
伝説の裏側が明かされる。ドキュメンタリーを超えたドキュメンタリーだ。新たなジャンルのスポーツ映画を見たような衝撃。見終わったあとの余韻ったらない。これ、NBAファンじゃなくても絶対に楽しめるコンテンツ。あまりにもドラマチックで、スポーツの醍醐味が凝縮されている。邦題に付け加えられている「マイケル・ジョーダン」のタイトルはいらなくていい。
NBA史上最強と言われた80年代から90年代のシカゴ・ブルズ。常勝軍団でありながら、フロント(経営陣)と選手間に存在した確執により、チーム解体が決定的となった1998年。奇しくも2回目の3連覇という偉業がかかった年。ブルズ率いるフィル・ジャクソンは、この年を「ラストダンス」と称した。そのチームの中心にいたのは”神”こと、マイケル・ジョーダンだ。
本作はアメリカ本国では週一の連ドラ形式でテレビ放送されていた模様。ネトフリによって全世界配信されているが、本国と合わせて週一での配信。スポーツのドキュメンタリーなんて、長くても2時間で十分、1話50分のボリュームを10話に渡って放送する価値ってあるの??と懐疑的だったが、トンデモなかった。全エピソードの完成度が高く、イッキ見を誘発する引力が持続した。常人には想像もできない一流のプロスポーツ界で活躍する人間たちの戦いだ。つまらないわけはなかった。どこまで映画的な物語だった。
1998年のブルズの1年を、特別に密着を許可されたカメラクルーによる秘蔵映像を通して描いていく(デジタル処理されたと思われる高精細映像が凄い!)。各エピソードごとの主役、テーマにスポットを当て、さらにその背景にあるルーツを膨大な資料映像を交えて深堀る。本作の実質的主人公であるジョーダンをはじめとする「レジェンド」たちの現在のインタビュー映像が差し込まれるが、明け透けな本音と、真意を突きまくる名言の応酬が見もの。
本作を傑作たらしめるのは、その編集力だろう。過去の映像と、インタビュー映像によって紡がれる映像は、1つのドラマとして淀みなく流れ、まるでリアルタイムで進行しているような臨場感を放つ。当時の証人である登場人物らはカメラ相手にインタビューしているものの、まるで同じ空間で会話を交わしているみたいだ。スポーツ映画同様、クライマックスは試合のシーンだ。目まぐるしいアクションのなか、彼らは何を考え、何を信じていたか、勝利への渇望、プライドがぶつかり合う。紙一重で決まる勝敗の分かれ目。濃密なドラマが展開する。ディテールとダイナミズムが同居する描写に手に汗握り、「スラム・ダンク」を読んだときの興奮を思い出した。
全10話、全てが見どころだ。賢者フィル・ジャクソン、最強の相棒ピッペン、暴れん坊ロッドマン、努力の人スティーブ・カー、こんなにも魅力的な人だったのか。人にドラマあり。そのなかでも最も強烈なのは、やはりマイケル・ジョーダンの個性である。彼がバスケ界、いや、スポーツ界の「神」といわれる所以がよくわかった。自らの力で栄光をつかみ、スポーツ界を超えた新たな文化までも築く。そんなジョーダンの意外な一面は、彼のモチベーションの起こし方だ。それは「怒り」。火種のないところでも無理やり火をつけて、「やられたら、やり返す、倍返しだ!」という具合で、半ば無理やりにでも戦う目的を作っていく。また、絶大な影響力も持っていたなかで、頑なに「政治」と一線を引き、スポーツマンに徹したのも印象的だ。
当時、高校生だった自分にとって、ブルズはヒールだった。大好きだったPGプレイヤー「ジョン・ストックトン」が属するユタ・ジャズの優勝を2度もブルズが阻んだからだ。ジョーダンが凄いのはわかってる、だけど好きじゃない。そのストックトンの現在のインタビュー映像もしっかり入っている。彼はジョーダンと同期であり、ジョーダンは空中の覇者であるのに対して、ストックトンは地上の覇者だ。「ジョーダンにオーラなんて感じたことない」と言い放つストックトンがカッコよかった。
【90点】

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