Kimama Cinema

観た映画の気ままな覚え書き

ワン・プラス・ワン

2014年09月20日 | ロック映画、映像

ワン・プラス・ワン(One Plus One)

1968年 イギリス
監督・脚本 : ジャン=リュック・ゴダール
製作総指揮 : エレニ・コラード
出演:ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ブライアン・ジョーンズ 、チャーリー・ワッツ、ビル・ワイマン、
アンヌ・ヴィアゼムスキー、イェーン・クォーリア、フランキー・ダイモン、ダニー・ダニエルズ

 
 1967年に商業映画との決別を告げたゴタールは、パリ五月革命の最中、1968年5月19日カンヌ映画祭へ乗り込んで
賞の選出を中止に追い込んだ。「政治の時代」に身を投じたゴタールは、すぐさまアメリカに渡り、ベトナム反戦運動
をテーマにしたD・A・ペネベイカーとの共同監督作『ワン・アメリカン・ムービー』の撮影をはじめ、6月初旬には
ロンドンにて「ワン・プラス・ワン」のため、ザ・ローリング・ストーンズのレコーディング風景を撮影。

 さまざまなプロジェクトを同時進行で動かしていた当時のゴタールが撮った本作は、過激な政治思想を唱える人々の
寸劇と、ストーンズの「Sympathy For The Devil~悪魔を憐れむ歌~」の制作過程が交互に映し出され、世界の至る
ところで高まりを増していた異常な革命の熱を映像化しようとした実験的な作品。
 ストーンズのレコーディングは試行錯誤の中で完成せず、未完であることに意味を求めたゴダールは、製作会社により
「Sympathy For The Devil」がエンディングに挿入されたことに大激怒し、「作品が盗まれた!!」と発言。ただ
ゴタール自身も主義をまげて(今後の活動資金を集めたいがために)爆発的な人気バンドを起用し、イギリス資本で全編
英語で撮ったという商業的な動きもあり、何かと複雑な事情が入り交じっている。

 私の印象でいえば「作品が盗まれた」のは製作サイドによってではなく、ザ・ローリング・ストーンズによって、だと思う。

 なんといっても、名曲「Sympathy For The Devil~悪魔を憐れむ歌~」が創られていく過程がつぶさに眺められるなんて、
ほんとうに光栄だし、凄いことだ。
 ミック・ジャガーはスタジオの中心にいて、何度も出だしを唄いながら、1つ1つ音を拾い集めて曲を形づくっていく。
キースはリラックスした様子で、フレーズをいくつも試している。アコギを抱えたブライアンは衝立の奥。バンドからも、
この世からも去っていってしまう彼の1年前の貴重な姿が捉えられている。

 リズムが固まったところで、レコーディングメンバーはマイクを囲み「フッ!フー!」という印象的なコーラスが
繰り広げられる。これが政治思想満載のショートフィルムと組み合わせられると
 ブラック・パワーだって フッ!フー! リロイ・ジョーンズの『ブルースの魂』だと? フッ!フー! 
 ベトナム反戦 フッ!フー! アンヌ・ヴィアゼムスキー フッ!フー!  ヒットラーの『わが闘争』 フッ!フー! 
 ポルノ書店店主 フッ!フー! 毛沢東主義 フッ!フー! 
 てなもんで、これぞPaint It Black! すべての世界がストーンズによって塗りつぶさていく。
 ざまあみろ、ロックンロールを何かの道具に使おうだなんて、ちゃんちゃらおかしいのだ。
 この曲自体、革命なんだよ!! と思うのだけど、
 その一方で、映像には出てきていないはずの、ゴタールのいらついた顔が映画の全編にチラついてチラついて
 ゴタールもまた、この映画の主役だよなあと感じる。

サイトシアーズ ~殺人者のための英国観光ガイド~

2014年09月15日 | 2010年代 欧州

サイトシアーズ ~殺人者のための英国観光ガイド~ (Sightseers)

2012年 イギリス
監督:ベン・ウィートリー
製作:ニラ・パーク、クレア・ジョーンズ、アンドリュー・スターク
製作総指揮:エドガー・ライト、マシュー・ジャスティス、ジェニー・ボーガーズ、ダニー・パーキンス、キャサリン・バトラー
脚本:アリス・ロウ、スティーブ・オーラム
出演:アリス・ロウ、スティーブ・オーラム、アイリーン・デイビス、リチャード・グローバー、ジョナサン・アリス、モニカ・ドラン


 つきあいだしたばかりのクリスとティナのカップルは、キャンピングカーでウキウキと旅に出る。
しかし偶発的な事故で、観光客を車で轢いてしまったことをきっかけに、次々と殺人を犯すようになる。
 クリスはイライラをつのらせ、息を吐き出すように殺人を犯す。もともと依存しやすい性格のティナは、
もう一人殺すも二人殺すも一緒でしょって、雰囲気に完全に呑まれてしまった。
 そして、ずんずんと深くて暗い穴に落ちていく。

 怖いのは、2人がナチュラル・ボーン・キラーズでは無いこと。ただ、ちょっと物事を甘く考えてて
自分たちさえ良ければいい、と思ってる。独自性をもったキャラクターっていうわけじゃない。むしろ、
相手の出方次第というところがある。
 しかも旅先は、一般観光客と同じ、普通の観光スポット。
 彼らは、日なたと陰とを流されるままに漂流し、当然ながらそのスパンは短くなっていく。

 役者の二人に脚本を書かせているのが面白い。セリフをその場で決めていったのかな。
 なんにしろ、ラストシーンは、アリス・ロウのアイデアだと思う。


イヴ・サンローラン

2014年09月08日 | 2010年代 欧州

イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)


2014年 フランス
監督:ジャリル・レスペール
製作総指揮:ワシム・ベジ
脚本:ジャリル・レスペール、マリー=ピエール・ユステ、ジャック・フィエスキ
出演:ピエール・ニネ、ギョーム・ガリエンヌ、シャルロット・ルボン、ローラ・スメット、
マリー・ド・ビルパン、ニコライ・キンスキー、マリアンヌ・バスレール


「モードの帝王」と呼ばれ、20世紀のファッション界を牽引したイブ・サンローラン栄光の時代を
彼のビジネスパートナーで生涯の恋人でもあったピエール・ベルジェの視点から描きだす。

 主演のピエール・ニネは、若い頃のサンローランに生き写しだとか、ベルジェとサンローラン財団の
全面協力のもと、往時の貴重なドレスがふんだんに使用されるとか前評判が素晴らしくて
勢い込んで観に行ったのだけど、私としては不完全燃焼な部分もあった。




 なんだかんだいっても、美化し過ぎ? 「天才」というだけで、その発想や想像の源泉には触れていなかった。

 気鋭の天才美青年デザイナーと、金持ちの青年実業家が恋に落ちて相手をスポイルしていくなんて
ベタすぎるBL設定・・・! (史実です、史実・・・だけど・・・)そこそこマンガ好きな日本人の観客からしたら
その先の展開が手に取るように見えてしまって、サンローランとベルジェの恋愛が中心に映画がまわっていくのに対し、
何一つセンセーショナルに感じないのは、フランスでは無かった弊害だろう。

 ピエール・ニネは繊細で脆い青年を熱演していたが、攻撃性は抑えめで、それよりもピュアな初々しさが
全面に出ていて美少女のようだった。ベルジェを演じたギョーム・ガリエンヌの恋する表情も良かったし、
どうせなら行き着くところまで行って、二人して狂気に沈んで欲しかったという、欲深い願望が残る。