”世界は音で溢れている”。音楽の神に愛され、音楽を奏でずにはいられない”天才”という稀有な人間たちの生き様から、音楽の深淵を見る。音を楽しむと書く「音楽」は、音を拾い集める遊びでもあったか。映像化困難という前評判だったが、いざ見てみれば、これほど映画化、そして劇場鑑賞にうってつけの原作はなかったのではないかと思う。見事な映像化だ。上下に分かれる長い原作。原作は未読だが、おそらく2時間の映画に収めるために、見どころであるコンクールのシーンに絞った模様。音楽を知らない素人にも、わかりやすいエンタメとして提示してくれる。「大丈夫、彼はねじ伏せる気だ」、演奏シーンには駆け引きが見え、十分にスリリング。主要キャラの4人の個性が立ちまくっており、それぞれが共鳴し合う構成。演じる4人の俳優がもれなくいい。だけに、ブルゾンのキャスティングが浮いてしまうのが残念。クライマックスは、女王の「帰還」あるいは「覚醒」。疾走感あふれる選曲と相まって、カタルシスが襲ってくる。トラウマと悦びがせめぎ合い、向こうの世界に突破する感覚。その圧巻のラストシーンに、劇場全体が恍惚の空気に包まれているようだった。
【70点】