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SAMURAI!~西澤廣義との再会 中編

2010-09-19 | 海軍
さて、マーティン・ケイデン著、SAMURAI!前半いかがでしたでしょうか。
再会するだけでもう大変なことになってしまったサカイとニシザワ、後半ではさらに愁嘆場となってしまいます。

西澤一飛曹は坂井先任に「志望して明日フィリピンに行くことになった」と言うのですが、これも、実際はこの再会から一年後のことです。
教官をしていた時期と言い、これといい、作者はどうやらまるまる一年勘違いしているようですね。
そして「そんなに早く?」と驚く坂井に彼はこう答えます。

「横須賀近辺を飛び回ってるのは性に合わん。俺はまた自分の手で戦いたい。ただアクションあるのみさ。日本でじっとしているなんてまるで生殺しだ」

アメリカでは任地を希望すればその通りになったのでしょうか。
実際は西澤一飛曹の階級で自分がどこへ行きたいなどと表明することすらできなかったでしょう。ここは勿論創作です。
実際は西澤はこの一年後岡嶋清熊大尉のたっての希望でフィリピンに行くことになります。

それを受けて坂井はこう切り出します。

「貴様がうらやましいよ、西澤。
でも、まあ、ラバウルのことでも話していってくれよ。皆がどうしてるか。
笹井中尉はどこにおられる?それから、太田は?一緒じゃないのか?
俺の列機だった米川と羽鳥は?彼らのことを聴きたい」

「何?」
かれは私を凝視した。顔が青ざめ、その目に絶望がよぎった。
「聴いていなかったのか・・・・」
「何を言っているんだ?」
かれは力なく手を振った。
「いったい何があったんだ西澤?一緒に帰ってきたんじゃなかったのか?」

かれはくるりと背中を向けた。その声はしめつけられるようだった。
「三郎、彼らは・・・・・」
かれは手を額に当てた。そしてその手をぐりぐりと回した。

「死んだ」

信じられん・・・・!そんなはずはない!
「何を言っている?」私は叫んだ。
「みんな死んだよ。きさまと俺だけだ、三郎。きさまと俺だけ・・・まだ生きているのは俺たちだけだ」

嘘だ!
頭がこの悲劇を理解しようとする間、私の膝はがっくりと折れ、私はテーブルにもたれかかった。



坂井さんにラバウルの同僚の死を、特に笹井中尉の死を伝えたのは誰だったのでしょうか。
実際は西澤廣義ではないことは事実です。
台南空がラバウルを引き上げ、豊橋で再結成されたときにはもう坂井さんは笹井中尉の死を知っていました。

余談ですが、「坂井ががっかりするから知らせるな」と言って、皆が知らせなかったため、半年間はそれを知らなかった、と「大空のサムライ」にあります。
坂井さんががっかりするから、というより、誰もかれに真実を告げる役目を引き受けたがらなかった、というのが本当のところではなかったかと私は思うのですが・・・。

「笹井中尉が最初だった。
8月26日のガダル哨戒のときだよ。
もうきさまが知っているような感じじゃなかった。三郎。
もうワイルドキャットが何機いたかわからない。
太陽を背に際限なくなだれ込んできたんだ。
編隊をばらばらにされてしまって絶体絶命だった。
ちりぢりになったので誰も笹井機が墜ちたのを見ていないんだ。
怪我をしたか何かで先に帰ったのだろうと思っていたんだが、我々がラバウルに帰っても中尉は帰っていなかった・・・。
そしてそのまま帰ってこなかった」

西澤は弱々しくしくため息をついた。

「それから太田だ。たった一週間あとだよ。
出撃するたびに何機も喰われていった。
ガダルカナル上空は完璧に敵の制圧下にあった。
太田も笹井中尉と一緒だ。誰もかれの機が墜ちるのを見ていない。
ただ、帰ってこなかったんだ」

「それから三日四日して米川と羽鳥がやられた。どちらも同じ日に死んだ。
俺と一緒に帰ってきたのは齊藤司令、中島少佐、生き残った隊員十八人に搭乗員六人。
それだけだ」


前半で書きましたが、この本のためにまず日系二世のフレッド・サイトウが坂井さんにインタビューをしました。

「大空のサムライ」執筆の際は、台南空の行動調書が手掛かりにされたそうですが、最初にサイトウ氏のインタビューを受けたとき、坂井さんは主に記憶をたどっていたと思われ、そのため時系列や事実があいまいになった部分がこの本にはあちこちに見られます。
たとえばこの部分だと、8月26日のガダル哨戒に西澤一飛曹は参加していませんし、太田二飛曹が笹井中尉の一週間後に戦死したということになってしまっています。
(実際は二カ月後)

ただ、この本ではっきりしたことがあります。

羽鳥一志二飛曹の名前です。
羽鳥を何と読むかということについてあちこちの記述では「うとう」「はとう」説があり、なんとなく「うとう」かなと思っていたのですが、意外やこの英語版ではHatoriとなっています。

坂井さんがサイトウ氏に直接受けたインタビューですので、これは間違いようがなく、この本の「はとり」が正しいのではないかと思います。
他にあまり信憑性のないこのSAMURAI!ですが、羽鳥の読み方に関してだけはこれが最終結論かもしれません。

それにしてもドラマティックですね。
まるで映画を見るようです。

まだまだ(!)続きますので、再会編を三編に分けることにしました。