Kimama Cinema

観た映画の気ままな覚え書き

ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日

2013年01月30日 | 2010年代 米

ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日(Life of Pi)

2012年 アメリカ
監督:アン・リー
出演:スラージ・シャルマ、イルファーン・カーン、アーユッシュ・タンドン、レイフ・スポール


インドからカナダへの航海中、動物園の動物たちと少年の家族が乗っていた貨物船は、嵐に遭って沈没。
生き残った16歳の青年パイと虎の“リチャード・パーカー”が、一艘の救命ボードで漂流を続ける物語です。

原作は、カナダ人作家ヤン・マーテルの小説『パイの物語』。
映画化の話は以前から組まれ、アン・リー監督によると「イベント性を持たせるために3D作品にした」
との弁ですが、3Dのために創られた物語かと思うほど、映像描写は見事でした。
海や雷、空の美しさがファンタジックかつ神秘的で、その美しさも脅威も全身で受け止めていくパイは
とても逞しく、純粋にみえました。
虎のリチャード・パーカーも、凛々しかった。
虎は単独行動種なので、もしも、虎じゃなくライオンと漂流したのだったら、野生でも家族単位で暮らす
ことの多いライオンはもっとパイになついたのかなあ、などと思います。
でも、虎の語らなさが、良い。
脅威でもあり、助けでもある。
パイが長い漂流生活で正気を保てたのは、“リチャード・パーカー”のおかげでもあるのです。

ラストはちょっと小説的かなあ。
わたしだったら・・・リチャード・パーカーが大地を踏みしめて雄々しく走る回想シーンで締めたい
ところ・・・虎の優美な走りを見せつけたい!! ああ、すっかり虎びいきになってしまいました。


本編も良かったけど、動物たちのコミカルな動きが楽しめるオープニングや、シンプルかつ美しい
エンドロールも3D効果を活かしていて素敵でした。
エンディング曲の「Pi’s Lullaby」(パイの子守唄)で余韻にたっぷり浸り、
エンドロール・ファンとしても大満足です♪

やさしい語りで

2013年01月23日 | フランス映画祭

今年も、1月17日から2月17日までオンラインのフランス映画祭『マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル』が開催中!
http://www.myfrenchfilmfestival.com/ja/
日本未公開のフランス映画が、ネット上からダウンロードして観られる、とっても楽しい1ヶ月なので
はりきって観ようと思います。
まずは、1本目。フランス国内でもヒットしたというOn Airをチョイスしました。

やさしい語りで(On Air) (原題:Parlez-moi de vous)

フランス 2011年
監督:Pierre Pinaud
出演:Karin Viard, Nicolas Duvauchelle, Nadia Barentin, Patrick Fierry

メリナは、ラジオ・フランスの人気パーソナリティ。
リスナーから寄せられる質問や悩みに、親身に、赤裸々に、答えていく。
しかし、その素顔は謎のまま。彼女は、プライベートを公開せず、周りの人との交流を避け、ひとりで暮らしていた。
休日には探偵事務所で産みの母親の情報を調べてもらった情報に従い、その家の前まで行ったり、
母親の働く事務所へボランティアに行ったり・・・。

ラジオでの仕事以外は、人と会話するのを拒絶してしまうほどに、彼女の孤独は根深い。
が、中年を迎えた今になって、母親探しをはじめたんだろう?

ラジオでは軽快なトークで質問者をリラックスさせ、家では飼い犬にひっきりなしに話しかける。
こういった姿をみてると、やっぱり人嫌いとは思えない。
彼女はただ人に裏切られるのが怖いのだろうな。
子供の頃に母親に捨てられたように、また信頼した人から捨てられるのが。

でも母親に会ってみたいと、行動を起こしたのはきっと、彼女が変わり始めたからなんだろう。
ラジオ番組の成功で、やっと自分に自信をもつことができた少女(実際にはトウがたった大人だけれども)が、
やっと手を伸ばした自分のルーツ(産みの母親)。
彼女が生きていく、この先の物語も観てみたいと思う作品でした。

ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル

2013年01月14日 | ロック映画、映像

ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル(The Great Rock 'n' Roll Swindle)

1980年 イギリス
監督・脚本:ジュリアン・テンプル

「騙された気分はどうだい?」とは、ジョニー・ロットンのラストライブでの発言。
偉大なるロックンロール詐欺(映画タイトルの直訳)! まさに!!

マネージャーのマルコム・マクラーレンが語り手となる「セックス・ピストルズ」のドキュメンタリームービーとされる
・・・のだが、ジョニー・ロットンらは「事実無根!」と怒り、後に同じ監督に依頼して「ノー・フューチャー」という
リアルドキュメンタリーを作成するという経緯も。

演奏シーンやメンバーの未公開映像、アニメーションやらマクラーレンの語りや、そいらのガキどもが騒いでるとこを
繋ぎ合わせたスクラップ映像で、すべてにおいてインチキ臭く、おふざけなのはもちろんわかるから、
わざわざ「事実じゃない」って、腹をたててもなあ~。
でも、それもこれも合わせてピストルズらしい!

1976年に結成されたセックス・ピストルズは、社会的な一大センセーショナルを巻き起こした。
反体制的な歌詞に奇抜なファッション、言動などから、保守層からの反撥をくらい、ライブ会場では中止運動が絶えなかった。
マネージャーのマルコムは「音楽性はともかく、ジェネレーションギャップを創り出す方が肝心だ」と。
大手レーベルとの契約破棄や逮捕などのスキャンダルを繰り返し、アメリカツアーの最中に、ジョニー・ロットンがバンドを
脱退。スティーヴ・ジョーンズとポール・クックは列車強盗犯などにボーカルをとらせ、マルコムは嫌がるシド・ヴィシャスに
「My Way」の替え歌を唄わせた。
無理に書かされた歌詞だと思うとほんとにひどいけど、唄ってるシドもかっちょいい。

これって、ジュリアン・テンプル監督だからこそ、このバランスを保てたんじゃないかなあ。
この内容で他の監督だったら、もっと際どくお下品な作品にもなりそうで、ちょっとゾッとします。





レ・ミゼラブル

2013年01月07日 | 2010年代 欧州

レ・ミゼラブル(Les Miserables)
2012年 イギリス
監督:トム・フーパー
出演:ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイ、アマンダ・セイフライド、アーロン・トベイト、サマンサ・バークス、ヘレナ・ボナム・カーター、サシャ・バロン・コーエン、エディ・レッドメイン

ヴィクトル・ユーゴー原作の名作ミュージカルの映画化。
上映時間は2時間半以上の大作だし、話も重ためだし、全編ミュージカル仕立てとのことで
このお正月でお目出度くなった頭でついていけるかしらんと観る前はちょっと不安だったのですが
なんの、なんの!! 夢中になって見入っちゃいました。

物語の舞台は、19世紀前半のフランス。
ジャン・バルジャンは、パンを盗んだ罪で19年もの間、投獄されていました。
彼を呼んで、仮釈放の書類を渡す警官ジャベール。
この2人の出会いからして、因縁を感じさせます。
改心に心を悩ませ、名を変え市長となるも再び逃亡を続け、幼子コゼットの養父となり・・・という
波瀾万丈な人生を送るジャン・バルジャンに、変化自在のヒュー・ジャックマン。
誠実且つ厳しく、ジャン・バルジャンを追い続ける法の番人ジャベールに、分厚い男ラッセル・クロウ。
劇中、何度もみせる2人の対決は、息詰まる展開。

そして今作では演技以上に圧倒されたのが、臨場感に溢れた歌の数々。
仮出所後のバルジャンが司教の慈悲に触れ、改心を誓う「バルジャンの独白」
工場を追い出された、極貧のファンティーヌが唄う「夢やぶれて」
マリウスに恋心を抱くエポニーヌの切ない「オン・マイ・オウン」
ラストに響き渡る「民衆の歌」も!!
どの歌も情感たっぷりで、臨場感にあふれ、何度も涙させられました。

コゼットとマリウスが唄う愛の言葉に、エポニーヌの悲しみが加わった 三重奏も素晴らしかったです。
この切なすぎるエポニーヌは、舞台でも同役を演じていたというサマンサ・バーク。さすがです!
さらに、下町のやんちゃな少年ガブローシュ役のダニエル・ハトルストーンも舞台っ子。
うーん、確かに「児劇あがり」っぽい感じある。存在感あるな~。

メインキャストだけでなく、端役ひとりひとりにも想いを馳せたくなる、
彼らがそれぞれに生きたであろう物語を考えさせられる、いろんな意味で力強い作品でした。