インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌 (原題: INSIDE LLEWYN DAVIS)
2013年 アメリカ
監督・脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
製作:スコット・ルーディン、ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
製作総指揮 :オリヴィエ・クールソン、ロバート・グラフ、ロン・ハルパーン
出演:オスカー・アイザック、キャリー・マリガン、ジョン・グッドマン、ギャレット・ヘドランド、
ジャスティン・ティンバーレイク
映画館でチケットを買う際に、ポスターをぱっと見て「インサイド・ルーウィン・デヴィスを」と言った。
「デイヴィスです!」と売り子のお姉さんに短く正された。
けっこう長い映画タイトルなんだから、そんなキチンと修正しなくても、と少しムムッと思ったけれど
見終わって、納得。ルーウィン・デイヴィスは、ルーウィン・デイヴィスでなければ。
彼は何度もフルネームで名乗っている。
俺は俺なんだと。間違えてほしくないんだと。
彼の唄も、彼だけのものだ。
周りに合わせるような、ことはしない。
舞台は、1961年のニューヨーク。
フォークソングが世界的なブームになる前夜の、バーで一部の若者達が集まって聴いていた頃。
フォーク歌手のルーウィン・デイヴィスは、知り合いの家を点々と泊り歩く、その日暮らしを続けていた。
相棒のマイクは橋から身を投げ、今はひとりで唄う。
所属するレコード会社からは金をもらえず、女友達の中絶費用を工面し、
流されるまま、トラ猫を抱えこみ、シカゴへと相乗りの旅に出る。
何をやってもうまくいかない情けない男の姿に、ふいに深い喪失感をみる時がある。
彼の心には大きな穴がポッカリ空いているのだということがわかる。
翼を亡くした男は、地を這うように彷徨い、唄い続ける。
だからこそ売れないし、だからこそ心に沁みることもあるだろう。