Kimama Cinema

観た映画の気ままな覚え書き

ミスター・ノーバディ

2012年08月29日 | 2010年代 欧州
ミスター・ノーバディ
2009年 フランス=ドイツ=カナダ=ベルギー

監督・脚本:ジャコ・ヴァン・ドルマル
出演:ジャレッド・レト、サラ・ポーリー、ダイアン・クルーガー、リン・ダン・ファン、トビー・レグボ、
ジュノー・テンプル、クレア・ストーン、トマ・バーン、オードリー・ジャコミニ

2092年、医学の進歩により誰も死ななくなった世界で、唯一死にゆく118歳の男性。
寿命を持った最後の人間は「ミスター・ノーバディ」と呼ばれている。
誰も彼の過去を知らず、また彼自身も知らない。
彼が思い出すのは、若き日の人生における局部的なシーンのみ。
浮かんでは消え、また浮かび上がるが、それは違う人生のように見える。

9歳のころ、両親が離婚をした。
母に連れられていった彼と、父と残った彼。
それぞれの可能性の中で紡ぎあげられる物語の中で、母に連れられた彼はアンナに出会い、
父と残った彼はエリースに恋をし、またまた他の彼はジーンを選ぶ。
どの選択がほんとうにあったことだったのか。

いくつもの自らの人生の物語を語る中で「選択をしなければ、すべての可能性は残る」と彼はいうけれど
果たして選択なんてしたんだろうか。

母が必死に手を差しのべたから、つい、追いかけ列車に乗った。
父が叫んだから振り向き、列車は行ってしまった。
その場のできごとに反応しただけでは? 
だけど、ひとときの言動で物語は舵をきっていく。

年老いてベッドに寝たきりで若き日を夢想するときには、誰もこんな風になってしまうのかな、なんて。

分岐点はいつも明確とは限らない。
その先に何が待っているかなんて、わからない。
わたしたちは、知らず知らずのうちに、いくつもの人生を生きているんだなと思った。






日曜日が待ち遠しい!

2012年08月22日 | 1980年代 欧州

日曜日が待ち遠しい!(原題:Vivement dimanche!)

1983年 フランス
監督:フランソワ・トリュフォー
出演:ファニー・アルダン、ジャン=ルイ・トランティニャン、フィリップ・ローデンバック、カロリーヌ・シホール
フィリップ・モリエ=ジュヌー、グザヴィエ・サマンカリー


軽快なミステリ映画。ガンのため、52歳で亡くなったフランソワ・トリュフォーの遺作でもあります。
『土曜を逃げろ』というアメリカのハードボイルド小説の映画化であり、
そこから「日曜日が待ち遠しい!」とタイトルにつけたよう。
映画では、幾晩かにわたるストーリーなのですが、日曜日には万事解決!ってわけですね。

快活な女秘書が、勤め先の社長の殺人容疑を晴らすべく、大奮闘します。
単身ニースで聞き込みをし、部屋に忍びこんできた私立探偵をつかまえ、娼婦のふりをして
ナイトクラブの元締めをしているボスに挑んだり、盗聴や尾行も・・・テキパキこなしちゃう。
さすが有能な秘書ならでは! かっこいい!! 
と思いきや、半年も前から社長に惚れてるのだ、という。

ええっ、仕事だからこそ、ぱっぱと進めてるのかと思ってたよ。
後半にむりくり、そういう風に持ってきてるのだけど、恋愛ムードにはまったく見えないよね~。
華麗な美人と情けない男っていうのは、フランス映画的ではあるけど(勝手なイメージ)。

とにかく事件解決していくのが、楽しい!という感じ。
長い足で颯爽と闊歩し、探偵顔負けの捜査をはりめぐらすファニー・アルダンの姿が小気味いい。

彼女は、私生活ではトリュフォー監督の恋人でした。
と、聞けば納得。
すでに惚れている人が、すぐ側にいたのですね。



LONDON CALLING/ザ・ライフ・オブ・ジョー・ストラマー

2012年08月10日 | ロック映画、映像

LONDON CALLING/ザ・ライフ・オブ・ジョー・ストラマー
(原題:JOE STRUMMER:THE FUTURE IS UNWRITTEN)

2006年 アイルランド=イギリス
監督:ジュリアン・テンプル

BBCワールド・サービスのラジオ番組「Joe Strummer's London Calling」で
DJを務めるジョー・ストラマーが曲を紹介する。
キャンプファイヤーの片隅に置かれたラジオから音楽が流れはじめる。
火を囲んでいる人々はそれに合わせて唄ったり、話したり、微笑みあったり。

彼らは、ジョーの家族や元メンバーたち、友人やジョーに魅せられ慕ってきた人々、
歴代の恋人たちもが顔を揃えている。

外交官の父、看護師の母の間に生まれたジョー。
父の海外転勤にともない、幼少期は各地を転々としていたらしい。
学校にあがるようになると、兄弟2人で寄宿舎で暮らすが
兄は在学中に自殺してしまう。

当時の仲間たちが口々に若き日のジョーの姿を描き出す。
1975年に通名をジョー・ストラマーに改め、バンド「The 101'ers」 で精力的に活動していた頃は
傲慢で独善的。熱情的に誰もを惹きつけ、撥ねつけ、また惹き寄せた。
翌年にはセックス・ピストルズのパフォーマンスに強い衝撃を受け「ザ・クラッシュ」を結成し
新たな衝撃と影響を世界中へと与えていく。

U2 のボノ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリー、ジョニー・デップ、マット・ディロン等々
錚々たるメンツがその衝撃について振り返る。
キャンプファイヤーの炎がつくりだす光と影に揺らされながら。

1985年のクラッシュ解散後は、数々の映画への楽曲提供や、他ミュージシャンのプロデュースを務めた。
商業的な成功はなく、レコード会社の契約に縛られ、彼自身「荒野の数年間」と評した時代を経て、
90年代半ばに「ザ・メスカレロス」を結成。
再び水を得て泳ぎだした彼が迎える2002年の突然の死まで。写真や映像、近しい人たちの言葉を
つづれ織りに、彼の姿を浮かび上がらせる。

ジョーがグラストンベリーで始めたキャンプファイヤー・イベントは、立場を超えて誰もが集える。
彼は集まった人の食べ物や寝る場所を心配してばかりいたという。
社会の矛盾を若者たちに突きつけ、叱咤し、ぐわんぐわんと世界中を揺り動かしたジョーは、その実
そこにいる人々の幸せを誰よりも強く願っていた。

ジョーの親しい友人であった監督のジュリアン・テンプルが描くのは、失われた物語ではない。
ジョー・ストラマーという唯一無二のロックンローラーが紬ぎだした世界と燃え続ける炎。
今も、彼の音楽を聴く世界中の人の胸をちりちりと熱く、焦がし続けている。