黄金のメロディ~マッスル・ショールズ~(MUSCLE SHOALS)
2013年 アメリカ
監督:グレッグ・フレディ・キャマリア
製作:ステファン・バッガー 、グレッグ・フレディ・キャマリア
出演:リック・ホール 、アレサ・フランクリン、ミック・ジャガー 、キース・リチャーズ、ボノ、
スティーブ・ウィンウッド、グレッグ・オールマン
アメリカの片田舎マッスルショールズに建てられた小さな2つのスタジオが60年代から70年代にかけての
ソウルミュージック黄金期を産み出していった舞台裏をひも解くドキュメンタリー。
プロデューサーのリック・ホールは1961年にテネシー川沿いに「フェイム・スタジオ」を建て、
リズム隊のバンドを入れて、ヒット曲を次々に録音していく。その音に魅せられ、大物アーティスト達が
スタジオを訪れ、スタジオミュージシャンが白人だったことに驚きを隠せなかったという。
都会のスタジオでは、アーティストが曲をすべて仕上げて持っていき、スタジオミュージシャンは楽譜を
前に録音するというのが一般的なスタイルに対して、フェイムでは即興でセッションを繰り返しながら
一緒に曲を練り上げていく。形式に囚われず、思いっきり音楽をやる!というバンドの情熱と、
アーティスト達が負けじと放つパワーにさまざまな化学反応が起こり、名演奏が引き出されていく。
フェイム・スタジオで鳴らしたリズム隊はいつしか成長し、独立して自分たちのスタジオを建てる
までになるが、リックとは戦争状態に。裏切られた気持ちの強いリックはあの手この手で新人を発掘し
更なる濃密なスタジオを作っていこうと躍起になる。このリックが極貧の中で育って来た環境も描かれるが
家族との別れを語るシーンが辛くって、それに伴う孤独感は堪え難い。
一方、自分たちのマッスル・ショールズ・サウンドスタジオを造ったスワンパーズは
ザ・ローリング・ストーンズの名盤「スティッキー・フィンガーズ」収録の3曲「ブラウン・シュガー」
「ワイルド・ホース」「ユー・ガッタ・ムーヴ」を収録するなど、ファンキーな演奏を繰り出していく。
このドキュメンタリーで数々のアーティストがインタビューに応えている様子は、みんな目をキラキラと
輝かせていて、マッスル・ショールズにかかるボルテージは他のものとは違うなという印象。
ミックは満面の笑みで(いい子バージョンじゃないやつ)、キースも話が止まらないといった感だ。
特に、私が気になったのは、後にオールマン・ブラザーズ・バンドを結成する故デュアン・オールマンに
まつわるインタビュー。
彼がフェイムでスタジオミュージシャンをしていたのは、ウィルソン・ピケットの録音のためにリックから
アプローチしてデュアンを雇い入れたという呈だったのが、今回のインタビューの中でリックは「変な奴が
スタジオの扉に座り込んでて」仕方ないから、的な感じで話している。
こんな格好で、ギター1本を裸で抱えて、ぐでんぐでんに酔っぱらって座り込んでてほしい、というかイメージ。
グレッグ・オールマンが語る、デュアンが「俺が抜けてやるよ」と言って、弟から離れていった話も泣けるし、
人種差別が当たり前の時代にあってどんなに批判されても黒人と同じ釜の飯を食べて来た同僚たちにさえ、
「黒人といるより、長髪のヒッピーと一緒に居る方が変な目で見られるよ」とさんざんに言われてて。
踏んだりけったりのデュアン。もう母性本能どんだけくすぐるんだって、話ですよ。
貴重なインタビューや映像、写真が見れて、興奮しきりのドキュメンタリーだった。
幾多の名盤をプロデュースしてきた魔法使いリック・ホールが、最後に種明かしをしてくれる。
最終的には、人間らしさが力になるってこと。人間らしさっていうのは、不完全な部分を含んでいて、音楽には
それが必要なんだって。その考え方に深く頷いた。
そして、完璧主義者の目指す不完全さは終わりがないわけだ、と思った。