「薄氷の殺人」を観る。中国映画を劇場で観るのは何年ぶりだろう。ベルリン国際映画祭で2冠をとった話題作&水曜日のサービスデーということで、劇場には空席が見当たらなかった。
中国の地方都市を舞台に、連続殺人事件を追う刑事と、その捜査線上に浮かびあがった女性を描く。タイトルから察するに「殺人の追憶」みたいな犯人探しをベースとするサスペンスかと思いきや、まるで違った。犯人の正体は容易に明かされ、その動機や手口もそれほど複雑に描かれない。映画は、刑事と女、2人の関係にフォーカスする。
まず、舞台となる北部の地方都市の光景が目に焼きつく。空は曇天か、雪空。地表は雪と氷に覆われている。ひたすら寒い。緩和を許さず、緊張を強いるような凍てつくカットが続く。1999年~2003年という時代設定からか、あるいは中国の地方都市ならではのセンスなのか、その街並みが何とも言えない味わい。雑然として粗く、ありとあらゆるものが洗練されていない。スケートリンクがデコボコ(笑)。
特に夜の光景だ。古めかしくひびが割れる建造物から、ケバケバしくだらしのないネオン照明がなだれ、登場人物たちを妖しく照らす。演出にも独特の匂いがあり、登場人物たちは、計算された構図の中で無制限に泳がされ、観る者が意図しないスピードで物語が紡ぎ出されていく。それらのワンカットワンカットが鮮烈で、これが監督の作家性なのだと気づくのにあまり時間がかからない。全く方向性が違うが、レフンの「ドライヴ」を初めて観たときのインパク トに近いかも。ただし、その作家性は両刃の刃のようなもので、観る人が考えるイメージ(ある種の共感)とズレも多く、冗長と感じるシーンも少なくない。
主人公の刑事がのめり込んでいく女を演じた、グイ・ルンメイが印象に残る。演じるキャラは、結果として男たちを翻弄する役回りなのだが、それは彼女にとって、美しさ故の悲劇といって良いだろう。主人公を含めた男たちの欲望の的になりながら、底の見えない闇を抱える女性を見事に体現している。彼女のアップが、ネオンの光の中に溶け出していく。何とも美しい画だ。
男は女を愛したが、女は男を愛したのか。事件の果てにある結末も味わい深い。夢の中に出てきたような映画。「眠くならなかった」と言えば嘘になるけど、面白い映画だった。
【65点】
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