Kimama Cinema

観た映画の気ままな覚え書き

味園ユニバース

2015年02月23日 | 2010年代 邦

味園ユニバース

2015年 日本
監督:山下敦弘
製作:藤島ジュリーK.
共同制作:依田巽
エグゼクティブプロデューサー:中村浩子、小竹里美、定井勇二
プロデューサー:原藤一輝、松下剛、小川真司、根岸洋之
共同プロデューサー:長松谷太郎
脚本:菅野友恵
出演:渋谷すばる、二階堂ふみ、鈴木紗理奈、川原克己、松岡依都美、宇野祥平、康すおん、赤犬


 大阪なんば、1956年に建てられた複合商業ビル・味園ビル。昭和バブルの匂いを未だに残し、いまや妖しいムードを全開で漂わせている。関西出身ではないが、同ビル内の味園ホテルには何回か泊まったことがある(繁華街にあり駐車場・朝食つきで三千円!)ので「あー、あそこかあ」と雰囲気はわかる。

 その中にあったキャバレー「味園ユニバース」に下積みの頃、ステージ出演していたという和田アキ子の名曲”古い日記”を突如、歌い出したのは記憶喪失の男だった。

 広場で行われたいた「赤犬」のライブ中である。男が乱入してマイクを奪い、バンドが音を止めているのにも構わず、大声で吠えるように歌い、倒れた。「赤犬」のマネージャーをしているカスミの自宅兼スタジオ兼カラオケ屋で手当てされた男は「ポチオ」と名付けられ、そのまま居候になった。

 「あんた、アイドルの影武者なんちゃう? 歌の下手なアイドルの代わりに歌っとった! で、ライバルに消された、とか」と現役アイドルに向かって怖いものなしの発言で吹かせるカスミ役の二階堂ふみ。まっすぐで、グダグダ悩んだりしない、強いキャラクターの中に特有のやらかさがあって心地よい。神出鬼没にも感じるけれど、そこには彼ら彼女らの行動範囲の狭さがあるのだろう。
 
 ポチオ演じる渋谷すばるの、記憶を失った時・戻った時の演じ分けも良かった。ステージにあがった瞬間に放たれる存在感も、胸に刺さるものがある。意図的にやっているんだと思うけど、目の動きとか首のもたげ方とか無敵状態なところとかが、まさにブルハ時代の甲本ヒロトの仕草で、すばるくんと、以前にも『リンダリンダリンダ』を撮った山下監督が発している果てしないリスペクトを感じるし、それに対してのヒロトのコメントが「すばる、あいしてるぜっ」っていうのも、いろんな意味でたまらなくなる。

 記憶が無い男は走り出す。過去をすべてを失ったとしても或は捨てたとしても自分は他の人にはなれないし、それに自分の中に蓄積されてきたものは残るのだろう。
 大事なのは、そこから次に何を選ぶかだ。

 だから、

 未来は僕等の手の中!!


 ・・・だって頭に浮かんでしまうんだもん。そーゆーことですよね、山下監督?

Quelqu'un d'extraordinaire(みんな誰かの特別な人)

2015年02月16日 | フランス映画祭

 いよいよ今日2月16日が最終日、オンラインでの第5回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルにて
 http://www.myfrenchfilmfestival.com/ja/

 コンペティション外の映画「Quelqu'un d'extraordinaire(みんな誰かの特別な人)」を鑑賞しました。

 朝、目覚めたら知らない家。Tシャツ1枚でベッドに寝てる。
 ええっと、ここは何処? 車が無い。カバンが無い。
 昨日の夜の記憶がまーーったく無い。
 やばい、やばい、やばい。
 
 サラが慌てふためいていると、入ってきたのは家人らしき、知らないおばさん。
 「何、あなた、ヤニックの友達?」「あの子は学校よ」と、おぼろげながら事情をつかんでいくと
 昨晩は泥酔して見ず知らずの高校生の家にあがりこんでいたらしい、サラ・・・30過ぎ・・・
 とりあえず偽名つかって、年齢詐称もする・・・。

 とにかく痛いんだよね~、この映画。男の人が観たらドン引き必至だと思う。
 で、迎えにきてもらって、イヤイヤ参加した友人の結婚前日女子会で、暴言はきまくり暴露しまくり。
 でも最後には、誰も誰かの「特別な人」になりうるのだと、思わせてくれるという荒技を決める。
 人の二面性は、恐ろしいものだな。 
 

Les Insouciants(憂いなき者たち)

2015年02月13日 | フランス映画祭

 2月16日まで開催の第5回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルも、もう大詰め。
 http://www.myfrenchfilmfestival.com/ja/

 短編「Les Insouciants(憂いなき者たち)」を鑑賞しました。

 ニルスは家の車を借りて、友達と山奥で大騒ぎするパーティへ出かける。肝試しのように
空き家に入り込んだり、女の子といちゃいちゃしたり、楽しい時間を過ごすのだが、
朝になって携帯電話の留守録を聴いて、事態は一変する。
 
 突きつけられる現実。浮かれ騒ぐ仲間達の中で、ニルスだけが真っ青な顔。
 どれだけ近くにいても、SNSでシェアしないと共有しあえないリアリティ、そんな感じ。
 
 それにしたって、どうしてこう裏目裏目に出てしまうのだろう。
 いやだ、わかりたくないけど、わかる。
 家からの電話、何時間にも感じる一瞬、嘘だ嘘であってほしいと思うメッセージ。悲劇は
いつだって「こんなときに限って」起こるのだ。

 もしもパーティに行かなければ、車を借りなければ、携帯電話を無くさなければ・・・
山ほど積み重なる後悔。 
 大なり小なり、みんな思うだろう。どうして、こんなときに限って?

Respire (呼吸―友情と破壊)

2015年02月10日 | フランス映画祭

第5回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルにて
http://www.myfrenchfilmfestival.com/ja/

2015年コンペティション部門長編「Respire (呼吸―友情と破壊)」を鑑賞。

 シャルリの通う高校に、転校してきたサラ。思ったことは何でも言い、明るくて行動的なサラと
内気なシャルリはすぐに友達になる。しかしシャルリは、サラが他の友人達や異性、家族とも仲良く
なっていくことに嫉妬を隠せない。

 自己中で他人の気持ちを顧みないサラよりも、それに振り回されてシャルリの顔つきがぐるんぐるん
変わっていくのが、とても怖い。

 もちろん最初は主人公である、シャルリの目線で見ているはずなのに、いつしか彼女は観客をも
シャットアウトしてしまう。「入ってこないで」と全身で訴えてくる。そうして静かな暴走は誰にも
止められない。

 シャルリのもろさが露呈していく後半は、ひたすらに辛かった。

Tirez la langue, mademoiselle(パリ、恋の診療室)

2015年02月04日 | フランス映画祭

第5回マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルにて
http://www.myfrenchfilmfestival.com/ja/

2015年コンペティション部門長編「Tirez la langue, mademoiselle(パリ、恋の診療室)」を鑑賞。

見始めて数分で、撃沈!
うわあ、うわあ、この俳優さん・・・セドリック・カーン監督では。しかも主役級の役。
2011年の「Alyah」にも俳優として出演してるみたいですが日本未公開だったし
今作もMfffに出品されてなかったら見れず終いだったかもしれません。
マイ・フレンチ・フェスティバル万歳!!

映画は、ボリスが患者を診療室へ連れていくところから始まります。ディミトリは、患者の
子供の面倒を見、夫に状況を説明。彼ら兄弟は、パリのチャイナタウンで診察室を開いており、
医師として経営パートナーとして常に助け合って仕事をしているのです。
ある日、二人は糖尿病を患う少女を診療し、少女の母親であるジュディットに揃って恋をして
しまいます。同僚に「弟とは別れた?」とからかわれる程に仲の良かった兄弟の関係は徐々に
均衡を崩していきます。

厳格な兄ボリスにセドリック・カーンのキャスティングは涙モノですが、温和な弟役のローラン
・ストッカーとの相性も抜群で、一人の女性を兄と弟で奪い合うコミカルさ、熱情、苦痛、
それでも込み上げる兄弟愛。ひとつひとつの雰囲気がぷんぷん臭ってきました。

セドリック・カーンの対談やインタビューを見ていて、言葉や声に力があり、表情も惹きつけ
られるし、この人は俳優さんもできるよなあって前々から思ってたのです。

更に私にとっては、カーン監督が来日されてサインを頂いた際、私が自前のペンを渡したまま
立ち去ってしまい、あとで慌てて取りに戻ったら、とろけるような笑顔で叱ってくださり、
完全にファンになったという経緯もあります。
そうして久しぶりに観た姿が、真面目で優しい、恋するお医者さん役とは。
はわわ、自分の心がコロリと転がる音を聴きました。
マイ・フレンチ・フェスティバル開催中に、あと何回観よう??