POWERFUL MOMが行く!
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 インフルエンザの原因となるインフルエンザウイルスは、A 型、B 型、C 型に大きく分類されます。C型が流行することはほとんどなく、大きな流行の原因となるのはA 型とB 型です。現在、国内で流行しているインフルエンザウイルスは、A型のH1N1亜型(「インフルエンザ2009」)とH3N2亜型(「A香港型」)、B 型の3 種類です。H1N1亜型のA型インフルエンザウイルスには、いわゆるAソ連型もありましたが、2009年の新型インフルエンザ(A/H1N12009)の大流行(パンデミック)後はほとんど姿を消しています。

 「国立感染症研究所感染症情報センター」の報告によると、2011年第36週~2012年第1週に国内で検出されたインフルエンザウイルスは、その90.5%がA香港型であり、インフルエンザ2009は0.4%に過ぎなく、B型の9.1%にもはるかに及びません。インフルエンザ2009が、新型インフルエンザ(A/H1N1)として季節外れに大流行したのは、人々が免疫を持っていなかったためであって、新型インフルエンザのワクチン接種や新型インフルエンザに罹患したことによって多くの人々が免疫を獲得している現在では、季節型のインフルエンザより脅威ははるかに小さくなっています。

 インフルエンザの症状には、咳、咽頭痛、鼻汁、鼻づまりなどの「局部症状」と発熱、倦怠感、頭痛などの「全身症状」があります。日本臨床内科医会インフルエンザ研究班の研究から、インフルエンザ2009(いわゆる「新型インフルエンザ」だった)とA香港型の症状の違いを見てみます。



 まずは「局部症状」からですが、咳はA香港型(罹患者の約84%に見られた)とインフルエンザ2009(約78%)では大きな違いはありません。インフルエンザは「咳」を特徴とすると言っていいのでしょう。のどの痛みは、A香港型で約53%、インフルエンザ2009で約30%と大きく異なります。しかし、「のどの痛み」は罹患者の2人に1人(A香港型)、3人に1人(インフルエンザ2009)にしか見られず、必ずしも定型の症状とは言えないでしょう。

 鼻汁、鼻づまりといった症状は、A香港型(約76%)とインフルエンザ2009(約48%)でも異なります。A香港型では4人に3人ですが、インフルエンザ2009では4人に2人という割合になっています。「局部症状」のみで、データで判断すると、鼻水が出て、のどが痛いときには、A香港型の可能性が高いと言っていいのでしょう。

 ただこれも、データの取り方によって異なるもので、2009年に実施された調査では、インフルエンザ2009で、のどが痛いという症状を訴えた人は罹患者の約65%、鼻水が出る・鼻がつまるの症状が約60%でした。(参考)「心の準備-A型インフルエンザに罹ったら、こんな症状、こんな経過に

 次に「全身症状」に触れてみましょう。「発熱」はインフルエンザに特徴的な症状なのですが、38℃以上の熱を出した人はA香港型(罹患者の約97%に見られた)とインフルエンザ2009(約93%)では大きな違いはありません。そのなかで、39℃以上を出した人はA香港型で約55%、インフルエンザ2009で約50%。いずれも、39℃以上の発熱は、2人に1人なのです。

 頭痛はA香港型(約52%)とインフルエンザ2009(約32%)では異なります。2人に1人(A香港型)と3人に1人(インフルエンザ2009)と、A香港型の方がインフルエンザ2009より割合が大きい。これをのどの痛みとともに判断すると、のどが痛くて(局所症状)、頭痛がする(全身症状)と、A香港型に感染した確率が高いと言えそうです。

 息子「健人」は、金曜日に中学校を風邪様症状で休みました。木曜日、学校から戻ると、「胃のむかつき」を訴え、食の進まない夕食後、「頭痛」と「筋肉痛」を訴えます。早めの就寝後、午前4時頃に「吐き気」と「頭痛」を訴え、やがて「嘔吐」を繰り返します。次には「下痢」です。金曜日は流動食を口にし、ほぼ1日中、寝ていることになります。

 筋肉痛は、A香港型で約55%、インフルエンザ2009で約24%。A香港型で2人に1人、インフルエンザ2009で4人に1人です。嘔吐は、A香港型で約7%、インフルエンザ2009で約4%。下痢は、A香港型もインフルエンザ2009も約3%です。「嘔吐」も「下痢」もともに、インフルエンザA型の発症に特徴的な症状とは言えません。しかし、ある小児科医は、来院する患者の訴える症状からすると、今年(2011~2012年シーズン)は胃痛、嘔吐、下痢などの胃腸症状を伴うことが多いという印象を受けると述べています。

 息子はインフルエンザのワクチン接種を受けています。インフルエンザに感染したのかどうかは定かではありませんが、症状を見る限りは、インフルエンザの可能性はあります。本人の回復力に期待し、病院には連れては行きませんでした。病院に行くこと自体がかなり体力的に負担になるからです。

 昼ごろまで寝ていた息子は、さきほど(12時頃)起きてきて、「お腹が空いた。」と訴えました。食欲も回復、頭痛も引いたそうです。まずは、胃腸に優しいものからということで、軟らかいものを食べさせましたが、ガッツリ重いものを食べたいと言い始めています。青ざめた顔で、身体がだるい(「倦怠感」はA香港型で約59%、インフルエンザ2009で約36%)と訴えていたのは誰かな。

 「食欲不振」は、A香港型で約39%、インフルエンザ2009で約19%です。

                  (この項 健人のパパ)

(追記) 具体性に欠けるので、インフルエンザA型の発症のひとつのケースを記述してみました。

 「のどの痛み」、「身体のだるさ」から始まった症状は、翌日、「咳」が出始め、やがて「悪寒」と「筋肉痛・関節痛」へと進行します。「高熱」を自覚するようになり、朝37℃強だったものが、夜には38℃強まで体温が上昇します。翌日昼に、病院を受診しますが、朝の時点で朝37℃強だった体温は、受診時は平熱の36℃強。しかし、病院での診断結果はインフルエンザA型への感染。

 「タミフル」などを処方され、服用しますが、発熱(受診後、体温は上昇傾向。インフルエンザでは、高熱の「ピーク(峰)」が2度ある「二峰性発熱」がよくある)、倦怠感、咳、咽頭痛、筋肉痛のいずれも改善されず、体温はやがて38℃強に達し、高熱の時にのみ服用するように指示された解熱鎮痛消炎剤の「ロキソニン錠60mg」を服用。ロキソニン錠は、炎症や発熱を引き起こすプロスタグランジン(PG)の生合成を抑制し、炎症を鎮めて、腫れや発赤、痛みなどの症状を抑えます。

 ロキソニン錠の服用で、発熱、筋肉痛はやや改善されます。しかし、この薬の副作用なのかそれともインフルエンザの症状の一つなのか「下痢」症状が現れます。ロキソニン錠の処方では、胃腸の悪い人には胃の副作用を予防するのに、胃腸薬が処方されることがあります。咽頭痛と咳は改善が見られず、数日続きます。そして、回復。

 感染症による発熱やのどの腫れ(のどの痛みを惹き起す)は、ウイルスや細菌を駆除するための生体の防御システムです。これを解熱剤で無理に抑えれば、病気そのものの治癒をかえって遅らせてしまうこともありえます。特にインフルエンザなどウイルス性の病気では、熱を下げればよいというものではありません。体力を著しく消耗しないのであれば、服用を控える必要もあります。

(追記) 2012年1月22日配信の「宮崎日日新聞」からです。

 (宮崎)県内でインフルエンザが流行している。今月中旬から患者が急増、本格的な流行期に入った。学校では学級閉鎖など集団感染も広がっており、うがいや手洗い、不要な外出を控えるなどの対策を徹底するよう呼び掛ける。生命の危険にもつながりかねない高齢者施設も警戒を強める。

 県健康増進課によると、今シーズンの流行はA香港型が主流。県内の定点医療機関から報告される1週間の患者数は、1月2~8日の80人から9~15日には4倍超の341人と急増した。このうち10歳未満が6割を占め、中央、日南保健所管内からの報告が目立つ。

 宮崎市では20日までに、小学校3校5クラスが学級閉鎖となった。


(追記) 


 2009年や2011年のグラフを見てわかるように(2009年7月~2010年6月のシーズンは、いわゆる「新型インフルエンザ」が大流行したため、例年とは大きく異なっている)、インフルエンザの本格的な流行期はこれから迎えることになります。

 国立感染症情報センターの「インフルエンザウイルスB分離・検出報告」によれば、2011年48週(11/28-12/04) 2例、49週(12/05-12/11) 4例、50週(12/12-12/18)13例、51週 (12/19-12/25)3例、52週(12/26-01/01)2例、2012年1週(01/02-01/08)2例、2週(01/09-01/15)12例、3週(01/16-01/22)報告なし、とB型インフルエンザの検出例もあることから、息子は、胃腸症状の出やすいB型に感染していたのかも知れません。

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 日本でのインフルエンザの流行は、これまでは冬季に集中していました。一般的傾向として、第46週(2010年度は11月15日~11月21日、11月中旬)あたりからインフルエンザの患者数が徐々に増加し始め、第4週(2011年度は1月24日~1月30日、1月末)あたりにピークを迎え、第8週(2011年度は2月21日~2月27日、2月末)あたりに患者数は大きく減ります。

 しかし、2008/2009年シーズン(2008年7月~2009年6月)と2009/2010年シーズン(2009年7月~2010年6月)は特殊でした。流行の通年化が見られたのです。2008/2009年シーズンの季節性インフルエンザの流行は、11月にAH1亜型、AH3亜型のインフルエンザの同時流行があり、2009年3月に入ってからはB型のインフルエンザ(ビクトリア系統)が流行し、5月にはAH3亜型のインフルエンザが流行するという事態になりました。このため、流行期が長期間に及ぶことになってしまいました。



 東京都では、2008年9月から2009年8月までに、定点医療機関、公立の学校(幼稚園、小中学校、高校)、医療機関から搬入された検体(咽頭拭い液、鼻咽頭拭い液、うがい液)について、インフルエンザウイルスの遺伝子検査を行ったところ、AH1亜型(Aソ連型、AH1季節性)が約56%、AH3亜型(A香港型)が約24%件、B型が約20%だったようです。

 2009年4月26日に、「豚インフルエンザの脅威-パンデミック(世界的大流行)の予兆?」というタイトルで書いたブログ記事からです。

 日本ではタレントの泥酔騒動の陰に隠れ、そのニュースの重要性がまだ知られていないようですが、海の向こう「メキシコ」で大変な事態が発生しています。外務省の「海外安全ホームページ」から該当するページの記述を見てみます。「メキシコ:H1N1亜型由来豚インフルエンザの発生について(注意喚起:その2)」(2009/04/25)からです。

 「4月25日現在、メキシコにおいてインフルエンザと似た症状を示す比較的重い呼吸器疾患が流行しています。メキシコ厚生大臣は記者会見で、これまでメキシコ全国で1,004人の症例があり、4月23日までに68人が死亡(うち、20人の死因がインフルエンザであることを確認済み)していること及び以下の対策をとったことを発表しました。なお、死亡した20人の地域別内訳は、メキシコ市13人、サン・ルイス・ポトシ州4人、バハ・カリフォルニア州2人、オアハカ州1人とされています。」

 この情報から予測すると、「インフルエンザと似た症状を示す比較的重い呼吸器疾患」の致死率は、68÷1004×100で、7%ほど。致死率がこの水準だと、大流行する可能性があります。罹患者がそうとは知らず、多くの人と接触して感染させることが起こるからです。「パンデミック(インフルエンザなどの感染症が世界的規模で同時に流行すること)」という事態が起こりえます。


 この「豚インフルエンザ」はやがて「新型インフルエンザ」と呼ばれるようになり、致死率はそれほど高いものではないことが分ったのですが、日本でも感染を広げていくようになります。東京都でも、このインフルエンザの遺伝子検査を行うようになり、2009年4月末から8月末までの検査では、新型インフルエンザウイルス(AH1pdm亜型)が約79%に及ぶことになります。AH3亜型(A香港型)は約20%なのだったのですが、AH1亜型(Aソ連型)は0.5%にも満たなくなっていきます。Aソ連型はAH1pdm(pdmは、pandemic(パンデミック)から)に取って代わられたことになります。

(参考) 「インフルエンザに罹ったらそれは「新型AH1pdm」と見ていいのか。

(注) この記事の中で「新型の流行でA香港型とAソ連型は、ほぼなくなるだろうという予測をしている」と述べていますが、実際はAソ連型がほぼ姿を消し、新型に取って代わられましたが、A香港型はいまだ流行を起こしています。(注終わり)



 東京都では、2009年第31週(7月27日~8月2日、7月末)あたりから新型インフルエンザの感染者が急増し始め、第41週(10月5日~10月11日、10月初め)あたりにピークを迎えます。そのまま感染者数は大きく減ることはなく、2010年第8週(2月22日~2月28日、2月末)あたりにようやく大きく減少し始めます。

 2010年は第13週あたりから第39週あたりまでは感染者はほとんど報告されませんでした。190日程度の期間、ほぼ平穏だったといえます。インフルエンザ感染の通年化ということは避けられたのでしょうか。

 2008/2009年シーズン(2008年9月1日~2009年8月30日)のインフルエンザウイルスの検出割合は、AH1型が約41%、AH3型が約20%、B型が約19%、新型が約20%でした。AH1型:AH3型:B型:AH1pdm(新型)=2:1:1:1 だったと言えます。しかし、2009/2010年シーズン(2009年8月31日~2010年9月5日)は、新型が圧倒的に多く、98%に及んでいました。

 心配しているのは、インフルエンザ感染が通年化すると、インフルエンザワクチンの効果はどうなるのかということです。ワクチンが充分に効果を生じている期間は3~5か月と短いのだそうです。通年化すると、年に2~3回の接種が必要になるのでしょうか。それならば、覚悟を決めて、自然感染で抗体を獲得した方がいいとも思えます。自然感染で獲得した抗体は、インフルエンザウイルスが変異を繰り返し大きく変化するまではそのタイプには有効です。

 ワクチンの接種は受けないで(または1度のみで)、感染しないように心がけて、それでももし感染してしまったら、「タミフル」(経口薬)、「リレンザ」(吸入薬)、「ラピアクタ」(点滴)といった抗インフルエンザウイルス薬によって重症化を防ぐという戦略はどうでしょう。しかし、これらの抗インフルエンザウイルス薬によって治療を受けた場合、充分な抗体を獲得できない、という話もあります。どうすればいいのでしょう。

 間近に迫った今年の家族旅行の目的地はヨーロッパです。いま、ヨーロッパではイギリスに始まった新型のインフルエンザが感染を広げています。2009/2010年シーズンでは、ヨーロッパでは、アメリカなどと異なり、新型インフルエンザの流行は小規模でした。そのため、抗体を持っている人が少なく、2010/2011年シーズンには流行し易い環境にあるのです。

 一般的傾向としては、アメリカでは昨シーズンには流行しなかったA香港型が今シーズンの流行の主流を占め、昨シーズンにA香港型の流行のあったヨーロッパでは新型の流行という構図になりそうなのです。去年のイタリア旅行では、現地で「新型」の流行の話は聞かなかったのですが、今年は様相が異なりそうです。オランダ、ベルギー、フランス、スペイン、ポルトガル、イタリアと飛行機で移動するので、多くの人と狭い空間に閉じ込められるような時間がかなりあります。感染リスクが高まります。

(参考) 「インフルエンザワクチンの有効期間(効果の継続期間)はどのくらい?

 病院の病棟も飛行機の機内と同じように多くの人と共有する狭い空間といえます。2011年1月21日に、茨城県の大洗海岸病院で季節性インフルエンザの集団感染があったことが発表されました。90歳代の入院患者の女性が死亡し、他の入院患者や看護師ら計20人の感染が確認されたのです。

 同病院では1月18日頃から、発熱を訴える患者が出始め、21日現在では、死亡した女性以外に入院患者145人中50歳代から90歳代の16人と、看護師ら職員4人からA型の陽性反応が出たそうです。

 死亡した女性は、2010年12月27日、急性腸炎で入院します。1月15日に発熱や咳の症状が出て、18日には熱が40℃に上がります。インフルエンザ感染が疑われ、簡易検査をしたところ、インフルエンザA型の陽性反応が出ます。抗インフルエンザウイルス薬「ラピアクタ」の点滴投与を受けますが、1月21日に呼吸不全に陥り、死亡します。死因は「肺炎」でした。

 妻「家に籠っていない限り、インフルエンザに感染するリスクは避けられないのよ。」
 私「そうだね。」
 「社会生活を送っていれば、人と接しないわけにはいかないの。人ごみを避けろといったって、、、」
 「無理だね。」
 「飛行機の機内も通勤電車の車内と同じよ。」
 「通勤電車の方がもっと感染しやすいかもね。」
 「そうよ。だから、旅行には行くわよ。どこにいたって、リスクは同じなんだから。」
 「・・・」
 
                (この項 健人のパパ)

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 鳥取県で1月8日に30歳代女性がインフルエンザ感染で死亡しました。合併症として肺炎を引き起こしたことで亡くなったようです。インフルエンザ感染で重篤化することの多い「ハイリスク群」には属していませんでした。

 「ハイリスク群」とは、インフルエンザに感染すると、重症化や合併症を引き起こす可能性の高いグループのことで下記の人たちです。
  (1) 65歳以上の高齢者
  (2) 妊娠28週以降の妊婦
  (3) 慢性肺疾患(肺気腫、気管支喘息、肺線維症、肺結核など)を持っている人
  (4) 心疾患(僧帽弁膜症・鬱血性心不全など)を持っている人
  (5) 腎疾患(慢性賢不全・血液透析患者・腎移植患者など)を持っている人
  (6) 代謝異常(糖尿病・アジソン病など)を持っている人
  (7) 免疫不全状態の患者

 「インフルエンザ」は、インフルエンザウイルスが呼吸器に感染することによって起こる病気で、鼻水、鼻づまり、微熱、きわめて短期間の軽度の悪寒といった「風邪(普通感冒)症状」とは異なり、発熱(38~40℃)、筋肉痛、関節痛、全身倦怠感、強度の悪寒といった症状をみせます。気管支炎、肺炎、インフルエンザ脳症といった合併症を引き起こし、二次感染や急性脳症により死亡することもあります。

 2000年から2009年までの10年間の「インフルエンザによる死者数」の統計があります。2001年と2008年が300人未満で死者数の少ない年で、2003年と2005年が1,000人を超えた死者数の多い年でした。10年間の平均では、インフルエンザ感染で亡くなる人は年間730人ほどになります。

 2000年  0,575人
 2001年  0,214人
 2002年  0,358人
 2003年  1,171人
 2004年  0,694人
 2005年  1,818人
 2006年  0,865人
 2007年  0,696人
 2008年  0,272人
 2009年  0,625人

 ヒトに流行を起こしているインフルエンザウイルスには、A型のH1亜型(Aソ連型)、H3亜型(A香港型)とB型の3種類があります。B型インフルエンザには、ビクトリア系統と山形系統の2つの抗原性の異なるタイプがあり、2004年~2005年シーズンに流行したのは、山形系統でした。2005年には、インフルエンザによる死亡者は1,818人に上っています。平均の2.5倍でした。

 2004年~2005年シーズンは30歳代から50歳代の患者数の割合が例年に比べて多かったようです。この年齢層はいろいろなタイプのインフルエンザウイルスに対する抗体を持っていることが多く、インフルエンザには罹りにくい。そのため、ワクチンの接種率も低いことから、抗体で対抗できないインフルエンザのタイプが流行すると、この年齢層は日常的に多くの人と接触するので、一気に流行が広がることになります。

 新型インフルエンザに感染した鳥取県境港市の30歳代の女性は、1月8日午前に、インフルエンザ様の症状で病院を受診します。簡易検査でA型陽性と診断されたことから、タミフルなどを処方されます。しかし、同日午後に自宅で倒れているのを家族に発見され、救急搬送された病院で死亡が確認されることになります。

 女性に基礎疾患はなく、またインフルエンザワクチンの接種は受けていなかったといいます。自然感染でいろいろなウイルスに対する抗体を獲得しているはずの年齢層に属し、一般的には疾患に体力的に対抗できるはずなのですが、何が起ったのでしょう。痛ましいことです。ご冥福をお祈りします。

 京都市は、1月14日に、新型インフルエンザに感染した50歳代の男性が死亡したと発表しました。男性は1月10日夜に発熱します。翌11日にインフルエンザA型陽性と診断され、抗インフルエンザ薬の「イナビル」の投与などの治療を受けますが、14日朝に肺炎により死亡します。

 この男性には「胚嚢胞症」の基礎疾患がありましたが、インフルエンザワクチンの接種を受けていなかったといいます。30歳代女性も50歳代男性もともに合併症の肺炎で亡くなり、ともにインフルエンザワクチンの接種を受けてはいませんでした。

 昨年末の2010年12月29日に、韓国では新型インフルエンザの死亡例が報告されています。30歳の男性が12月27日にインフルエンザ発症に特徴的な症状である「高熱と筋肉痛」を訴えます。翌28日に新型インフルエンザ(A/H1N1)と診断されます。29日未明に症状が悪化し、集中治療室で治療を受けますが、容態は好転せず、死亡したそうです。韓国では、今年の2011年1月3日に、女子中学生の死亡も報告されています。



 2009年に発生した新型インフルエンザ対策で、政府の対策本部専門家諮問委員会の委員長を務めた、自治医科大地域医療学センター公衆衛生学部門の「尾身茂」教授は、2010年12月12日に、日本ワクチン学会の学術集会で講演し、次のような見解を述べたそうです。

 「新型インフルエンザは、2009年~2010年シーズンの流行が小中高校生を中心に広がったことで、この年齢層にはウイルスに対する抗体を獲得している者がいることから、ウイルスの大きな抗原変異がないことを前提にすれば、2010年~2011年シーズンはこの年齢層ではなく、乳幼児や成人で新型インフルエンザ(AH1pdm)感染が広がる恐れがある。」

 新型インフルエンザに限れば、いままでのところ、死亡例は2例ですが、季節性インフルエンザ(A香港型)ではすでに高齢者に死亡者が出ています。A香港型は高齢者で重症化することが多く、高齢者施設などで集団感染が起り、2010年11月には秋田県の鷹巣病院で80人以上が集団感染し、そのうちの8人が死亡しています。

 病院の話では、インフルエンザワクチンは10月22日から29日にかけて、患者(入院患者130人ほど)や職員全員(看護師など86人)に接種したといいます。しかし、ワクチンは接種して2~3週間ほど待たないと感染予防、発症予防、重症化予防といった効果は現れず、院内での感染死亡例は、10月31日には報告されることになってしまいます。職員にも感染者は20人が確認されることになります。間に合わなかった、ということでしょう。

 今年も無事にインフルエンザの流行期(インフルエンザの患者数は2月にピークを迎えることが多い)を発症せずに乗り切りたいものです。ワクチン接種を10月中旬には家族全員で受けているので、少なくとも重症化することはないのかな。

              (この項 健人のパパ)

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 急に出現する悪寒、高熱を特徴とするインフルエンザは、インフルエンザウイルスに感染することで発病します。インフルエンザには流行期があり、温度が低く乾燥した冬には、空気中に漂っているウイルスが長生きできることや乾燥した冷気でのどや鼻の粘膜が弱っていてウイルスに感染しやすいことなどから、発症者は12月に増え始め、2月にピークを迎え、3月頃には急速に減っていきます。

 インフルエンザウイルスはA型、B型、C型の3つに大きく分けて分類されます。毎年流行を繰り返す毎にウイルスには変異株が出てきます。特にA型は多くの変異株があり、世界的な大流行を引き起こします。例えば、2009年に世界的大流行を起こしたいわゆる「新型インフルエンザ」の株の1つに「A/カリフォルニア/7/2009(H1N1)pdm」があります。B型も流行があります。C型は軽症のことが多い。

 インフルエンザに感染することを防ぐには、インフルエンザウイルスに接触することを避ければいいのですが、社会生活を送っている私たちには不可能なことです。感染しやすい環境に入るときにマスクを着用したり、手洗いをこまめにするなどの防衛策を講じたり、インフルエンザウイルスに免疫力で対抗できるような健康状態を維持することが必要だとは言えます。

 しかし、いつも規則正しい生活を送るわけに行きません。仕事に追われて健康に良くないとは分っていても無理をすることもあります。免疫力をあげる人工的な方法にワクチン接種があります。人類は、天然痘というウイルス感染症をワクチンという手段で撲滅しましたが、インフルエンザは変異を繰り返すためにワクチンの効き目がなくなり撲滅することは不可能です。

 それでも、流行株を予測することで、インフルエンザワクチンの接種が行われています。予測が的中すると、インフルエンザに感染することを防止したり、感染しても発症を防いだり、発症しても重症化を妨げる効果があるといわれています。費用をかけてインフルエンザワクチンを接種しても、発症する人もいるわけですから、心許ない効き目とも言えます。

 しかし、若くて元気な20歳代にインフルエンザに罹って、高熱や筋肉痛でかなりシンドイ思いをしたので、高齢になった今ではそんな苦痛に耐えられる自信がありません。インフルエンザウイルスと戦うのに、鉄剣でなくても、柔らかい銅剣であっても、素手よりはましだと思うから、このところ毎年ワクチンの接種を受けています。
 
 インフルエンザワクチンはインフルエンザウイルスから作られます。ワクチンの製造に用いる「ワクチン株」をどれにするかは、 厚生労働省健康局の依頼に応じて「国立感染症研究所」が検討し、 これに基づいて厚生労働省が決定します。国立感染症研究所は、11~12月に次年度シーズンの予備的流行予測を行い、翌年1月下旬から数回にわたり研究所内外のインフルエンザ専門家を中心とする検討委員会が開催され、さらに、2月中旬にWHOにより出される北半球次シーズンに対するワクチン推奨株などを検討し、3月までに次シーズンのワクチン株を選定します。

 2010年~2011年シーズンのワクチン株は、A型株が「A/カリフォルニア/7/2009(H1N1)pdm」と「A/ビクトリア/210/2009(H3N2)」、B型株が「B/ブリスベン/60/2008」と決定されました。

 2010年11月15日に、横浜市金沢区の小学校で、3学年の54名中30名が欠席しました。欠席者30名のうちインフルエンザと診断された者が15名であったため、学年閉鎖となります。横浜市衛生研究所は、翌16日に5名の患者のうがい液と鼻かみ検体を入手し、リアルタイムPCR検査を実施します。その結果、2名はB型と判定されることになります。

妻「でも、B型はそれほど心配しなくてもいいんでしょう。」
私「いや、B型の方が重くなることがあるようなんだ。」
「どんな症状なの。」
「高熱や関節痛はA型と共通だけど、胃腸症状が出るようだよ。」
「お腹が痛くなったとかするの?」
「そう、下痢をしたり、嘔吐したり、、、」
「この間の私の症状みたい。」
「あれは、12月のことじゃないか。」
「B型が横浜でこっそりと流行っていて、横浜に用事で行ったときに私にウイルスがとりついたのよ、きっと。」



 たしかに、横浜市のある神奈川県では2010年第51週(12月20日~12月26日)にもB型インフルエンザの局地的流行がグラフから確認できます。検出されたインフルエンザウイルスのおよそ31%がB型だったのです。

私「ワクチンを打っていたから、何日も寝込むことはなかったのかも知れないね。」
妻「あら、種類が違うとワクチンは効かないんじゃないの?」
「A型にA香港型とAソ連型があるように、B型にもビクトリア系統と山形系統というのがあるね。」
「今年のワクチンにはどれが使われていたの?」
「ビクトリア系統のワクチン株だよ。」
「横浜で流行っているのは、どっち?」

 横浜市衛生研究所は、シーズン前に国立感染症研究所から配布された抗原解析用の2010/11シーズンウイルス同定用抗血清キット「A/カリフォルニア/7/2009(H1N1)pdm、A/ブリスベン/59/2007(H1N1)、B/ブリスベン/60/2008(ビクトリア系統)、B/バングラデシュ/3333/2007(山形系統)」を用いた「赤血球凝集抑制試験(Hemagglutinin Inhibition Test、HI試験)」によって、型・亜型の同定および抗原解析を行います。

 抗体を含む血清(血液の55%ほどを占める液体成分)を「抗血清」といいますが、その抗血清に一定の抗原量のウイルスを加えて反応させた後に、赤血球浮遊液を加え、どの希釈倍数まで凝集が抑制されているかを観察するのが、HI試験です。インフルエンザウイルスは赤血球を凝集させることから、凝集が起らなければ、抗体が抗原であるウイルスの赤血球凝集素を攻撃し、赤血球が凝集しないようにしていることになります。

 抗原解析を実施した結果、患者から採取したウイルスは、ビクトリア系統(Victoria系統)の「抗血清 B/ブリスベン/60/2008」では、320倍から640倍に希釈しても凝集が抑制されました。これは、患者から採取したウイルスがビクトリア系統であることを意味します。一方で山形系統の「抗血清 B/バングラデシュ/3333/2007」に対しては、20倍希釈程度で凝集が始まってしまったようです。

 これは、横浜市周辺で流行しているB型インフルエンザは、山形系統ではなく、ビクトリア系統であることの証拠となります。今期のインフルエンザワクチンのB型株の「B/ブリスベン/60/2008」はビクトリア系統ですから、同じ系統に属していることになります。

妻「じゃあ、ワクチンの効き目はあるのね。」
私「それほど重くなかったのは、ワクチンのおかげかもね。」
「あら、それほど熱は上がらなかったけど、吐き気で辛かったのよ。」
「ワクチンの効き目もそこまでなのかな。」

 インフルエンザウイルスのHA遺伝子の系統樹解析も行われ、このB型のウイルスは「ブリスベン/60クレード」とは異なっており、「台湾/55/2009クレード」であることがわかったそうです。クレード (clade)とは、単系統群 (monophyletic group)とも言い、1つの共通祖先と、それから派生した分類群全てを含むグループのことを言います。検出されたB型はワクチン株のB/ブリスベン/60/2008類似株群とはグループが違い、抗原性状が異なる種類だったということになります。

 WHOによれば、イギリスでは、昨年の終わり頃においては、B型が報告数の3分の1を占め、アメリカにおいては、南東部を中心に43%と報告されています。2011年の2月のインフルエンザの流行期のピークに向けA型との混合流行が懸念されるそうです。

              (この項 健人のパパ)

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 インフルエンザを発症すると、風邪様症状(風邪症候群。咳、のどの痛み、鼻汁・鼻づまりなど局部症状や発熱、倦怠感、頭痛など全身症状)とともに、38℃を越える高熱を出します。新型インフルエンザ(AH1pdm)での報告では、38℃以上の発熱は82.8%、咳は81.0%、のどの痛み65.1%、鼻汁・鼻づまり60.3%、倦怠感58.1%、頭痛50.0%の症状がありました(「新型インフルエンザの大阪府下の2つの学校における臨床像」から)。

 風邪(普通感冒)には、下痢、腹痛、嘔吐などの腹部症状を伴うことがありますが、上記の新型インフルエンザの報告では、下痢12.9%、腹痛10.3%、嘔吐6.5%と低かったようです。

 インフルエンザの発症は、インフルエンザウイルスが鼻の粘膜などを介して体内の細胞に入り込んで増殖し、最後に細胞を破壊し、次の細胞に入ることを繰り返して、細胞の破壊が急速に進行することで起ります。細菌感染では、細菌が菌体外に放出した毒素(外毒素、エクソトキシン、exotoxin)や細菌の成分である毒素(内毒素、エンドトキシン、endotoxin)で、発症するのとは異なります。

 インフルエンザのようなウイルス感染症の発症や重症化を防ぐには、体内でウイルスが増殖するのを防ぐことです。「オセルタミビル(商品名:タミフル)」などの「ノイラミニダーゼ阻害薬(Neuraminidase inhibitors)」は、A型やB型のインフルエンザウイルスに入り込まれた細胞が破壊されるのを防ぎ、ウイルスの放出を妨げることで、ウイルスの増殖を阻止します。既に破壊された細胞は新たな細胞が作られ、症状は改善していきます。

 「抗体(antibody)」は、「マクロファージ(macrophage、貪食細胞、白血球の1つ)」などと協力して、体内に侵入してきた細菌やウイルスなどを体内から除去します。血液中や体液中に存在する抗体は、特異的にタンパク質などの分子(「抗原(antigen)」)を認識して結合する働きを持っています。「特異的」とは、例えば、新型インフルエンザウイルス(AH1pdm)用の抗体があって、この抗体は新型インフルエンザウイルス(AH1pdm)にしか結合しません。

 抗体に結合された抗原(例えば、インフルエンザウイルス)は、マクロファージに見える(認識される)ようになり、パクッと食べられてしまいます。この結果、ウイルスの増殖は抑えられることになります。しかし、抗体(「免疫グロブリン、immunoglobulin、Ig」)はあらかじめ人体に存在するものではありません。リンパ組織に存在するB細胞(“B”は骨髄(bone marrow)のB? ファブリキウス嚢(brusa of Fabricius)のB?)が、ヘルパーT細胞(“T”は胸腺(Thymus)のT)によって活性化されて抗体を産生するのです(一次応答)。

 B細胞に抗体を作らせるには、自然感染かワクチン接種が必要になります。一度抗体を産生した経験をB細胞に持たせると、B細胞は同一のウイルス(「抗原」)の再侵入に対して、一次応答よりも大量の抗体を産生し、再侵入した抗原をすばやく体内から除去できるようにします(二次応答)。

 「ウイルス抗体検査」というものがあります。抗体は免疫グロブリン(Ig)というタンパク質で、そのうち感染の防御に関係しているのはIgMとIgGです。H鎖(重鎖)の種類で、γ(ガンマ)、α(アルファ)、μ(ミュー)、δ(デルタ)、ε(イプシロン)により、それぞれIgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5クラスに分けられています。

 ウイルス抗体検査の1つ、「IgM抗体検査」は、IgMはウイルスが体内に入ってくると間もなく増え始め、約2週間でピークに達した後減少して、1~2ヶ月でほとんどなくなることから、ウイルス感染(例えば、麻疹(はしか))の確定診断に使われることがあります。

 ウイルス抗体検査を方法による分類をして、「酵素免疫測定法 (enzymeimmunoassay、EIA)法」の1つ、「ELISA法(エライザ法、emzyme-linked immunosorbent assay)」は、ウイルス抗原を吸着したプレートに患者の血清を反応させたあと、さらに反応した患者血清中のIgGに酵素標識した抗ヒトIgG抗体を反応させ、この酵素の発色の有無からウイルスの存在をみる方法です。HIV(エイズウイルス)やATLV(成人T細胞白血病ウイルス)などの確定診断に用いられるようです。
 
 IgGは、IgMに数日遅れて産出されますが、IgMが減少を始めても増加し続け、ウイルスが存在しなくなってもしばらくは高い値を維持します。IgGはその後少しずつ減少していきますが、同一のウイルスが再侵入すると、2~3日で急増します

 しかし、赤血球凝集能を持つインフルエンザウイルスのようなウイルスの抗体検査は、「赤血球凝集抑制試験(HI試験、Hemagglutinin Inhibition Test)によって測定します。抗体が存在すれば、抗体はウイルスの赤血球凝集素を攻撃し、赤血球が凝集しないようにします(凝集抑制)。赤血球の凝集で抗体の保有を判断するわけです。

 具体的には、段階的に希釈した血液(抗血清)をウイルス検体と反応させ、赤血球凝集反応がどれだけの希釈まで抑制されるかを観察します。血液の希釈倍率はHI価と呼ばれます。インフルエンザの感染予防や感染しても症状の軽減に期待できる40倍以上を抗体保有とし、より感染を防御できる十分な抗体価を160倍以上として評価します。

 国立感染症研究所感染症情報センターは、2010年7月~9月、全国の6,035人から血液を採取し、新型インフルエンザに対する抗体の有無を調査して、2010年12月7日に報告しています。その報告によれば、10歳~19歳(昨年、患者数が多く報告された)では、新型インフルエンザに対して免疫力があることの指標となる抗体保有率(HI価が40以上)は65%(3人に2人は抗体を保有)と高い一方で、0~4歳の乳幼児(20%台)や50歳代以上(10~20%台)では特に低い水準にとどまっていることがわかったようです。



 これは今年は、児童や学生の間では集団免疫がそれなりにでき上がっているので、学校から昨シーズンと同じ型の新型インフルエンザが広まるということは起りにくくなっていることを意味していると考えられます。しかし、5歳から24歳までの抗体保有率が他の年齢と比較して高いのは、例年みられる傾向であり、学校などでの集団生活によりインフルエンザウイルスに曝露される頻度が高いのを反映しています。



 学校は、インフルエンザのような感染症を拡散させる場となっているのです。今シーズンの亜型別分離状況は、2010年第36週から第48週において新型インフルエンザ(A/H1pdm亜型)が126例、A香港型(A/H3亜型)が321例と、新型インフルエンザとA香港型が混在し、現時点ではA香港型の方が分離報告数は多いようです。学校でのインフルエンザの集団発生は、A香港型で起りそうです。

 今シーズンは2010年12月7日時点ですでに、茨城県の小学校においてインフルエンザウイルスAH1pdm(A/H1N1 2009)による集団発生が報告されており、また、インフルエンザ様疾患発生報告(学校欠席者数)によると、2010年10月24日から11月27日のおおよそ1か月の期間に学級閉鎖を実施した学校数は82校、学年閉鎖を実施した学校数は25校、休校を実施した学校数は14校と報告されているようです。

           (この項 健人のパパ) 

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 今シーズン(2010~2011年)のインフルエンザワクチンの医療機関納入数量は、2010年11月12日現在で、1mlバイアル換算で1,821万本になり、接種可能者の推定数は約3,643万人です。2010年11月16日での副反応報告数は261人。そのうち、重篤な副反応として報告されたものは33人。死亡例は、9例報告されており、そのうち、主治医の評価が「関連あり」の症例は3例(80歳代女性、10歳未満男児、80歳代男性)になっているようです。

 精神運動発達遅滞、慢性肺疾患を基礎疾患として有する10歳未満の男児がワクチン接種の翌朝、呼吸停止で発見されます。ワクチン接種が死亡の原因かどうかは否定も肯定もできないと「新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会」は判断します。基礎疾患として、慢性心不全、肝硬変を有していた80歳代の男性では、接種後より38℃台の発熱が出現し、やがて熱は下がりますが、意識障害、呼吸困難、多臓器不全が発現し、やがて死亡しました。病態は肝硬変症に合併した敗血症で、ワクチンの副作用でこのような経過を辿るものは知られておらず、副反応と断定する根拠は乏しいと「検討会」は判断します。

(参考) 「インフルエンザワクチンの接種と副作用のアナフィラキシーショック」(死亡例の1例め)

 昨シーズン(2009~2010年)の新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチンの接種後の副反応報告においては、接種者数は推定で約2,100万人でした。そのうち、死亡例が133人報告されており、報告医から「接種との因果関係がある」として報告された事例は3例でした。この副反応報告においては、「検討会」では、死亡とワクチン接種の直接の明確な因果関係がある症例は認められませんでした。死亡例のほとんどが、重い持病をもつ高齢者であり、死因が接種によるものなのか、持病の悪化によるものなのかが判明しなかったのです。

 ここ2年の例で言うと、基礎疾患を有している人の中で接種後にごく稀に死亡者が出ることになり、それも疾患の悪化が偶然、接種の後に起ったことも考えられます。ワクチン接種によって通常見られる副反応は、局所反応としての発赤、腫脹、疼痛など(接種を受けた人の10~20%に起こる)であり、全身反応としての発熱、悪寒、頭痛、倦怠感、嘔吐など(接種を受けた人の5~10%に起る)です。これらは、通常2~3日中に消失します。

 ワクチン接種には、「接種要注意者」という人たちがいます。この人たちは、副反応が起る確率とその強度が通常の人たちとは異なり、高いといえます。心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患等の基礎疾患を有することが明らかな者、過去に痙攣の既往のある者、気管支喘息のある患者、インフルエンザワクチンの成分又は鶏卵、鶏肉、その他鶏由来の物に対して、アレルギーを呈するおそれのある者(「卵アレルギー」ですね)、前回のインフルエンザ予防接種で2日以内に発熱のみられた者または全身性発疹等のアレルギーを疑う症状を呈したことがある者などが接種要注意者です。

 気管支喘息で治療を受けているある女性が今年の3価のインフルエンザワクチンの接種を受けて、次のような経過をとります。気管支喘息は空気の通り道である気管支がアレルギーなどで炎症を起こし過敏になり、何かの刺激で腫れて狭くなり呼吸が苦しくなる慢性の病気です。気管支喘息は常に症状があるわけではなく、時間帯や体調などで強い発作が出たり症状がなかったりします。

 発作には軽度なものから死に至るような重度なものまであり、強い発作を起こしたことがある人は注意が必要です。喘息治療薬には、長期管理薬(controller)と発作治療薬(reliever、リリーバー)があり、「発作治療薬」には、「塩酸プロカテロール(procaterol hydrochloride、製品名:メプチン)」などがあります。この薬は、気管支の筋肉にある「β2アドレナリン受容体(beta2 Adrenergic Receptor)」に結合して、収縮した気管支の筋肉を弛緩させるスイッチを入れます。

 インフルエンザの混合ワクチンを接種してきました。でも、帰り道に、なぜか異様に身体がだるくなり、接種した腕がムズムズしてきました。そして、なぜか身体全身がカアッとして痒いのです。喘息の抗アレルギー薬を慌てて服用しました。

 身体がよく痒くなる、皮膚がカサカサする、目が痒くなったり涙目になったりする、のどに痛みや痒みを感じる、鼻が詰まりやすい、風邪を引くと咳が長引く、といった項目の多くが当てはまる人は「アレルギー体質」だといえます。 新型インフルエンザや季節性インフルエンザなどのワクチン接種は、異物を体内に入れる行為です。それによって、ワクチンに含まれる物質や接種を受けた人の体質の影響で、多かれ少なかれアレルギーのような症状(免疫反応)を起こします。

 体質や体調によって、アレルギーのような症状が極めて0に近い場合があれば、極々稀ですが死に至ってしまう場合もあります。アレルギー体質の人は、アレルギーの程度と接種時の体調によりますが、普通の人と比べて大きく出ることがあります。

 抗アレルギー薬の1つ、「メディエーター遊離抑制剤」は、肥満細胞から「ヒスタミン (histamine、過剰に分泌されると、ヒスタミンⅠ型受容体というタンパク質と結合して、アレルギー疾患の原因となる) 」などのさまざまな化学伝達物質(chemical mediator)が遊離されるのを抑制する薬剤です。クロモグリク酸ナトリウムを主成分とする「インタール(アステラス製薬、サノフィ・アベンティス)」は、メディエーター遊離抑制剤です。この薬剤は効果が現れるまでに一般的に4~6週間以上を必要とするようです。1日4回(朝、昼、夕及び就寝前)継続的に吸入するのを原則とします。炎症を即効的に抑える効果はありません。

 夜中に、身体がぶわっと膨らんだような感覚に襲われ、気道に我慢できない痒さが襲ってきました。舌も膨らんで少し息苦しい感じ。そのうち、喉がヒューヒューいうようになってきました。喘鳴が始まってしまいました。 

 「喘鳴(ぜんめい)」とは、呼吸時に「ゼイゼイ」「ヒューヒュー」というような音がする状態をいいます。聴診器を通して聞くと、いびきに似た異常な呼吸音がします。喘鳴は、気管または気管支の一部が狭くなることで起り、呼吸困難の兆候です。ゼイゼイという音は気管支の奥から発生し、ヒューヒューという音は気管から咽頭にかけての部分から発生します。空気の通り道に炎症などが起って、狭くなっていることから、異常音が発生することになります。

 このまま放っておくとさらに悪化しそうなので、急いでメプチンエアを吸入して、メドロールなどを飲みました。そのためか、それ以上ひどくはならずに朝を迎えられましたが、身体はとてもだるくてベッドから起き上がれません。腕は接種したところが熱を持って真っ赤に腫れています。

 「メチルプレドニゾロン(methylprednisolone)」を主成分とする「メドロール(ファイザー)」は、副腎皮質ステロイド薬で、炎症を抑えるのに使われます。炎症は抑えるのですが、免疫力を低下させ、細菌を増殖させる危険もあります。この薬剤の効き目は「中時間作用型」で、作用持続時間は短時間と長時間の中間で、強度も中間です(intermediate-acting)。

 私は卵アレルギーでもあるのですが、インフルエンザのワクチン接種で、今まで多少接種した方の腕が腫れることはあってもここまでひどくはなりませんでした。病院に行こうかなとも思ったのですが、夜中では救急車を呼ぶしかないし、気管支喘息の薬をもらっていましたから、私のとった処置が正しかったかどうかわかりませんが、薬で一応危険な状態になるのは防ぐことができました。

 卵アレルギーは、卵白が含有するタンパク質へのアレルギー反応が殆どです。インフルエンザワクチンを製造するには、インフルエンザのウイルス株を細胞の中で増殖させる必要がありますが、日本では「孵化鶏卵(発育鶏卵)」が用いられています。そのため、ワクチンの中にごく微量ですが、卵白の成分が残ることがあるようです。

(参考) 「人獣共通感染症と「豚インフルエンザ」、「鳥インフルエンザ」

 体調も影響したのでしょうか、ワクチン自体のせいでしょうか、いままでの経験で油断していたのでしょうか、アレルギー体質の人がインフルエンザのワクチン接種を受けるときは、充分に気をつけて下さいね。 

(参考) 「ワクチン接種と副反応(副作用)と抗アレルギー薬の服用

 ワクチン接種とインフルエンザ発症には、次のような可能性があります。インフルエンザワクチンの「安全性」と「有効性」が関係して、可能性の大きなものから小さいものまで混在しています。(「罹る」は、ここでは「感染」を意味せず、「発症」を意味しています)

01.ワクチン接種を受けなかったが、インフルエンザには罹らなかった。(これが保証されるなら、これが一番いいのですが、、、)
02.ワクチン接種を受けず、インフルエンザに罹ったが、軽かった。
03.ワクチン接種を受けず、インフルエンザに罹って、重症化した。
04.ワクチン接種を受けて、副反応も出ず、インフルエンザにも罹らなかった。(これがリスク管理からは理想なのでしょう)
05.ワクチン接種を受けて、副反応は出たが、インフルエンザには罹らなかった。
06.ワクチン接種を受けて、重度な副反応が出た。
07.ワクチン接種を受けて、副反応は出なかったが、インフルエンザには罹った。
08.ワクチン接種を受けて、副反応は出なかったが、インフルエンザに罹って、重症化した。
09.ワクチン接種を受けて、副反応も出、インフルエンザにも罹った。
10.ワクチン接種を受けて、副反応も出、インフルエンザにも罹って、重症化した。(これは安全性に欠け、有効性もないことになります)

                (この項 健人のパパ)

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 2010年12月2日の日経メディカルオンラインの記事(カナダ、ケベック州のラヴァル大学(université Laval)のJesse Papenburg氏らの報告)からですが、2009年に発生した新型インフルエンザ(A/H1N1pdm)の家庭内での2次感染率は、45%程度で季節性インフルエンザとほとんど変わらない水準である可能性が示されたそうです。2009年5月から7月にカナダのケベック市内でA/H1N1pdmを発症し感染が確認された患者の同居家族についての調査からそういえるのだそうです。

 インフルエンザ様疾患(「37.5度以上の発熱」があって、咳、鼻水・鼻づまり、のどの痛みの症状を伴う場合)を発症し、RT-PCR検査によって新型インフルエンザウイルス感染が確認された42世帯の43人を「初発感染者」とします。そして、初発感染者の家庭内接触者119人を観察したそうです。観察中に53人に新型インフルエンザ感染が確認されます(「2次感染者」、発症したしないにかかわらず、初発感染者の感染後に新型インフルエンザウイルスに感染し、RT-PCR検査、または血清抗体検査で陽性とされたもの)。

※ インフルエンザウイルスは、RNAウイルスです。DNAがなくRNAしか持っていないウイルスを検出する場合、RT-PCR法を用いることになります。「RT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)法」とは、RNAを鋳型に逆転写(reverse transcription、DNAからRNAを生成するのが転写(transcription)で、その逆のRNAからDNAを生成すること)を行い、生成された「cDNA(complementary DNA、相補的DNA)」に対してPCRを行う方法です。



 「2009年の新型インフルエンザ初期流行」という状況下(免疫を持っている者がいない)のデータですが、家庭内にウイルスが持ち込まれると44.5%の確率で、家族に感染するのですから高いといえますね。茨城県の小学校での集団感染の事例でも、8例のうち3例は、家族内に感染者がいました。うつしたのかうつされたのか、検体採取日と発症日との間隔があいている子の家族に家庭内発症例が多いことから、学校内で感染し、家族にうつしたとも言えそうです。

 ケベック州の例では、初発感染者と有症2次感染者(48例、2次感染者のうち5例には症状が出なかった)の発症時期のずれをみると、翌日が11例と最も多く(23%)、5日後までに38例が発症した(79%)そうです。家庭内にインフルエンザの発症者が出ると、10%の確率で、翌日には次の発症者が出ることになり、5日後までと長くとれば、32%の確率で、次の発症者が出ます。

 初発患者の症状と2次感染者の発生率との関連をみると、最も高かったのは、嘔吐で68%、次いで下痢の53%だったそうです。つまり、初発患者の症状に嘔吐があった場合、家族にうつす確率は68%と高いのです。このことから考えると、インフルエンザ感染者の吐瀉物の扱いには充分に気をつける必要があることになります。また、下痢であった場合も高いのですから、トイレ使用後の石鹸を使っての手洗いやトイレのタオルを共用にしない、患者の下着の洗濯に留意するなどの配慮が必要なようです。

 この調査で関心を惹くのは、53人に2次感染が確認されますが、その中に全く無症候だった「不顕性感染」例が5例あることです。その確率は9%強。感染者のうちインフルエンザ様疾患を発症したのは31人(58%)、1人(1.9%)は消化器症状のみだったそうなので、インフルエンザの感染を見た目で確認できたのは32人。残りの21人は、非常に軽いか無症状ということになります。これで確率をとると、40%弱が感染しても、発症しないことになります。多いですね、丈夫な人が。

 我が家では、6年生になる丈夫でない我が子「健人」が学校で風邪(ライノウイルス 、アデノウイルスなどのウイルスや細菌などに感染することで起る)をもらってきて、それを丈夫でない私がもらうことになります。妻にうつることは少なく、それは家族に発熱、咳、鼻水・鼻づまりといった「風邪症候群」が出ると、家庭内でもマスクを着用し、発症者に近づくことを極力避けるからです。

 「うつされない努力とうつさない努力は常にすべきよ。朝の混んだ通勤電車の中でマスクもしないでひどい咳をしている人を見かけるけれど、あれは、他人に対する配慮が足りない。人にうつってもかまわないと考えているなら、傷害罪の「未必の故意」じゃないかしら。マスクをするのは、相手に対するマナーよ。風邪をひいていない私の方がマスクをしなければならないの。風邪による経済的損失は、日本だけでも年間で何千億円と巨額になるはずよ。苦境にある日本を救うために、損失は最小限にしなくちゃ。ああいう人たちを仕分けて電車に乗せないようにして欲しいわ。」

 そこまで過激なことを言わなくても、、、

                 (この項 健人のパパ)

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 今年度(平成22~23年度)のインフルエンザワクチンは、新型H1N1・季節性H3N2・B型の3種類を含む3価ワクチンと新型H1N1のみの1価ワクチンの2種類が供給されています。インフルエンザウイルスにはいろいろな型があり、インフルエンザワクチンは型が異なれば、その効果(感染予防、発症予防、重症化予防)を上げることができません。ならば、いろいろな型に対応できるように3価より多くすれば良いかというとそうではありません。

 「3種から4種にすると、タンパク量が増え、副反応も増加する。不可能というわけではないが、製造するとなれば、新たに治験も必要になる。今回の流行への対応としては現実的でない」(国立感染症研究所の感染症情報センターのセンター長「岡部信彦」氏。新型インフルエンザワクチンに言及して、2009年4月30日)。「副反応」とは、ワクチン接種で、免疫学的機序などによって起る反応のうち、免疫の付与以外の反応をいいます。一般的には「副作用」と呼ばれています。

 弱毒化した細菌またはウイルスそのものを被接種者に投与する「生ワクチン」では、生ワクチンの細菌またはウイルスに感染しても殆どの場合、症状は出ませんが、ごく稀に感染に伴って症状が出る場合もあります。これもワクチンの副反応です。従来の「麻疹(Measles)ワクチン」と「風疹(Rubella)ワクチン」を混合したワクチンに「MRワクチン(麻疹・風疹混合ワクチン)」があります。このMRワクチンは生ワクチンです。

 小児麻痺(ポリオ)の生ワクチンを飲んだ子供からその親にワクチン内のウイルスが感染し、麻痺を生じた例が極めて少ないながらも報告されています。子供が飲んだワクチン株が便中に排泄され、それが親に感染し稀に麻痺をおこすという状況を減らすには、親にも子供と一緒にワクチンを飲んでもらうということが考えられます。

 「麻疹(はしか)」は、麻疹ウイルスの感染により起こる病気です。麻疹ウイルスは、インフルエンザウイルスと同じ「1本鎖RNA-鎖」ウイルスで、パラミクソウイルス科 (Paramyxoviridae、-myxo-は「粘液、鼻汁」の意味) に分類されます。それに対し、インフルエンザウイルスは、オルソミクソウイルス科 (Orthomyxoviridae)に分類されます。

 麻疹の発症では、3~5日間続く軽度から中程度(38~39℃)の発熱とともに咳、鼻汁、目ヤニがみられるようになります。発熱は典型的な場合は途中で短期間解熱する時期があります(二峰性、発熱のピークが2つ)。最初の発熱が下がってくる頃、口腔内に細かな白色の発疹がみられます(コプリック斑、Koplik spots)。発熱、咳、鼻汁で症状が始まることから、インフルエンザへの感染と間違えられることがあります。2度目の発熱は40℃を超えることもあり、首や耳の後ろに小さな紅斑が出始め、この発疹は次第に顔から体、手足へと広がっていきます。

 日本で承認されているインフルエンザワクチンは、生ワクチンではなく、「不活化ワクチン」です。不活化ワクチンはウイルスが体内で増殖しないように、化学処理、加温処理、紫外線照射などを行っていますが、抗体を生成させる能力を失わせてはいません。

 現行のインフルエンザワクチンは、ウイルスをエーテルで部分分解し、更にホルマリンで不活化しています。このワクチンでは、生ワクチンと異なり、インフルエンザを発症する可能性はなくなりますが、異物としてのタンパク質を体内に入れることには変わりなく、副反応は出る可能性があります。

 日本では未承認ですが、個人輸入を取り扱っている医療機関で接種を受けられる「点鼻投与型インフルエンザワクチン」は生ワクチンです。「アストラゼネカ(AstraZeneca PLC)」社の傘下の「メドイミューン(MedImmune)」社は、点鼻スプレー式のインフルエンザ弱毒生ワクチン(Live Attenuated Intranasal Vaccine 、LAIV)「フルーミスト(Flumist)」の製造をしていますが、アメリカでのみしか製造承認を獲得していません。

 ワクチン接種後に長期間にわたって強い感染防御免疫が誘導されるポリオワクチンや麻疹ワクチンとは異なり、インフルエンザワクチンは、ウイルスの感染やインフルエンザの発症を完全には防ぐことはできません。ワクチンのウイルス株と流行のウイルスの型が一致しなければ効果が発揮できないし、型が一致しても不活化ワクチンは効果が長続きしないのです。

 茨城県南部の龍ケ崎市、取手市、牛久市、守谷市、稲敷市、河内町、利根町の5市2町を管轄する茨城県竜ヶ崎保健所の管内の小学校で、新型インフルエンザの集団発生がありました。新学期が開始した2010年9月1日よりインフルエンザ様疾患の発症者が相次ぎ、20人が発症することになります(生徒数131人、発症率約15%)。5学年(26人)では、9人が発症した(発症率約35%)ことから、9月8日から5日間の学年閉鎖措置がとられました。

 35週(08月30日~09月05日)… 5人
 36週(09月06日~09月12日)… 5人
 37週(09月13日~09月19日)… 5人
   ………
 40週 (10月04日~10月10日) … 3人
 41週 (10月11日~10月17日)… 4人
 42週 (10月18日~10月24日)… 1人 (竜ヶ崎保健所管内でのインフルエンザの患者報告数)

 インフルエンザ様疾患の集団発生を受けて、茨城県衛生研究所は、患者から採取した検体(うがい液)をMDCK細胞を用いて培養を開始するとともに、リアルタイムPCR(real-time polymerase chain reaction)を実施しました。検体提供者8名の医療機関での迅速検査の結果は、いずれもインフルエンザウイルスAが陽性でした。

 「培養細胞(cultured cell)」は、人為的に生体外で培養されている細胞です。培養細胞が、長期間にわたって体外で維持され、一定の安定した性質を持つと「細胞株(cell line)」と呼ばれます。ヒト子宮頸癌由来の「HeLa細胞」、イヌの腎臓上皮由来の「MDCK細胞(Madin-Darby Canine Kidney、マディンとダービーがコッカー・スパニエルの腎臓細胞から細胞株を樹立した)」、アフリカミドリザル腎臓由来の「Vero細胞」などがあります。



 リアルタイムPCRの結果、全検体から新型インフルエンザウイルス(AH1pdm)が検出されることになります。問題は、検体提供者8名(男性4名、女性4名)中3名は、新型インフルエンザワクチンワクチンの接種を受けていなかったことに驚きます。非接種率は37.5%です。接種を受けていない人の割合が意外と高いのですね。ワクチンの副作用が喧伝されすぎていて、アレルギーのない人も接種に躊躇しているのでしょうか。それともワクチンの安全性ではなく有効性に疑問を持っているのでしょうか。

 ワクチンを接種しているのに発症したではないか、やはりワクチンの有効性には疑問がある、という意見がありそうですが、この学生たちは2010年の1月前後に接種したものと思われ、不活化ワクチンの効果は3~5か月ほどしかないので、2010年4月から6月頃にはその効果は消失していたことになります。

 我が家の妻、子、私が3価のインフルエンザワクチンの接種を受けたのは、2010年10月中旬です。この効果は、早ければ2011年1月中旬、遅くて2011年3月中旬には消失してしまうことになります。ワクチン接種によって獲得した抗体には「ブースター効果」というものがあって、減衰した効果もウイルスに接するとその効果が復帰することがあります。それに期待してよいのでしょうか。

 インフルエンザの流行に季節要因が小さくなっているような感じを受けます。人が世界的に移動しているせいでしょうか。流動性が高くなると、ウイルスが容易に世界中に拡散して行くのでしょう。2011年3月から4月にかけてベルギー、スペイン、イタリアにかけて旅行する予定でいます。ワクチンの効果が切れています。この地域でインフルエンザの流行がないことを願っています。

               (この項 健人のパパ)

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 「抗アレルギー薬(anti-allergy drugs)」という薬があります。ヒトには、外来の異物(「抗原(antigen)」)を排除するために働く、生体にとって不可欠な生理機能があります。細菌、やウイルスといった病原体などの抗原を「抗体(antibody)」やリンパ球の働きによって生体内から排除します。これを「免疫反応」といいます。しかし、免疫反応が特定の抗原に対して「過剰」に起こることがあります。これを「アレルギー」といいます。

 抗アレルギー薬は、アレルギー症状を抑えたり、症状を出にくくしたりして、主に症状を予防するための薬です。身体の中にアレルギー症状をおこす異物(「アレルゲン(allergen)」)が入り込むと、身体が過敏に反応してしまい、必要以上に身体の細胞から化学伝達物質(ケミカルメディエーター、chemical mediator)が出てさまざまなアレルギー症状を引き起こします。抗アレルギー薬は、この化学伝達物質が細胞から出るのを抑えてアレルギー症状を和らげます。

 アレルギー(allergy)は、その作用機序から、4つに分類されることがあります。ゲル-クームス分類(Gell and Coombs classificasion)では、Ⅰ型(アナフィラキシー型)、Ⅱ型(細胞障害型)、Ⅲ型(免疫複合体型)、Ⅳ型(細胞性免疫型、遅延型過敏症型 )の4つです。

 花粉症、食物アレルギー、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アナフィラキシーショックなどは、Ⅰ型のアレルギーです。リンパ球のB細胞は「IgE(Immunoglobulin E、IgE、免疫グロブリンE、紅斑(Erythema)を引き起こす免疫グロブリン)」という「糖タンパク質(glycoprotein)」を作り出しています。このIgEという糖たんぱく質は、特定のタンパク質などの分子を認識して結合する働きを持ちます。例えば、花粉症の患者では、目や鼻などの粘膜に花粉が付着すると、花粉からタンパク質が溶け出し、そのたんぱく質にこのIgEが結合します。

 B細胞で産出されたIgEは、IgE受容体のある肥満細胞(マスト細胞、Mast cell)、好塩基球などに結合しており、花粉のタンパク質が結合すると、例えば、花粉タンパク-IgE-マスト細胞というように一体化します。

 ドイツの医学者「パウル・エールリッヒ(Paul Ehrlich、ポール・エールリヒ)」は、アニリン色素の染色性(粘液や軟骨基質を染めると、青い色素であるにもかかわらず赤紫色に染まってくる)を調べていたとき、「トルイジンブルー(Toluidine Blue)」のような塩基性色素に染まる顆粒で満たされた細胞を見つけます。

 エールリヒは、細胞内の顆粒を栄養物質と思い込み、顆粒は周囲の細胞に栄養を与えるために存在する(この部分、諸説あり。例えば、「顆粒」は食作用で取り込んだ異物で、細胞の「餌」と考えたとするもの)と考え、この細胞に中高ドイツ語(1050年頃から1350年頃にかけての古いドイツ語)で“food”を意味する“Mast”という語をつけて“Mastzellen”(“Zellen”は「細胞」を意味する)という名称を与えます。これを日本語では、その音のままに「マスト細胞」と呼んだり、意味を含めて「肥満細胞」と呼んだりします。「肥満」と和訳したのは、肥満に関係する細胞とも聞こえ、誤解を招きますね。

 話を戻しますが、 花粉タンパク-IgE-マスト細胞というように一体化すると、マスト細胞はヒスタミン、セロトニンなどの生理活性物質を放出します。この物質は、血圧降下、血管透過性亢進、平滑筋収縮、血管拡張、腺分泌促進などの作用があり、正常域で分泌されると生体防御機能を持ちますが、「過剰」に分泌されると、ヒスタミンⅠ型受容体というタンパク質と結合して、アレルギー疾患の原因ともなります。

 分泌された大量のヒスタミンが血流などを介して他の部位に運ばれると、細動脈の血管が拡張する(これに伴い血圧低下)、肺の細気管支が収縮し、気管が収縮する(これに伴い喘鳴(ぜんめい)や呼吸困難)などの現象を引き起こします。腹痛、さしこみ、嘔吐、下痢などの胃腸症状も引き起こします。血流から組織への体液が滲出し(これに伴う血流量低下)、血管性の浮腫(口唇、顔面、首、咽喉の腫脹)もあります。これが「アナフィラキシー(anaphylaxis、防御(-phylaxis)とは逆(ana-)の状態)」です。

 この場合、「アドレナリン (adrenaline、エピネフリン (epinephrine))」が血管収縮や気管支拡張の作用があることから、筋肉注射で投与されます(皮下注射ではアドレナリンの作用で血管が収縮するので作用が遅くなってしまう)。

 新型インフルエンザや季節性インフルエンザなどのワクチン接種は、異物を体内に入れる行為です。それによって、ワクチンに含まれる物質や接種を受けた人の体質の影響で、多かれ少なかれアレルギーのような症状(免疫反応)を起こします。極めてそれが0に近い人がいれば、極々稀ですが死に至ってしまう人もいます。これを「副反応」(一般的には「副作用」と呼ばれる)といいますが、局所に起る副反応で比較的頻度が高いもの(接種を受けた人の10~20%に起こるが、通常2~3日で消失する)は、接種した部位の「発赤」(赤み)、「腫脹」(腫れ)、「疼痛」(痛み)などが挙げられます。全身に起る副反応(接種を受けた人の5~10%に起るが、これも通常2~3日で消失する)には、発熱、頭痛、悪寒(寒気)、倦怠感(だるさ)などが挙げられます。

 アレルギー症状には、「わたしは予防接種後はいつも接種部位がひどく腫れるので、わたしの息子が予防接種を受けて腕がひどく腫れてもそんなものかなと思っていました(私の母も予防接種でひどく腫れます)。しかし、息子を小児科医に見せたら、どうやらこんなに腫れる人はあまりいないようです。接種部位の腫れにはひどく驚かれました。」といったこともあるようです。これは接種部位で血流から組織へ体液が滲出したために起る現象です。

 「蕁麻疹(urticaria)」は、表在性の微細な血管が拡張して、その血管壁の透過性が増し、漿液および血球が血管外に滲出して皮膚組織中に溜まったもので、皮膚にやや扁平に隆起する部分(浮腫)が生じ、皮膚の灼熱感や痒みを伴います。気道内にも浮腫を生じることがあり、この場合には、気道が狭窄されて、呼吸困難を起こし、死亡することもあります。 息苦しさを訴えたときは、適切に対処しなければなりません。

 抗アレルギー薬の中に「抗ヒスタミン薬(antihistamine)」があります。抗ヒスタミン薬は、ヒスタミンの作用を抑制する薬で、H1受容体拮抗薬です。ヒスタミンは、ヒスタミン受容体(Histamine Receptor、H1からH4まで4種類ある)というタンパク質に取り付いて、細動脈の血管の拡張、肺の細気管支の収縮、気管の収縮といった作用を現しますが、受容体拮抗薬(receptor antagonist、ブロッカー(brocker))はヒスタミン受容体に取りついて、ヒスタミンが取り付くのを邪魔します。行き場を失ったヒスタミンは作用を現すことなく、体液中などにあるヒスタミン分解酵素で速やかに分解されてしまいます。

 抗ヒスタミン薬の1つに「ケトチフェンフマル酸塩(Ketotifen Fumarate、フマル酸ケトチフェン) 」があります。ノバルティスファーマの「ザジテン(Zaditen)」の有効成分は、フマル酸ケトチフェンです。ザジテンは、気管支喘息を緩和する(即効性はなく、いま起こっている喘息をすぐ抑えるものではない)薬であり、アレルギー性鼻炎の症状、蕁麻疹・湿疹など皮膚の痒みも和らげます。ザジテンは、三種混合ワクチンや麻疹ワクチン接種による副反応(副作用)の予防に有効との報告があるようです。また、予防接種によるアナフィラキシーショックの予防として、接種の数日前から、内服させることがあるという小児科医の報告もあるようです。

 アレルギーの1つ、花粉症の起こる1週間ほど前から抗アレルギー薬、例えば、ザジテンの服用を開始すると症状が軽くて済むことがあるようです。フマル酸ケトチフェンは、抗アレルギー作用及び抗ヒスタミン作用を有しています。

(1) 抗アレルギー作用
  ケトチフェンはPCA(受動的皮膚アナフィラキシー)反応を抑制する。
  ヒスタミン、SRS-Aなど化学伝達物質の遊離を抑制する。
  抗原及びPAF(血小板活性化因子)による好酸球の活性化を抑制する。
(2) 抗ヒスタミン作用
  ヒスタミンによる気管支収縮、血管透過性亢進、皮膚反応などを抑制する。

 眠気を起こすなどの副作用があるようですが、比較的安全な抗アレルギー薬のようです。

 2010年11月17日配信の「産経新聞」の記事からの抜粋です。

 昨シーズンは新型(H1N1)が猛威をふるったが、今年は季節性、中でもA香港型(H3N2)が流行しそうだ。中国本土や香港では今夏に大流行しており、日本でも既に幼稚園での集団発生が報告されている。

 流行に備え、まず大事なのはワクチンの接種。昨シーズンに新型や季節性のワクチンを接種した人も、改めて今年のワクチンを打つ必要がある。ワクチンは接種後、3週間ぐらい経過しないと免疫がつかないため、本格的な流行が始まる前の接種が望ましい。

 6歳未満の子供の感染で怖いのがインフルエンザ脳症の発症だ。季節性では1シーズンで数百人が発症し、約15%が死亡、25%に後遺症が出るとされる。発熱から1日前後で症状が出ることが多いので、熱が出てからしばらくは注意が必要だ。顔色が悪い、呼吸が苦しそう、意識がはっきりしないなどの症状があるときはすぐに医療機関を受診した方がよい。

 今シーズンは流行期間も長引きそうで、適切な対策がとられないと10年ぶりに2万人
(超過死亡概念による推計数)を超す死者が出る可能性がある。ワクチン接種や手洗いの徹底で予防に努めるとともに、乳幼児や高齢者が感染したときは早めに医療機関を受診してほしい。

(参考) ひとり歩きする数字-インフルエンザによる死亡者、年間1万人

(参考) 我が子の命を守るために親として「インフルエンザ脳症」を知る。

              (この項 健人のパパ)

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 神経組織は体の中に張り巡らされた電線です。そこを通って、いろいろな情報が行き来しています。この電線は私たち脊椎動物では神経細胞(neuron)からできています。神経細胞はいくつもの樹状突起(dendrite)を持っていて、そこから軸索(axon)という神経繊維が伸びています。軸索のまわりには、髄鞘(myelin sheath、ミエリン鞘)という鞘のようなものが巻き付いています。



 「脱髄疾患(demyelinating disease)」という疾患があります。神経繊維に巻きついている髄鞘が脱落する疾患をいい、髄鞘が脱落すると、情報の伝導速度が遅くなり、いろいろな神経症状が引き起こされます。漏電しないように導体(「軸索」)が絶縁体(「髄鞘」)で覆われていたものがその被覆が取れて、電気が漏れ出した状態になってしまうのです(情報の伝導速度を大幅に上昇させている「跳躍伝導(saltatory conduction)」が行われなくなる)。

 この脱髄疾患が中枢神経系に起ったものに「急性散在性脳脊髄炎」があり、末梢神経系に起ったものに「ギランバレー症候群」 があります。急性散在性脳髄炎(acute disseminated encephalo myelitis、ADEM)とは、中枢神経系の脳や脊髄を覆っている髄膜という膜が炎症を起こすもので、ウイルス感染後やワクチン接種後に生じることのあるアレルギー性の脱髄疾患です。ギランバレー症候群(Guillain-Barré syndrome、GBS」とは、主に筋肉を動かす運動神経が障害され、四肢に力が入らなくなる脱髄疾患で、これもウイルス感染後やワクチン接種後に生じることがあります。

 ギランバレー症候群で思い出すのが「大原麗子」さんです。2009年8月3日に、不整脈による内出血で亡くなった大原麗子さんは、1999年から2000年にかけて、「ギランバレー症候群」の治療のために芸能活動を休止しています。また、2008年11月には四肢に力が入らなくなる病気であるギランバレー症候群の影響で、足元がふらついて自宅で転倒し、右手首の骨折と膝の打撲という重傷を負っています。

 インフルエンザワクチンに限らず、ワクチンの接種でショック、アナフィラキシー様症状(蕁麻疹、呼吸困難、血管浮腫など)や急性散在性脳脊髄炎(ADEM)などが副作用(副反応)で起ることがあります。ADEM(エイデム)という脳症は、以前の日本脳炎ワクチンでは、200万回接種に1例ほどが発生すると言われていたようです。この確率で言うのならば、2,000万回以上の接種が行われた「新型インフルエンザワクチン」では、ワクチンの種類が違いますが、10例ほどの発生があることになります。

 蚊(コガタアカイエカ)を媒介(ブタ→蚊→ヒトという感染経路)とした重症脳炎である「日本脳炎(Japanese encephalitis)」は、2005年5月から接種を勧奨しないことになって以来(2010年4月1日、勧奨に戻った)、5年以上が経過していることから、再び日本脳炎が流行する(1966年以後、日本の患者数は激減し、近年では数10人以下。アジア各国では患者の多くは15歳以下だが、日本では高齢者に多い)のではないかと懸念されています。

 近年報告された患者の年齢は、65~69歳が最も多く、40歳以上が約85%を占めています。若年では、2006年に熊本県で3歳児、2007年に広島県で19歳の発生、2009年に高知県で1歳児、熊本県で8歳児が報告されています。2010年は8月時点で報告なし。日本脳炎ウイルスは、アジアに広く分布していて、その患者の実数は把握されていませんが、WHOの推計によると世界で数万人が発症し(感染してもその殆どが発症しない(不顕性感染))、このうち20~30%ほどが死亡しているといいます。

 日本脳炎ワクチンは、第1期初回として2回接種を行い、さらに第1期追加を行うことにより基礎免疫ができます。我が子「健人」は、1歳8か月前後に第1期初回の2回接種を受けていますが、第1期追加(第2期)を受けていません。公費での接種が受けられる第2期対象年齢(9歳~12歳)から間もなく外れる我が子は、タイやベトナムなど日本脳炎患者の多く出ている国に旅行に出かけることがあることから、ワクチン接種を急がなければなりません。

 阪大微生物病研究会が製造し、田辺三菱製薬株式会社が販売している「乾燥細胞培養日本脳炎ワクチン(ジェービックV)」は、日本脳炎ウイルス北京株を狂犬病ワクチンの製造用細胞として実績のあるVero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来株化細胞)で増殖させ、得られたウイルスを採取し、ホルマリンで不活化した後、硫酸プロタミンで処理し、超遠心法で精製し、安定剤を加え充填した後、凍結乾燥したものだそうです。



 阪大微生物病研究会(「微研」)のいままでの日本脳炎ワクチン「ビケン」は、材料にマウスを使用していたことから、マウス脳由来成分の残存を完全に否定できないということがありました。この問題点を解決したのが、「ジェービックV」で、チメロサール等の保存剤を一切使用していません。微研のインフルエンザHAワクチンは、3種類あり、「ビケンHA」(1ml)では保存剤として「チメロサール」を使用しているのですが、「フルービックHA」(0.5ml)と「フルービックHAシリンジ」(0.5ml)は保存剤を使用していません。

 話が自分の関心事にずれていってしまったので、元に戻します。平成22年8月25日に開催された「平成22年度第1回新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会」の資料、「推定接種者数及び副反応報告頻度について」に、「ギランバレー症候群(GBS)、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の可能性のある副反応報告」があります。

 20歳代の女性の「ワクチン接種の副反応としては否定できない。ギランバレー症候群の可能性あり。」とされたケースです。

 ワクチン接種前…体温36.6℃。新型インフルエンザワクチンと季節性インフルエンザワクチンを同時接種。
 ワクチン接種5日後…起床時より視界のぼやけ感を自覚し、見えにくさと共に持続。
 ワクチン接種10日後…両手首以遠のしびれ感出現。その後、上行し、両肘以遠のしびれ感出現。瞳孔散大、対光反射低下も出現。
 ワクチン接種11日後…しびれが両肘まで上行。受診し、瞳孔散大あり、対光反射低下あり、頸部及び頸椎のMRI異常なし、伝導速度検査にてF波低下より、フィッシャー症候群
(ギランバレー症候群の亜型とされる疾患で、上肢の運動麻痺はないという点でギランバレー症候群と異なる)疑いと診断。メコバラミン(手足の痺れや痛みを伴う末梢性神経障害の治療に広く用いられる)処方。
 ワクチン接種15日後…受診し、瞳孔散大、対光反射は改善、しびれ上行は回復。
 ワクチン接種21日後…フィッシャー症候群疑い軽快。


 糖尿病などの既往症のある70歳代の女性の「副反応としては否定できない。ADEM(急性散在性脳脊髄炎)の可能性を否定できない。」とされたケースです。

 ワクチン接種より前1ヶ月以内…季節性インフルエンザワクチン接種。
 ワクチン接種前…体温35.8℃。
 ワクチン接種3日後…急性散在性脳髄膜炎(ADEM)が出現し、入院。左半身の痙攣発作と意識消失が5分間持続。その後、回復するも、同様の発作が出現。一過性脳虚血発作が出現し、転院。CK値224IU/L。エダラボン、オザグレルナトリウム
(脳虚血症状の改善を図る)を投与。
 ワクチン接種4日及び5日後…5~10秒間の痙攣が出現。ジアゼパムを投与するも、全身痙攣は持続。バルプロ酸ナトリウム、フェニトイン・フェノバルビタールを投与。全身痙攣は持続し、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム
(運動機能障害および感覚機能障害を有する急性脊髄損傷患者の神経機能障害の改善を図る)、リドカインを投与。
 ワクチン接種13日後…痙攣は消失。左片麻痺あり。ステロイドパルス療法の実施、抗痙攣剤の投与にて痙攣発作の間隔延長。
 ワクチン接種14日後…痙攣完全消失。左片麻痺持続。
 ワクチン接種16日後…左片麻痺回復傾向。
 ワクチン接種17日後…左上肢に軽度の麻痺が残る。
 ワクチン接種26日後…左片麻痺は次第に回復。全快し、退院。ADEMは回復。


 先行感染がなく、妊婦健診を受け、妊娠経過は順調であった40歳代の妊婦の「GBS/ADEMとして否定できない」とされたケースです。

 ワクチン接種9日後(妊娠24週6日)…両上肢遠位部の表在感覚低下を認める。
 ワクチン接種10日後…両下肢の脱力が出現し、起立困難となった。
 ワクチン接種11日後…嚥下障害が出現。
 ワクチン接種13日後…両上肢の脱力も出現し入院。四肢遠位筋主体の脱力、感覚障害、四肢反射消失、両側顔面神経麻痺、球麻痺を認め、神経伝導検査では四肢遠位潜時延長、MCV低下、下肢でF波出現頻度低下、髄液検査にて細胞数0mm3, 蛋白135mg/dl、以上よりギランバレー症候群と診断。抗ガングリオシド抗体、ガングリオシド複合体に対する抗体は陰性。
 ワクチン接種14日後…この日よりγグロブリン療法を計3回実施。また、メコバラミン製剤を投与開始した。
 ワクチン接種15日後…呼吸麻痺出現し、人工呼吸器管理となった。
 ワクチン接種45日後…人工換気から離脱し、スピーチカニューレを挿入し、症状改善傾向であり、歩行器使用ではあるが、歩行可能、自力での食事も可能となった。胎児の発育は順調であり、異常も認められていない。主治医は、ワクチン接種とギランバレー症候群との因果関係は否定できないと考えている。


 「脱髄疾患」は、ワクチン接種後すぐに現れるものではなく、この3つのケースだけで言うのならば、3~9日後と言えます。それ以前に現れた類似の症状は、GBSやADEMなどの「脱髄疾患」を否定できるようです。専門家によって、GBSやADEMであることを否定できないとされたケースは、2,000万人を超える接種者のごく少数で、数例です。

 日本脳炎の「感染」で「発症」する場合は、1%を切ります(多くは感染しても発症しない。それゆえ、年齢がいくと感染して免疫を持つ者が増える。日本脳炎発症者の多くが免疫を獲得していない若年層である)が、それでも、我が子には、あと数ヶ月以内に日本脳炎のワクチン接種を受けさせます。このきわめて稀なケースにならないことを祈るばかりです。

 リスクを回避するために新たなリスクを負う、というのは辛いものがありますが、人生というものは、二者択一の問題を解いて行くことでもあるのでしょう。

                  (この項 健人のパパ)

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