Kimama Cinema

観た映画の気ままな覚え書き

ゼロの未来

2015年05月29日 | 2010年代 欧州

 ゼロの未来(原題:The Zero Theorem)
 
 2013年  イギリス=ルーマニア=フランス=アメリカ
 監督:テリー・ギリアム
 製作:ニコラス・シャルティエ、ディーン・ザナック
 製作総指揮:パトリック・ニュウォール
 脚本:パット・ルーシン
 出演:クリストフ・ワルツ、デビッド・シューリス、メラニー・ティエリー、ルーカス・ヘッジ

 
 根こそぎ持ってかれる・・・もう立ち直れない。
 結論から言えば、生きる意味なんて無い。仕事はみじめだし、男なんてくだらない。
 未来は、どこにもない。
 
 

 近未来、と言っても、もちろんテリー・ギリアムお手盛りワールドが舞台。
 自動車が空飛ぶような格好良さはすべからく無く、超便利な機械化社会なんて夢のまた夢。
 ただただ、すべて監視・管理されてる社会で、プログラマーのコーエンは解明されていない
数式「ゼロの定理」に取り組んでいる。それはあまりにも難題で、自暴自棄になってコーエンが
コンピューターを破壊すれば、社長子息でもある天才少年ボブが飛んできて修理にあたり、精神
カウンセラーが画面に現れて歌い出し、コールガールのベインズリーが快楽へと誘う。
 そう、すべては管理されている。 
 
 そんな中で、生きる意味を教えてくれる電話がかかってくると、信じて待ち続けるコーエン。
これが青年ならともかく、すでに中年過ぎなのが救いがない。こうして、ただ老いていくなんて
ムリムリムリムリ。
 
 とりあえず、今日は寝ていいですか。深い眠りに堕ちて、二度と覚めないでいいですか。
 早く来い来い、ブラックホール。



欲望という名の電車

2015年05月18日 | 1950年代 米

欲望という名の電車(原題:A Streetcar Named Desire)

1951年 アメリカ
監督:エリア・カザン
製作:チャールズ・K・フェルドマン
脚本:テネシー・ウィリアムズ、オスカー・ソウル
出演:ヴィヴィアン・リー、マーロン・ブランド、キム・ハンター、カール・マルデン、ルディ・ボンド
ニック・デニス、ペグ・ヒリアス、ライト・キング、 リチャード・ガリック

 
 ニューオーリンズの駅に降り立った未亡人ブランチ・デュボワは、「欲望」行きと表示された電車へ
乗り込んだ。「墓地」で乗り換え、妹のステラが住む街へと向かう。

 家を失い、身一つでの駆け込みだった。しかし彼女の期待よりも妹夫婦は貧しい生活をしており、
妹の夫スタンリーは、「妻の実家の財産は俺のもの」とばかりにブランチの荷物を漁って問い詰めるが
上等な衣服で着飾り、貴婦人きどりで、ひらり、ひらりと交わすブランチ。以後も反目し合う二人の
シーンは、画面から溢れんばかりの緊迫感が漂う。粗暴な役を演じたマーロン・ブランドからは、
男臭さがムゥムゥ匂ってくる。

 ブランチは、生活のためにスタンリーの同僚ミッチに言い寄る(自分が働くという考えは、お嬢様には
浮かばない)のだが、心も体も許すことはできない。そんな中、徐々に明らかになっていくブランチの過去。
実は、彼女は夫と子、父を亡くした後、自暴自棄になって次々と巷の男を誘惑しては放蕩に耽り、悪評に
追われるようにして故郷をでてきたのだった。それを知り、下卑た女だと執拗に体を求めてくる男達。
 
 ついには精神を崩壊させていくブランチは、浅ましくも醜くみえる。
 これが、これが、あの人の姿だろうか。
 大地主の娘であり、戦争を経て南部に追われ貧しい生活を余儀なくされても、輝くばかりに強く
美しかったスカーレット・オハラがどうして・・・!

 混同甚だしいのはわかっているのだけれども、それでも勝手に心はショックを受けてしまっている。
だってもうヴィヴィアン・リーを見たら名作「風と共に去りぬ」を想起せずにはいられない。その変貌
ぶりに胸がつぶれるような思いがする。誰もがスカーレットのように生きられるわけではないのだ。
「生き方」を知らない没落貴族は堕ちていくだけ。そこには、あらゆる欲望が渦巻いている。
  

イン・ザ・プール

2015年05月12日 | 2000年代 邦

イン・ザ・プール

2005年 日本
監督・脚本:三木聡
製作:長松谷太郎、佐々木亜希子
製作総指揮:三木裕明、坂上直行
出演:松尾スズキ、オダギリジョー、市川実和子、田辺誠一、MAIKO、岩松了、ふせえり、きたろう

 奥田英朗著・精神科医伊良部シリーズの同名短編小説より、「イン・ザ・プール」「勃ちっ放し」
「いてもたっても」の映画化。
 
 営業マンの田口哲也は、勃起状態がずっと続く事に困り果てて泌尿器科を訪れたが、原因がわからず、
伊良部総合病院の神経科を紹介される。また、ルポライターの岩村涼美は、火の元や戸締まりが心配で
なかなか家を出ることができない。「強迫神経症」ではないのか、と自ら神経科を訪れる。のだが、
2人とも、テキトーなことばっかり言う伊良部医師に振りまわされっぱなし。手玉にとられっぱなしの
様子がなんとなく微笑ましい。

 一方でビジネスマンの大森和雄は、ストレス解消にと始めたスイミングに徐々に依存していく。仕事の
合間合間にも、流し台に水を貯めて腕を浸さないといけないほど。爽やかで優秀な男が知らず知らずの
うちに病魔に囚われていく様子と、傍若無人な伊良部医師も同じプールに通っていて、より変な人として
認識されているのも、おかしい。

 社会的ストレス起因の精神疾患をユーモラスに描く。こんなテーマなのに、嫌味なところがないのが
素晴らしいと思う。伊良部医師が強烈キャラなのにも関わらず、安心してみれるのは松尾スズキさんの
バランス感覚のなせる技! 抱腹絶倒というよりは脱力系のコメディ。
 まーまー今の世の中そんなこともあるよねーーと納得しちゃえるほどに、現代日本は恐ろしい。