見終わったあと、ヘトヘトになる。打ちのめされた。ライトで気軽な体験が持てはやされる昨今。興行的な勝算は薄いとわかっていても製作に踏み切り、「今」描くべきドラマへと昇華させた情熱に感服する。本作もまた大いなる映画体験だった。
1300年代初期のフランス(日本でいうと室町時代)。かつて親友同士だった2人の男が、「勝って相手を殺した方が正義で無罪」(無茶苦茶だわ)という決闘裁判へと至ってしまった経緯とその結末を描く。太陽が照らす晴れの天気を排除し、終始、曇か雪。青みがかった冷淡なトーンで背景を統一。重量感が伝わる甲冑での戦闘は泥と血にまみれ、容赦ないバイオレンス描写に痛覚が刺激される。粗野で残虐だった中世の時代に観客を引き込む。
原告、被害者、被告、2人の男と1人の女。3人に起きた出来事は1つであるが、「真実」は3つに分かれる必然。それぞれの視点、3人の異なる心理から形成される真実の正体に唸らされる。ミステリーが解き明かされる過程で描かれるのは、「妻の役目は男子を生むこと」「女は何をされても沈黙せよ」といった歪んだ男尊女卑の歴史であり、命をかけて抗う、あるいは翻弄される被害者の姿は、現代に繋がる社会構造への痛烈なメッセージとして響く。
被害者で虐げられる立場のジョディ・カマー演じる妻が、強い女性として輝いてみえてくるのは、キャストを含めた製作陣の女性へのリスペクトがあってこそだろう。三者三様の「クズ男」に徹したマット・デイモン、アダム・ドライバー、ベン・アフレックの献身性も素晴らしかった。
【80点】