ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~ (原題:Beasts of the Southern Wild)
2012年 アメリカ
監督:ベン・ザイトリン
製作:ダン・ジャンヴィー、ジョシュ・ペン、マイケル・ゴットワルド
脚本:ベン・ザイトリン、ルーシー・アリバー
出演:クワベンジャネ・ウォレス、ドワイト・ヘンリー
ルイジアナの湿地帯にある小さな島「バスタブ」に住む少女ハッシュパピー。
父親のウインクは男手ひとつで、娘を自然児のように自由に、タフに、育てている。
ふたりとも目が、ガラス玉みたいに澄んで美しく、野性的で強く、みとれてしまう。
この親子も含め、ほとんどのキャストがオーディションで選ばれているだけあって、
演技というよりも、もともとに彼らが持っている個性が強烈につきつけられる。
ある日、バスタブ島の学校の先生が言う。世界は変わってしまう、と。
南極の氷が溶けてきているので、世界は水に沈んでしまうのだ。
その日は思っていたよりも早くやってきてしまった。
大嵐がきて、湿地帯にあるバスタブ島は水の底に沈んでしまう。
ハッシュパピーは、父親と、父親のボートに守られ、生き延びる。
「パパのボートが無かったものたちは、みんな水の下で息をしたがってる」と
彼女は考える。ハッシュパピーの目には、水の下のバスタブ島も、氷河期に氷に
閉じ込められた獣たちも同じ事。現実と想像の世界の間を行き来する幼い少女の
視点が徹底して描かれている。
これはすべてファンタジーなのか、
バスタブ島っていう特別な場所だからこその物語なのか、
いや、わたしたちは、或る意味でだれもがバスタブ島に住んでいるんだ、と思う。
世界は変わってしまう。今にみんな、水の底だ。
父親は、重い心臓病を抱えながらも、娘に生き延びる術を教え続ける。
「むさぼれ!」それがオレたちの在り方だと。
逞しい父親に、さらにそれよりも逞しいハッシュパピー。
彼女の小さな小さな足どりに、力強さを感じ得ずにはいられなかった。