今年度(平成22~23年度)のインフルエンザワクチンは、新型H1N1・季節性H3N2・B型の3種類を含む3価ワクチンと新型H1N1のみの1価ワクチンの2種類が供給されています。インフルエンザウイルスにはいろいろな型があり、インフルエンザワクチンは型が異なれば、その効果(感染予防、発症予防、重症化予防)を上げることができません。ならば、いろいろな型に対応できるように3価より多くすれば良いかというとそうではありません。
「3種から4種にすると、タンパク量が増え、副反応も増加する。不可能というわけではないが、製造するとなれば、新たに治験も必要になる。今回の流行への対応としては現実的でない」(国立感染症研究所の感染症情報センターのセンター長「岡部信彦」氏。新型インフルエンザワクチンに言及して、2009年4月30日)。「副反応」とは、ワクチン接種で、免疫学的機序などによって起る反応のうち、免疫の付与以外の反応をいいます。一般的には「副作用」と呼ばれています。
弱毒化した細菌またはウイルスそのものを被接種者に投与する「生ワクチン」では、生ワクチンの細菌またはウイルスに感染しても殆どの場合、症状は出ませんが、ごく稀に感染に伴って症状が出る場合もあります。これもワクチンの副反応です。従来の「麻疹(Measles)ワクチン」と「風疹(Rubella)ワクチン」を混合したワクチンに「MRワクチン(麻疹・風疹混合ワクチン)」があります。このMRワクチンは生ワクチンです。
小児麻痺(ポリオ)の生ワクチンを飲んだ子供からその親にワクチン内のウイルスが感染し、麻痺を生じた例が極めて少ないながらも報告されています。子供が飲んだワクチン株が便中に排泄され、それが親に感染し稀に麻痺をおこすという状況を減らすには、親にも子供と一緒にワクチンを飲んでもらうということが考えられます。
「麻疹(はしか)」は、麻疹ウイルスの感染により起こる病気です。麻疹ウイルスは、インフルエンザウイルスと同じ「1本鎖RNA-鎖」ウイルスで、パラミクソウイルス科 (Paramyxoviridae、-myxo-は「粘液、鼻汁」の意味) に分類されます。それに対し、インフルエンザウイルスは、オルソミクソウイルス科 (Orthomyxoviridae)に分類されます。
麻疹の発症では、3~5日間続く軽度から中程度(38~39℃)の発熱とともに咳、鼻汁、目ヤニがみられるようになります。発熱は典型的な場合は途中で短期間解熱する時期があります(二峰性、発熱のピークが2つ)。最初の発熱が下がってくる頃、口腔内に細かな白色の発疹がみられます(コプリック斑、Koplik spots)。発熱、咳、鼻汁で症状が始まることから、インフルエンザへの感染と間違えられることがあります。2度目の発熱は40℃を超えることもあり、首や耳の後ろに小さな紅斑が出始め、この発疹は次第に顔から体、手足へと広がっていきます。
日本で承認されているインフルエンザワクチンは、生ワクチンではなく、「不活化ワクチン」です。不活化ワクチンはウイルスが体内で増殖しないように、化学処理、加温処理、紫外線照射などを行っていますが、抗体を生成させる能力を失わせてはいません。
現行のインフルエンザワクチンは、ウイルスをエーテルで部分分解し、更にホルマリンで不活化しています。このワクチンでは、生ワクチンと異なり、インフルエンザを発症する可能性はなくなりますが、異物としてのタンパク質を体内に入れることには変わりなく、副反応は出る可能性があります。
日本では未承認ですが、個人輸入を取り扱っている医療機関で接種を受けられる「点鼻投与型インフルエンザワクチン」は生ワクチンです。「アストラゼネカ(AstraZeneca PLC)」社の傘下の「メドイミューン(MedImmune)」社は、点鼻スプレー式のインフルエンザ弱毒生ワクチン(Live Attenuated Intranasal Vaccine 、LAIV)「フルーミスト(Flumist)」の製造をしていますが、アメリカでのみしか製造承認を獲得していません。
ワクチン接種後に長期間にわたって強い感染防御免疫が誘導されるポリオワクチンや麻疹ワクチンとは異なり、インフルエンザワクチンは、ウイルスの感染やインフルエンザの発症を完全には防ぐことはできません。ワクチンのウイルス株と流行のウイルスの型が一致しなければ効果が発揮できないし、型が一致しても不活化ワクチンは効果が長続きしないのです。
茨城県南部の龍ケ崎市、取手市、牛久市、守谷市、稲敷市、河内町、利根町の5市2町を管轄する茨城県竜ヶ崎保健所の管内の小学校で、新型インフルエンザの集団発生がありました。新学期が開始した2010年9月1日よりインフルエンザ様疾患の発症者が相次ぎ、20人が発症することになります(生徒数131人、発症率約15%)。5学年(26人)では、9人が発症した(発症率約35%)ことから、9月8日から5日間の学年閉鎖措置がとられました。
35週(08月30日~09月05日)… 5人
36週(09月06日~09月12日)… 5人
37週(09月13日~09月19日)… 5人
………
40週 (10月04日~10月10日) … 3人
41週 (10月11日~10月17日)… 4人
42週 (10月18日~10月24日)… 1人 (竜ヶ崎保健所管内でのインフルエンザの患者報告数)
インフルエンザ様疾患の集団発生を受けて、茨城県衛生研究所は、患者から採取した検体(うがい液)をMDCK細胞を用いて培養を開始するとともに、リアルタイムPCR(real-time polymerase chain reaction)を実施しました。検体提供者8名の医療機関での迅速検査の結果は、いずれもインフルエンザウイルスAが陽性でした。
「培養細胞(cultured cell)」は、人為的に生体外で培養されている細胞です。培養細胞が、長期間にわたって体外で維持され、一定の安定した性質を持つと「細胞株(cell line)」と呼ばれます。ヒト子宮頸癌由来の「HeLa細胞」、イヌの腎臓上皮由来の「MDCK細胞(Madin-Darby Canine Kidney、マディンとダービーがコッカー・スパニエルの腎臓細胞から細胞株を樹立した)」、アフリカミドリザル腎臓由来の「Vero細胞」などがあります。
リアルタイムPCRの結果、全検体から新型インフルエンザウイルス(AH1pdm)が検出されることになります。問題は、検体提供者8名(男性4名、女性4名)中3名は、新型インフルエンザワクチンワクチンの接種を受けていなかったことに驚きます。非接種率は37.5%です。接種を受けていない人の割合が意外と高いのですね。ワクチンの副作用が喧伝されすぎていて、アレルギーのない人も接種に躊躇しているのでしょうか。それともワクチンの安全性ではなく有効性に疑問を持っているのでしょうか。
ワクチンを接種しているのに発症したではないか、やはりワクチンの有効性には疑問がある、という意見がありそうですが、この学生たちは2010年の1月前後に接種したものと思われ、不活化ワクチンの効果は3~5か月ほどしかないので、2010年4月から6月頃にはその効果は消失していたことになります。
我が家の妻、子、私が3価のインフルエンザワクチンの接種を受けたのは、2010年10月中旬です。この効果は、早ければ2011年1月中旬、遅くて2011年3月中旬には消失してしまうことになります。ワクチン接種によって獲得した抗体には「ブースター効果」というものがあって、減衰した効果もウイルスに接するとその効果が復帰することがあります。それに期待してよいのでしょうか。
インフルエンザの流行に季節要因が小さくなっているような感じを受けます。人が世界的に移動しているせいでしょうか。流動性が高くなると、ウイルスが容易に世界中に拡散して行くのでしょう。2011年3月から4月にかけてベルギー、スペイン、イタリアにかけて旅行する予定でいます。ワクチンの効果が切れています。この地域でインフルエンザの流行がないことを願っています。
(この項 健人のパパ)
| Trackback ( 0 )
|
|