魔人の鉞

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「もう、神風は吹かない~特攻の半世紀を追って」 に感動

2014-02-07 20:12:12 | 第2次大戦

昨日までシュミット村木眞寿美さんの「もう、神風は吹かない」 (2005年、河出書房新社) を
読んでいました。ドキュメンタリーとしても流れがわかりにくく、ちょっと取っ付きにくい本
でしたが、読み進むうちに眞寿美さんの飾らない真摯な人柄と、おそらくそれに心を開いた
元特攻隊員たちの本音にぐいぐいと引きつけられました。

「特攻によっても戦勢の挽回ができるなどと真剣には信じていなかった軍令部が、二千数百人
を『搭乗員としての誇りを無惨に打ち砕く、片道攻撃という手段を選ばぬ自殺行為』に追いやる
前に、軍人の見栄を捨てて和平交渉に入っていれば、未成年を含む前途ある若い命は救われ
たのではないか。」(64p)

また隊員の回想。整備不良で飛行機が故障したり、敵機に撃墜されたりした 「生き残りの
特攻隊員は、トラックで福岡市内の沖縄航空作戦のための第六航空群司令部に搬送された。
(中略) 参謀が入ってきた。最初の言葉が、『なんでおめおめ帰ってきた。死にぞこないの
卑怯者。臆病者、そんなに死ぬのが怖いか。』」(181P)

私は思わず涙が出ました。特攻で死んだはずで軍神とする手続きをしたのに「生き残ってしまった」
特攻隊員は、人目に触れては困る存在だったのです。
満足な訓練もできず、不十分な機体で援護もなく、レーダーで張って待ち構える敵に突っ込み
生還を許されない特攻が、驚いたことに大本営承認の公式な作戦でした。生き残りの隊員の多く
はただ死ぬだけのための効果の上がらない作戦だと感じていたようです。眞須美さんのインタ
ビューに本音が次々と吐露されます。
日本の戦争指導は精神論ばかりでめちゃめちゃで、人を消耗品としか考えず多くの命を無駄に
死なせたのです。

終戦の玉音放送の後、若者を道連れに特攻した宇垣中将を称賛する人もいるようですが、とん
でもない間違いだとする著者に賛成です。死ぬなら一人で自決するならまだわかります。特攻
を美化するなど、狂気です。なのにデタラメな指導者たちが今は靖国神社に神として祀られて
いるのです。梅原猛氏は、靖国神社は敵味方なく死者を祀る日本の伝統に合わない「新宗教」だ
と言っています。

それで思い出すのが西部邁氏です。氏は右の論客だそうで、つい最近 「無念の戦後史」(2005年、
講談社) を読みましたが、大東亜・太平洋戦争は自衛戦争で国際的に許されるものだと主張して
います。
史実を無視するなら論客とは呼べません。国際連盟脱退の主因となった満州国は、「五族協和の
王道楽土」 と謳われましたが、阿部総理には残念ですが実際は侵略そのものでした。関東軍の
自作自演による柳条湖事件以来の15年戦争は中国国内で戦われ、かの国に数千万人という人的
被害を出しました。日本の兵隊さんもかなり死にましたが、武力で攻めて行って負けた後で自衛
戦争といっても、相手が納得するはずがありません。

そして真珠湾攻撃でアメリカを本気にさせた太平洋戦争では、惨憺たる失敗に終わったインパール
作戦あり、戦死ではなく餓死の島と言われたガダルカナル戦あり、生還を許さない特攻作戦あり、
さらに凄惨をきわめた沖縄戦に至ります。それでも日本では誰も責任を問われません。西部邁氏は、
多くの若者や兵隊を無駄死にさせたことをどう捉えているのでしょうか。私は戦後生まれですが、
そうした兵隊さんや人々の無念を思うと、とても責任者を許すことはできないと感じます。

極東軍事裁判は事後法に依るものでA級戦犯は戦犯ではないというのですが、では滅茶苦茶な
戦争指導で有為の人々を無意味に死なせた責任は誰にあるのですか。西部邁氏があらためて
その責任を追及しているということは聞きません。そうではなく、むしろ戦争を歓迎した国民みな
に責任があるとして 「一億総懺悔」で当然としていますが、盗っ人猛々しいというべき論理です。

眞寿美氏の言葉を西部邁氏に差し上げます。「死の覚悟をさせておいた若者に対する終戦時の
精神的虐待には凄惨なものがある。(中略) 自国民に対してさえこうだから、ましてや他国の
犠牲者、他国民の傷に関しての無関心は推して知るべしである。」 (232p)

朝鮮の王妃・閔妃虐殺は太平洋戦争以前に起きたことですが、軍かどうかは別として日本人の
仕業であり、王宮に押し入って王妃を惨殺し、その場で火をかけて遺体を焼くという残虐極まる
所業でした。かの国人でなくとも1000年は語り継がれる悪行です。その後に起きた朝鮮併合の
法律論は別にして、閔妃虐殺は日本人としてまことに恥ずべきことでした。

西部邁氏は偉そうなことを言っていますが、兵の命も相手の痛みもほとんど感じていないので
しょう。こんな人が論客だとは、日本の右派の知的退廃もひどいものです。 私は氏をまったく
信用しません。

ところで、特攻隊員の手記などの記録を世界遺産に申請しようという動きがあるそうです。隊員
たちの純真な心は痛ましいものですが、日本の特攻作戦がいかに非人間的なものだったかを
世界に知ってもらう機会になるなら、意義はあるでしょう。それが本来の意図ではないにしても。

       (わが家で 2014年2月7日)

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