来月発表されるトニー賞について、今月嬉しいニュースが飛び込んできた。
ブロードウェイミュージカル「王様と私」で主演を演じた渡辺謙が主演男優賞候補に名を連ねたのだ。その受賞の行方を期待するのは野暮なことだ。ミュージカルの本場であるアメリカで評価され、名誉ある賞の候補に挙がった、それだけで大変な快挙である。
このニュースに心躍らされていたなか、今日、NHKの番組「プロフェッショナル」で、渡辺謙の今回のミュージカルに挑戦する舞台裏に密着したドキュメンタリーが放送されていたので、録画し、さっそく観た。
渡辺謙の壮絶な生き様にシビれた。そして、感動しました。
55歳という年齢で、初めて挑むミュージカル劇。しかも、舞台は異言語圏、かつ、誤魔化しの効かないブロードウェイ。挑むのは、50年以上前に映画界の伝説的名優ユル・ブリンナーが演じ、カッコたる地位を築いた「王様と私」だ。
想像を絶するプレッシャーと試練が、渡辺謙を待ち受ける。俳優として、日本の映画界の頂点を極めた男が、簡単に叩きのめされる。それでも彼は食らいつく。あきらめない。猛稽古をひたすら反復する。
「試す。捨てる。試す。捨てる。」
そして、血反吐を吐いて足掻いた先にようやく光が見えてくる。
「断崖絶壁をよじ登るように生きなければ」
「役者という職業は恥を掻く商売」
「捨てることの勇気を持つこと」
「キャリアは何の役にも立たない」
「朝、自分の声を聞いて、今日も演じられると実感する」
彼の口から発せられる言葉の一言一言が、圧倒的な迫力と説得力をもって響く。彼の生活、生きることすべてが真っ直ぐ、役者という仕事に向かっている。
番組は現在の渡辺謙という俳優が形成された道のりを、本人のインタビューを交えて遡る。
20代で大河ドラマの主役に抜擢され、その後も映画、テレビで活躍し、輝かしいキャリアを築いてきたこと。2度の白血病で役者という仕事に対する意識が変わったこと。初の海外進出だけでなく、演技の価値観を覆された「ラストサムライ」。俳優である前に日本人として、与えられた役柄を演じるだけでなく、映画の製作(脚本)の訂正を行った「硫黄島からの手紙」、などなど。
仕事に対して、どこまでも謙虚であり、どこまでも情熱を持ち続ける彼の生き様に強い感銘を受けた。過去にテレビのバラエティに出ていた時は茶目っ気たっぷりで、気さくでサービス精神が旺盛だった。いやーどこまで素敵でカッコいい人なんだ。
番組恒例の「プロフェッショナルとは?」という最後の問いに対して、「与えれた状況のなかでベストをつくすこと」と答えた。何度も聞いたことのある言葉であるが、彼の生き様はまさにその言葉に集約されていた。
自分の生き方も自然と振り返ってしまう。
日頃、ついつい妥協点を探してしまう自分が恥ずかしくなる。
もう少し頑張らば、違う結果が現われるかもしれない。
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