Kimama Cinema

観た映画の気ままな覚え書き

潜水服は蝶の夢を見る

2023年08月15日 | 2000年代 欧州
潜水服は蝶の夢を見る(原題:Le Scaphandre et le Papillon)

2007年 フランス=アメリカ
監督:ジュリアン・シュナーベル
脚本:ロナルド・ハーウッド
製作・キャスリーン・ケネディ、ジョン・キリク
製作総指揮:ジム・レムリー、ピエール・グルンステイン
出演:マチュー・アマルリック、エマニュエル・セニエ、マリ=ジョゼ・クローズ、アンヌ・コンシニ、マックス・フォン・シドー
音楽:ポール・カンテロン
撮影:ヤヌス・カミンスキー
編集:ジュリエット・ウェルフラン


E,S,A,R,I,N,T,U,L,O,M,D,P,C,,,,,
フランス語での使用頻度順に並べられた文字を言語聴覚士が読み上げ、全身麻痺のジャン=ドゥーが辛うじて動く左目で瞬きを2回して示したい文字を伝える。一つ一つの文字を連ね、文章にしていき、やがて大変な労力の末に完成した実話本の映画化。
まず、この本の(潜水艦と蝶)を「潜水艦は蝶の夢を見る」とした日本語題が素晴らしい。
ジャン=ドゥーの言いたいであろうことを表しているし、受け手は共に蝶のように自由に飛び回って夢を追いかけることができる。

映画化にあたっても、彼の置かれた閉じ込め症候群(ロックドインシンドローム)と呼ばれる意識と記憶は正常だが全身が麻痺した意識障害に真摯に向き合っている。

「彼」の左目が捉えた画角をカメラで再現するだけでなく、情緒の面でも彼の絶望からの再起、記憶力と創造性の発揮まで寄り添い続ける。
ところどころでシニカルなシーンがあるのが、さすがフランス人。
さすがはジャン=ドゥー。

麻痺に限らず重症者になると自分を失ってしまう人が多い中で、極度の障害にあっても強い意志さえあれば自分は自分のままでいられるし、想像力の翼はどこまでも伸ばせると教えてくれる。

かげろう

2015年10月23日 | 2000年代 欧州
かげろう(原題:Les Egares)


2003年 フランス
監督: アンドレ・テシネ
製作: ジャン=ピエール・ラムゼイ・レヴィ
脚本: ジル・トーラン 、アンドレ・テシネ
出演: エマニュエル・ベアール、 ギャスパー・ウリエル、 グレゴワール・ルプランス=ランゲ、クレメンス・メイヤー
撮影: アニエス・ゴダール
音楽: フィリップ・サルド


 私がはじめてエマニュエル・ベアールに魅せられたのは、1991年の映画「深夜カフェのピエール」から。高校生の頃に深夜、テレビの再放送で観てかなりショックを受けた覚えがある。“失禁”シーンがあるにも関わらず尚、いや更に美しくみえる女優から目が離せなかった。その「~ピエール」から12年ぶりのタッグを組んだアンドレ・デシネ監督先品「かげろう」。子連れの未亡人オディールを演じるエマニュエル・ベアールはまたしても冒頭で“失禁”させられている。思わず前作を想起させられ、衝撃を追体験した。ああそうだ、この人には平気で弱さを見せられる強さがあるのだ。成熟した魅力の中に、時折顔をだす幼児性。小さな子供を連れていても、いわゆる「お母さん」ではない、と言われた気分になった。

 舞台は第2次大戦下のフランス。戦火から逃れ、オディールは13歳と7歳の子どもを車に乗せて、避難先を探し走っていた。その道中にもドイツ軍の爆撃を受けるが、17歳の青年イヴァンの助けで森の奥へと逃げのびる。イヴァンを演じるのは、キリキリに鋭った美しさを放つギャスパー・ウリエル。にしても森の中の美青年というのは、いかにも神秘的。絵になるなあ。

 さて森の先には、無人の村があった。村の人々はドイツ軍の侵攻を恐れ、家を捨てて既に逃げおちているようであった。オディールたち母子とイヴァンは、当面のところ無人になっている屋敷に住み着くことになる。

 イヴァンが抱える孤独と反発は、母子への親愛の情を寄せては返す。10代後半の青年が1日1日と成長を遂げる中でみせる危うさにオディールは戸惑いを隠せない。13歳の息子はそんな揺れる母親の心境を感じ取り、それが何なのかわからないまま自分が母と妹を守らなければ、という自覚を芽生えさせていく。

 彼らは一挙一動に過敏に意識し合い、息苦しくなるほどだった。凸凹なままに家族を再構築させるのか、誰が父役を担うのか。オディールは、母親であり主人であり女であり少女のようでもあった。彼女の多面性がセンシティブなイヴァンには、ひときわ魅力的に映っただろう。

 原題は「Les Egares(道に迷って)」で、やっぱり迷ってたんかい(イヴァンが物知り顔で先導するシーンがある・・・)って感じだけど、日本語タイトルの平仮名の「かげろう」は「陽炎」とも「蜻蛉」とも捉まえられて良いなと思った。

美しき運命の傷跡

2014年12月28日 | 2000年代 欧州
 
美しき運命の傷跡(L' Enfer Hell)
 
2005年 フランス=イタリア=ベルギー=日本
監督:ダニス・タノヴィッチ
製作:マルク・バシェ、マリオン・ヘンセル、セドミール・コラール、定井勇二、ロザンナ・セレーニ
脚本:クシシュトフ・ピエシェヴィッチ
出演::エマニュエル・ベアール、カリン・ヴィアール、マリー・ジラン、キャロル・ブーケ、ジャック・ペラン、
ジャック・ガンブラン、ジャン・ロシュフォール、ミキ・マノイロヴィッチ、ギョーム・カネ、マリアム・ダボ、ガエル・ボナ

 ポーランドの巨匠クシシュトフ・キェシロフスキ監督の遺稿を元に脚色された、ある三姉妹にまつわる地獄の物語。

 冒頭で、カッコーが他の鳥の巣に卵を産み、孵った雛が他の卵をすべて下に落としてしまうところが大写しになる。
話に聞いたことはあっても、映像として見ると思わず身を竦めてしまうようなシーンが、重々しい影を落とす。

 三姉妹の長女ソフィは夫の浮気に悩み、浮気相手を調べ上げてベットまで侵入するような執着ぶりをみせる。次女のセリーヌは、
人との距離の取り方がわからず、恋人がつくれない。また姉妹たちにも自分の居場所を教えることなく、ひとり体の不自由な母の
世話をしている。三女のアンヌは、父親の面影を追いかけてか、妻子ある大学教授との不倫に溺れている。

 彼女達は家族が崩壊した過去の悲劇に囚われて彷徨っているのだ、というのは後から明らかになってくる。ひたすらに愛を求め、
苦しむ三姉妹の表情が映しだされる。キーとなる人物であるセバスチャンは自分の罪を告白するため、セリーヌを探して近づいて
いく。セリーヌは何も知らないまま、そんな彼に惹かれていく。

 長女エマニュエル・ベアール、次女カリン・ヴィアール、三女マリー・ジランという名女優たちがそれぞれの悲劇を余す事なく
みせており、その母には圧倒的な存在感を持つキャロル・ブーケ。
 世間には「トラウマなんて無い」という説(過去に負った傷を現在の自分の言い訳にしている)もあるが、傷跡そのものより
この母がいるからこそ三姉妹は運命に囚われてしまったのだろう。

 ラストシーンで母が突き放した未来の先が気になってしかたない。

リード・マイ・リップス

2014年05月22日 | 2000年代 欧州


リード・マイ・リップス(原題:SUR MES LEVRES)


2001年 フランス
監督:ジャック・オーディアール
製作: フィリップ・カルカソンヌジャン=ルイ・リヴィ
製作総指揮:ベルナール・マレスコ、アリックス・レイノー
脚本:ジャック・オーディアール 、トニーノ・ブナキスタ
出演:エマニュエル・ドゥヴォス、ヴァンサン・カッセル、オリヴィエ・グルメ、オリヴィエ・ペリエ、オリヴィア・ボナミー


人の唇の動きなんて、勝手に読まない方がいいと思う。
自分に向かって語りかける言葉以外は。
奥のテーブルや、他の部屋のことなんて、放っておけばいい。

でもカルラは、なまじっか、それができるばっかりに余計な陰鬱を抱えこんでしまうし、
ポールの抑えていた悪心に火をつけてしまう。

カルラは、難聴という障害を持ちながらも、土地開発の会社で忙しく働く30代半ばの女性。
これまで、さまざまな辛酸を嘗めてきただろう苦労人の顔をしている。
だからだろうか、彼女の倫理観は薄い。

職業安定所で自分のアシスタントに若い男を募集し、ムショ帰りと知りながら一存で雇い、
同僚の書類を盗むように頼みこむ。
そのアシスタントのポールが会社にこっそりと寝泊まりするのは、巻き込まれる可能性があるからノーだけど
会社絡みの建設中物件に勝手に住まわせるのは、バレないからオーケー。

一見むちゃくちゃに思えるけれど、人生の早い段階から孤独に呑み込まれてきたのだろう。
常にひとりで決め、ひとりで行動するカルラ。自分の中にしかルールは無い。

借金のかたにナイトクラブでタダ働きさせられることになったポールは、カルラのアシスタントを辞めるが
ボスの部屋が屋上から覗き込めることを知り、カルラに読唇術で会話を読み取るよう、頼む込む。
分け前はやる、というポールに対し、カルラはお金はいらないと言う。
その代わりに、出社して、とポールに条件をだす。
カルラなにやってんの、もう。痛々しいよ。
ここまで一人でやってきて、今さら男に依存していくなんて。

2人が惹かれ合っているのはわかるけど、お互いにとって利用価値があるからというのも否めない。
それでも、必死につながりを求めるカルラの姿に、希望を感じるのは、なぜだろう。

唇を閉ざせ

2013年02月21日 | 2000年代 欧州

唇を閉ざせ(原題:Ne le dis à personne)

2006年 フランス
監督:ギヨーム・カネ
出演:フランソワ・クリュゼ、マリ=ジョゼ・クローズ、アンドレ・デュソリエ、クリスティン・スコット・トーマス、
フランソワ・ベルレアン、ナタリー・バイ、 ジル・ルルーシュ

8年前、何者かに妻を殺されたアレックス。
犯人はつかまらず、結局、一番疑われたのは夫である彼だった。
もちろん自分が彼女を傷つけるはずがない。
今でもずっと、妻を思い続けている・・・。
うう~、切ない。切なすぎるミステリーだ。
でも現実的にもあるんだろうな、こういうこと。どんなに、辛いだろう。

そんなある日、アレックスは、亡くなった妻と関係があると思われるメールを受信する。
もしかしたら、もしかすると、彼女は生きているのかも!!
藁をも掴む思いで情報にすがりつくアレックスに、なにやら彼を追いかけている謎のグループ。
更にアレックスは、妻の親友を殺した容疑者に仕立てられ、警察にも追われることになる。

気持ちをぐるんぐるんに揺さぶられる。上下左右に。
重ねて殺人容疑を突きつけられるアレックスを逃がうとする黒人たちや、彼を追い立てるグループの面々は
なかなかに個性的で、良い。
逃走劇の派手さはないものの、幹線道路を猛スピードで走っている車を徒歩で擦り抜けていくシーンなんかは
リアルティに満ちててハラハラし通しだった。
はたして事件の真相は・・・?! 妻は生きているのか?!

ラストは、完全なるハッピーエンドかは言えないかも・・・。
なんていうか、せち辛かった。