Kimama Cinema

観た映画の気ままな覚え書き

マーガレットと素敵な何か

2012年11月25日 | 2000年代 欧州

マーガレットと素敵な何か(原題:L'age de raison)

2009年 フランス=ベルギー
監督・脚本:ヤン・サミュエル
出演:ソフィー・マルソー、マートン・コーカス、ミシェル・デュショソワ、ジョナサン・ザッカイ、
エマニュエル・グリュンヴォルド、ジュリエット・シャペイ

大企業で働くキャリアウーマンのマーガレットは、40歳の誕生日に公証人と名乗る老人から「マルグリット」宛の
手紙を受け取ります。
それは7歳の頃の自分からの手紙でした。

苦い子供時代を思い出したくない彼女は、戸惑います。「マルグリット」とは封印したはずの自分の名前なのです。 
7歳のマルグリットが描くファンタジックな夢とメッセージ。
それ以来、何通もの手紙がマーガレットの元に届けられることになります。

まだ幼い子供が公証人を使って40歳になった自分に手紙を送る、なんて不思議にも思えるのですが、
それは父が出て行って無一文になり、大人にならざるを得なかった少女が、自分に託した未来だったのです。

捨てたはずの過去と向き合い、自分の人生を考え直すようになるマーガレット。
それですっかり過去を取り戻そうとするのではなく、それを踏まえて前に進んでいこうと、もがいている姿に
胸がつまりました。

オスカー・ワイルドの言葉が急に引用され
「夢は大きいほうがいい」「見失うことがないから」・・・と
いやいや、見失ってたじゃん!と突っ込みたくなりますが、それもマーガレットらしくって素敵です。

マーガレット役は40歳をこえて、なお愛嬌抜群のソフィ・マルソー。
マスカラをはげはげにして、大泣きしちゃうソフィーがいい。
いくつになっても、この人に夢中なんだって思います。

ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男

2012年11月21日 | ロック映画、映像
「クロスファイヤー・ハリケーン」を観たら
やたらにブライアンに会いたくなって、以前観た映画だけど、もう1度みちゃいました。
虚像ではあるのだけど、レオ・グレゴリー演じるブライアンがやたら生々しく感じられるのです。


ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男(原題: Stoned)

2005年 イギリス
監督:スティーヴン・ウーリー
出演:レオ・グレゴリー、パディ・コンシダイン、デイヴィッド・モリッセー、ツヴァ・ノヴォトニー、アメリア・ワーナー、モネット・メイザー


ブライアンは20歳の頃、ミック・ジャガーやキース・リチャーズらとザ・ローリング・ストーンズを結成。
リーダーとしてバンドを軌道にのせるが、成功とともに酒とドラックに溺れはじめ、主導権は次第にミックとキースに移ることになる。
世界を変貌させたロックスターは、快楽の追求にひた走り、身も心も削られていく。

かたや建築家フランク。ブライアンの購入した邸宅の改装工事を引き受けた男。
彼は、本業以外にも細々とした用事を頼まれるようになり、いつのまにかブライアンの生活へと入り込んでいく。

このストーリーは、ブライアンの視点からでもあり、フランクの視点でも紡がれている。
退廃につきすすんでいく彼と、見守るしかない私たち。
フランクは、私たちとブライアンを繋ぐ媒介だ。もてあそばれ、腹をたてても、その実、取り込まれている。
ブライアンがけだるさの中で浮かべる不敵な笑みは、忘れられない。

ストーンズからの脱退からほぼ1ヶ月後、ブライアン・ジョーンズは自宅のプールで水死体となって発見された。
27歳だった。
検死官は、アルコールとドラッグの影響で溺死した、と報告した。

しかしこの約24年後、フランクは死の床でブライアンを殺害したと告白している。
おそらくフランクは、ブライアンに囚われ続けたのではないか。
フランクの半生涯にわたって、何度も何度も脳内で繰り返された映像をみているかのように感じた。


クロスファイヤー・ハリケーン

2012年11月18日 | ロック映画、映像

11月17日から23日の1週間限定上映です。
見終わって劇場を出たら、大雨だったのに、傘もささず、走りだしてた!!!


クロスファイヤー・ハリケーン(原題:CROSSFIRE HURRICANE)

2012年 アメリカ
監督:ブレット・モーゲン
デビュー50周年を迎えたザ・ローリング・ストーンズの軌跡を振り返るドキュメンタリー。



かっこいい!!
かあっこいいい!!


これがたった120分の映像!?
50年のときをストーンズと一緒にタイムトラベルしているような気分になった。
すでに発表されているライブ映像や、映画、写真・・・この50年の中で残してきたさまざまなものが
切り取られ、未発表テイクやプライベートな写真、インタビューをはさみ、渾然一体となって迫ってくる。
スクリーンでみて良かった。

こうして初期の映像から順を追ってみていくと
わたしが産まれる前にすでにブライアン・ジョーンズは亡くなっていたのに
今、改めて深い喪失感に襲われる。
オルタモントの悲劇も、歴史上の事件という感覚だったのに
胸が張り裂けそうに痛くなる。
未体験なのに、追体験をしているような、不思議さがあった。

この熱狂の渦の中で、50年バンドを続けてきたって、奇跡だ。

危険なメソッド

2012年11月08日 | 2010年代 欧州

危険なメソッド(原題:A DANGEROUS METHOD)

監督:デヴィッド・クローネンバーグ
出演:マイケル・ファスベンダー、ヴィゴ・モーテンセン、キーラ・ナイトレイ、ヴァンサン・カッセル


スイスの精神科医ユングのもとに美しき精神病患者ザビーナが連れられてきた。
彼は、この患者にフロイトの提唱する対話療法を試みることにして、彼女に親しく接し、
人間性を尊重し、治療を開始した。
ザビーナは、子供の頃から父親に暴力を受けており、更にはその暴力に快感を感じていたことを告白する。
症状は改善され、医師志望だったザビーナは大学に通いだし、精神科医を目指すようになった。

数年後、ユングは彼女の症例をまとめたレポートを持って、オーストラリアのフロイトを訪ねる。
フロイトは、ユングを自身の後継者とみて、親しく迎え入れるのだが・・・
史実をもとに、その後のユングとフロイトの決別、ザビーナとの一時の愛と別れまでを描く。

精神患者ザビーナ役のキラー・ナイトレイは、下あごをつきだし、目をひんむいての大熱演。
病魔を隠しもちながらも精神科医を目指していく凛とした姿も素晴らしかった。
しかしながら、リビドーの実質を知りたいと盲目的にユングを誘惑するザビーナに対し、
「リビドーの自制によって己の精神を病んでいく」というフロイトの理論を盾に
本能をむき出しにしていくユングという醜悪な事態が、あまりにもザビーナ役のキラー・ナイトレイが
美しすぎるが故に、単なる恋物語にみえてしまうのです。



もっと醜く、ひどく、目をそむけたくなるような泥沼を描いてほしかった。
抑制を解放したにも関わらず、お互いの精神を蝕んでいくような矛盾を。
まあ、わたしの好みの問題です。

公園や邸宅の庭など風景も美しく、女性たちの着る白を基調としたワンピースも毎回見とれるほどに素敵だったし
きれいな英語の発音(フロイトはドイツ語で話してこその頑固親父っぷりがでると思うのですが←超偏見)で、
清潔感のある、調和のとれた創り。
この世界では、あくまで無邪気で、無自覚な男としてのユング。
フロイト、ザビーナとの別れが、彼を更なる内面性の研究へと誘い、神秘主義へと向かわせたのかもと、
思わせるような途上の物語でした。

のぼうの城

2012年11月04日 | 2010年代 邦

のぼうの城

2012年 日本
監督:犬童一心、樋口真嗣
出演:野村萬斎、佐藤浩市、榮倉奈々、成宮寛貴、山口智充、上地雄輔


2003年に第29回城戸賞を受賞した和田竜による脚本「忍ぶの城」。
それに加筆され、2007年に発表された小説「のぼうの城」が大ヒット。
2008年の時点で読んで、これが映像になったらスゴイ!!と待ちに待っていて
満を持しての映画化。

領民から「(でく)のぼう様」と呼ばれる成田長親は、
2万の大軍を率いて来た石田三成の水攻めにわずか500人の兵で対抗する。

この、のぼう様のふにゃふにゃと腑抜けツラしながらも、何かがある男・・・。
これをやるのは、野村萬斎じゃないと、と思わせてくれます!
さすが、一挙一動が魅力的。
情けなくも、誠実で、周囲に対する愛情を絶やさない瞳。
領民達、臣下たちに深く愛されている、のぼう様だからこその奇策。

水攻めによって、浮き城となる忍城も観たかった絵どおりだし、
2万人の敵方を前に舞い踊る、田楽踊りもやっと眼下に、という想いでいっぱいでした。

佐藤浩市演じる正木丹波守利英の戦いぶりも見事だったし
石田三成の芝居がかった感じも、雰囲気によく合ってました。

それだけに予定調和的であるのは否めない、のですが
長年のベストセラーが先となってしまっては、いたしかたないのかもしれません。
ただ史実である忍城の地形の妙と水攻めの大作戦は、尚、想像の余地を残します。