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鳥取県で1月8日に30歳代女性がインフルエンザ感染で死亡しました。合併症として肺炎を引き起こしたことで亡くなったようです。インフルエンザ感染で重篤化することの多い「ハイリスク群」には属していませんでした。
「ハイリスク群」とは、インフルエンザに感染すると、重症化や合併症を引き起こす可能性の高いグループのことで下記の人たちです。
(1) 65歳以上の高齢者
(2) 妊娠28週以降の妊婦
(3) 慢性肺疾患(肺気腫、気管支喘息、肺線維症、肺結核など)を持っている人
(4) 心疾患(僧帽弁膜症・鬱血性心不全など)を持っている人
(5) 腎疾患(慢性賢不全・血液透析患者・腎移植患者など)を持っている人
(6) 代謝異常(糖尿病・アジソン病など)を持っている人
(7) 免疫不全状態の患者
「インフルエンザ」は、インフルエンザウイルスが呼吸器に感染することによって起こる病気で、鼻水、鼻づまり、微熱、きわめて短期間の軽度の悪寒といった「風邪(普通感冒)症状」とは異なり、発熱(38~40℃)、筋肉痛、関節痛、全身倦怠感、強度の悪寒といった症状をみせます。気管支炎、肺炎、インフルエンザ脳症といった合併症を引き起こし、二次感染や急性脳症により死亡することもあります。
2000年から2009年までの10年間の「インフルエンザによる死者数」の統計があります。2001年と2008年が300人未満で死者数の少ない年で、2003年と2005年が1,000人を超えた死者数の多い年でした。10年間の平均では、インフルエンザ感染で亡くなる人は年間730人ほどになります。
2000年 0,575人
2001年 0,214人
2002年 0,358人
2003年 1,171人
2004年 0,694人
2005年 1,818人
2006年 0,865人
2007年 0,696人
2008年 0,272人
2009年 0,625人
ヒトに流行を起こしているインフルエンザウイルスには、A型のH1亜型(Aソ連型)、H3亜型(A香港型)とB型の3種類があります。B型インフルエンザには、ビクトリア系統と山形系統の2つの抗原性の異なるタイプがあり、2004年~2005年シーズンに流行したのは、山形系統でした。2005年には、インフルエンザによる死亡者は1,818人に上っています。平均の2.5倍でした。
2004年~2005年シーズンは30歳代から50歳代の患者数の割合が例年に比べて多かったようです。この年齢層はいろいろなタイプのインフルエンザウイルスに対する抗体を持っていることが多く、インフルエンザには罹りにくい。そのため、ワクチンの接種率も低いことから、抗体で対抗できないインフルエンザのタイプが流行すると、この年齢層は日常的に多くの人と接触するので、一気に流行が広がることになります。
新型インフルエンザに感染した鳥取県境港市の30歳代の女性は、1月8日午前に、インフルエンザ様の症状で病院を受診します。簡易検査でA型陽性と診断されたことから、タミフルなどを処方されます。しかし、同日午後に自宅で倒れているのを家族に発見され、救急搬送された病院で死亡が確認されることになります。
女性に基礎疾患はなく、またインフルエンザワクチンの接種は受けていなかったといいます。自然感染でいろいろなウイルスに対する抗体を獲得しているはずの年齢層に属し、一般的には疾患に体力的に対抗できるはずなのですが、何が起ったのでしょう。痛ましいことです。ご冥福をお祈りします。
京都市は、1月14日に、新型インフルエンザに感染した50歳代の男性が死亡したと発表しました。男性は1月10日夜に発熱します。翌11日にインフルエンザA型陽性と診断され、抗インフルエンザ薬の「イナビル」の投与などの治療を受けますが、14日朝に肺炎により死亡します。
この男性には「胚嚢胞症」の基礎疾患がありましたが、インフルエンザワクチンの接種を受けていなかったといいます。30歳代女性も50歳代男性もともに合併症の肺炎で亡くなり、ともにインフルエンザワクチンの接種を受けてはいませんでした。
昨年末の2010年12月29日に、韓国では新型インフルエンザの死亡例が報告されています。30歳の男性が12月27日にインフルエンザ発症に特徴的な症状である「高熱と筋肉痛」を訴えます。翌28日に新型インフルエンザ(A/H1N1)と診断されます。29日未明に症状が悪化し、集中治療室で治療を受けますが、容態は好転せず、死亡したそうです。韓国では、今年の2011年1月3日に、女子中学生の死亡も報告されています。
2009年に発生した新型インフルエンザ対策で、政府の対策本部専門家諮問委員会の委員長を務めた、自治医科大地域医療学センター公衆衛生学部門の「尾身茂」教授は、2010年12月12日に、日本ワクチン学会の学術集会で講演し、次のような見解を述べたそうです。
「新型インフルエンザは、2009年~2010年シーズンの流行が小中高校生を中心に広がったことで、この年齢層にはウイルスに対する抗体を獲得している者がいることから、ウイルスの大きな抗原変異がないことを前提にすれば、2010年~2011年シーズンはこの年齢層ではなく、乳幼児や成人で新型インフルエンザ(AH1pdm)感染が広がる恐れがある。」
新型インフルエンザに限れば、いままでのところ、死亡例は2例ですが、季節性インフルエンザ(A香港型)ではすでに高齢者に死亡者が出ています。A香港型は高齢者で重症化することが多く、高齢者施設などで集団感染が起り、2010年11月には秋田県の鷹巣病院で80人以上が集団感染し、そのうちの8人が死亡しています。
病院の話では、インフルエンザワクチンは10月22日から29日にかけて、患者(入院患者130人ほど)や職員全員(看護師など86人)に接種したといいます。しかし、ワクチンは接種して2~3週間ほど待たないと感染予防、発症予防、重症化予防といった効果は現れず、院内での感染死亡例は、10月31日には報告されることになってしまいます。職員にも感染者は20人が確認されることになります。間に合わなかった、ということでしょう。
今年も無事にインフルエンザの流行期(インフルエンザの患者数は2月にピークを迎えることが多い)を発症せずに乗り切りたいものです。ワクチン接種を10月中旬には家族全員で受けているので、少なくとも重症化することはないのかな。
(この項 健人のパパ)
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急に出現する悪寒、高熱を特徴とするインフルエンザは、インフルエンザウイルスに感染することで発病します。インフルエンザには流行期があり、温度が低く乾燥した冬には、空気中に漂っているウイルスが長生きできることや乾燥した冷気でのどや鼻の粘膜が弱っていてウイルスに感染しやすいことなどから、発症者は12月に増え始め、2月にピークを迎え、3月頃には急速に減っていきます。
インフルエンザウイルスはA型、B型、C型の3つに大きく分けて分類されます。毎年流行を繰り返す毎にウイルスには変異株が出てきます。特にA型は多くの変異株があり、世界的な大流行を引き起こします。例えば、2009年に世界的大流行を起こしたいわゆる「新型インフルエンザ」の株の1つに「A/カリフォルニア/7/2009(H1N1)pdm」があります。B型も流行があります。C型は軽症のことが多い。
インフルエンザに感染することを防ぐには、インフルエンザウイルスに接触することを避ければいいのですが、社会生活を送っている私たちには不可能なことです。感染しやすい環境に入るときにマスクを着用したり、手洗いをこまめにするなどの防衛策を講じたり、インフルエンザウイルスに免疫力で対抗できるような健康状態を維持することが必要だとは言えます。
しかし、いつも規則正しい生活を送るわけに行きません。仕事に追われて健康に良くないとは分っていても無理をすることもあります。免疫力をあげる人工的な方法にワクチン接種があります。人類は、天然痘というウイルス感染症をワクチンという手段で撲滅しましたが、インフルエンザは変異を繰り返すためにワクチンの効き目がなくなり撲滅することは不可能です。
それでも、流行株を予測することで、インフルエンザワクチンの接種が行われています。予測が的中すると、インフルエンザに感染することを防止したり、感染しても発症を防いだり、発症しても重症化を妨げる効果があるといわれています。費用をかけてインフルエンザワクチンを接種しても、発症する人もいるわけですから、心許ない効き目とも言えます。
しかし、若くて元気な20歳代にインフルエンザに罹って、高熱や筋肉痛でかなりシンドイ思いをしたので、高齢になった今ではそんな苦痛に耐えられる自信がありません。インフルエンザウイルスと戦うのに、鉄剣でなくても、柔らかい銅剣であっても、素手よりはましだと思うから、このところ毎年ワクチンの接種を受けています。
インフルエンザワクチンはインフルエンザウイルスから作られます。ワクチンの製造に用いる「ワクチン株」をどれにするかは、 厚生労働省健康局の依頼に応じて「国立感染症研究所」が検討し、 これに基づいて厚生労働省が決定します。国立感染症研究所は、11~12月に次年度シーズンの予備的流行予測を行い、翌年1月下旬から数回にわたり研究所内外のインフルエンザ専門家を中心とする検討委員会が開催され、さらに、2月中旬にWHOにより出される北半球次シーズンに対するワクチン推奨株などを検討し、3月までに次シーズンのワクチン株を選定します。
2010年~2011年シーズンのワクチン株は、A型株が「A/カリフォルニア/7/2009(H1N1)pdm」と「A/ビクトリア/210/2009(H3N2)」、B型株が「B/ブリスベン/60/2008」と決定されました。
2010年11月15日に、横浜市金沢区の小学校で、3学年の54名中30名が欠席しました。欠席者30名のうちインフルエンザと診断された者が15名であったため、学年閉鎖となります。横浜市衛生研究所は、翌16日に5名の患者のうがい液と鼻かみ検体を入手し、リアルタイムPCR検査を実施します。その結果、2名はB型と判定されることになります。
妻「でも、B型はそれほど心配しなくてもいいんでしょう。」
私「いや、B型の方が重くなることがあるようなんだ。」
妻「どんな症状なの。」
私「高熱や関節痛はA型と共通だけど、胃腸症状が出るようだよ。」
妻「お腹が痛くなったとかするの?」
私「そう、下痢をしたり、嘔吐したり、、、」
妻「この間の私の症状みたい。」
私「あれは、12月のことじゃないか。」
妻「B型が横浜でこっそりと流行っていて、横浜に用事で行ったときに私にウイルスがとりついたのよ、きっと。」
たしかに、横浜市のある神奈川県では2010年第51週(12月20日~12月26日)にもB型インフルエンザの局地的流行がグラフから確認できます。検出されたインフルエンザウイルスのおよそ31%がB型だったのです。
私「ワクチンを打っていたから、何日も寝込むことはなかったのかも知れないね。」
妻「あら、種類が違うとワクチンは効かないんじゃないの?」
夫「A型にA香港型とAソ連型があるように、B型にもビクトリア系統と山形系統というのがあるね。」
妻「今年のワクチンにはどれが使われていたの?」
私「ビクトリア系統のワクチン株だよ。」
妻「横浜で流行っているのは、どっち?」
横浜市衛生研究所は、シーズン前に国立感染症研究所から配布された抗原解析用の2010/11シーズンウイルス同定用抗血清キット「A/カリフォルニア/7/2009(H1N1)pdm、A/ブリスベン/59/2007(H1N1)、B/ブリスベン/60/2008(ビクトリア系統)、B/バングラデシュ/3333/2007(山形系統)」を用いた「赤血球凝集抑制試験(Hemagglutinin Inhibition Test、HI試験)」によって、型・亜型の同定および抗原解析を行います。
抗体を含む血清(血液の55%ほどを占める液体成分)を「抗血清」といいますが、その抗血清に一定の抗原量のウイルスを加えて反応させた後に、赤血球浮遊液を加え、どの希釈倍数まで凝集が抑制されているかを観察するのが、HI試験です。インフルエンザウイルスは赤血球を凝集させることから、凝集が起らなければ、抗体が抗原であるウイルスの赤血球凝集素を攻撃し、赤血球が凝集しないようにしていることになります。
抗原解析を実施した結果、患者から採取したウイルスは、ビクトリア系統(Victoria系統)の「抗血清 B/ブリスベン/60/2008」では、320倍から640倍に希釈しても凝集が抑制されました。これは、患者から採取したウイルスがビクトリア系統であることを意味します。一方で山形系統の「抗血清 B/バングラデシュ/3333/2007」に対しては、20倍希釈程度で凝集が始まってしまったようです。
これは、横浜市周辺で流行しているB型インフルエンザは、山形系統ではなく、ビクトリア系統であることの証拠となります。今期のインフルエンザワクチンのB型株の「B/ブリスベン/60/2008」はビクトリア系統ですから、同じ系統に属していることになります。
妻「じゃあ、ワクチンの効き目はあるのね。」
私「それほど重くなかったのは、ワクチンのおかげかもね。」
妻「あら、それほど熱は上がらなかったけど、吐き気で辛かったのよ。」
私「ワクチンの効き目もそこまでなのかな。」
インフルエンザウイルスのHA遺伝子の系統樹解析も行われ、このB型のウイルスは「ブリスベン/60クレード」とは異なっており、「台湾/55/2009クレード」であることがわかったそうです。クレード (clade)とは、単系統群 (monophyletic group)とも言い、1つの共通祖先と、それから派生した分類群全てを含むグループのことを言います。検出されたB型はワクチン株のB/ブリスベン/60/2008類似株群とはグループが違い、抗原性状が異なる種類だったということになります。
WHOによれば、イギリスでは、昨年の終わり頃においては、B型が報告数の3分の1を占め、アメリカにおいては、南東部を中心に43%と報告されています。2011年の2月のインフルエンザの流行期のピークに向けA型との混合流行が懸念されるそうです。
(この項 健人のパパ)
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今シーズン(2010~2011年)のインフルエンザワクチンの医療機関納入数量は、2010年11月12日現在で、1mlバイアル換算で1,821万本になり、接種可能者の推定数は約3,643万人です。2010年11月16日での副反応報告数は261人。そのうち、重篤な副反応として報告されたものは33人。死亡例は、9例報告されており、そのうち、主治医の評価が「関連あり」の症例は3例(80歳代女性、10歳未満男児、80歳代男性)になっているようです。
精神運動発達遅滞、慢性肺疾患を基礎疾患として有する10歳未満の男児がワクチン接種の翌朝、呼吸停止で発見されます。ワクチン接種が死亡の原因かどうかは否定も肯定もできないと「新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会」は判断します。基礎疾患として、慢性心不全、肝硬変を有していた80歳代の男性では、接種後より38℃台の発熱が出現し、やがて熱は下がりますが、意識障害、呼吸困難、多臓器不全が発現し、やがて死亡しました。病態は肝硬変症に合併した敗血症で、ワクチンの副作用でこのような経過を辿るものは知られておらず、副反応と断定する根拠は乏しいと「検討会」は判断します。
(参考) 「インフルエンザワクチンの接種と副作用のアナフィラキシーショック」(死亡例の1例め)
昨シーズン(2009~2010年)の新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチンの接種後の副反応報告においては、接種者数は推定で約2,100万人でした。そのうち、死亡例が133人報告されており、報告医から「接種との因果関係がある」として報告された事例は3例でした。この副反応報告においては、「検討会」では、死亡とワクチン接種の直接の明確な因果関係がある症例は認められませんでした。死亡例のほとんどが、重い持病をもつ高齢者であり、死因が接種によるものなのか、持病の悪化によるものなのかが判明しなかったのです。
ここ2年の例で言うと、基礎疾患を有している人の中で接種後にごく稀に死亡者が出ることになり、それも疾患の悪化が偶然、接種の後に起ったことも考えられます。ワクチン接種によって通常見られる副反応は、局所反応としての発赤、腫脹、疼痛など(接種を受けた人の10~20%に起こる)であり、全身反応としての発熱、悪寒、頭痛、倦怠感、嘔吐など(接種を受けた人の5~10%に起る)です。これらは、通常2~3日中に消失します。
ワクチン接種には、「接種要注意者」という人たちがいます。この人たちは、副反応が起る確率とその強度が通常の人たちとは異なり、高いといえます。心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患等の基礎疾患を有することが明らかな者、過去に痙攣の既往のある者、気管支喘息のある患者、インフルエンザワクチンの成分又は鶏卵、鶏肉、その他鶏由来の物に対して、アレルギーを呈するおそれのある者(「卵アレルギー」ですね)、前回のインフルエンザ予防接種で2日以内に発熱のみられた者または全身性発疹等のアレルギーを疑う症状を呈したことがある者などが接種要注意者です。
気管支喘息で治療を受けているある女性が今年の3価のインフルエンザワクチンの接種を受けて、次のような経過をとります。気管支喘息は空気の通り道である気管支がアレルギーなどで炎症を起こし過敏になり、何かの刺激で腫れて狭くなり呼吸が苦しくなる慢性の病気です。気管支喘息は常に症状があるわけではなく、時間帯や体調などで強い発作が出たり症状がなかったりします。
発作には軽度なものから死に至るような重度なものまであり、強い発作を起こしたことがある人は注意が必要です。喘息治療薬には、長期管理薬(controller)と発作治療薬(reliever、リリーバー)があり、「発作治療薬」には、「塩酸プロカテロール(procaterol hydrochloride、製品名:メプチン)」などがあります。この薬は、気管支の筋肉にある「β2アドレナリン受容体(beta2 Adrenergic Receptor)」に結合して、収縮した気管支の筋肉を弛緩させるスイッチを入れます。
インフルエンザの混合ワクチンを接種してきました。でも、帰り道に、なぜか異様に身体がだるくなり、接種した腕がムズムズしてきました。そして、なぜか身体全身がカアッとして痒いのです。喘息の抗アレルギー薬を慌てて服用しました。
身体がよく痒くなる、皮膚がカサカサする、目が痒くなったり涙目になったりする、のどに痛みや痒みを感じる、鼻が詰まりやすい、風邪を引くと咳が長引く、といった項目の多くが当てはまる人は「アレルギー体質」だといえます。 新型インフルエンザや季節性インフルエンザなどのワクチン接種は、異物を体内に入れる行為です。それによって、ワクチンに含まれる物質や接種を受けた人の体質の影響で、多かれ少なかれアレルギーのような症状(免疫反応)を起こします。
体質や体調によって、アレルギーのような症状が極めて0に近い場合があれば、極々稀ですが死に至ってしまう場合もあります。アレルギー体質の人は、アレルギーの程度と接種時の体調によりますが、普通の人と比べて大きく出ることがあります。
抗アレルギー薬の1つ、「メディエーター遊離抑制剤」は、肥満細胞から「ヒスタミン (histamine、過剰に分泌されると、ヒスタミンⅠ型受容体というタンパク質と結合して、アレルギー疾患の原因となる) 」などのさまざまな化学伝達物質(chemical mediator)が遊離されるのを抑制する薬剤です。クロモグリク酸ナトリウムを主成分とする「インタール(アステラス製薬、サノフィ・アベンティス)」は、メディエーター遊離抑制剤です。この薬剤は効果が現れるまでに一般的に4~6週間以上を必要とするようです。1日4回(朝、昼、夕及び就寝前)継続的に吸入するのを原則とします。炎症を即効的に抑える効果はありません。
夜中に、身体がぶわっと膨らんだような感覚に襲われ、気道に我慢できない痒さが襲ってきました。舌も膨らんで少し息苦しい感じ。そのうち、喉がヒューヒューいうようになってきました。喘鳴が始まってしまいました。
「喘鳴(ぜんめい)」とは、呼吸時に「ゼイゼイ」「ヒューヒュー」というような音がする状態をいいます。聴診器を通して聞くと、いびきに似た異常な呼吸音がします。喘鳴は、気管または気管支の一部が狭くなることで起り、呼吸困難の兆候です。ゼイゼイという音は気管支の奥から発生し、ヒューヒューという音は気管から咽頭にかけての部分から発生します。空気の通り道に炎症などが起って、狭くなっていることから、異常音が発生することになります。
このまま放っておくとさらに悪化しそうなので、急いでメプチンエアを吸入して、メドロールなどを飲みました。そのためか、それ以上ひどくはならずに朝を迎えられましたが、身体はとてもだるくてベッドから起き上がれません。腕は接種したところが熱を持って真っ赤に腫れています。
「メチルプレドニゾロン(methylprednisolone)」を主成分とする「メドロール(ファイザー)」は、副腎皮質ステロイド薬で、炎症を抑えるのに使われます。炎症は抑えるのですが、免疫力を低下させ、細菌を増殖させる危険もあります。この薬剤の効き目は「中時間作用型」で、作用持続時間は短時間と長時間の中間で、強度も中間です(intermediate-acting)。
私は卵アレルギーでもあるのですが、インフルエンザのワクチン接種で、今まで多少接種した方の腕が腫れることはあってもここまでひどくはなりませんでした。病院に行こうかなとも思ったのですが、夜中では救急車を呼ぶしかないし、気管支喘息の薬をもらっていましたから、私のとった処置が正しかったかどうかわかりませんが、薬で一応危険な状態になるのは防ぐことができました。
卵アレルギーは、卵白が含有するタンパク質へのアレルギー反応が殆どです。インフルエンザワクチンを製造するには、インフルエンザのウイルス株を細胞の中で増殖させる必要がありますが、日本では「孵化鶏卵(発育鶏卵)」が用いられています。そのため、ワクチンの中にごく微量ですが、卵白の成分が残ることがあるようです。
(参考) 「人獣共通感染症と「豚インフルエンザ」、「鳥インフルエンザ」」
体調も影響したのでしょうか、ワクチン自体のせいでしょうか、いままでの経験で油断していたのでしょうか、アレルギー体質の人がインフルエンザのワクチン接種を受けるときは、充分に気をつけて下さいね。
(参考) 「ワクチン接種と副反応(副作用)と抗アレルギー薬の服用」
ワクチン接種とインフルエンザ発症には、次のような可能性があります。インフルエンザワクチンの「安全性」と「有効性」が関係して、可能性の大きなものから小さいものまで混在しています。(「罹る」は、ここでは「感染」を意味せず、「発症」を意味しています)
01.ワクチン接種を受けなかったが、インフルエンザには罹らなかった。(これが保証されるなら、これが一番いいのですが、、、)
02.ワクチン接種を受けず、インフルエンザに罹ったが、軽かった。
03.ワクチン接種を受けず、インフルエンザに罹って、重症化した。
04.ワクチン接種を受けて、副反応も出ず、インフルエンザにも罹らなかった。(これがリスク管理からは理想なのでしょう)
05.ワクチン接種を受けて、副反応は出たが、インフルエンザには罹らなかった。
06.ワクチン接種を受けて、重度な副反応が出た。
07.ワクチン接種を受けて、副反応は出なかったが、インフルエンザには罹った。
08.ワクチン接種を受けて、副反応は出なかったが、インフルエンザに罹って、重症化した。
09.ワクチン接種を受けて、副反応も出、インフルエンザにも罹った。
10.ワクチン接種を受けて、副反応も出、インフルエンザにも罹って、重症化した。(これは安全性に欠け、有効性もないことになります)
(この項 健人のパパ)
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2010年12月2日の日経メディカルオンラインの記事(カナダ、ケベック州のラヴァル大学(université Laval)のJesse Papenburg氏らの報告)からですが、2009年に発生した新型インフルエンザ(A/H1N1pdm)の家庭内での2次感染率は、45%程度で季節性インフルエンザとほとんど変わらない水準である可能性が示されたそうです。2009年5月から7月にカナダのケベック市内でA/H1N1pdmを発症し感染が確認された患者の同居家族についての調査からそういえるのだそうです。
インフルエンザ様疾患(「37.5度以上の発熱」があって、咳、鼻水・鼻づまり、のどの痛みの症状を伴う場合)を発症し、RT-PCR検査によって新型インフルエンザウイルス感染が確認された42世帯の43人を「初発感染者」とします。そして、初発感染者の家庭内接触者119人を観察したそうです。観察中に53人に新型インフルエンザ感染が確認されます(「2次感染者」、発症したしないにかかわらず、初発感染者の感染後に新型インフルエンザウイルスに感染し、RT-PCR検査、または血清抗体検査で陽性とされたもの)。
※ インフルエンザウイルスは、RNAウイルスです。DNAがなくRNAしか持っていないウイルスを検出する場合、RT-PCR法を用いることになります。「RT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)法」とは、RNAを鋳型に逆転写(reverse transcription、DNAからRNAを生成するのが転写(transcription)で、その逆のRNAからDNAを生成すること)を行い、生成された「cDNA(complementary DNA、相補的DNA)」に対してPCRを行う方法です。
「2009年の新型インフルエンザ初期流行」という状況下(免疫を持っている者がいない)のデータですが、家庭内にウイルスが持ち込まれると44.5%の確率で、家族に感染するのですから高いといえますね。茨城県の小学校での集団感染の事例でも、8例のうち3例は、家族内に感染者がいました。うつしたのかうつされたのか、検体採取日と発症日との間隔があいている子の家族に家庭内発症例が多いことから、学校内で感染し、家族にうつしたとも言えそうです。
ケベック州の例では、初発感染者と有症2次感染者(48例、2次感染者のうち5例には症状が出なかった)の発症時期のずれをみると、翌日が11例と最も多く(23%)、5日後までに38例が発症した(79%)そうです。家庭内にインフルエンザの発症者が出ると、10%の確率で、翌日には次の発症者が出ることになり、5日後までと長くとれば、32%の確率で、次の発症者が出ます。
初発患者の症状と2次感染者の発生率との関連をみると、最も高かったのは、嘔吐で68%、次いで下痢の53%だったそうです。つまり、初発患者の症状に嘔吐があった場合、家族にうつす確率は68%と高いのです。このことから考えると、インフルエンザ感染者の吐瀉物の扱いには充分に気をつける必要があることになります。また、下痢であった場合も高いのですから、トイレ使用後の石鹸を使っての手洗いやトイレのタオルを共用にしない、患者の下着の洗濯に留意するなどの配慮が必要なようです。
この調査で関心を惹くのは、53人に2次感染が確認されますが、その中に全く無症候だった「不顕性感染」例が5例あることです。その確率は9%強。感染者のうちインフルエンザ様疾患を発症したのは31人(58%)、1人(1.9%)は消化器症状のみだったそうなので、インフルエンザの感染を見た目で確認できたのは32人。残りの21人は、非常に軽いか無症状ということになります。これで確率をとると、40%弱が感染しても、発症しないことになります。多いですね、丈夫な人が。
我が家では、6年生になる丈夫でない我が子「健人」が学校で風邪(ライノウイルス 、アデノウイルスなどのウイルスや細菌などに感染することで起る)をもらってきて、それを丈夫でない私がもらうことになります。妻にうつることは少なく、それは家族に発熱、咳、鼻水・鼻づまりといった「風邪症候群」が出ると、家庭内でもマスクを着用し、発症者に近づくことを極力避けるからです。
「うつされない努力とうつさない努力は常にすべきよ。朝の混んだ通勤電車の中でマスクもしないでひどい咳をしている人を見かけるけれど、あれは、他人に対する配慮が足りない。人にうつってもかまわないと考えているなら、傷害罪の「未必の故意」じゃないかしら。マスクをするのは、相手に対するマナーよ。風邪をひいていない私の方がマスクをしなければならないの。風邪による経済的損失は、日本だけでも年間で何千億円と巨額になるはずよ。苦境にある日本を救うために、損失は最小限にしなくちゃ。ああいう人たちを仕分けて電車に乗せないようにして欲しいわ。」
そこまで過激なことを言わなくても、、、
(この項 健人のパパ)
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今年度(平成22~23年度)のインフルエンザワクチンは、新型H1N1・季節性H3N2・B型の3種類を含む3価ワクチンと新型H1N1のみの1価ワクチンの2種類が供給されています。インフルエンザウイルスにはいろいろな型があり、インフルエンザワクチンは型が異なれば、その効果(感染予防、発症予防、重症化予防)を上げることができません。ならば、いろいろな型に対応できるように3価より多くすれば良いかというとそうではありません。
「3種から4種にすると、タンパク量が増え、副反応も増加する。不可能というわけではないが、製造するとなれば、新たに治験も必要になる。今回の流行への対応としては現実的でない」(国立感染症研究所の感染症情報センターのセンター長「岡部信彦」氏。新型インフルエンザワクチンに言及して、2009年4月30日)。「副反応」とは、ワクチン接種で、免疫学的機序などによって起る反応のうち、免疫の付与以外の反応をいいます。一般的には「副作用」と呼ばれています。
弱毒化した細菌またはウイルスそのものを被接種者に投与する「生ワクチン」では、生ワクチンの細菌またはウイルスに感染しても殆どの場合、症状は出ませんが、ごく稀に感染に伴って症状が出る場合もあります。これもワクチンの副反応です。従来の「麻疹(Measles)ワクチン」と「風疹(Rubella)ワクチン」を混合したワクチンに「MRワクチン(麻疹・風疹混合ワクチン)」があります。このMRワクチンは生ワクチンです。
小児麻痺(ポリオ)の生ワクチンを飲んだ子供からその親にワクチン内のウイルスが感染し、麻痺を生じた例が極めて少ないながらも報告されています。子供が飲んだワクチン株が便中に排泄され、それが親に感染し稀に麻痺をおこすという状況を減らすには、親にも子供と一緒にワクチンを飲んでもらうということが考えられます。
「麻疹(はしか)」は、麻疹ウイルスの感染により起こる病気です。麻疹ウイルスは、インフルエンザウイルスと同じ「1本鎖RNA-鎖」ウイルスで、パラミクソウイルス科 (Paramyxoviridae、-myxo-は「粘液、鼻汁」の意味) に分類されます。それに対し、インフルエンザウイルスは、オルソミクソウイルス科 (Orthomyxoviridae)に分類されます。
麻疹の発症では、3~5日間続く軽度から中程度(38~39℃)の発熱とともに咳、鼻汁、目ヤニがみられるようになります。発熱は典型的な場合は途中で短期間解熱する時期があります(二峰性、発熱のピークが2つ)。最初の発熱が下がってくる頃、口腔内に細かな白色の発疹がみられます(コプリック斑、Koplik spots)。発熱、咳、鼻汁で症状が始まることから、インフルエンザへの感染と間違えられることがあります。2度目の発熱は40℃を超えることもあり、首や耳の後ろに小さな紅斑が出始め、この発疹は次第に顔から体、手足へと広がっていきます。
日本で承認されているインフルエンザワクチンは、生ワクチンではなく、「不活化ワクチン」です。不活化ワクチンはウイルスが体内で増殖しないように、化学処理、加温処理、紫外線照射などを行っていますが、抗体を生成させる能力を失わせてはいません。
現行のインフルエンザワクチンは、ウイルスをエーテルで部分分解し、更にホルマリンで不活化しています。このワクチンでは、生ワクチンと異なり、インフルエンザを発症する可能性はなくなりますが、異物としてのタンパク質を体内に入れることには変わりなく、副反応は出る可能性があります。
日本では未承認ですが、個人輸入を取り扱っている医療機関で接種を受けられる「点鼻投与型インフルエンザワクチン」は生ワクチンです。「アストラゼネカ(AstraZeneca PLC)」社の傘下の「メドイミューン(MedImmune)」社は、点鼻スプレー式のインフルエンザ弱毒生ワクチン(Live Attenuated Intranasal Vaccine 、LAIV)「フルーミスト(Flumist)」の製造をしていますが、アメリカでのみしか製造承認を獲得していません。
ワクチン接種後に長期間にわたって強い感染防御免疫が誘導されるポリオワクチンや麻疹ワクチンとは異なり、インフルエンザワクチンは、ウイルスの感染やインフルエンザの発症を完全には防ぐことはできません。ワクチンのウイルス株と流行のウイルスの型が一致しなければ効果が発揮できないし、型が一致しても不活化ワクチンは効果が長続きしないのです。
茨城県南部の龍ケ崎市、取手市、牛久市、守谷市、稲敷市、河内町、利根町の5市2町を管轄する茨城県竜ヶ崎保健所の管内の小学校で、新型インフルエンザの集団発生がありました。新学期が開始した2010年9月1日よりインフルエンザ様疾患の発症者が相次ぎ、20人が発症することになります(生徒数131人、発症率約15%)。5学年(26人)では、9人が発症した(発症率約35%)ことから、9月8日から5日間の学年閉鎖措置がとられました。
35週(08月30日~09月05日)… 5人
36週(09月06日~09月12日)… 5人
37週(09月13日~09月19日)… 5人
………
40週 (10月04日~10月10日) … 3人
41週 (10月11日~10月17日)… 4人
42週 (10月18日~10月24日)… 1人 (竜ヶ崎保健所管内でのインフルエンザの患者報告数)
インフルエンザ様疾患の集団発生を受けて、茨城県衛生研究所は、患者から採取した検体(うがい液)をMDCK細胞を用いて培養を開始するとともに、リアルタイムPCR(real-time polymerase chain reaction)を実施しました。検体提供者8名の医療機関での迅速検査の結果は、いずれもインフルエンザウイルスAが陽性でした。
「培養細胞(cultured cell)」は、人為的に生体外で培養されている細胞です。培養細胞が、長期間にわたって体外で維持され、一定の安定した性質を持つと「細胞株(cell line)」と呼ばれます。ヒト子宮頸癌由来の「HeLa細胞」、イヌの腎臓上皮由来の「MDCK細胞(Madin-Darby Canine Kidney、マディンとダービーがコッカー・スパニエルの腎臓細胞から細胞株を樹立した)」、アフリカミドリザル腎臓由来の「Vero細胞」などがあります。
リアルタイムPCRの結果、全検体から新型インフルエンザウイルス(AH1pdm)が検出されることになります。問題は、検体提供者8名(男性4名、女性4名)中3名は、新型インフルエンザワクチンワクチンの接種を受けていなかったことに驚きます。非接種率は37.5%です。接種を受けていない人の割合が意外と高いのですね。ワクチンの副作用が喧伝されすぎていて、アレルギーのない人も接種に躊躇しているのでしょうか。それともワクチンの安全性ではなく有効性に疑問を持っているのでしょうか。
ワクチンを接種しているのに発症したではないか、やはりワクチンの有効性には疑問がある、という意見がありそうですが、この学生たちは2010年の1月前後に接種したものと思われ、不活化ワクチンの効果は3~5か月ほどしかないので、2010年4月から6月頃にはその効果は消失していたことになります。
我が家の妻、子、私が3価のインフルエンザワクチンの接種を受けたのは、2010年10月中旬です。この効果は、早ければ2011年1月中旬、遅くて2011年3月中旬には消失してしまうことになります。ワクチン接種によって獲得した抗体には「ブースター効果」というものがあって、減衰した効果もウイルスに接するとその効果が復帰することがあります。それに期待してよいのでしょうか。
インフルエンザの流行に季節要因が小さくなっているような感じを受けます。人が世界的に移動しているせいでしょうか。流動性が高くなると、ウイルスが容易に世界中に拡散して行くのでしょう。2011年3月から4月にかけてベルギー、スペイン、イタリアにかけて旅行する予定でいます。ワクチンの効果が切れています。この地域でインフルエンザの流行がないことを願っています。
(この項 健人のパパ)
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「抗アレルギー薬(anti-allergy drugs)」という薬があります。ヒトには、外来の異物(「抗原(antigen)」)を排除するために働く、生体にとって不可欠な生理機能があります。細菌、やウイルスといった病原体などの抗原を「抗体(antibody)」やリンパ球の働きによって生体内から排除します。これを「免疫反応」といいます。しかし、免疫反応が特定の抗原に対して「過剰」に起こることがあります。これを「アレルギー」といいます。
抗アレルギー薬は、アレルギー症状を抑えたり、症状を出にくくしたりして、主に症状を予防するための薬です。身体の中にアレルギー症状をおこす異物(「アレルゲン(allergen)」)が入り込むと、身体が過敏に反応してしまい、必要以上に身体の細胞から化学伝達物質(ケミカルメディエーター、chemical mediator)が出てさまざまなアレルギー症状を引き起こします。抗アレルギー薬は、この化学伝達物質が細胞から出るのを抑えてアレルギー症状を和らげます。
アレルギー(allergy)は、その作用機序から、4つに分類されることがあります。ゲル-クームス分類(Gell and Coombs classificasion)では、Ⅰ型(アナフィラキシー型)、Ⅱ型(細胞障害型)、Ⅲ型(免疫複合体型)、Ⅳ型(細胞性免疫型、遅延型過敏症型 )の4つです。
花粉症、食物アレルギー、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アナフィラキシーショックなどは、Ⅰ型のアレルギーです。リンパ球のB細胞は「IgE(Immunoglobulin E、IgE、免疫グロブリンE、紅斑(Erythema)を引き起こす免疫グロブリン)」という「糖タンパク質(glycoprotein)」を作り出しています。このIgEという糖たんぱく質は、特定のタンパク質などの分子を認識して結合する働きを持ちます。例えば、花粉症の患者では、目や鼻などの粘膜に花粉が付着すると、花粉からタンパク質が溶け出し、そのたんぱく質にこのIgEが結合します。
B細胞で産出されたIgEは、IgE受容体のある肥満細胞(マスト細胞、Mast cell)、好塩基球などに結合しており、花粉のタンパク質が結合すると、例えば、花粉タンパク-IgE-マスト細胞というように一体化します。
ドイツの医学者「パウル・エールリッヒ(Paul Ehrlich、ポール・エールリヒ)」は、アニリン色素の染色性(粘液や軟骨基質を染めると、青い色素であるにもかかわらず赤紫色に染まってくる)を調べていたとき、「トルイジンブルー(Toluidine Blue)」のような塩基性色素に染まる顆粒で満たされた細胞を見つけます。
エールリヒは、細胞内の顆粒を栄養物質と思い込み、顆粒は周囲の細胞に栄養を与えるために存在する(この部分、諸説あり。例えば、「顆粒」は食作用で取り込んだ異物で、細胞の「餌」と考えたとするもの)と考え、この細胞に中高ドイツ語(1050年頃から1350年頃にかけての古いドイツ語)で“food”を意味する“Mast”という語をつけて“Mastzellen”(“Zellen”は「細胞」を意味する)という名称を与えます。これを日本語では、その音のままに「マスト細胞」と呼んだり、意味を含めて「肥満細胞」と呼んだりします。「肥満」と和訳したのは、肥満に関係する細胞とも聞こえ、誤解を招きますね。
話を戻しますが、 花粉タンパク-IgE-マスト細胞というように一体化すると、マスト細胞はヒスタミン、セロトニンなどの生理活性物質を放出します。この物質は、血圧降下、血管透過性亢進、平滑筋収縮、血管拡張、腺分泌促進などの作用があり、正常域で分泌されると生体防御機能を持ちますが、「過剰」に分泌されると、ヒスタミンⅠ型受容体というタンパク質と結合して、アレルギー疾患の原因ともなります。
分泌された大量のヒスタミンが血流などを介して他の部位に運ばれると、細動脈の血管が拡張する(これに伴い血圧低下)、肺の細気管支が収縮し、気管が収縮する(これに伴い喘鳴(ぜんめい)や呼吸困難)などの現象を引き起こします。腹痛、さしこみ、嘔吐、下痢などの胃腸症状も引き起こします。血流から組織への体液が滲出し(これに伴う血流量低下)、血管性の浮腫(口唇、顔面、首、咽喉の腫脹)もあります。これが「アナフィラキシー(anaphylaxis、防御(-phylaxis)とは逆(ana-)の状態)」です。
この場合、「アドレナリン (adrenaline、エピネフリン (epinephrine))」が血管収縮や気管支拡張の作用があることから、筋肉注射で投与されます(皮下注射ではアドレナリンの作用で血管が収縮するので作用が遅くなってしまう)。
新型インフルエンザや季節性インフルエンザなどのワクチン接種は、異物を体内に入れる行為です。それによって、ワクチンに含まれる物質や接種を受けた人の体質の影響で、多かれ少なかれアレルギーのような症状(免疫反応)を起こします。極めてそれが0に近い人がいれば、極々稀ですが死に至ってしまう人もいます。これを「副反応」(一般的には「副作用」と呼ばれる)といいますが、局所に起る副反応で比較的頻度が高いもの(接種を受けた人の10~20%に起こるが、通常2~3日で消失する)は、接種した部位の「発赤」(赤み)、「腫脹」(腫れ)、「疼痛」(痛み)などが挙げられます。全身に起る副反応(接種を受けた人の5~10%に起るが、これも通常2~3日で消失する)には、発熱、頭痛、悪寒(寒気)、倦怠感(だるさ)などが挙げられます。
アレルギー症状には、「わたしは予防接種後はいつも接種部位がひどく腫れるので、わたしの息子が予防接種を受けて腕がひどく腫れてもそんなものかなと思っていました(私の母も予防接種でひどく腫れます)。しかし、息子を小児科医に見せたら、どうやらこんなに腫れる人はあまりいないようです。接種部位の腫れにはひどく驚かれました。」といったこともあるようです。これは接種部位で血流から組織へ体液が滲出したために起る現象です。
「蕁麻疹(urticaria)」は、表在性の微細な血管が拡張して、その血管壁の透過性が増し、漿液および血球が血管外に滲出して皮膚組織中に溜まったもので、皮膚にやや扁平に隆起する部分(浮腫)が生じ、皮膚の灼熱感や痒みを伴います。気道内にも浮腫を生じることがあり、この場合には、気道が狭窄されて、呼吸困難を起こし、死亡することもあります。 息苦しさを訴えたときは、適切に対処しなければなりません。
抗アレルギー薬の中に「抗ヒスタミン薬(antihistamine)」があります。抗ヒスタミン薬は、ヒスタミンの作用を抑制する薬で、H1受容体拮抗薬です。ヒスタミンは、ヒスタミン受容体(Histamine Receptor、H1からH4まで4種類ある)というタンパク質に取り付いて、細動脈の血管の拡張、肺の細気管支の収縮、気管の収縮といった作用を現しますが、受容体拮抗薬(receptor antagonist、ブロッカー(brocker))はヒスタミン受容体に取りついて、ヒスタミンが取り付くのを邪魔します。行き場を失ったヒスタミンは作用を現すことなく、体液中などにあるヒスタミン分解酵素で速やかに分解されてしまいます。
抗ヒスタミン薬の1つに「ケトチフェンフマル酸塩(Ketotifen Fumarate、フマル酸ケトチフェン) 」があります。ノバルティスファーマの「ザジテン(Zaditen)」の有効成分は、フマル酸ケトチフェンです。ザジテンは、気管支喘息を緩和する(即効性はなく、いま起こっている喘息をすぐ抑えるものではない)薬であり、アレルギー性鼻炎の症状、蕁麻疹・湿疹など皮膚の痒みも和らげます。ザジテンは、三種混合ワクチンや麻疹ワクチン接種による副反応(副作用)の予防に有効との報告があるようです。また、予防接種によるアナフィラキシーショックの予防として、接種の数日前から、内服させることがあるという小児科医の報告もあるようです。
アレルギーの1つ、花粉症の起こる1週間ほど前から抗アレルギー薬、例えば、ザジテンの服用を開始すると症状が軽くて済むことがあるようです。フマル酸ケトチフェンは、抗アレルギー作用及び抗ヒスタミン作用を有しています。
(1) 抗アレルギー作用
ケトチフェンはPCA(受動的皮膚アナフィラキシー)反応を抑制する。
ヒスタミン、SRS-Aなど化学伝達物質の遊離を抑制する。
抗原及びPAF(血小板活性化因子)による好酸球の活性化を抑制する。
(2) 抗ヒスタミン作用
ヒスタミンによる気管支収縮、血管透過性亢進、皮膚反応などを抑制する。
眠気を起こすなどの副作用があるようですが、比較的安全な抗アレルギー薬のようです。
2010年11月17日配信の「産経新聞」の記事からの抜粋です。
昨シーズンは新型(H1N1)が猛威をふるったが、今年は季節性、中でもA香港型(H3N2)が流行しそうだ。中国本土や香港では今夏に大流行しており、日本でも既に幼稚園での集団発生が報告されている。
流行に備え、まず大事なのはワクチンの接種。昨シーズンに新型や季節性のワクチンを接種した人も、改めて今年のワクチンを打つ必要がある。ワクチンは接種後、3週間ぐらい経過しないと免疫がつかないため、本格的な流行が始まる前の接種が望ましい。
6歳未満の子供の感染で怖いのがインフルエンザ脳症の発症だ。季節性では1シーズンで数百人が発症し、約15%が死亡、25%に後遺症が出るとされる。発熱から1日前後で症状が出ることが多いので、熱が出てからしばらくは注意が必要だ。顔色が悪い、呼吸が苦しそう、意識がはっきりしないなどの症状があるときはすぐに医療機関を受診した方がよい。
今シーズンは流行期間も長引きそうで、適切な対策がとられないと10年ぶりに2万人(超過死亡概念による推計数)を超す死者が出る可能性がある。ワクチン接種や手洗いの徹底で予防に努めるとともに、乳幼児や高齢者が感染したときは早めに医療機関を受診してほしい。
(参考) ひとり歩きする数字-インフルエンザによる死亡者、年間1万人
(参考) 我が子の命を守るために親として「インフルエンザ脳症」を知る。
(この項 健人のパパ)
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