ネトフリは、たまにホームラン級のオリジナルドラマをぶっこんでくる。ネトフリのリミテッドシリーズにおける2019年の最高傑作は「アンビリーバブル」であるならば、今年2020年の最高傑作は「クイーンズ・ギャンビット」になるだろう。
映画や海外ドラマの感想アップが滞るなか、本作については残しておかねば。。。と、1か月前に視聴した記憶を辿りながら簡単にまとめる。
米ソ冷戦期を舞台に、チェスの天才女子の活躍を描いたドラマだ。一見、ありがちな「実話」ベースの話と思われたが、完全なフィクションの模様。但し、実話という鎧をまとわずとも、ドラマの世界に終始引き込まれた。
少女期に起きた壮絶な悲劇。その呪縛からの解放。天から与えられた頭脳と、チェスとの運命的な出会い。主人公の師であった無口な用務員との絆。孤児院で出会い、彼女の心の糧となる友情。新しい家族と築く新たな人生。人を知り、異性を知り、無垢だった少女時代からの成長。忘れることのできない恋。チェスによってもたらされた世界の広がり。紅一点、男性社会のチェス界で躍進する痛快さ。初めて知る屈辱。酒とドラッグ、ダークサイドへの転落と、鮮やかな復活、その先にある新たな境地。
「勝ち負けだけではない。チェスは美しい。」と、自身のアイデンティティの証明だけでなく、純粋なチェスへの想いが貫かれるのがいい。一方で、基本、チェスをスポーツとして見せるドラマだ。小さな盤上で完結し、プレイヤーの思考や動きが見えにくい競技にあって、ここまでわかりやすく、スリリングでダイナミックな世界を表現できたのは、かなりの離れ技だ。スポーツマンシップの美学もしっかり捉えられる。
劇中、主人公を取材する記者が発した「創造と心の闇は表裏一体」という言葉が、主人公の個性を象徴する。演じるアニャ・テイラー=ジョイが最高の最高。今後、彼女のキャリアを振り返るうえで大きな意味を持つ作品になるのではないか。「ザ・ウィッチ」「スプリット」と映画界での活躍もそうだが、自身が彼女のファンになったのは「ダーククリスタル~(人形劇)」での声優としてのパフォーマンスだった。彼女の才能が、いよいよ本作で見事に花開き、魅力全開である。チェスの勝負に勝ったときのクールなドヤ顔が堪んねーし。
脚本、演出、編集、音楽、衣装、メイク、美術と、あらゆる要素が研ぎ澄まさた一級映像作品でもある。ワンショット、ワンショットがいちいち楽しい。計7話というサイズ感だからここまでのパワーがあるのかも。久々に海外ドラマを見て痺れた。
【85点】