
個人的な思い入れが強い映画「スパニッシュアパートメント」(2004)の完結編だ。
自分にとっての青春映画は迷わずこの映画。
その後、続編の「ロシアンドールズ」(2006)が公開され、その際に次の続編をもって3部作が完結すると聞いていた。その記憶が薄れていた昨今、日本での公開を知り観に行った。
あーもう嬉し過ぎて、序盤から泣きそうになる。
主人公のフランス人青年グザヴィエも、今年で40歳である。
15年前の「スパニッシュアパートメント」(1作目)では、バルセロナのシェアハウスを舞台に国際色豊かなルームメイトたちと友情を育んだ。その5年後の「ロシアンドールズ」(2作目)では、同 じルームメイトだったイギリス人女子ウェンディと愛を育んだ。長いブランクを経た本作では、元カノであるマルティヌと、シェアハウスで無二の親友となったレズのイザベルとの友情はそのままに、パートナーであったウェンディと破局を迎えるところから始まる。前作までと本作で大きく違う点は、2人の間に子どもがいるということだ。
グザヴィエがお父さんになっていたのだ。
ヨレヨレシャツを着ていて、いつもの冴えないグザヴィエなのに、その両手の先に2人の子どもがいる。その冒頭シーンが本作を象徴している。
そのグザヴィエが、ウェンディとの破局により、離れ離れになった子どもたちを追ってニューヨークにやってくる。親権はないが子どもたちの近くにいたいために、アメリカでのグリーンカード取得に向け奮闘する姿を描く。
ニューヨークは人種、異文化のるつぼである。1作目ではそれがシェアハウス内であったが、本作ではニューヨークという都市規模に拡大。犬も歩けば異文化に当たるといった具合だ。このシリーズで一貫している、異なる価値観の肯定と、それが繋がったときの喜びを描くのには格好のステージといえる。その背景もニューヨークらしい近代的な場所は避け、「ブルックリン」や「チャイナタウン」など、カオス感の強いエリアが中心になっている。完結編の舞台としてニューヨークを選んだことに強い必然性を感じた。
精子提供、偽装結婚、セックス、同性愛・・・などなど、本作でも多くのイベントを巻き込みながら物語が展開していく。グザヴィエが律 儀であるがゆえに周りの女性に振り回され、結果的に多くの人を巻き込みながら奏でる狂想曲っぷりも健在。その語り口は相変わらず軽妙で、ユーモアが冴えわたる。クライマックスの可笑しさに抱腹絶倒する。劇場も笑いで弾ける。スケールやプロットが広がったのにも関わらず、話がコンパクトにまとまっているのも秀逸。贔屓目で観なくてもやっぱり面白い。
本作の新たなテーマである「家族の幸福」は、間違いなく子どもによってもたらせたものだ。「愛する者ができる喜び」というよりは、子どもが1人の個人である自身を実りある人生に導いてくれる、といった表現が適当だろう。本作ではそれをクライマックスでわかりやすい形で示してくれる。思いやりがあって頭がキレる息子と、どこまでも 愛くるしい娘。単に可愛いだけでなく、どことなくグザヴィエとウェンディのDNAを感じさせるのがミソだ。監督クラピッシュの脚本力よ!
そして、変わらぬ4人の友情が何とも嬉しい。地下鉄のベンチで4人が揃ったシーンに懐かしさがこみ上げる。過去2作の4人の姿がスクリーンに映し出されると涙腺が一気に緩まる。4人を演じたキャスト陣は、実キャリアにおいても「スパニッシュアパートメント」以降、大きな飛躍を遂げた。特にウェンディこと、ケリー・ライリーだ。ポチャカワでショートカットが似合う素朴な女の子は、すっかり洗練された女性になり、今やデンゼル・ワシントンと堂々共演できる女優までにキャリアアップした。イザベルこと、セシル・ドゥ・フランスは1作目で感じた大器が 、そのまま実現したような活躍ぶりだ。主演のロマン・デュリスは風貌がまったく変わらなくて若い。
すっかり大人になった彼らは親になったことで、責任ある立場になったものの、自らの手で人生を切り拓くポジティブなスタンスを変えなかった。ラストの高揚感がすべてを物語る。本作も青春映画だったのが何よりも嬉しい。
欲をいえば、1作目、2作目の他メンバーも出演してほしかったなー。
映画は1人の人格のようなもので、映画を観るたびに1つの出会いを経験する。1作目と2作目で描かれていた内容が、当時の自分の私生活と被ることが多く、この映画の物語と同じ感動を共有できたようで、自分にとっては特別な出会いだった。
本作でお別れとなるのが寂しいけれど、これからもこの映画と旧交を温めていきたいと思う。
【95点】ありがとう!

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