2009年に公開された「アバター」は3Dという新たな映像表現で
「体感」という新次元に映画ファンを引き上げてくれた。
それ以来、幾多の3D映画が作られてきたが、
個人的にどれも「アバター」を超える、もしくは
それに並ぶ充足感はなかった。
「アバター」から3年。
公開を待ちに待っていた「ライフ・オブ・パイ」は
その不足感を補って余りある映像体験をさせてくれた。
大満足。
2013年に入ってまだ間もないけど、第1号ホームランだ。
本作はご丁寧な副題にもあるとおり、
インド人の少年(青年?)「パイ」が、貨物船の沈没により海に投げ出され、
ベンガルトラと一緒に太平洋を漂流する話だ。
「摩訶不思議」「奇想天外」という言葉がぴったりハマる映画だった。
そんな突拍子もない話が、こんなエモーショナルな映画になるなんて予想もせず。
映画の冒頭は、少年パイが漂流に至るまでの経緯を説明する話なのだが、
彼の幼少期までに遡り、その前置きがやたらと長く、いろんなエピソードを放りこんでくる。
「いったいこの映画は何を描こうとしているのか。。。」と、
少年が漂流する話ということは知っていたが、その後の展開が読めなくなる。
彼の一家が動物たちと共に船に乗って引っ越すという話になって「ようやくか~」と思うが、
以降の漂流記で、余分とも思えたその前日譚が、本作のテーマに繋がっていくことになる。
「トラと一緒に漂流する」
トラと心を通わせて仲良く助け合う絵を思い浮かべるが(実際にそうなると思ってた)
そういったある種の「逃げ」に近い甘えは、本作に皆無だった。
パイとトラの関係性が、終始クールに描かれるのだ。
「リチャード」という名を付けられた(その経緯も面白い)ベンガルトラはあくまで猛獣。
パイを襲う存在である猛獣と、一艘の小舟の中でどう生き長らえるのか。。。
漂流というタダでさえ大変な局面に「泣きっ面に蜂」状態。
過酷でハードなサバイバルの中でパイがとった術が
リチャードを活かすことだった。
パイから餌を与えられるリチャードは、パイに活かされる格好なのだが、
次第に、パイ自身がリチャードに活かされていくことに気づいてくる。
常に一定の距離感、緊張感を保ちながら、両者が共存している様。
ココの描き方が実に深い。
そんなリアルに近い感覚を覚えながらも、
先の見えない広い太平洋で描かれる情景、エピソードは
大自然がもたらす神秘的な美しさに満ち満ちていて
パイとリチャードの運命を鮮やかに彩っていくのだ。
その雄大で幻想的な映像は3Dで味わって大正解。IMAXだったから尚正解。
ストーリーに共感できなかったとしても、
自分はこの映像体験だけで満足していたと思う。
リアルと虚構の世界が目の前で行ったり来たり。。。
まるで夢の中にいるような感覚に入った。
トラのリチャードが丸顔で可愛い。(猫好きには特に)
彼はフルCGによる作り物なのだが、その姿に途中何度も胸が張り裂けそうな気分になったり、
余韻を残されるほどの感動を与えられてしまったりと、完全にヤられてしまった。
パイとトラの漂流記を通して見えてくる、生命の尊厳、希望、信仰といった様々なテーマ。
それが違和感なく浸透していくのは、監督アン・リーのフェアで誠実な視点があってこそに思えた。
彼のアカデミー賞、監督賞ノミネートに遅ればせながら拍手。
ラストの捻りもニクい。
自分の答えは「信じる」。
【85点】
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