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芋を掘る理由

2010-09-09 | 海軍


お待たせしました。

って、誰も待っていないとは思いますが、海軍さんのイモ掘りについてです。
しかし、このテーマについては膨大な事例があり、
一回の記事では考察しきれないのが現状です。
したがって、今日はとりあえず「第一回」ということで。

このブログに「笹井中尉 イモ掘り」の検索で来た方、見てらっしゃいますか~?
今日は残念ながら笹井中尉の話ではありません。


さて、いまさらとは思いますが、酔っぱらって器物損壊したり、
芸者を投げ飛ばすことを海軍隠語で「芋を掘る」といいます。
このようなニッチな言葉ができること自体、
その行為がいかに正当化されていたかがわかりますね。

・・いや、正当化されていたわけでもないんでしょうが、
現代では考えられないほど、まっとうな人たちが、
半ば嬉々として?これをやっています。

しょっちゅう襖を破られたり、火をつけられたり、
体落としを喰らったりしている海軍御用達のレス(料亭)やエス(芸者)は
「お国のために戦ってくれているんだから、これくらいしかたない」
と、物事を公にしなかったのでしょうか。

そして、必ずと言っていいほど被害を受けたのが「池の鯉」
なぜか池に踏み込んで鯉をとるんですよね。
鯉もえらい迷惑です。
しかし少なくとも、海軍さんがそれで罰を受けたり、
レスから訴えられたなどと言う話は聞いたことがありません。
(聞いたことがないだけで、公にならなかっただけかもしれませんが)

最も、これは海軍基地のある「お膝元」での範囲で、
陸軍のシマだったり軍人など見たことがない、という盛り場では
やはり問題になるため、さしもの海軍さんも遠慮したようです。
ホームグラウンドは暖かく見守るというか、大目に見られていたため、
海軍さんたちは心おきなく?イモ掘りができたもののようです。

さて、器物損壊や酷い場合には傷害にまで及ぶには、
いくらなんでも、その理由やきっかけがあると思います。

今日はこの理由についてです。


エリス中尉が色々海軍関係で集めた本の中には何冊か漫画本も混じっていて、
その中に「零戦激闘伝説 謎101」(学研)というのがあります。

(余談ですが、エリス中尉、マンガは、主にオンラインで買ってPCで読んでいます。
だって、かわぐちかいじの「ジパング」なんて、全40巻くらいですよ・・・。
5冊づつ買って今30巻まで進みました)

さて、この本に、エリス中尉の好きな絵柄の作家さん、
松田大秀氏の「”斜め銃”の男」という短編があるのですが
(タイトルは勿論ご存知小園安名大佐のことです)
この最初の出だしが、レスで別の座敷にいきなり乱入、
その理由が「芸者をひとりじめしやがってけしからんから」奪いにいく、というもの。

んん?この話はどこかで・・・。

海軍予備士官であったH大尉の著書に、このエピソードの元になったと思われる話を発見。

戦闘で消耗が激しい毎日の一時の憩いを求めて、
H大尉のいる飛行隊の皆さんはある日「H」というレスに繰り出しました。
ところがその日に限って帳場の「すぐ行きます」という返事にもかかわらず
エスが姿を見せないのです。
各部屋を偵察してきた隊員の、他の部屋で芸者を占領している奴らがいる、
というけしからん報告を受け、大尉たちは
「それではご挨拶に行こう」とその部屋に押しかけます。

「戦闘○○○飛行隊がご挨拶に参上!」

と芸者を連れ出そうとすると、相手も阻止しようとかかってきて、
殴り合いの乱闘になってしまったそうです。

漫画では芸者と彼女を連れ出した中尉が

「潜水艦乗りなんだって。今日の宴会の人たち。
明日はフィリピンに向けて出港するのよ」

「ドンガメか・・・。フィリピンは無理だな。台湾あたりでボカチンだぜ」

と会話するのですが、これも、この本の

「そのときの相手は、潜水艦の乗組員だったということを聞き、
本当に悪かったとみんなで反省はしたものの、後の祭りになってしまった」


という本の一節からの創作と思われます。


H大尉がこのとき積極的にイモを掘ったのかどうかは書かれていません。
血気盛んな若いときのこととはいえ、戦後教育者として生きてこられた
人格高潔、人品骨柄春風のごとき大尉にそんな時期があったことさえ
想像しにくいことではあるのですが、
実はこの少し前に「イモ掘り初陣」についての大尉の述壊があります。

H大尉がレスだのエスだのをあまりご存じなかったころ、
歓迎会で件の「H」に初めて行くことになりました。

最初こそ「エスとは綺麗なものだ」とのんきに感心していた大尉、
宴たけなわになって同僚が廊下で暴れたり、池に入って鯉を捕まえたり
「正気の沙汰ではない」という状態になってくると、
ひとりだけ「正気」でいるのもおかしなものだという理由で
「酔ったふりをして暴れてみた」のだそうです。
こういう理由で付き合い良くイモ掘った人もいたんですね、きっと。

で、ご感想は?

「エスが本気で止めに来る。これは、いいものだと思った」
「たまにはイモを掘るのも良いものだと思った」

・・・それはよかったです。

ちなみに「ドンガメ乗り」の宴会イモ掘りについては、
次の日、隊に憲兵が来たそうですが、飛行隊長の
「搭乗員の代わりを連れてきたら(犯人を)引き渡してやる」
という一言で治まってしまったそうです。

海軍が、レスを指定したり「遊ぶのはブラック(玄人)」と限定して制限を設けつつも、
比較的おおらかに遊びを推奨していたのは有名ですが、
あり余る若さの爆発と、消耗する精神のバランスを取るひとつの方法としてのイモ掘りを
世間も含め周囲が黙認していたことも、ほぼ間違いないかと思われます。

ただし、地域限定。



<第一回考察終わり>