アニメーションのクオリティに見入ってしまう。サンゴに囲まれたひたすらに美しい海の世界から、人口湾で濁った薄暗い海の世界まで。圧巻の映像美だ。そしてピクサー映画ともなれば、視覚のみならハートも楽しませてくれると期待する。ピクサーらしい想像力溢れる演出とポジティブなメッセージは本作でも健在だ。しかし、歴代の並いる傑作タイトルと比べてしまうといろいろと物足りなさが残る。
本作の主人公は忘れん坊のドリーだ。冒頭から彼女の深刻さが強調される。彼女には生き別れた家族がいて、彼女がニモたちに出会うまで、孤独な人生を歩んできたことが明らかになる。その原因を作ったのが彼女のモノ忘れであったということ。前作ではチャームであったドリーの個性が、明らかな障害として描かれる。また、新たに登場するキャラクタにも一見「生きづらい」ハンデを与える。本作のテーマが浮かび上がってくる。
自身のハンデすらも個性のなかに包含し、その可能性を信じること。他者との関わり合いの社会のなかでは、その個性が実りある人生にきっと導いてくれる。。。。誰もが楽しめるユーモアで盛った楽天的な物語に、そうしたメッセージをしっかり偲ばせる手腕は流石だ。しかし、今回についてはいささか見え透いてしまった印象が強い。そもそも個性についての考察は前作の「ニモ」で済んでしまったことだ。ドリーが何気なく発した「大事なことは偶然起きるもの(そんなセリフ?)」といった、人生の偶発性について掘り下げてくれたほうが面白かったと思う。
それよりも残念だったのが、アクションのやりすぎだ。観る者が発想できない演出を施すことは、「何でもアリ」な世界を描くことではない。海中生物としての制限を超え、困ったときの「タコ」頼みのパターンに全くスリルを感じなかった。白イルカのエコロケーションって、地上の空気中で機能するワケない。ラストのカーアクションでは絶句し大いにシラける。前作は非現実とファンタジーのバランスがもっと良かった。前作からスケールアップさせることを狙い過ぎて、過剰なアクションに走ってしまった。ピクサーらしくないセンスの悪さを感じる。
本作を観て劇場出た人がみんな口に出すであろう「八代亜紀」。日本のマーケットでは抜群の強さを誇るディズニーにとっては、日本へのローカライズは自由自在のようだ。失敗することも多々あるなか、本作についてはことごとく成功している。なかでも芸能人の声優起用が見事にキマっているのが印象的だ。前作から続投の木梨憲武や室井滋を勿論のこと、本作でキーマンとなるタコのハンクを演じた上川隆也が非常に巧い。水族館で一生暮らすことを望む変わり者を自然体で表現し、ドリーとの間に芽生える友情に熱くさせる。白イルカを演じた中村アンも意外に良かった。
「タッチゾーン」の恐るべき(笑)描写の毒っ気や、ドリーのフラッシュバックシーンの編集の妙など、「やっぱ凄いな~」と唸されるシーンもあるが、アクションシーンでは減点要素が多く「普通に面白い」の域は超えなかった。アメリカ本国ではアニメ映画としては歴代ナンバー1のヒットになるとのこと。アメリカもシリーズタイトルでしか、大きなヒットは見込めなくなっているようだ。
本編よりも秀逸なのは、本編前に上映される短編映画「ひな鳥の冒険」だ。映像の美しさは言わずもがな、あんな短時間で主人公の成長をドラマチックに描いてしまうとは。何事も踏み出さないと新しい世界は見えてこないんだよね。
【65点】