ワン・プラス・ワン(One Plus One)
1968年 イギリス
監督・脚本 : ジャン=リュック・ゴダール
製作総指揮 : エレニ・コラード
出演:ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ブライアン・ジョーンズ 、チャーリー・ワッツ、ビル・ワイマン、
アンヌ・ヴィアゼムスキー、イェーン・クォーリア、フランキー・ダイモン、ダニー・ダニエルズ
1967年に商業映画との決別を告げたゴタールは、パリ五月革命の最中、1968年5月19日カンヌ映画祭へ乗り込んで
賞の選出を中止に追い込んだ。「政治の時代」に身を投じたゴタールは、すぐさまアメリカに渡り、ベトナム反戦運動
をテーマにしたD・A・ペネベイカーとの共同監督作『ワン・アメリカン・ムービー』の撮影をはじめ、6月初旬には
ロンドンにて「ワン・プラス・ワン」のため、ザ・ローリング・ストーンズのレコーディング風景を撮影。
さまざまなプロジェクトを同時進行で動かしていた当時のゴタールが撮った本作は、過激な政治思想を唱える人々の
寸劇と、ストーンズの「Sympathy For The Devil~悪魔を憐れむ歌~」の制作過程が交互に映し出され、世界の至る
ところで高まりを増していた異常な革命の熱を映像化しようとした実験的な作品。
ストーンズのレコーディングは試行錯誤の中で完成せず、未完であることに意味を求めたゴダールは、製作会社により
「Sympathy For The Devil」がエンディングに挿入されたことに大激怒し、「作品が盗まれた!!」と発言。ただ
ゴタール自身も主義をまげて(今後の活動資金を集めたいがために)爆発的な人気バンドを起用し、イギリス資本で全編
英語で撮ったという商業的な動きもあり、何かと複雑な事情が入り交じっている。
私の印象でいえば「作品が盗まれた」のは製作サイドによってではなく、ザ・ローリング・ストーンズによって、だと思う。
なんといっても、名曲「Sympathy For The Devil~悪魔を憐れむ歌~」が創られていく過程がつぶさに眺められるなんて、
ほんとうに光栄だし、凄いことだ。
ミック・ジャガーはスタジオの中心にいて、何度も出だしを唄いながら、1つ1つ音を拾い集めて曲を形づくっていく。
キースはリラックスした様子で、フレーズをいくつも試している。アコギを抱えたブライアンは衝立の奥。バンドからも、
この世からも去っていってしまう彼の1年前の貴重な姿が捉えられている。
リズムが固まったところで、レコーディングメンバーはマイクを囲み「フッ!フー!」という印象的なコーラスが
繰り広げられる。これが政治思想満載のショートフィルムと組み合わせられると
ブラック・パワーだって フッ!フー! リロイ・ジョーンズの『ブルースの魂』だと? フッ!フー!
ベトナム反戦 フッ!フー! アンヌ・ヴィアゼムスキー フッ!フー! ヒットラーの『わが闘争』 フッ!フー!
ポルノ書店店主 フッ!フー! 毛沢東主義 フッ!フー!
てなもんで、これぞPaint It Black! すべての世界がストーンズによって塗りつぶさていく。
ざまあみろ、ロックンロールを何かの道具に使おうだなんて、ちゃんちゃらおかしいのだ。
この曲自体、革命なんだよ!! と思うのだけど、
その一方で、映像には出てきていないはずの、ゴタールのいらついた顔が映画の全編にチラついてチラついて
ゴタールもまた、この映画の主役だよなあと感じる。