Kimama Cinema

観た映画の気ままな覚え書き

リスボン特急

2015年08月21日 | 1970年代 欧州

リスボン特急(原題:Un Flic)


1972年 フランス
監督・脚本: ジャン=ピエール・メルヴィル
製作: ロベール・ドルフマン
出演: アラン・ドロン、カトリーヌ・ドヌーヴ、リチャード・クレンナ、リカルド・クッチョーラ、ポール・クローシェ、マイケル・コンラッド、アンドレ・プッス、ジャン・ドザイー、レオン・ミニスニ
音楽: ミシェル・コロンビエ
撮影: ワルター・ウォティッツ
編集: パトリシア・ネニー


 パリ郊外の町で4人の男たちが銀行を襲い、現金を奪って逃げた。その首謀者のシモンが、パリのナイトクラブに顔をみせると、店では旧知の仲のコールマン刑事がピアノを弾いていた。ピアノに聴きいっているのは、シモンの情婦であるカティ。3人の視線が絡み合う。カティはシモンとだけではなく、コールマンとも繫がっていた。

 しょうがない・・・しょうがないんだけれども、この人は気配を消すことができないんだろうかと思う。犯罪者と刑事の間を行き交いするカトリーヌ・ドヌーヴは映えすぎで、こんな派手な人を愛人にしていたら目立ちまくりではないか、と思う。

 シモンは、ある組織が麻薬をリスボン特急で運ぶという情報を得て、同じ列車へと乗り込み、ヘリコプターを駆使して横取りに成功する。一方、コールマン刑事は銀行強盗仲間のマルクの遺体から身元を割り出し、捜査を進めていく。

捜査・犯罪の中で幾度も顔を合わせるコールマン、シモン、カティの3人。それぞれの相手に対する感情や過去の間柄を知る手がかりとなる情景、セリフは少なく、どこへ転がっていくのか不安になる。

犯罪都市パリの闇がスクリーンを染め、緊張感がひた走る。

 刑事のコールマンは非情なまでに毅然とした態度で仕事をまっとうしていく。演じるアラン・ドロンの冷めきった目の、深い碧さが、寒ささえ感じさせるようで良い。映画冒頭で「刑事が人間に抱く感情は、疑いと嘲りだけである」(犯罪者で後に密偵となった実在の人物フランソワ=ユジェーヌ・ヴィドックの言葉)と語られたプロローグを体現しているのだろう。
盗む側捕らえる側の攻守両面から見事な手腕を披露されるが、見終わった後にはフッと心に寂しさが宿る。ひと仕事を終えたコールマンの心情が後から忍び寄ってくるようだった。

野火

2015年08月11日 | 2010年代 邦
 
野火

2014年 日本
監督・製作・脚本・撮影・編集:塚本晋也
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也、森優作


作家・大岡昇平が自身の戦争体験を基に描いた戦争文学の代表作を映画化。塚本晋也監督が自主制作映画として製作、主人公の田村一等兵も演じる。

舞台は、太平洋戦争末期のフィリピン・レイテ島。肺病を煩う田村は部隊から追放され、野戦病院からも拒否されて、空腹に耐えながら島内を彷徨う。繰り返される敵陣からの砲撃に脅え、窮地の中で現地人を襲い、かつての同胞とも殺し合う極限状態で、狂気の中に身を投じていく。

シンプルかつ不可避な、実際に存在した地獄。かなり切り取られた戦争の一部分ではあるけれど、戦地に駆り出された一般人が見る風景はこれなんだろうか。

「肉体的な痛みを感じてもらいたい」と監督のコメントにもあるように、観客の心をえぐり取るような映像がただただ続く。そういう意味では「人肉食」は、今だからこそもっと、顔を背けたくなるほどのまがまがしさで描けるだろうと思ったけど・・・大岡昇平の覚悟を継いで、そのうえで、まんまじゃなく「更新」してほしかった。

もちろん何百万人もの兵士がいたのだから、何百万通りの傷痕がある。どれもこれもを知るのは難しいけれど、静かなラストシーンが余計に心に染みた。遠くて遠くて、近い戦争を思う。

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それにしても中村達也のダーティさがツボの人にはたまらないカッチョよさだった。ニヤニヤして場違いな声をあげないように必死で口元を抑えながら見ていた。地獄の底までついて行くぜ、と決めた2015年夏。