ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

ナタリー・デセイ オペラ・アリア・コンサート

2007-11-23 | コンサートの感想
先週、母が大学病院で手術を受けました。
8時間を超える大きな手術になりましたが、お陰様で徐々に快方に向かっており、大阪と東京を行ったり来たりしていた私もようやく一安心といったところです。
執刀いただいた主治医の先生には、本当に感謝の言葉しかありません。
このような状況の中、先週から今週にかけて私が聴いた音楽は、すべてバッハでした。
というか、バッハしか聴けなかったのです。
この間、新たに発見したバッハのすばらしさについては、また機会をみてブログに書いていきたいと思います。

そんなバッハ漬けの生活から、少し現実の世界に戻してくれたのが、21日に聴いたデセイのオペラアリアコンサートでした。

<日時>2007年11月21日(水) 19:00 開演
<会場>東京オペラシティ コンサートホール
<曲目>
■ヴェルディ:「シチリア島の夕べの祈り」序曲
■ヴェルディ:「シチリア島の夕べの祈り」より“友よ、ありがとう”
■ヴェルディ:「椿姫」前奏曲
■ヴェルディ:「椿姫」より“不思議だわ~そは彼の人か~花から花へ”
■ロッシーニ:「セミラーミデ」序曲
■ドニゼッティ:「ランメルモールのルチア」より“あたりは沈黙に閉ざされ”
■ドニゼッティ:「ロベルト=デヴェリュー」序曲
■ドニゼッティ:「ランメルモールのルチア」より 狂乱の場
(アンコール)
■マスネ:歌劇「マノン」より“ガヴォット”
■プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」より“私が街を歩くと”
<演奏>
■ナタリー・デセイ(ソプラノ)
■サーシャ・レッケルト (ヴェロフォン)
■エヴェリーノ・ピド (指揮)
■東京フィルハーモニー交響楽団

デセイに会えるこの日のコンサートを、私はずっと心待ちにしていました。
ヴェルディの序曲に続いて、鮮やかな赤のドレスを着て登場したデセイは想像通り小柄。
しかし、いったん歌いはじめると、たちまちホール全体をデセイのワールドにしてしまいます。
ただ、CDで聴いている印象より少し肉厚な声?

そして、前半のメインは「椿姫」でした。
前奏曲が終わり、デセイが静かに立ち上がって歌い出します。
「エストラーノ(不思議だわ)・・・」
このつぶやくようなワンフレーズだけで、デセイはヴィオレッタの感情を見事に表現してしまいます。
ひやりとしたのは、「ああ、あの人だったのね・・・」と歌い出す箇所。
一瞬声がかすれて詰まりました。
しーんと静まりかえる場内。風邪でもひいたのでしょうか、喉が本調子ではないようです。
さきほど少し肉厚な声のように感じたのは、そのせいだったのですね。
しかし、彼女の真骨頂はこれからです。
少しかすれ気味の低音を、ヴィオレッタの心の叫びのように聴かせてしまうのです。私は、第3幕で奇跡的に元気を取り戻し、3たび「エストラーノ」と歌ったあと天に召されるヴィオレッタの薄幸の運命を思い浮かべて、胸が熱くなりました。
その後、「ミステリオーゾ(神秘的に)・・・」と何回か歌う箇所でも、ひとつひとつの表現を微妙に変化させて、見事にヴィオレッタの心情を表現するデセイ。
一転して「花から花へ」の部分に入ると、素晴らしくコントロールされた技巧で一気に歌いきってくれました。
まさにディーヴァ!
いつの日か、彼女の「椿姫」を絶対舞台で見てみたい。

後半は、ロッシーニの「セミラーミデ」序曲を経て、ドニゼッティのルチアから第1部のアリア。
デセイ自身、「『狂乱の場』よりずっと難しい曲」と話しているアリアですが、どうしてどうして、素晴らしい名唱。
とくに後半のカバレッタの見事さには唖然とさせられました。
次の「ロベルト・デヴェリュー」序曲は、中間部にイギリス国歌「God Save the Queen」が引用されており、前後のルチアがスコットランドの話であることをあらためて印象づけます。

そして、この日のクライマックスは、プログラムの最後を飾った「狂乱の場」。
私がデセイの魅力にとりつかれたのは、2002年に行なわれたリヨン国立歌劇場の公演をBSでみたときでした。フランス語改訂版で、たしかタイトルも「ランメルモールのリュシー」となっていたはずです。
迫真の演技で聴き手を釘付けにしながら、一方で金切り声を出さずに完璧にルチアを歌いきる歌手がいるなんて、俄かに信じられませんでした。
それが、いまコンサート形式とはいえ、現実の舞台で聴かせてくれたのです。
体調のせいか確かに苦しそうな部分はありましたが、これ以上のルチアを歌える人が他にいるとは、私には想像できません。
それほど、説得力のあるルチアでした。
「歌う女優」を自認するデセイですが、「私がオペラを選んだのではなく。オペラが私を選んだ」という言葉すらも、彼女のステージをみてしまうと、納得せざるをえないでしょう。

また、この日はオリジナルどおりグラスハーモニカ(正確には、レッケルト自作のヴェロフォンという楽器)が使われており、その神秘的な音色が、正気を失ったルチアを優しく包み込んでいました。
←ヴェロフォン(公式HPより)

10月にマイヤーの当代最高のイゾルデを聴き、この日は2曲だけとはいえ当代最高のルチアを聴いたことになります。
ご一緒いただいたyokochanさんとも帰り道で話していたのですが、
「こんな幸運を続けて味わってしまうと、いまにどこかで落とし穴にはまるんじゃないか」と、思わず不安にかられます。
そういう不安は、その日のうちに解消しておくに限りますよね。
というわけで、yokochanさんのお誕生日のお祝いも兼ねて、打ち上げをすることに。
やや賑やかな雰囲気の店でしたが、感動の美酒の霊験あらたかに、酔うほどに語るほどに不安はきれいさっぱりなくなってしまいました。(笑)
しかし、酔いが醒めてみると、「歌う女優デセイが演じるオペラを絶対生で観たい。いや観るんだ!」
また、懲りもせず、そんなことを思う私でした。









コメント (4)
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