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厚生労働省新型インフルエンザ対策推進本部の「新型インフルエンザの発生動向~医療従事者向け疫学情報~」によれば、国立感染症研究所は、7月27日より11月15日までの新型インフルエンザによる受診者数(発症し、かつ医療機関を受診した患者数)を約898万人と推計しています。これは感染者数ではありません。感染しても発症しない人(「不顕性感染」)もいますし、感染し発症しても、医療機関を受診せずに自宅療養をした人もいると思われます。少なくとも900万人以上がインフルエンザA(いわゆる「新型インフルエンザ」)に感染したわけです。日本の人口がおよそ1億3千万人ですから、全人口の少なくとも7%の人が新型インフルエンザに感染したことになります。言い換えれば、14人に少なくとも1人は罹患し、免疫を持つに至っていることになります
「集団免疫(herd immunity)」という言葉があります。集団の構成員の一定数が免疫を獲得すると、集団の中に感染患者が出ても、集団の中で感染が阻止されることを意味し、その結果、子供や老人などの免疫力が弱い(「免疫学的弱者」、「ハイリスク群」)者たちが感染を免れることができることを言います。
インフルエンザワクチンは集団において一定以上の接種率があると「集団免疫」としての感染防止効果があると言われています。三重県保健環境研究所は、インフルエンザワクチンの集団免疫について検討するため、1999~2000年シーズンと2000~2001年シーズンのインフルエンザワクチン接種状況とインフルエンザの流行状況について調査を行い、2001年に「集団入所福祉施設等におけるインフルエンザ様疾患の発生動向調査とインフルエンザワクチンの効果」という研究報告にまとめています。
調査対象は、三重県内の集団入所福祉施設および長期療養型病床をもつ病院などの入所者で、1999~2000年シーズン216 施設、2000~2001年シーズン243 施設でした。そのうち、老人福祉施設(1999~2000年シーズン57.9%、2000~2001年シーズン59.3%)が最も多く,過半数を占めています。インフルエンザ発病者の人数は1999~2000年シーズンは780人(発病率4.2%)、2000~2001年シーズンは298人(発病率1.5%)です。
2000~2001年シーズンは、1999~2000年シーズンと比べ、インフルエンザ発病者の人数が3分の1程度になっていますが、これはインフルエンザの流行の度合いによるものと思われ、インフルエンザワクチンの接種率(1999~2000年シーズンは59.1%(総計18,441人のうち接種者10,893人)、2000~2001年シーズン70.7%(総計20,101人のうち接種者14,202人))の上昇によるものと理解するわけにはいきません。
そこで、外部との交流が少ない環境でワクチンの接種者と非接種者の発病率に違いがあるかを見てみることにしましょう。1999~2000年シーズンでは、接種者10,893人のうち発病したのは、234人で発病率2.1%、非接種者7,548人のうち発病したのは、546人で発病率7.2%、その差は3.4倍です。2000~2001年シーズンでは、接種者14,202人のうち発病したのは、147人で発病率1.0%、非接種者5,899人のうち発病したのは、151人で発病率2.6%、その差は2.6倍です。この数字を見る限り、ワクチン接種が感染予防に役立つことがみてとれます。
この発病率の有意な違いは、「集団免疫」も関係していることを判断するために、施設ごとの接種率と発病率の関連を見てみましょう。接種率が70%以上だった施設数は1999~2000年シーズンで115施設、そのうち発病率が0%だったのは、81施設。70%にあたります。接種率が70%以下だった施設数は101施設、そのうち発病率が0%だったのは、47施設。47%にあたります。発病率の差は23%で、かなり大きい。2000~2001年シーズンでは、接種率が70%以上だった施設数は163施設、そのうち発病率が0%だったのは、136施設。83%にあたります。接種率が70%以下だった施設数は80施設、そのうち発病率が0%だったのは、44施設。55%にあたります。発病率の差は28%です。
三重県保健環境研究所の「保健環境研究部年報 第3号」の研究報告では、「インフルエンザワクチン接種率の高い施設ほど発病率が低くなる傾向が認められ、特にワクチン接種率が70%以上の老人福祉施設では、発病率が有意に低くなった。」という「まとめ」になっています。つまり、「集団免疫」が有効に働いて、発病率を大きく抑えるのは、ワクチンの接種率が70%以上であるとこのデータからは言えるのでしょう。
(インフルエンザの感染を予防するのは、ワクチンの接種だけではありません。ウイルスの施設内への侵入を防ぐには、外来者の立ち入りを制限する、外来者や施設内従業員にウイルスを持ち込ませない(マスク着用や手洗いの励行など)、発病者を集団からいち早く隔離する、などの手段もあります。インフルエンザワクチンの接種率が高いのは、感染症予防の意識の高い施設であると考えられ、必ずしもワクチンの接種率の高さが発病率の低さを保証するものとも言い切れません。)
「第1回新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会」が2009年11月21日、厚生労働省で開かれ、新型インフルエンザのワクチン接種による副反応(副作用)についての報告がなされました。11月16日までに寄せられた副作用報告は約450万件の接種に対し877件だったようです。この877件のうち、入院相当の重い副作用は0.002%(10万件に2件)の68件。11月20日までに報告された接種後の死亡例21件のうち調査中の2件を除く19件は、基礎疾患のあった人で、年齢は50歳から90歳代。
死亡例21件中4件は、新型インフルエンザワクチン接種との関連が否定できないとされ、心臓、腎臓、呼吸器などに障害のある人への接種は慎重な判断が必要だということになったようです。インフルエンザに感染すると重篤化する可能性の高い「ハイリスク群」の人たちへのワクチン接種が躊躇されることになれば、この人たちはどうすればよいのでしょう。インフルエンザに感染して重篤化するリスクとインフルエンザワクチンを接種して危険な状態に陥るリスクを選択しなければなりません。命を守るはずだった「ワクチン」に命を奪われることになるのです。しかし、「インフルエンザに感染して重篤化するリスク」は、「インフルエンザワクチンを接種して危険な状態に陥るリスク」よりは高いと考えられますから、ワクチン接種を選択することになるのでしょう。
この「ハイリスク群」の人たちを守るには、「集団」が「免疫」を獲得することが一番と思われ、新型インフルエンザワクチンが有効性を持つならば、速やかに多くの人に接種が行われることを希望してやみません。
新型インフルエンザワクチンの安全性について、「第1回新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会」の報告によれば、季節性インフルエンザワクチンの場合、2007年度の入院相当の副作用報告は122件で、0.0003%。100万件に3件の割合になります。そのうち、死亡は4件。新型インフルエンザワクチンの場合、これまでのところ、入院相当の副作用報告は68件で、0.002%。10万件に2件の割合で、季節性インフルエンザワクチンの場合の8倍ほどにもなります。死亡例中4件は、接種との関連が否定できないとされています。季節性インフルエンザワクチンの場合より報告頻度が高いのですが、「因果関係がないと考えられる場合も報告しており、単純比較はできない」としたのが専門家の意見であり、新型インフルエンザワクチンの安全性は季節性インフルエンザワクチンの安全性と大きく変わりはないと判断されたようです。
(参考)新聞報道された「新型インフルエンザワクチン接種後に亡くなられた人たち」
・岐阜県の糖尿病や高血圧、心筋梗塞などの基礎疾患があった70歳代男性が接種約3時間半後に心筋梗塞で急死。
・長野県の間質性肺炎などの基礎疾患があった80歳代の女性が接種の翌日に死亡。
・富山県の肺気腫の基礎疾患があった70歳代の男性が接種の翌日に急性呼吸不全で死亡。
・長野県の慢性呼吸不全の基礎疾患があった80歳代の男性が接種5日後に呼吸不全で死亡。
・滋賀県の肺気腫と胃癌の基礎疾患があった80歳代の男性。ワクチンか持病のどちらかが死亡の原因。
・富山県の脳梗塞と燕下性肺炎の基礎疾患があった80歳代の男性。ワクチンで発熱した可能性があるが、死亡との関連は低いという。
・栃木県の肝細胞癌の基礎疾患があった60歳代の男性。ワクチンとの関連はないという。
・静岡県の慢性腎不全と腎癌の基礎疾患があった70歳代の女性。ワクチンとの関連はないという。
厚生労働省は11月20日、医療従事者約2万人を対象にした新型インフルエンザワクチン副反応(副作用)調査の中間報告をまとめています。その中で、424人に接種後の異常が見られたとしています(因果関係が疑われると医師が判断したのはそのうちの337人)。異常の発生率は1.7%ほどになります。
入院相当の異常は6人(発生率0.03%、1万人に3人)で、意識低下、嘔吐・吐き気、両足の筋肉痛などだったようです。入院相当とは考えられなかった異常は、接種1週間以内の高熱が39件、3日以内の蕁麻疹が28件だったそうです。
(追記)
Dr. Joel Kettner, Manitoba's chief public health officer, said Thursday that GlaxoSmithKline has asked that the October batch be taken out of circulation because it produced serious and immediate anaphylactic reactions in one out of 20,000 vaccinations, compared with one out of 100,000 in other shipments. “We’ve been asked by the manufacturer GSK to not use this vaccine at this time pending further investigation,” he said.(Friday, November 20, 2009, Winnipeg Free Press)
カナダ中部のマニトバ州で、イギリスの大手医薬品メーカー、グラクソ・スミスクライン社の製造した10月出荷分の一部のワクチンに通常とは異なる頻度で重い副反応(serious and immediate anaphylactic reactions、アナフィラキシー・ショック)が発生したので、グラクソ・スミスクライン社は接種を中止するように要請したようです。アナフィラキシー・ショックの発生率が通常は10万件に1件ほどのものが、その10月出荷分は2万件に1件ほどと発生率が5倍になっているそうです。
(この項 健人のパパ)
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