血が通った音楽として私に迫ってきたのです。
これでこそ、「イタリア」。
いままで私は、正直なところ、下野さんの音楽とあまり相性が良いとはいえませんでしたが、こんな充実した響きを聴くと印象が変わりそうです。
素晴らしいメンデルスゾーンでした。

コメント (2)
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ヒラリー・ハーン コラボレートコンサート イン 東京

2009-01-12 | コンサートの感想
ヒラリー・ハーン。
いま、私が最も好きなバイオリニストです。
今年最初に聴いたコンサートは、幸運にも、そのヒラリー・ハーンのコンサートでした。
この日は、シンガーソングライターのジョシュ・リッターとのコラボレートコンサート。
このコラボレーションにかけるヒラリーの思いは相当強いようで、本文の最後に彼女自身の言葉を載せましたので、ご参照ください。

<日時>2009年1月7日(水) 19時開演
<会場>東京オペラシティ コンサートホール
<曲目>
■リッター
・ウィングス
・フォーク・ブラッドバス
・ポッターズ・ウィール
・キャスリーン
・ザ・テンプテーション・オブ・アダム
・ザ・ラスト・ローズ・オブ・サマー
■エルンスト:「夏の名残りのばら(庭の千草)」の主題による変奏曲 (ハーン)
■リッター (ハーン&リッターのデュオ)
・ガール・イン・ザ・ウォー
・シン・ブルー・フレーム
**休憩**
■バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ短調 BWV1003
■エルンスト:シューベルト「魔王」による奇想曲 作品26
■リッター:ジ・オーク・ツリー・キング
■イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第5番 ト長調 作品27-5 (ハーン)
**アンコール**
■パガニーニ:カンタービレ (ハーン&リッターのデュオ)
<演奏>
■ヒラリー・ハーン (バイオリン)
■ジョシュ・リッター(歌、ギター)

プログラムを最初にみたときは、ジョイントと言わずに、全曲ヒラリーの演奏で聴きたいと正直思いました。
でも、彼女が選んだジョシュ・リッターとは、はたしてどんなミュージシャンなんだろう。
興味しんしんで開演を待ちます。
大きな拍手に迎えられて二人でステージに登場したあと、ヒラリーの可愛らしい日本語のあいさつでコンサートが始まりました。

ジョシュ・リッターは、感受性に恵まれた見るからに誠実そうな好青年で、フォークギターを爪弾きながら歌う曲にもそれがよく現われていました。
デリケートな和音の使い方に特色があって、自然に醸しだされる抒情性は、確かにボブ・ディランと相通ずるものがあるかもしれませんね。

さて、お待ちかねのヒラリー・ハーンの出番は、前半のエルンストの「夏の名残りのばら」変奏曲。
この難曲を、こんなに簡単に弾けるものだろうか。
後半の「魔王」もそうでしたが、単に軽々と弾くだけではなく、憎らしいほどのニュアンスを湛えながら聴かせるのです。
ほんとに恐れ入りました。

しかし、この日最も感銘を受けたのは、後半冒頭に弾かれたバッハです。
たとえば、あの長大なフーガ。
さりげなく弾きだされた主題が、自然な呼吸とバランス感を保ちつつ、徐々に姿を変えながら、いつの間にか見事な大聖堂となってその偉容を見せる。
歌に満ちたとか、音色が美しいとか、求心力のある表現だとか、そんな単純な形容詞で彼女の演奏を表現することはできません。
それらをみんな飲み込んだ上で、とにかくすべてが自然なのです。
そして、出来上がった音楽は、類をみないほど透明で瑞々しい。
続くアンダンテも驚くべき演奏。
敬虔な表情で奏でられる旋律と、それを支えるバスの何と見事なこと!
とくにバスは、まるで心臓の拍動のように、弾力をもちながらリズムを刻んでいきます。
そして、バスがあの美しい旋律と一体となった時に、もう比類ない深遠な世界に導いてくれました。

私も、数多くの無伴奏を聴いてきましたが、第2番のソナタでこんなに感動したことは初めてです。
デビューアルバムでバッハの無伴奏を選び、バッハが最も身近な作曲家だというヒラリー・ハーン。
いつの日か、きっと宝物のような無伴奏の全曲録音をしてくれることでしょう。

そして、最後を飾ったイザイにも触れておかなくてはいけません。
彼女の師であるブロツキーはイザイの最後の弟子と言われていますから、ヒラリー自身も語っているように、イザイはやはり特別な作曲家のようです。
しかし、だからと言って、気負いなどは微塵も感じさせません。
この日の5番も、前回のコンサートで聴いた1番と同様に、芯の強さを感じさせながらも、実に自然に音を紡いでいきます。
まるで、「私、この音楽大好きなんです。皆さんも素敵だと思いませんか?」と聴衆に語りかけているかのようでした。
15日のコンサートでは、さらに4番と6番を聴くことができます。
どんな演奏を聴かせてくれるんだろう。
今からワクワクしています。

鳴りやまない拍手に応えて、アンコールとして、パガニーニのカンタービレを弾いてくれました。
フォークギターで相方を務めたジョシュ・リッターが、「この曲は難しい音がたくさんあって緊張しています。上手く弾けるといいのですが・・・」と言いながら聴かせてくれましたが、どうしてどうして。
温かくて素敵なアンサンブルでした。

15日には、同じ東京オペラシティで、再びヒラリー・ハーンの演奏を聴くことができます。
はたして今度はどんな演奏を聴かせてくれるのか、ますます楽しみになってきました。


■ジョシュ・リッターとのコラボレーションについて(by ヒラリー・ハーン)
「さて、ファンの皆さん、ここから先は私とジョシュの間にあるジャンルの違いという先入観を、頭の中から追い出してください。そして、純粋に音楽だけに耳を傾け、私たちが奏でる曲に乗っていっしょに旅に出かけてください。私はこのプロジェクトが実現する運びになって、本当に嬉しく、またとても感謝しているのです。ジョシュと私が創り出せる、最も質が高く最も純粋な音楽を提供するイベントに、参加できるのですから。でも、間違わないでください。このコラボレーションで中心となるのは私たち演奏者ではありません。今回は音楽そのものがスポットライトを浴びる番なのです。私たちは、ただショーに参加しているだけですから。」

コメント (8)
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