今シーズン(2010~2011年)のインフルエンザワクチンの医療機関納入数量は、2010年11月12日現在で、1mlバイアル換算で1,821万本になり、接種可能者の推定数は約3,643万人です。2010年11月16日での副反応報告数は261人。そのうち、重篤な副反応として報告されたものは33人。死亡例は、9例報告されており、そのうち、主治医の評価が「関連あり」の症例は3例(80歳代女性、10歳未満男児、80歳代男性)になっているようです。
精神運動発達遅滞、慢性肺疾患を基礎疾患として有する10歳未満の男児がワクチン接種の翌朝、呼吸停止で発見されます。ワクチン接種が死亡の原因かどうかは否定も肯定もできないと「新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会」は判断します。基礎疾患として、慢性心不全、肝硬変を有していた80歳代の男性では、接種後より38℃台の発熱が出現し、やがて熱は下がりますが、意識障害、呼吸困難、多臓器不全が発現し、やがて死亡しました。病態は肝硬変症に合併した敗血症で、ワクチンの副作用でこのような経過を辿るものは知られておらず、副反応と断定する根拠は乏しいと「検討会」は判断します。
(参考) 「インフルエンザワクチンの接種と副作用のアナフィラキシーショック」(死亡例の1例め)
昨シーズン(2009~2010年)の新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチンの接種後の副反応報告においては、接種者数は推定で約2,100万人でした。そのうち、死亡例が133人報告されており、報告医から「接種との因果関係がある」として報告された事例は3例でした。この副反応報告においては、「検討会」では、死亡とワクチン接種の直接の明確な因果関係がある症例は認められませんでした。死亡例のほとんどが、重い持病をもつ高齢者であり、死因が接種によるものなのか、持病の悪化によるものなのかが判明しなかったのです。
ここ2年の例で言うと、基礎疾患を有している人の中で接種後にごく稀に死亡者が出ることになり、それも疾患の悪化が偶然、接種の後に起ったことも考えられます。ワクチン接種によって通常見られる副反応は、局所反応としての発赤、腫脹、疼痛など(接種を受けた人の10~20%に起こる)であり、全身反応としての発熱、悪寒、頭痛、倦怠感、嘔吐など(接種を受けた人の5~10%に起る)です。これらは、通常2~3日中に消失します。
ワクチン接種には、「接種要注意者」という人たちがいます。この人たちは、副反応が起る確率とその強度が通常の人たちとは異なり、高いといえます。心臓血管系疾患、腎臓疾患、肝臓疾患、血液疾患等の基礎疾患を有することが明らかな者、過去に痙攣の既往のある者、気管支喘息のある患者、インフルエンザワクチンの成分又は鶏卵、鶏肉、その他鶏由来の物に対して、アレルギーを呈するおそれのある者(「卵アレルギー」ですね)、前回のインフルエンザ予防接種で2日以内に発熱のみられた者または全身性発疹等のアレルギーを疑う症状を呈したことがある者などが接種要注意者です。
気管支喘息で治療を受けているある女性が今年の3価のインフルエンザワクチンの接種を受けて、次のような経過をとります。気管支喘息は空気の通り道である気管支がアレルギーなどで炎症を起こし過敏になり、何かの刺激で腫れて狭くなり呼吸が苦しくなる慢性の病気です。気管支喘息は常に症状があるわけではなく、時間帯や体調などで強い発作が出たり症状がなかったりします。
発作には軽度なものから死に至るような重度なものまであり、強い発作を起こしたことがある人は注意が必要です。喘息治療薬には、長期管理薬(controller)と発作治療薬(reliever、リリーバー)があり、「発作治療薬」には、「塩酸プロカテロール(procaterol hydrochloride、製品名:メプチン)」などがあります。この薬は、気管支の筋肉にある「β2アドレナリン受容体(beta2 Adrenergic Receptor)」に結合して、収縮した気管支の筋肉を弛緩させるスイッチを入れます。
インフルエンザの混合ワクチンを接種してきました。でも、帰り道に、なぜか異様に身体がだるくなり、接種した腕がムズムズしてきました。そして、なぜか身体全身がカアッとして痒いのです。喘息の抗アレルギー薬を慌てて服用しました。
身体がよく痒くなる、皮膚がカサカサする、目が痒くなったり涙目になったりする、のどに痛みや痒みを感じる、鼻が詰まりやすい、風邪を引くと咳が長引く、といった項目の多くが当てはまる人は「アレルギー体質」だといえます。 新型インフルエンザや季節性インフルエンザなどのワクチン接種は、異物を体内に入れる行為です。それによって、ワクチンに含まれる物質や接種を受けた人の体質の影響で、多かれ少なかれアレルギーのような症状(免疫反応)を起こします。
体質や体調によって、アレルギーのような症状が極めて0に近い場合があれば、極々稀ですが死に至ってしまう場合もあります。アレルギー体質の人は、アレルギーの程度と接種時の体調によりますが、普通の人と比べて大きく出ることがあります。
抗アレルギー薬の1つ、「メディエーター遊離抑制剤」は、肥満細胞から「ヒスタミン (histamine、過剰に分泌されると、ヒスタミンⅠ型受容体というタンパク質と結合して、アレルギー疾患の原因となる) 」などのさまざまな化学伝達物質(chemical mediator)が遊離されるのを抑制する薬剤です。クロモグリク酸ナトリウムを主成分とする「インタール(アステラス製薬、サノフィ・アベンティス)」は、メディエーター遊離抑制剤です。この薬剤は効果が現れるまでに一般的に4~6週間以上を必要とするようです。1日4回(朝、昼、夕及び就寝前)継続的に吸入するのを原則とします。炎症を即効的に抑える効果はありません。
夜中に、身体がぶわっと膨らんだような感覚に襲われ、気道に我慢できない痒さが襲ってきました。舌も膨らんで少し息苦しい感じ。そのうち、喉がヒューヒューいうようになってきました。喘鳴が始まってしまいました。
「喘鳴(ぜんめい)」とは、呼吸時に「ゼイゼイ」「ヒューヒュー」というような音がする状態をいいます。聴診器を通して聞くと、いびきに似た異常な呼吸音がします。喘鳴は、気管または気管支の一部が狭くなることで起り、呼吸困難の兆候です。ゼイゼイという音は気管支の奥から発生し、ヒューヒューという音は気管から咽頭にかけての部分から発生します。空気の通り道に炎症などが起って、狭くなっていることから、異常音が発生することになります。
このまま放っておくとさらに悪化しそうなので、急いでメプチンエアを吸入して、メドロールなどを飲みました。そのためか、それ以上ひどくはならずに朝を迎えられましたが、身体はとてもだるくてベッドから起き上がれません。腕は接種したところが熱を持って真っ赤に腫れています。
「メチルプレドニゾロン(methylprednisolone)」を主成分とする「メドロール(ファイザー)」は、副腎皮質ステロイド薬で、炎症を抑えるのに使われます。炎症は抑えるのですが、免疫力を低下させ、細菌を増殖させる危険もあります。この薬剤の効き目は「中時間作用型」で、作用持続時間は短時間と長時間の中間で、強度も中間です(intermediate-acting)。
私は卵アレルギーでもあるのですが、インフルエンザのワクチン接種で、今まで多少接種した方の腕が腫れることはあってもここまでひどくはなりませんでした。病院に行こうかなとも思ったのですが、夜中では救急車を呼ぶしかないし、気管支喘息の薬をもらっていましたから、私のとった処置が正しかったかどうかわかりませんが、薬で一応危険な状態になるのは防ぐことができました。
卵アレルギーは、卵白が含有するタンパク質へのアレルギー反応が殆どです。インフルエンザワクチンを製造するには、インフルエンザのウイルス株を細胞の中で増殖させる必要がありますが、日本では「孵化鶏卵(発育鶏卵)」が用いられています。そのため、ワクチンの中にごく微量ですが、卵白の成分が残ることがあるようです。
(参考) 「人獣共通感染症と「豚インフルエンザ」、「鳥インフルエンザ」」
体調も影響したのでしょうか、ワクチン自体のせいでしょうか、いままでの経験で油断していたのでしょうか、アレルギー体質の人がインフルエンザのワクチン接種を受けるときは、充分に気をつけて下さいね。
(参考) 「ワクチン接種と副反応(副作用)と抗アレルギー薬の服用」
ワクチン接種とインフルエンザ発症には、次のような可能性があります。インフルエンザワクチンの「安全性」と「有効性」が関係して、可能性の大きなものから小さいものまで混在しています。(「罹る」は、ここでは「感染」を意味せず、「発症」を意味しています)
01.ワクチン接種を受けなかったが、インフルエンザには罹らなかった。(これが保証されるなら、これが一番いいのですが、、、)
02.ワクチン接種を受けず、インフルエンザに罹ったが、軽かった。
03.ワクチン接種を受けず、インフルエンザに罹って、重症化した。
04.ワクチン接種を受けて、副反応も出ず、インフルエンザにも罹らなかった。(これがリスク管理からは理想なのでしょう)
05.ワクチン接種を受けて、副反応は出たが、インフルエンザには罹らなかった。
06.ワクチン接種を受けて、重度な副反応が出た。
07.ワクチン接種を受けて、副反応は出なかったが、インフルエンザには罹った。
08.ワクチン接種を受けて、副反応は出なかったが、インフルエンザに罹って、重症化した。
09.ワクチン接種を受けて、副反応も出、インフルエンザにも罹った。
10.ワクチン接種を受けて、副反応も出、インフルエンザにも罹って、重症化した。(これは安全性に欠け、有効性もないことになります)
(この項 健人のパパ)
| Trackback ( 0 )
|
|